第5話 - 村開拓 3





「これですか?」


「ああ、それだ」


慣れてない敬語を使いながら、グレッグさんに道具を見せた。


異世界開拓村生活 45日目。


男爵の家は完成したが、仕事が終わったわけではない。

職人、冒険者、男爵の兵士たちと村人全員に自分の土地で家を建てることが許された。


だが自分の家はもちろん、自分で建つ。

素材は近くの森や川から採取してもいいが、この領地はあくまでもフロート伯爵のものということを忘れてはならない。自分で採取した素材は男爵に確認してもらい、そして自分の金で買う。


だけどこれはフロート伯爵への建前みたいなもので、実際は本来の値段の2割も取っていない。


それでも金は金だ。男爵からはもうお金を貰っていないので、使っていたらいつかは終わる。それを解決するためにとある仕事が発生する。


職人たちの店作りだ。

職人たちがこんな離れたところにきたのはもちろん、自分の技術を売るためだ。だから、許可が降りた職人たちは一刻も早く自分の店を作り、仕事を始めたいんだ。その店作りのためにあちこちで労働者を雇ている。


そんな中、なんと、グレッグさんは鍛冶師だったんだ。

初日からグレッグさんと仲が良く、その縁で俺に仕事をくれた。



◇ ◇ ◇ ◇



そんなこんなで、今日で店が完成した。

まだ本格的な鍛冶屋じゃないが、グレッグさん曰く、炉だけあれば最低限のものは作れるだそうだ。


「よっし、これで終わりだ!今日まで良く頑張ったな、ギイ」


最後の確認をして、グレッグさんはそう言った。


「いやあ、ここを作るの面白かったなあ」


俺は周りを見ながらそう言った。


実際にめちゃあ面白かった。グレッグさんは自前の鍛冶道具を数個持ってきたけど、足りないものをここで作っていた。他の仕事をしながらそれを見たが、グレッグさんの技術もそうだが、一番驚いたのはやっぱりスキルだ。


鍛冶スキルを持っているグレッグさんは道具に能力を付与することができる。

例えば鉈を半分の重さになる付与とか、木こりの斧にスタミナ回復を付与するとか、効果は様々だ。


「そうか、ならどうだ、ここで働く気はないか?」


「ここって、鍛冶屋としてですか?」


「そうだ。お前さんは真面目で働くからな、これから忙しくなるから助手が必要だよ。金は家づくり以上だぞ?」


(マジか!金もいいが、鍛冶の技術を身に付けるチャンスをもらうなんて!)


「こっちこそお願いしますよ、グレッグさん!」


「決まりだな。明日から店を開けるぞ、大変だから覚悟しろよ、ガハハハッ!」


こうして、俺は鍛冶屋で働き始めた。



◇ ◇ ◇ ◇



異世界に来てから2か月。


鍛冶、マジでやばい。

ひたすらに熱い炉の近くでの力仕事だった。

外に出ってもそれは水や重い鉄の塊を運ぶためだけ。


手はマメだらけになり、顔は水浴びしても煙の黒さや匂いは完全に落ちない。


(まあ、だからって文句はないがな)


それを上回る成果があったからだ。

少しずつ鍛冶のことを覚えているのはもちろん、武器や道具を買いに来る客との会話で得る情報も価値があるものだった。特に冒険者と兵士たちからは魔物討伐の方法やその失敗談は本当にありがたかった。


仕事、自分の家づくりに魔力察知の鍛錬。それを繰り返すこと数日、ついにとあるものを買う金が貯まった。


「本当に行くんだな?」


「はい、この開拓村で一番やりたかったことがそれですので」


剣と楯を、そして安い革の鎧を装備して、グレッグさんに返事した。


俺が買った物は武器と防具だ。


この村の中は数人の兵士が守っているが、外を探検しているのは冒険者だ。

そして数日前、探索から帰ったその冒険者たちはあるものの発見を報告した。


ダンジョンだ。


その報告を聞いて、男爵は村の全員を中央に呼び出し、ダンジョンに入る許可を与えた。


冒険者たちの話によると、発見したのは低レベルのダンジョンで、村の人たちでも攻略出来るとのことだ。


俺もそれを聞いて、今に至る。


(ついに来たか、魔物との戦闘……)


グレッグさんに挨拶して、俺は村の外へ出た。




つづく





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