第7話 - マジックアイテム
「―――これはいいもんを見つけたなあ」
グレッグさんはテーブルの上にある薄い緑色のブーツを鑑定しながらそう言った。
あの3匹の棍棒カエルを倒した後もダンジョン探索を続けたが、数時間が過ぎったあたりで下の2階層へ降りる階段を見つけて、それで探索を終了した。
そして、ダンジョンの出口へ持っていた時にも棍棒カエルと遭遇しては倒していたが、幸運なことに1匹からこのブーツがドロップした。
「お、やっぱりジャンプブーツですか?」
「ああ、違いない。初日の探索でこれを落とすなんて、ドロップ率のスキルでも持っているのか?」
棍棒カエルからドロップするアイテムは調べていたが、その中でもジャンプブーツは結構レアなものだ。
「ははは、そんなもんがありましたらよかったですけどねぇ」
頭をかきながらそう答えた。
あのガチャで天恵スキルを貰っていないという結果だったが。実際のところは鑑定しないと分からない。そしてこの世界で鑑定をする方法はギルドにある魔道具を使うか、レベルの高い鑑定士に見てもらうかだけだ。
(ステータスで自分自身の能力を確認できないのは結構不便だが、仕方がない)
「これを売るのか?うちでも買えるが、新品の状態で男爵に売ったら大金貨数枚にもなるぞ?」
「数枚⁉」
(マジか………)
この2ヶ月チョイで稼いだお金は金貨50くらいだ。それだけで結構な額なのに、1枚の大金貨だけでその倍だ。
「………いや、これは自分で使います」
「おいおい、やたらと冒険者たちに話しをしているのはしているが、本気で冒険者になるつもりか?Fランクダンジョンでたまには稼ぎに行くのはいいが、これ以上の魔物は軽い気持ちいいで倒すものじゃねえぞ?」
「ああ、わかっています、なんて言いません。俺は無知です。だけどどうしても叶えたい夢があります、そのために冒険者になりたいです」
グレッグさんが心配をするのは当然。
この村に来た時から世話になっているので、俺がこの世界のことを知らな過ぎているのも気づいただろう。
それでも俺はなる、冒険者に!
「そうか、お前も子供じゃない、これ以上は言わん。やるなる自分の行動の責任を持って憧れの冒険者にでもなってみろ!ガハハハッ」
「ああ、ありがとうございす!」
こうして、俺のダンジョン探索の日々が始まった。
◇◇◇◇
一か月後。
朝早くから鍛冶屋で仕事をしながら、午後は少しずつダンジョン攻略を進めた。
もっと探索に専念したいが、Fランクダンジョンでドロップする魔石はおこずかい程度にもならないから、仕事を辞めるわけにはいかない。
(そうでなくても、鍛冶屋での仕事はきっと役に立つ)
ちなみに魔石は男爵に売ることになっている。
大きな町では冒険者ギルドに売るのが普通だが、この村にギルドを立つにはまだまだ時間が必要だ。
俺のドロップしたジャンプブーツを男爵に売れば、それが冒険者を呼び寄せる宣伝になり、冒険者ギルドもあのダンジョンに目をつけるだろうっとグレッグさんが言ったが、そうするつもりはない。
ブーツを使いたいってのもあるが、そんなものを売ればいやでも目立つだろう。
(俺はただの村人だ)
そして、例のブーツだが。
「オラッ!」
足に力を入れて、2メートル以上も離れている棍棒カエルの方へ踏み出した。
その瞬間、まるで縮地のように一瞬でそいつの隣に立ち、無防備の首を切り裂いた。
カエルは倒れながら光になって消えていく。
ジャンプブーツ、名前の通りにジャンプ力を上げるマジックアイテムだ。
その効果で今の俺は2メートル以上も飛べるようになった。
だがその真価はジャンプ力だけじゃなく、脚力そのものが上がること。
今みたいな踏み込みやその応用で走ることも出来る。
(そりゃ、大金貨数枚も払うか)
「――行こうか」
ブーツの効果を試しながら、数日もダンジョン探索をしていた。
そして今日はついに3階層にあるボス部屋の前にいる。
Fランクダンジョンはそれほど広くない、この階層はもう3週間も前に到達している。ボスに挑んでいないのは装備の使い方を身に付けるため、それしてレベル5になるまで棍棒カエルを倒しまくっていたから。
(さて、準備はこれでいいだろう)
もっとレベルを上げたいが、そう言っていられない。
決心した俺は目の前にある木の扉を開けて、ボス部屋に入った。
ボス部屋は半径10メートルの広い空間だった。
その奥に棍棒カエルを少し大きくしたボスがあった。もう一つの違いは今までの奴らと違って、手に持てる棍棒は鉄で出来ているくらいだ。
(うむ、情報通りだ)
ケロオオォッ!!!
ダンジョンボスは侵入者を見て、手に持っている鉄の塊を振り回しながら威嚇をして来た。
(こいつは普通のカエルより強いが、特別な能力があるわけではない。たまには飛んでからの振り下ろし攻撃をして来るけど、ジャンプブーツより劣るっとグレッグさんが教えてくれた)
威嚇しながら近づいてくるカエルに対して、俺はその場で武器を構えて、睨むだけだった。
最弱のFランクでも、魔物だ。
スキル無しの俺は弱いと言われる相手にも慎重に行かないといけない。
そうしていると、距離が段々と縮めて、カエルはついに俺に襲い掛かった。
ケロォッ!
右手の棍棒を高く上げて、俺目掛けに振り下ろした。
その攻撃を読んで、俺はジャンプブーツを使い数十センチだけ左に回避した。
だけど会費をしただけじゃない、まだ振り下ろしていく最中の棍棒を上から左手の盾で攻撃した。大きな音を立てて棍棒の衝撃で地面はひび割れ、その変な行動にボスは混乱したが、それが狙い。
「フッ!」
その隙を透かさずに剣を使い、棍棒を持つカエルの手を全力で叩き切った。
ゲロオオォッゲロオオオオォッ!!!???
手を切り落とすことは出来なかったが、ドバドバっと赤黒い血を流し、カエルは皮一枚だけで繋がっていた右手の腕を掴み、痛みに叫び狂う。
(ふん、付き合うつもりはない)
その光景に少しずつためらいながらも、俺はそいつに追撃を仕掛けた。
他の棍棒カエルと同じく、そいつを何度も何度も切っていく。
やがてボスの動きが止まり、切口だらけの体が光になって消えた。
「ぅ、ぅうえええぇぇっ~」
緊張が解いたか、俺は我慢できずにゲロを吐き出した。
(うわあ、気持ち悪う!)
普通の棍棒カエル立ちで少し慣れていたが、ダンジョンの魔物は消えても、地面に落とした血は直ぐに消えない。それだけで気持ち悪いのに、相手を殺した後に肉を切った感触は手に残る。
人間を襲う魔物に同情をかけるつもりはないが、生理的なものか、その感触への拒否は頭じゃなく、体がしている。
つづく
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