63 悪は嗤う
「・・・・・事実です。」
「カーマ?」
「あの女の目は真実を語っています。」
カーマは同じ神として何かを感じとった。
「そうか、君がそう言うなら。」
シュウは長年共にしてきた彼女の直感を信じる。
「今ではエデンも無視できないほど力が大きいですから。」
「まあ、そうですね・・・というより、我々からしたら大きさって何か関係あるのでしょうか?
塵はどこまで行っても塵かと。」
敵に囲まれている状況下で取る態度ではない。
「イカれてんぜ。奴さん。」
インドラも冷や汗を掻く。他のLRメンバーも同じ状況であった。
唯一理解が追いついていないのは、その力を感じ取れないマスターたちであった。
元より前世は一般人である彼等が戦闘におけるイロハなど持ち合わせてはいない。
「??どうしてよ?」
「解らないな。」
「いや・・・・・・それは・・・本当なのか?
だが、召喚士は?」
「シュウ?」
「も、もしかして。」
今まで怯えて声も出なかったコウタがようやく理解し、その口を恐る恐る開く。
「LRが他にも?あの映像以外にも?更に召喚士は噂だと限定的な能力の筈だ・・・まさかっ!その限定を取り払った?」
すると、コウタはあまりの恐ろしさに後ろへ倒れるもすぐさまシグムンドが支える。
「お、おい!コウタ!しっかりしろ!」
インドラは焦る。主人の危機にいつもの強気が掻き消えた。
「ご、ごめんよ。」
足元がおぼつかないが、なんとか椅子へと座り直す。
「落ち着かれては?コウタ様の理解は正しかと。」
ビーシュマもコウタの考えを察した上で優しく諭すのであった。
「ありがとう・・・・・」
しかし、当の本人は尚浮かない顔であった。
「コウタの言う通りそうであったのならそのアレイスターとやらは相当ヤバい。」
「アレイスター様は偉大です。
あなた方LRは何故そちらへ居るのか?定かではありません。
ですが、本来LRの存在は原則許されていない。1人の存在が大きく世界を揺るがす。そんなの管理者が管理できなければ、世界が無法地帯へと変わってしまう。」
「まるでそれを管理できるかのような言い分ですわね。」
アンリは不服そうに物申す。
「はい、その通りです。アレイスター様は唯一にしてその管理者であります。我々神を、LRを統率する者であります。
是非あなた方もこちらへ来ては?」
「はいそうですか。とはいきませんね。」
ガブリエルが今度は立ち塞がる。その顔はアテネを射殺さんと睨み付ける。
「ガブリエル。」
シュウは今にでも飛び出しそうなガブリエルを視線で動くなと指示を出す。
「・・・・・かしこまりました。」
「何人かいる話は知っていたが、まだ隠し球があったなんてね。」
「何人か・・・・ですか・・まあ、何人いたかなんてあまり覚えていませんが。」
『アテネ様、そろそろかと。』
「分かりました、では撤退しましょう。」
「待て。そう簡単に退がれるとでも?」
ウリエルの一言に周りは戦闘態勢へ。
「ええ、ここに居る人たち全員が人質である以上は逃れられるかと。」
上に指を指してアピールする。
「やっぱりあの要塞は兵器かよっ!」
「な、なんて野郎たちだ。鬼だぜ、こりゃ。」
「皆。止まってくれ。彼女を撃っても何も変わらない。
むしろ、より酷くなる。だから今は」
「代表はやはり貴方でしたか。
よく考えておりますね。眩しいぐらいに素晴らしい方です。まあ、アレイスター様には遠く及びませんが。
その賢明さは評価しましょう。」
パチパチと小さく拍手を送る。
「は?ちゃんと国の代表として前に出てるシュウの方が良いし!」
「ミカ!」
シュウは目の前にいる龍を起こさないように配慮していたが、ミカの一言にアテネの雰囲気が一気に変貌する。
「・・・・・・そうですか?人それぞれです。何も責めはしませんよ。
ただ、貴女は嬲り殺しを決定したまでです。」
アテネから強烈な殺気を感じ取った。
全員すぐさま臨戦態勢を取るが、シュウ以外のマスターは動けず、足が震えていく。
「っ・・・・なんていう力だ・・本当に同じLRなのか?」
「それでは皆様、近いうちにまたお会いしましょう。」
アテネは再びテレポートで即座に消え去った。
そして、『天の方舟』へと戻ると。
「お疲れ様でした。」
「ありがとうございます。」
「大丈夫ですか?」
『天の方舟』に戻ったアテネは机に置いてあった水を飲み干すと、そのガラスのコップを握り壊した。
「直ぐに新しい物をご用意致します。」
「・・・・・あの女は殺す。」
酷く取り乱すアテネはモニター越しにミカを睨み付けていた。冷静さを装ってはいたものの内心は怒り心頭であった。
「が、いいものも観れました。」
「お待たせいたしました。」
ナナカが新しい飲み物を用意した。
「で、いいものとは?」
コウタが新たにモニターへ映し出される。
「コイツは利用できる。オマケに周りに入る者も強い。上手く操れればだが・・・少々臆病な正確ではありますが、ヘルメスを使いましょう。」
「確かにヘルメス様ならこの者を操るなど造作もありません。」
「ヘルメスへ繋げて下さい。」
「かしこまりました。」
アレイスター
「おはようございました。」
「何じゃ何じゃ?」
「ディン様が大分ご乱心なされたからでは?」
「うむ。間違ってはおらぬの。なんかこう、肌にツヤが戻ったと言うのか、生き生きとしている感じじゃ。」
「逆に俺がカサカサだけどね。」
「ヨシンボ様。」
羽の団扇を使い、俺に風を送ってくれるタジャマールことマールさん。そんな微風にすら吹き飛ばされそうなくらいヨボヨボなワシ。
「んで、よく朝食をそんなに食べれるな。」
「食べんと戦に備えられんぞい。」
とても女性が食べる量じゃない食事をガツガツとオーディンは食べ尽くす。
「俺はどちらにせよ戦える身分ですら無いけどね。」
「しかし、この地域は冒険者区画と言われており、人同士の争いより魔物との戦いが多いかと。」
「魔物・・・・ね。」
「ふむふむ。」
オーディンが何か耳を傾けている。
「吉報じゃぞ。なんと評議国へ殴り込みを仕掛けた奴がいるそうじゃ。」
「そんな物好きな。
いくら俺でもここ最近は国の情勢は知っているよ。この人間がいる地域、人界での勢力をその殆どを占めているのが評議国だろ?」
「その通りでございます。他国も実在しますが、あくまでもその傘下の同盟とされております。」
「そんな強豪国に我らが映えある『エデン』が要塞と共に宣戦布告しに行ったそうじゃ。」
「・・・・どんどん追い込まれるよね。」
驚きは愚か、かなり好き勝手やってる事に沈む気持ちである。
「ヨシンボ様・・・お気を確かに。」
「もう世界規模の話だからだけどね。それでも未だ人界の支配者さんに喧嘩売るとは。まだ未開の地や魔族領だってあるのに。
機械の聖地『アーク』もいるのに・・・・アテネの事だから何か考えがあるのは解るが。」
いつもいつも良い事だらけならいいが。
何分世界は理不尽だ。良い事づくしな訳がない。
「どちらにせよ、ワシらは退くことができんの。いよいよ人界をサクッと支配せねばな。」
「そんなお菓子感覚な。」
「つまみにもならんかもしれんがの。ワシらが本気で暴れられればの。
じゃが、アレ・・・・ヨシンボ様が望まれるのならじゃが。」
「うーむ。もう引き返せないのは今更だし。
でもイケるのか?確証が持てなさ過ぎる。」
知らん間にまたしてもレベルが上がってたし。俺の知らない所では戦いが日夜取り行われていたようだ。
「ま、仲間を信じるとしますか。
んで、俺はどうするかな。」
「このまま旅を続ければ良いじゃろうしな。」
「けど、このメンバーでは心許ないのでは?」
「ワシはともかくじゃ。確かにな。」
なんかすいませんね。
「ヨシンボ様は気にせんでよい。
ワシらの問題じゃ。ヨシンボ様はヨシンボ様のやり方がある。ワシらが逆に上手く使われねばならんのじゃ。」
流石は神様だ。全知全能とはこれ然り。
俺の知らない事を知っている。その上で俺にスタイルを合わせているとは。
「俺このまま召喚士できるかな?」
「大丈夫じゃ。自信を持つとよい。」
「神様に言われたならね。」
「ヨシンボ様、何かが近づいて参ります。」
「うん?」
お客?はて?こちとら知り合いなんぞいない筈だが。
むしろ、お客様は全力で俺にお土産どころか爆弾突きつけて来るってのに。
「さては聞きつけたかの。」
「え?まさか・・・・フィルディンの奴らが。」
早速一波乱ありそうだ。
アテネ
「空の旅も悪くはありませんね。」
「その通りかと。」
「それで?連絡は?」
「はい、秘密裏にお会いしたいと。」
「でしょうね。あの中でも1番想像力が豊かそうではあったし。」
「しかし、向こうの戦力とこちらの戦力差が。」
要塞とは言えど、アテネ1人では心許ない。
「ヘルメスは?」
「ヘルメス様は今その方の側へおります。」
「そう。じゃあ、イザナミとゼウス様にも来てもらいましょう。」
「かしこまりました。」
「会うのが楽しみね。」
女神は微笑む。
しかしその笑顔は邪悪そのものであった。
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