第12話 - 指名依頼
あれから更に数か月。
特に何も変化のない異世界での日々?を送っていた。
いつものように冒険者ギルドでスケルトンや森の魔物の魔石を買取してもうつもりだが、受け付きのお姉さんから思わぬ話が振られた。
「えっ?俺に?」
どうやら俺への指名依頼があるようだ。
「そうですよ。依頼主は孤児院のシスターさん。隣町までの護衛依頼です。受けるのでしたら、孤児院で詳しい内容を聞きに来てくださいっとシスターさんが言いました。どうします?」
「ああ、受ける」
もちろん即答でイエスだ。ギルドを出て、孤児院へ向かった。
孤児院に入って、シスターの依頼はこうだ
隣町で孤児の2人に養親が出来たようで、その二人を養親のところまで護衛して欲しいとのことだ。
簡単に思う依頼だが、護衛依頼は対象の命を守るということだ。
この世界では町同士の間は広くて、騎士団の目が届かない場所もある。そこで盗賊や魔物に襲われる危険もあるため、護衛依頼は結構高い。
(責任重大だな)
◇◇◇◇
数日後。
「お兄ちゃん、おはよう!」
「おはようっ!」
「ギリェルメさん、おはようございます」
「おはよう、エリク、サンドロ。アメリアさんもおはよう」
時間前だが、孤児院に着いたら全員で入口の前で待っていた。
(余程楽しみにしているだろうな)
「っと、君がもう一人の護衛か。初めまして、ギリェルメだ」
アメリアから聞いたが、俺以外にも護衛をする冒険者がいるようだ。
その子は深々とローブを着ているから顔が見えないけど、どうやら前から孤児院に寄付をしている人でアメリアとギルドに信頼が大きい。
「うん。私はアリシア、よろしくね」
(うお、すんげえ可愛い声が帰ってきた………あれ?アリシアって?)
顔は見えないが、この名前と背格好から一人の人物が頭に浮ぶ。
(聞いて欲しくないだろうが、この子、あのSランクだね?)
どういうことかはわからないが、今更依頼を断ても怪しいだけだ。そもそも、俺が狙いならSランクから逃げるなんて不可能だろう。
◇◇◇◇
っと、想定外のことが起きたが、依頼は続行。
5人で町の東門から出て、そこに広がる草原を孤児院の小さな馬車で道を進んだ。
目的の町には明日の夕方前に着く予定だ。馬車での移動だが、一日中走るわけにもいかないので、たまにはペースを下げつつ進んでいた。
正直にはSランクであるアリシアさんだけで大丈夫な依頼だが、一応俺が先頭を歩き、アリシアさんは殿を務めた。
(マジで俺のいる意味がない………)
漫画でよくある殺気でも放っているのか、魔物どころか、小さな動物すら馬車に近づいてこない。
町を出た時から静かなアリシアさんを除いては普通の護衛依頼だった。
日が落ち始めた時、道の近くにあった小さな川で馬車を止まり、アメリアさんや子供たちとダンジョンや魔物の話をしながら、最初の日が過ぎった。
翌日。特に問題なく目的に着いた。
町に入って直ぐに子供たちの新しい家になる場所に向かい、養親の夫婦に子供たちを無事に届けった。
(こういうのいいなぁ)
色々と手続きが必要ので、アメリアさんたちが家に上がった。、俺も誘われたが、折角ので、町を見回ることにした。
アリシアさんも同じく、どうやらここで質のいいポーションを売る店があり、それを買いに行った。
俺というと武具店で剣と鎧などを見ながら時間を潰した。
孤児院に寄付しているが、冒険用の金は残っている。
(死んだらこれからの寄付も出来ないもんなあ)
っと、そこで防具屋の店主から勇者たちの噂を聞いた。
「2人か…」
「違う世界から来て、命懸けで俺たちのために戦うだなんて、本当に勇者だなぁ」
噂って言っているが、これは本当だろう。
一ヶ月前に勇者たちがもう一体のSランクの魔物と戦ったそうだ。
その戦いは勝利に終わったが、2人の勇者が死んだ。
(俺も最前線に行くべきか……)
行っても死ぬだけのは分かる。分かるだからこそ怖い。
力が無いを理由にしているが、俺は結局、死ぬのは怖いだけだ。
「これで魔王の討伐も夢じゃないなあ」
店主のその言葉を聞きながら、俺は店を出た。
◇◇◇◇
夜に町を出るのは危険ので、宿に泊まり、翌日の朝でアクロスへ出発した。
来た時と同じように魔物一匹とも戦わずに進んで、無事に町へたどり着いた。
(マジで俺のいる意味が無かった……まあ、あの子たちの新しい家族を見たからいいか)
孤児院までアメリアさんとアリシアさんを見送り、冒険者ギルドで依頼完了の確認をして。いつも通りの日常へ戻るために南の森へ向かった。
(この調子なら、もうちょっとでCランクかもな)
Cランク冒険者になるには3つの条件がある。
・レベル45以上であること。
・Dランクダンジョンの単独攻略。
・ギルドでの依頼を一定数まで達成する。
その3つをクリアしたら、昇格試験を受けることが出来る。っと言っても、素行の悪い人は即資格になるだがな。
◇◇◇◇
数日後の朝。森で食用のために狩りをしていた。
まだまだ命中率は低いが、一応の訓練も含めて、弓術のスキルを使いながら鳥や食可能な魔物を探した。
(お、いいのが居るなあ)
茂みに隠れて、数メートル先にある魔物を見た。
そこには刃猪という牙が剣の刃みたいに前に伸びている。
Eランク認定で全長は1メートルくらい。肉は結構美味しいだが、俺だけで食べきれないので残りは捨てるしかない。
(いや、アメリアさんにあげるのもありか)
ここで見逃して他のを探すのも出来るが、低ランクとは言え、魔物は魔物だ。見逃したばかりに他の人を襲う可能性もある。
そうと決まればっと俺は弓を引き、音を立てないように気をつけながら狙いを定めてから矢を放った。
シュッ
シュッ
「!?」
頭を狙ったが、まだそこまでの精密が出せず、矢は刃猪の腹に刺さった。それも想定内ので、次の矢を放つまでだが、その最初の矢が刺さった時に2つの音が聞こえた。
「こんにちは」
そこで刃猪の右で俺と同じ距離に1人の女性が挨拶をしてきた。
(まったく気付かなかった。というか…なんじゃあれ………)
この世界に来てから、一番の非現実な光景を見ている気がする。
そこに居たのは弓を背負い、腰に剣を下げているアリシアさんだった。
特別なことはなにもしていない、ただこっちへ歩いているだけだが、余りにも綺麗だ。
依頼の時は一度もローブを取らなかったが、今は黒い革鎧を装備していて、その素顔も見える。
挨拶をしてから、アリシアさんは近づいてきた。
黒い革鎧一式を装備し、周りの森よりも深い緑色のショートカット。白い顔に黒色の目。そんな彼女の姿が余りにも綺麗で、どこかの漫画のヒロインが現れと思った。
つづく
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