冒険者
第9話 - 女神
グリーンシュ王国。この大陸では国土の小さい国だが、その軍力は一二を争う。
そのグリーンシュ王国の西と南側を囲むように存在するのがリックス辺境伯領。
そして、そのリックス辺境伯領の中で新しい領地をもらい、ヴィセンス村を作る命令を出したのがフロート伯爵という貴族だ。
だがそれはあくまでも新しい領地で、この国の中位貴族として、フロート伯爵は既に領地を持ている。その領地は辺境伯領とルーツ侯爵領の間にあり、ヴィセンス村を出て、東へ数日進んだところに存在する。
◇◇◇◇
村を出た俺は、学生たちの情報を手に入れるために王都を目指すことにした。
王都までの道は長く、馬車を何度も乗り換える必要があった。
途中で低レベルの魔物に襲われたこともあったが、馬車は俺よりもっとレベルの高い冒険者が護衛をしているので、戦う機会はなかった。
そして今日はついにグリーンシュ王国の王都、パンジーに着いた。
馬車から降りて、目の前にそびえ立つ数十メートルもある外壁を見上げる。
(すげえ!異世界の街っと言ったらやっぱ城壁だよな!)
王都の外壁をもっと見たいが、今は中に入るための列に並んでいる。
数分で俺の番になり、冒険者カードを見せたらすんなりと許可が降りた。
(列にいた時から見ていたが、あれはやっぱり……)
獣人、エルフ、ドワーフ、竜人までいる!ヴィセンス村や馬車乗り換えの町には人間しかいなかったが、この王都のあっちこっちに漫画でしか見たことのない種族がいる!
(おおっ!ファンタジー!!!)
田舎者感を出さないように顔はクールぶっているが、視線をコントロールできない。
(っていうか、いますう~。女性もいましたよ、この世界………)
心なしか、オッサン村で過ごした俺の心が癒されていくのを感じる。
(っと、冗談はここまでだ)
異世界を堪能するのは問題をどうにかしてからだ。
気持ちを切り替えて、俺は門で買った地図を見ながら目的の建物を目指した。
町の中央に色んな店があり、その中でも三つの大きな建物があった。
西側にある豪華な外見の商人ギルド。東側にはヴィセンス村のギルドと比べ物にならないほどの大きな冒険者ギルド。
そして北側にあるのは、俺の目的である三姉妹女神教会。
(綺麗だな……)
ここだけ他の建物と雰囲気が違て、教会の周りは緑豊かな自然公園になっている。その公園のあっちこっちに人があり、特に休憩中の冒険者パーティーらしき集団が目立っていた。
その景色に目を取られながら公園にある石道を歩き、数分で教会に着いた。
(さて、会えるかな)
この世界には色んな女神が存在する。その中で世界を見守る三人姉妹の女神があり、人々は彼女たちを厚く信仰している。
ここへ来たのは異世界ものの定番イベントをこなすためだ。
教会で祈りをして、女神に会う。
異世界ものでは女神に会うには夢の中、もしくは教会で祈るのが一番だ。
冗談みたいにシンプルな考えだが、可能性があるなら試すしかない。
それが出来たら、この世界のことも分かるかもしれない。
(ていうか、本当に女神とか、神とかがあるのか?今更だけど実感がない)
そんなことを考えながら俺は教会の中へ入った。
中に祈りをしている人もいて、俺は邪魔をしないように教会の後ろのベンチに座った。静かな雰囲気の中、俺は教会の奥の方にある女神たちの石像を見ながら、彼女たちを呼びかけた。
(女神さん、いますか?)
「うあっ」
そうしたら、瞬きをした瞬間、目の前にあのメッセージウィンドウが現れた。
3つも。
=――――――――――――――――――――=
村を出ることを選んだね。
他に知りたいこともあるでしょうけど、
とにかく一つだけを伝える。
君は自由だ。
=――――――――――――――――――――=
▼
=――――――――――――――――――――=
ここへ召喚されたのは魔王討伐のためではない。
これは君が掴んだチャンス。
君はもうこの世界の住民。
自由に生きてね。
=――――――――――――――――――――=
▼
=――――――――――――――――――――=
魔王は勇者たちが討伐します。ですけど、
その勇者たちに会いに行くのも自由です。
不安に感じているかもしれませんけど、
召喚された勇者たちは皆いい人です。
それでは、いい人生を。
=――――――――――――――――――――=
(マジで女神か……)
三姉妹女神からのメッセージに違いないようだ。
(そうか、俺はやっぱり勇者として召喚された訳じゃないか)
それに自由、チャンス………
(女神だったら不思議じゃないが、まるで心を読んでいるような感じだ)
異世界ものが好きなら誰でも想像するだろう、自分がその世界でどんな風に過ごすかを。
俺の場合はただただ自由だ。夢へ向かって自由に生きたい。
それが望み通りに起きているけど、そんな簡単に信じていいものか?
(いや、違う………そうじゃない………)
どうでもいいんだ。
そう、どうでもいい。
騙されていようがいまいが、どうでもいい。それを超えるまでだ。
あの扉を超えた時から決まった。どうなろうと俺は止まらない。
席を立ち、俺は教会を出た。
(強くなりに行こう!)
つづく
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