63 悪は唱う

「報告します、アテネ様。」


「何でしょう?」


 アテネとナナカは現在評議国の遥か上空雲の上に位置する所で待機していた。正確には、巨大な船のような形をした浮遊している要塞の中から評議国を見下ろしていた。


「共和国が滅びました。」


「本当でしょうか?ちゃんと国自体を抹消しましたか?」


「はい。テュール様による『神化』によって全て消え去ったのを確認いたしました。」


「そう、ロキやウトガルザは破壊系ではありませんからね。ある意味テュールを寄越したのは正解でしたか。」


「お見事です。」


「世辞は要りません。

 それより、この空中要塞『天の方舟』の様子は?安定はしているとは思いますが、本日は試験の意味も兼ねて動かしているので。」


「はい。ラプラス様の理論にヘパイストス様の権能と技術、更にはアテネ様の知識が積み重なってできあがった要塞は現在も安定の領域に達しております。

 しかし、攻撃ユニットに未だ問題が。」


「我々の力に耐えうる魔力回路等が不完全な状態か・・・・理想はゼウス様、アルテミス、オーディン、トールの誰かがリンクできれば効果は絶大ですけど。

 特にゼウス様とオーディン、その2人の力は絶大ですから、そう考えると改良するしかありませんね。」


「その方々とリンクする回路はかなり困難を極めるかと。」


「悲しいがここは実験を繰り返すのみですね。幸いその辺の村などで幾度か繰り返せば、自ずと結果が着いてくるでしょう。」


「かしこまりました。」


 ここに至るまで、幾つかの人々が既に犠牲になっていた。


「それに今回は上から見下ろすだけでも無く、しっかりとご挨拶に来た訳ですから。」


「かしこまりました。早速降り立ちましょう。」


「ええ、この方舟の姿を世界へ見せつけ、一体誰に戦いを仕掛けてしまったのかという愚か者共の脳に焼き付けて差し上げませんと。

 ただ半年間の間、自国でぬくぬくしていた訳では無いと。」


 巨大な要塞が少しずつ雲の下へと降りて行く。





































「お、おい!な、ななな何なんだアレは!!?」


 評議国の周囲で守護している門兵たちは一同空を見上げていた。

 この世の終わりを彷彿されるかのように皆、恐怖と驚きで顔を歪めていた。


「すぐに国内へ警戒態勢を取らせろ!!急げ!!」


 大きな警報が鳴り響く。金の鐘が国中へと響き渡る。

 その音に国内の人々は騒ぎ立てる。

 鐘の音など、耳に入らないほど国内は騒いでいた。


「来たか。」


「早すぎ。」


「だが一体どうして?」


「何で?何故お伽話の存在が今になって。」


「もしや、我々を消すために?」


「しかし、評議国は世界の平和と秩序のために手を合わせている。」


「むしろ、奴等の方が」


「静かに。」


 もう1人の青年がその会議を止める。

 そこにはその青年を含めて5人在籍している。その3人は見た目麗しき女性であり、もう1人はふくよかな男性である。


「私たちが力を合わせたからこそ、ここまで平和を勝ち取ってきた。いや、これからもそう。」


「け、けど、アイツらは」


「コウタは狼狽過ぎ。」


「そ、そんなぁ!」


「我々にはシュウが居る。そんな奴狼狽させればいい。」


「ちょっとリカちい酷すぎ。」


「止めなさい。今内輪で騒いでいる場合でして?」


「アンリの言う通りだ。

 僕たちの前には、再び巨大な壁が立ち塞がろうとしている。

 何をしに来たのかはおおよそだけど見当はつく。」


「さっすがシュウ!」


「・・・・・・」


「フッ。それでこそリーダーだな。」


「でもシュウ?」


「解っているよ。油断は禁物だ。ガブリエル、解ってるよね?」


「はっ!確かに恨みやアズライールの無念を晴らしたいところですが。」


「国益を伴うからね。」


「承知しております。」


「ガブちゃんだけじゃ不安じゃない?あーしのミカエルも連れてってよ。」


「お嬢様、私はお嬢様から離れる訳には。」


「大丈夫だって、ミカエル。俺がいっからよ。」


 ミカエルとは光の大天使であり、白い肌、白い髪に綺麗な顔立ちをしている女性である。

 それに対して白い肌に荒々しい気性、そして赤い髪色をした男性の名は天使ウリエル。


「ミカはオレが守るからよ。」


「ウリちゃんかっこいいねえ。」


「へっ。そうだろそうだろ。」


 学生のヤンキーのようなノリであった。


「全く貴方は・・・・まあ、それなら良いでしょう。」


「ガブリエル以外にも僕の方でカーマを出すとしよう。」


 スッと綺麗な白い肌に黒く長い髪色の女性が現れる。まるで魔女のような佇まいである。


「お呼びでしょうか?ご主人。」


「カーマ、君の力を借りたい。」


「借りたいなど、全ては貴方の物ですよ。」


 その美しい身体を持て余すかのようにシュウへと見せつける。

 他マスターである女性陣はあまり良くない表情が顔に出る。


「それは・・・困るな。」


「ウフフフ。」


 本当にシュウとしては困っていた。


「カーマ、主人を誑かすな。」


「まあ青い天使さん。腕の調子はいかがですか?」


「皮肉か。」


 2人は一気に険悪なムードへと変わる。


「よせ、今それどころではない。」


「そうですわ。私からも出しましょう。」


「お呼びで?アンリ様。」


 奥から男装姿の紫ショートヘアーの女性が現れた。


「アキレス、お願い。神々が相手だと貴女が1番適任なの。」


「かしこまりました。その使命しかと承りましょう。」


 大英雄アキレウス、ギリシャ神話の中でもトップクラスの人物である。


「なら私の方は三郎。」


「はいよ、嬢ちゃんの指示なら任せろよ。」


 その男の容姿は歌舞伎姿である。

 名は甲賀三郎。かつて、蛇のような龍として神へ至ったという伝説のある人物である。


「後はアンタだけだし、早くしなデブちん。」


「早くしろノロマ。」


 女性陣から罵倒されるも、コウタは萎縮してしまう。


「やめろ。仲間にそんな言い方は無いだろ。

 すまないコウタ。君からも1人以上推薦してほしい。」


 シュウは心の底からコウタへ優しくお願いする。コウタは彼の目からその思いを汲み取った。


「あ、う・・うん。解った。じゃあ、ビーシュマ、インドラお願い。」


「任せろよコウタ様。

 なぁーに、胸張ってくれよ。アンタが我慢してっから私たちも暴れずに済んでんだぜ。」


 ガテン系に大きな胸に包帯を巻き、派手なインド風の格好、神は雷を思い出すような金髪ヘアーポニーテール。背中には腕が何本かある。更に曼荼羅のような模様が背中に記されている。

 そんな彼女の名はインドラ神。

 肌色は茶色であるが、彼女を否定しようものなら怒りの雷で焼き焦がされる。


 現在は主人を馬鹿にされたせいで、かなりイラついているのが態度から明らかである。


「主人様には私たちが付いております。ご安心なさって下さい。」


 優しい微笑みを浮かべるのはインドの英雄であり、悲しき英雄と揶揄もされていたビーシュマである。

 彼女も同じく肌色は茶色である。

 しかし、髪型はショートヘアーの白髪であった。


 そんな彼女も他の奴らを見下すような視線を向ける。


「アタシらが居ねえ時にコウタ様に何かあったらヤベからな。代わりにシグムンド、アンタが守れや。」


「解っている。俺に命令するな。」


 コウタの後ろにはインドラやビーシュマと同じくらいの髙身長に金色の目を宿した女性がいた。


 その女性は綺麗な緑髪を束ね、腰には魔剣グラムを携えている。騎士の鎧をガチガチに装備しているが、その大きな胸は隠せていない。

 クールな性格であったが、その実コウタを誰よりも慕っており愛している。


「俺の命に変えてもコウタ様を守ろう。」


「ケッ。素直なんだかそうじゃないんだか。」


「まあいいではありませんか。」


「こちらも心強くて助かるよ。」


 シュウは肝が強いのか、このメンツに臆する事なく握手を要求する。

 しかし、水を差されたと思ったのかインドラはプィッとそっぽを向く。


「申し訳ない。その手は取れない。」


 ビーシュマが代わりに答えた。


「おっと、これは失礼した。」


「コウタの以外はとらねえーよ。」


「これで出揃ったのかしら?」


「何にせよ、このメンバーが揃ったのだ。

 下手に戦争を起こそうとすれば、向こうも困るだろうな。」


「果たしてどうかねえ?」


「三郎?」


「リカ嬢ちゃんには悪いが、今回の奴等は予想以上にやべえかもしれねえよ。」


「龍の勘ね。」


「ま、そうとも受け取ってくれや。」


「そうすると我々も行動を改められるな。」


「ミカっちが行くなら安心でしょ?」


「そうだな。お前さんが入れば上手く話せそうだ。」


 ミカエルはその様子にやや呆れ返る。


『では、話そうか?』


 ウリエルとは別に違う声が響く。


『探す手間が省けました。そんなに強力なオーラーを放たれては、見つけてくれと言っているようなもんでしょうに。』


 モニターの魔法が映し出される。

 そこには船内管制室とナナカ、アテネの姿が映し出された。


「貴女が噂の女神様で?」


 シュウが代表して尋ねる。


『その通りです。』


「否定しねえーのかよ。」


「インドラ・・・・」


「わっーてるよ。」


 インドラはコウタの呼びかけに大人しくする。そしてコウタの頭をわしゃわしゃと撫でた。


『こうやって話すのも何でしょう。そちらへ向かっても?』


「場所は割れています。どうぞお好きに。」


「では、失礼してと。」


 アテネはモニターから今度は飛び出してきたのだ。


「!!お、驚いた。ライブ中継と繋がってる?」


 流石の冷静が売りのシュウですらその光景に驚いたのであった。


「??何の事は理解しかねますが、これも我々の能力の1つです。」


 正確にはフレイヤのテレポートの力を擬似的に再現したものであった。


「1人で来るとはね?根性あんじゃん。」


 三郎ももっと大人数でくると想定していたが、まさかの単体であった事に天晴れを感じていた。


「皆さんがそんな頭の悪い連中ではない事を察しています。」


「へぇ〜、何?仲間になりたいの?」


 リカは挑発するように問いかける。ミカエルはその様子に冷や汗を掻く。


「そんな、とんでもない。

 アレイスター様以外と戯れるのは好きではありませんので。」


 余裕の笑みで即答する。


「アンタ良い目してんね。」


「インドラ、喋り過ぎだ。」


「ビーシュマ。テメェが奥手なのは知ってるが、こっちは舐められねえようにしてんだよ。」


 インドラはバチバチである。


「なら余計に静かにさせてあげましょうか?」


「あ?」


 ミカエルがインドラを一蹴する。


「ケッ。」


 珍しいミカエルの様子から今度こそインドラは黙ることに。


「ご理解いただき感謝します。」


「それで?用は何でしょうか?」


「ええまあ・・・・単刀直入に言わせていただきますと、これから貴方方の全てを破壊する事を宣戦布告させていただきます。

 今まで国を潰しては演説をしておりましたが、チマチマとまどろっこしくて。」


「大胆な。」


「ただの大バカ者ではないですわね。」


 アンリとリカも流石に驚く。


「それで?宣戦布告はい」


「共和国はたった今滅びました。」

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