第13話 - Sランク冒険者
「アメリアさんから聞いたけど、本当に森の中に住んでいるのね」
「うむ、アリシアさんも狩りか?」
「いいえ。薬草を探しに来たけど、ギリェルメさんが刃猪を仕留めようとしたのを見たらつい手を出しちゃった」
「いや、助かったよ。弓の腕はまだまだで最初のを外したら追いかけることになるさ」
(少しおどけた調子で言っているけど、俺の矢が外すのを想定しただろうな。流石Sランク)
2人で猪に近づき状態を確認した。
俺の矢は腹に刺さっているが、アリシアさんが放った矢は脳を精密に貫き通したようで、小さな穴だけが残った。
「………」
(俺を見てから手を出したって言ったから、狙う時間は数秒だけだったのに、なんて精度………)
隣にいるアリシアさんはまだ若いが、その実力の裏にはとんでもない努力が隠れているだろうと思った。
「ねえ、ギリェルメさんがこの森に籠っている理由を聞いていい?」
俺が刃猪を解体していると、近くの石に座ったアリシアさんが質問をした。
(探りに来ているのか?まあ、隠すつもりはないが)
「ああ、この近くにあるダンジョンで修行みたいなものをやっているよ」
「修行か、高ランク冒険者になりたいてこと?」
「そういうこと。アリシアさんこそ、Sランク冒険者はどんな依頼をするの聞いていいか?」
(Sランク冒険者の情報なんて滅多に聞かない、なんかためになることが聞けるかもしれない)
「そうね、国の依頼が多いから全部は話せないだけど、例えばスタンピードへの対応かな」
スタンピードとはダンジョンの結界が壊れて、魔物たちが一気に地上に現れる現象だ。
「冒険者ランクは基本的にダンジョンのソロ攻略を示しているのだけど、その中でSランクだけが違うのよ。例えばAランク冒険者はソロでAランクダンジョンを攻略出来るでしょう?だけどそれは魔物の数を分ける階層があり、その階層を降りる途中で休憩も出来る。そして何より、ダンジョン内の魔物にレベル限界があるでしょう?」
「そうか」
「言いたいことが分かったようね。スタンピードではその全てが消える。ダンジョンが爆発を起こして、その爆発と一緒に内部の魔物が一斉にダンジョンの外へ出てくる。もちろん例外はあるのだけど、要するに攻略は出来ても、そのダンジョンのスタンピードには勝てないということよ」
アリシアさんの言葉に俺はスケルトンダンジョンへ視線を向けた。
「確かに、あのダンジョンの魔物とは戦い慣れたけど、内部にある全部の魔物は流石にな」
「うん。そしてそこでSランク冒険者の出番ね。Sランクになるにはソロ攻略だけじゃなく、スタンピードを一人で制圧する実力が必要よ」
「一人か…」
「そう。スタンピードが起こる時にはその周辺の町から冒険者を集めて対抗するのだけど、それでもダメな時、もしくはAランクダンジョン以上の時はSランクが国から依頼を受けるの」
(とんでもないなあ。スタンピードのことは調べたことがあるが、Cランクダンジョンのスタンピードで町が破壊されたことは色んな本で読んでいる。レアなケースだが、長い年月で見ればそうでもない)
「そうか、攻略だけじゃなくスタンピードをも超えないとか」
「ギリェルメさんはSランク冒険者になりたいの?」
刃猪の解体が終わったと同時にアリシアさんがその質問をした。
(Sランクか………)
「まあ、なりたいにはなりたいが」
聞いた話ではアリシアさんみたいな天才を除いて、大体のSランク冒険者は高齢者だ。異世界人だけど、特別な力がない上に30歳以上の俺はこれから数十年努力をしても、Bランクに足を踏み入れるかどうかっと言うのが現実だ。
「どっちかというと俺は強くなりたいだけ。Sランクが強いならそうなりたいなあって」
(何だかハズイことを言っているねえ。美人さんだからつい話しちゃうのかなあ)
「強くなりたいか。いいね、綺麗ごとに聞こえるけど、私は努力は裏切らないと思うよね」
(やっぱりこの子の力は努力の成果か)
「っと、解体は終わったよ。アリシアさんはどの部分が欲しいんだ?」
「いいの?じゃあ貰おうかな、ありがとうね」
アリシアさんの欲しいな部分をあげて、俺は解体された刃猪を収納袋に入れた。
「ん?町に売りに行く?」
町の方を向いたからか、猪を売りにいくと思ったようだ。
(まあ、どう見ても俺だけで食べられないからな)
「ううん、アメリアさんのところに届くよ。流石にこれ全部は食べられないからな」
「あら?それじゃあ一緒に行こう?私も同じよ」
(ううううむ、笑顔がやばい)
「そうだったのか。じゃあ、行こうか」
嬉しかったのか、孤児院に着くまでアリシアさんは笑顔を絶えなかった。
つづく
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