64 アクアリウム

 どかっ!とドアを無理矢理蹴り開けられる。


「大人しくしろ!」


「こっちは5人でお前らは3人だ。」


「お願い、大人しくして。」


 1人心当たりがある。俺を冒険者登録と勘違いしたエルガさんだ。


「手荒い歓迎じゃの。」


「ディン。」


「・・・・・何かあればじゃが・・・」


 オーディンは目の前の冒険者より、別の方角へ視線を向けていた。


「何だ?この女?」


「どうした?」


「いや、何かこう・・・変だ。」


「それよりも。何をしに?と聞こうかね。」


 少しラスボス風に装ってみた。


「お前さんをとっ捕まえに来たんだよ。」


「報奨金目当てか。」


「それもあるが、やばい国の長がこんな所で寄り道してるのもどうかだが。」


「それも違いない。」


 あまりにも正論過ぎてぐうの音も出ない。


「ねえ・・貴方からは何も感じないの。」


 えーと・・・エロス的な?


「貴方からは悪意を感じない。

 でも、何か誠実さとは別の何かを感じる。」


 悪意ってか本心だからでは?


「ほう、此奴珍しいの。」


「うん?」


「この女はシスターとしても力を宿しておるのじゃ。しかも特殊なスキル持ちのな。」


 何と、この世界の住人にしてレアキャラと。


「貴女は神聖さを。いえ・・・貴女からは黒い何か。

 でも、彼には何も・・・」


「エルガ、何言ってやがる。

 コイツは国を既に何度も滅ぼしてやがる。そんな奴が何もない?そんな訳あるか!」


 間違いない。純粋に性癖がストレートなだけで、やってる事は正に外道畜生だ。

 うん?あれ?ただのゲスな気がする。


「まあ悩むでない。ワシらが付いておる。ここまで身元がバレたのなら。」


 オーディンは偽装の魔法を解いた。美しい黄金質の肌が露わになる。

 一方のタジャマールも赤い肌へと変わる。


 当の私はそのまま。カメレオンじゃあるまいし。


「なっ!何だ!?人なのか!」


「もしや!罪人の一派では!?」


「呪われた魔神の一味か!」


「そ、そんな!」


 おい誰が魔神やねん。

 確かに召喚は得意だけど、あとは貧弱もいい所だよ。失礼な。


「そうじゃ。恐れ慄け人間風情が。」


 勝手に賛成された。

 余計な事はなるべくは言わないようにはするが、なんかどんどんあらぬ方向へと傾いているような。


「アレイスター様、私の後ろへ。」


 タジャマールが自身を盾にと前へと出る。


「女に守られるとは情けない!何が魔神だ!」


「うるせ!俺の物だから守ってもらって当然だし!」


 あ!つい反抗してしまった。


「感謝するぞ、アレイスター様よ。」


 オーディンが何故か元気になっ、眩し!元気すぎぃ!


 オーディンの身体が発光し出した。


「浄化しようかの。とりあえず、この辺一帯は消し去るぞ。」


 更に輝きを増す。その光はホテルの一室には収まらない。

 更に別の区画へと広がる。


「『黄昏の太陽』」


 発光が更に強くなる。

 やがて、光が収まる。


「目がチカチカするぞ。」


 俺は目をゴシゴシした後、目の前を見ると。

 何もなかった。


 あれ?何もないというか、こんなに広い空間でしたっけ?


 辺りを見渡そうにも建物が何故か遠くにある感じがする。


「流石はオーディン様です。」


「ま、こんなもんじゃろ。光の熱が強すぎて溶かし過ぎたかの。」


 バターの話でもしてんの?


「建物がこうもあっさりと。」


 何故空中に浮いているのか?というより、何故周りが一定範囲が更地になっているのか?の感情の方が強い。


「ほれ?これでも手加減できたぞい。」


 そんなエルガさんの全身が焼け焦げ、地面へ転がっていた。このレベルで手加減をしたという事であろう。

 まあ、エルガさんが息してるところから。


「これで手加減は・・・・・」


 つかやっぱこれ生きてんの?マジで皮膚とか焼けまくってますやん。

 髪の毛は愚か、装備など何もかも焼けている。


「本物の豚の丸焼きですね。」


「豚は豚でも雌豚だがの。」


 お前らのダークジョークには今は乗れんよ。


「んで?この騒ぎの渦中どうする?」


「うーむ。ま、この都市を壊すかの。」


「そうしましょう。」


「あらま。」


 この3秒ルール何?

 アクアリウムという美しき都市を我らの手で破壊する。か。結論早過ぎて草が生える。


 とうとう美しい物も崩れ行くか。


「アレイスター様は不服かの?」


「いや、ここまでしてしまっては逃げる事は愚か、もう逃してもくれないでしょうに。」


「そうじゃの・・・・・・と言えど。」


「マズいので?」


「何がよ?」


 よく解らないが、オーディンさんが宮殿を観ている。本丸の敵が来る奴か。


「そうじゃの。LRは1人いるの。」


「解るのか?」


「まあ、同じじゃ。あとは弱いがちと面倒な。」


「私では難しいかと。」


「うむ。俺が出張るか。」


「アレイスター様は大人しくしてくれんかの。」


 あ、はい。素人は黙ってろ。ってことらしい。オーディンはよしよし撫でてくれる。


「来るぞ。」


 上から眩い閃光がコチラへと降ってくる。


「『流星群』。」


 そう聞こえた。


「任せるのじゃ。顕現せよ『スヴェル』!」


 太陽のような紋様の盾が現れた。

 敵の巨大な流星を真正面から受け止める。

 その衝撃は凄まじい。


 周りの建物や窓を破り、途轍もない風圧が周りに舞う。


「すっっっっごいっ!すっけっっど!!」


「喋ると舌を噛むぞ!!」


「コチラから離れないで下さい!!」


 タジャマールに抱きつき耐えているが、ただの召喚士にはキツい。


 台風の時電柱に捕まった人みたいな感じ。飛ばされそうで何とか耐え抜いている。

 腕が麻痺ってきた!


 やがて暴風が止む。


「あら?やるのね。」


「ほう・・・英雄か。」


 1人の青年と4人の女性が降り立つ。

 1人は黒い羽が目立ち、黒い髪をしている。2人目は顔に傷跡があり、綺麗な青髪である。3人目は女戦士のような格好をしており、紅髪ポニーテールである。

 最後の4人目が異様であった。


 普通の人に見えるが、どこか得体の知れない存在である事を察知する。

 見た目こそ、金髪のセミロングヘアーにスタイル抜群であり、その美しい白い肌の女優のようであった。


「珍しい事もあるのよな。」


「珍しい?」


「あれは神じゃ。ワシらと同じの。」


 か、神いっ!!まっさかの!


「けど、あそこまでの形状は心当たりが。」


「そこの古臭い喋り方の人は既に見切っているのね。」


「まあの。ワシらとは違うもののようじゃ。もちろん出来がの?」


「やあ。その前に僕から挨拶をしようか。僕はセイジって言うんだ。タバタ セイジ。よろしくね。」


「あ、これはご丁寧にどうも。

 私隣国で王様やらせてもらっております、アレイスターと申します。

 名刺が無いので、口頭でのご対応でご承知いただければかと。」


「何でそんな丁寧なんじゃ?」


 あ、ついね。

 自己紹介は常に礼節を持って接する。という癖が。


「染みついた習性と言えば良いのやら。」


「なるほど。もしかして僕より年上の社会人かな?」


 そんなお前さんは年下のやつか。

 やっぱりな。この世界はどうも学生系を引き寄せやすいようだ。

 って何で年上って解っててタメ口なの?


「でも不思議だな、そこまで丁寧な人ならわざわざ世界の敵なんかに。

 いや、大人になれば変わるというのもあるのか。」


「変わるってか。まあ、人なんてそんなもんだろ。」


「それは・・・違いない。」


「何を呑気に通じておるのじゃ。状況は依然としてコチラが不利じゃぞ。」


「その通りかと。」


 タジャマールは暗器を構える。

 オーディンは目前の神を相手に視線を外さない。

 向こうも同じく、オーディンへと集中している。


「王でもない人が何故ゆえ?」


「うーーん・・・生活と安寧のため?

 まあ、折角の異世界だし。お金やいい家も住める。それに・・・・・彼女たちもいる。

 他にもいるけどね。」


 残りは精鋭・・という訳では無さそうだ。俺は色んな意味で引きが良いらしいな。


「そんな勇者様みたいな事は言えませんわ。」


「君は魔神だろ?」


 ざっけーろに!


「おいおいセイジ、今のうちに仕留めよ。」


「うん。」


「まあ、待ってよ。どうせ逃げられないし。

 それに軍も到着したようだ。」


「アレイスター様。」


 タジャマールに言われずとも周りに銀甲冑が集まっていた。弓兵や魔法使いも中には居た。


「ピンチにも程がある。」


「旅とはピンチが付きものじゃぞ。」


 オーディンさんに言われたなら何も言えん。


「じゃからワシがおる。」


 オーディンはグングニルの槍を構える。

 黄金色の歪な先を宿した武器である。


「ワシ1人で相手をする事はできるがの。」


 あーはいはい、足手まといなので。俺とタジャマールがどうも邪魔なようです。

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