62 共和国崩壊 2
「では、やはりウトガルザは貴女方と結託していたと?」
「結託?・・・・結託は愚か、今まで戦っていたさ。もちろん本気でね。
ただまあ違うのは、自分たちが前に出ない事かな?何で?って。私たちが出ればすぐにでも決着が着いてしまう。」
「だから共和国の民で戦わせたと?
ふざけるな!!人の命をなんだと思っている!?」
「秩序の崩れた国に命を語られたくはないよ。
私たちが何もせずとも、この国はゆっくりと時を経て崩壊していたさ。だから代わりに時間を早めて上げたんだ。」
ケラケラと笑うトリッキーな神である。
「主らは外道か!」
「外道?失礼だなあ・・・私は散り行く命を減らしてあげたんだよ?
よく考えてみてよ?長々と戦いを続ければ、それだけ蛇足的に人が死んでいく。兵だって人だよ?何人も募って消してはを繰り返すつもりなのかい?
ならば、その犠牲を少なくする方法を探すのが普通じゃないかい?」
ロキによる詐欺師らしい正論である。
「っ!そ、それでも命を散らす理由にはならない!」
「理想を追い求める姿勢は良いと思うよ。
でもね、理想を叶えるためには力が必要だよ。どんな力でもね。
君にはそれが無かった。だから成し得なかった。
そして、私にはそれができた。ウトガルザもかな?理想は力によって叶えられるもの。無力な奴は理想に縋るべきではない。」
ロキの説明には誰も口を出せずにいた。
常に世界は力ある者によって支配される。その原理をよく身に染みているのである。
いつの歴史もそうである。弱者は淘汰され、強者によって支配される。
「・・・・・暴論か。だが、筋は通っている。
しかし、貴様のその言い分だといずれ貴様を超える者が貴様を消す。という事だぞ。それを受け入れるとでも?」
「受け入れるさ。ま、今まさにそうなんだけど。
アレイスター様より優れた者は居ない。
だから私たちはアレイスター様のために手となり足となり動く。彼の理想のためにこの力を振るおう。
それが弱者として力ある主人への奉仕だよ。」
ロキの手から闇の魔力が禍々しく発生する。
「神が闇を使うか。」
「得意なんだ。君たち英雄のようにね。」
「私を落とさせはしない。」
「いや、堕ちてもらうよ。」
そこからは会話は要らなかった。
膨大な闇の魔力と水晶のエネルギーが衝突する。
しかし、水晶は呆気なくすぐさま崩れていく。
楊貴妃の戦いは罪人または悪意ある者に効果がある。
しかし、ロキには悪意は愚か、罪の意識すらない。神特有の興味の無さが表に出ていたのであった。
罪を犯している。と感じて動く人の原理とは外れており、興味はない。
ただアレイスターのためにだけ動く。それだけの理由で、今まで命や国を破壊してきた。
だからこそ、罪は愚か正義の意識すらない。
砕けた水晶を通り越して楊貴妃を闇が包み込む。逃げ場はなく、そのまま闇に飲まれて行く。
「実はこう見えて幻術の方が得意なんだ。まあ、攻撃も得意だけどね。」
「まだ終わっておらん!!」
傷だらけの楊貴妃が闇から姿を現す。
しかし、ロキは躊躇いなく足に光のレーザーを撃ち込んだ。
「ぐっ!!」
見事に両足を共に貫かれ、そのまま前に倒れてしまい、動けなくなってしまう。
文官として優れている彼女からすれば、戦いなど下の下に等しい。
そんな楊貴妃の髪をロキは無造作に掴み、傷つき涙する顔を上げさせた。
「いい顔になったね。これから君は夢を見てもらうよ。君の理想の程をね。」
「よ、よせ・・・わ、私を愚弄・・す、るき・・か。」
「うん。」
ロキは容赦なく肯定する。
そして、そのまま幻術を楊貴妃へとかけた。抵抗するも徐々に力を失って瞼を閉じる。
「よし・・・寝たね。」
「お、おい!お、わ、私はこれで!」
「ああ、君うるさいから要らない。」
ロキが手を宰相へ向け、握る。
すると、宰相の上半身が木っ端微塵に弾け飛んだ。全ての臓物や血が雨のように降り注ぐ。
「こっちに飛び散らなくて良かった。」
自分の身体から埃を払う仕草をとった。
「ほんとですよ。」
今度はウトガルザが後ろからやってくる。そんな彼女の近くには宰相側に付いていた騎士がお互いの剣で心臓を貫き、そのまま機能停止していた。
「君は本当に酷い殺し方をするよね。」
「貴女には負けますよ。」
身体が半分無くなった宰相を見た上で、その皮肉を返した。
「そう。で?」
「王城共々消す手筈は済んでいますよ。
今丁度、キサラの犬が狩を開始している頃合いでしょう。」
ウトガルザはケタケタと楽しそうに笑う。ロキはまたしてもつまらなそうな顔になる。
「おや?不服ですかな?」
「違う。アレイスター様の見てない所で成果を上げても嬉しくないだけ。」
「そこは同意ですねぇ。ま、でもしょうがないかと。アレイスター様は何分多忙な方だ。
本来は動かなくてもいい筈だが、敢えて動かれている。それは単に我々が情け無いからですね。」
「そうだね。もっと私たちが動かないといけないね。
アテネが何をしたいのか知らないけど、本当に彼女を指揮官にしておいていいのかな?」
「ま、それもアレイスター様のお決めになった事だ。口を出すならもちろん殺しますよ?」
ウトガルザはその殺意をロキへと向けた。
「そんなつもりはないよ。アテネに不信感は抱くけど、アレイスター様には一切抱いてない。
単に邪魔なアテネを指揮官から下ろしたいだけ。」
「へえ。流石は欲望に忠実なだけありますね。3神と言われても貴女は貴女と?」
「オーディンやトールとは一緒にしないで欲しいな。私の方がアレイスター様にもっと貢献できる。
彼女たちのような勝手をする真似もしないしね。」
「それを私の前で言いますかな・・・まあ、それは後にしましょうか。」
窓から共和国を見渡す。
「今はゴミの処分が先決か。」
「そうですよ。」
血みどろになった一室からロキが楊貴妃だけを背負って退出した。
そんな他城内では
「進めぇ!!戻るな!」
「そうだ!後はもうない!」
毒蛇と大蛇を相手に一歩も退かずに前へと進む。
「やるのじゃ。」
「・・・・・・・そうだな。」
「はあ、退屈ですわ。」
キサラの隣にサッと仮面を付けた人物が現れた。
「・・・・そうか、終えたか。」
「へえ。じゃあもうここでコソコソしてなくても良いってこと?」
「それはそれで味気はないがの。」
「だが時間も無い。アレイスター様が旅立たれた以上、早期解決をせねば。」
「アレイスター様が旅!?何で!!?」
妲己は驚いてつい素が出てしまう。
クロアも表情にこそ出さないが、その心意は穏やかでは無かった。
「安心しろ。ご自身で世界を見たいそうだ。」
「でもそれは安心できる話でも無いけどね。」
今度は別方向からラプラスとテュールがクロアたちと合流する。
「簡単だよ。我々の行動に不信感を抱かれている可能性もある。という訳だよ。」
ラプラスは得意げに話すも心は穏やかではない。
「そうだな。小生らは果たして満足のいく働きを行えたのであろうか?
この半年の間に国土や国内を平定ときたが、それも遅すぎるのでは?主自ら動くなど、本来あってはならん。」
「けど、そう落ち込む事もない。
これは一種のチャンスだよ。このいない期間でどれだけ成果を残せるか。言い方を変えれば、我々が動きやすくなった。という事だ。」
「動きやすく?」
妲己はラプラスのその言葉にイマイチぴんとこない。
「要するにの。アレイスター様不在であるからこそ、国にいる奴等を総動員する事ができると。アレイスター様の顔色も窺わなくても良いと?」
「言い方はあるけど、そうだねえ。」
「小生としてはどちらでも良い。
むしろ、居てもらった方が安心だが。
しかし、確かに選択肢は減るだろうな。」
アレイスターの思想に合わない行動は、本人がいる以上断固行ってはならなかった。
という彼女たちの思い込みルールが存在している。
「今回それが取り払われた。
恐らく、アレイスター様も解っていて動かれている。いやはや全く。数字の悪魔と言われてはいたが、彼の方の方が悪魔のように計算高い。」
アレイスターにとっては背中が痒くなる話どころか、穴を掘って隠れたい気分になるであろう。
「共和国で遊んでいる暇は無い。
アテネのやり方自体は退屈ではあるが、実利を優先せねばならん。そいう意味では間違った指揮でも無いか。」
「でも、ここで一気に消すのかえ?」
「消すのはキサラたちに任せれば良いが、あのSSRたちは邪魔だな。
虐殺は趣味ではないが・・・しょうがない、小生がお相手しよう。」
テュールはそう言い、蛇たちと戦っている渦中へと飛び降りた。
「戦士は言葉より行動だね。私とは相反しているよ。本当にね。」
ラプラスはただ見守った。テュールの戦いに計算もクソも無い。ただの暴力の前に理論は通じない。
「今回堕とすのはあのメスだけかしら?」
「そうですよ。」
そのタイミングで今度は城の奥からウトガルザとロキが現れた。
「これで役者が出揃ったか。」
「先にテュールが行っちゃったよ。」
妲己の言葉にロキはやや落胆する。
「アイツは本当に手が早い奴だことで。」
「ロキ、その女私がいただいても?」
抱えている楊貴妃の事である。
「アレイスター様の女だが、ほしいのか?」
ロキの目には殺意が宿り、発言元である妲己を射抜く。
「ちょ!冗談よ!・・・アレイスター様なら私は手を出さないからさ。
むしろ、私に手を出してほしいくらいだけど。」
「はあ・・・キサラはとっとと片付けてきたらどうじゃ?」
クロアは何しているのやらという表情をするも、時間も差し迫っているため話題を逸らす。
「そうする。」
キサラは仮面の人物を引き連れて立ち去っていく。
「私って何しにきたのやら。」
妲己は逆に疑問を抱く。
「おや?ロキの言い回しが悪かったせいかな?
献上する前には商品を綺麗に浄化しなくてはいけない。そうだろ?」
ウトガルザは満面の悪意ある笑みを妲己へ向けた。
そんな妲己も理解したのか歪み嗤った。
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