61 共和国崩壊 1

 戦闘は激化する。


 王城へでは楊貴妃の首を獲ろうと決死の覚悟で攻め入る反乱軍。

 それに対し、不動の守りで迎え撃つ正規軍。

 両者による戦いが国の命運を左右する。


「行ける!このまま攻め入れれば!」


「バカっ!」


「あ・・・・」


 門前付近で勢いづく反乱軍に容赦なく城の上から矢を放つ正規軍たち。

 しかし、矢の雨を掻い潜り、それでも進軍する。


「後ろへ下がるな!ここが勝負だ!」


「後方の敵はこちらで何とかする!」


「だから振り返らずに行け!!」


 反乱軍の団結に正規軍は圧倒される。


「こ、コイツら!」


「怯むな!こちらの方が数も力も上だ!」


「烏合の衆に遅れなど取るな!」


 それを振り払うかのようにお互いを鼓舞する正規軍である。

 そんな反乱軍の中央から眼帯の女性がゆっくりと歩いてやって来る。周りはそんな彼女の通りを邪魔しないように真ん中の道を避けていく。


「な・・何だ・・・一体・・・」


「我が名はテュール!北欧の軍神にして戦の支配者なり!」


 テュールはルーンの刻まれた十字剣を上へと高々と上げ、自身の名前を宣言する。


 その途端、その剣に光が宿る。


「フンッヌ!!」


 女性らしさのカケラもない掛け声だが、その威力は凄まじい。


 なんと、城を斜めに斬り伏せたのだ。

 たちまち城は崩れるかと思いきや、城壁に衝突して、斜めになるというアンバランスな形となった。


「す、すごい!」


「流石はテュールさんだ!」


「これで奴らの頭も。」


 テュールは片方の目で斜めになった城を見つめる。


「いや、どうやら後方へ避難していたか。

 なるほど。確かに高いだけの場所は狙われるからな。少しは戦っぽいではないか。

 これなら滾るな。」


 彼女の瞳には楊貴妃が居ないことを悟っていた。


「小生は退がるぞ。このまま進んでも貴様たちに勝利は与えられんだろう。自身の手でその命運を握るがよい。

 その勝ち取った結果こそ、真の勝利と言えよう。」


 彼女はそのまま後ろへと退がっていった。


 彼女の退場により更に反乱軍の士気が高まる。

 テュールの勢いそのまま、陣形がバラバラに崩れた正規軍を蹴散らしては一気に崩れた城へ反乱軍たちが次々と入り込む。


「まあ、そうなるじゃろうな。」


「で?どうするのよ?」


 そんな城では2人が上から見下ろしていた。ウトガルザ陣営のクロアと妲己である。


「まあ、妾がおる訳じゃ。それにご丁寧に斜め斬りしよったしの。毒蛇ちゃんたちには打って付けじゃ。」


 城内から悲鳴が響いた。


「な、なんだ!?」


「これは!?」


 崩れた城内上から大量の毒蛇の襲来、更に瓦礫の隙間からウネウネと巨大アナコンダが目を光らせている。


「貴女は意外と戦えるのね。」


「お主が言うのかの?」


「私はどちらかと言うと、戦うより統治する側だし。」


 そんな2人の背後へキサラがやって来た。


「準備は?」


「躾は間に合った。尊厳を奪ってやった。」


 ニヤニヤとキサラは珍しくこの場には似つかない笑みを浮かべていた。


「貴女罪が発動すると人が変わるのね。」


「ま、そこは気にするでない。妾たちもそんなもんじゃし。」


「そう・・そんな事よりウチの指揮官様は一体何処へ行ったのやら?」


「向こうのロキも同じじゃろ。」


「2人して何かしようとしてるよね。意地悪なお二方な事で。

 しょうがないから私は私で軍を優しく蕩けるように甘やかしてくるわ。」


 妲己はその場から楊貴妃たちが居るであろう城の後方へと歩いて立ち去っていく。


「好き勝手なLRじゃの。」


「・・・・・・・・」


 クロアはアレイスターに仕える身として、相応しいのかを疑う。


「ま、妾らもそうかの?ここはこのままかわいいペットで遊ばせておくが・・・・・ここまで圧倒するとはの。」


 実際に大量の魂で生贄にしたクロアたちはLRへと進化を果たして、その力を大いに震っていた。

 しかし、その力はSSR以下たちの前からすると偉大過ぎて相手にならなかった。クロア自身は戦争家でも殺戮家でもなく、ただ単に指示通り動くだけの感性しか持ち合わせていなかった。


 「じゃが、物足りないとはよく言うたものじゃ。」


「・・・次の段階は私の犬を使う。」


「好きにせい。妾はも 元よりとっとと早く終わらせて帰りたいのじゃ。」


 城の後方へと退がっていた楊貴妃たち。


「状況は?」


「依然芳しくはありません。」


「そうか・・・・梵・・・・・お主はまだ生きるのだ。生きて、今は亡き主人の思いを。」


 そこに居ない者へ語り掛ける。楊貴妃は風前の灯となった国を未だ大切に思い続けている。


「共和国の陽は落ちぬ。決して落ちぬ。」


「だが太陽はやがて暗く沈んでいくものです。」


 宰相が柱の影から現れる。


「何の用だ?今はまだ戦いの最中だが?」


「いえいえ。貴女はもう十分に国のために働いた筈です。

 ですから、ここから先は私が引き継ごうかと思いましてね。」


 宰相の周りには鎧の騎士兵が10人現れた。


「・・・・・・ま、読めてはいたが。」


「そうですか?ま、読めてもいいんですがね。

 こちらは騎士の中でも選りすぐりの者たちです。

 例えLRランクの貴女でも、戦闘に特化していない女など容易い。大人しく私の伴侶になっていただいても?」


「貴様の伴侶なぞその辺の家畜がお似合いだだが?」


「それは残念・・・・・まあ、元より捕えるつもりでしたので。」


 楊貴妃は立ち上がる。


「それと私を舐めない方がいいぞ?」


 彼女の振袖から扇子が取り出される。そして美しい水晶石が彼女の周りに2つ現れる。


「な、何だ・・その力?聞いていないぞ!?」


「公開した記憶が無いからな。」


「ぐっ!・・・・し、しかし、ただの魔法使い・・・近接ならっ!・・やれ!!」


 先に5人が一斉に斬りかかる。


「来るか?であるなら反逆だ。」


 水晶は光り輝き、騎士たちの鎧の内側からクリスタルが飛び出す。

 そのクリスタルは真っ赤な血で染まっている。


「悪き心だが、その中でも私への反乱を意識している者として裁きを下した。

 よって、ここにいる者たちは罪人と断定した。」


「裁き?神を気取るか!?牝狐めが!」


「神?ただお主たちが反乱を前提に動いておるのだぞ?そう考えなければ良いだけだ。

 まあ、最もこうやって行動を起こす以上は無理だがな。」


 楊貴妃の力は正の力が宿っており、本人への悪意に反応して水晶の力が作動する仕組みとなっていた。


「ぬっ、ヌフフフフフ。」


「・・・・・・」


 1人の重鎧騎士が宰相の前へとやって来る。


「お主・・・・・・・・誰だ!」


 扇子の疾風が仮面を剥いだ。


「やあ。」


 そこには綺麗な水色に白と紫が混じった髪色、褐色の素肌をしたロキであった。


「?敵意が無い?・・・・・」


「いや、真打ちでもないからさ。逆にウトガルザとでも思ったんじゃないの?」


 楊貴妃は黙り込んだ。目の前の人物が相当のキレ者であると察したのだ。


「お?意外と警戒心は優秀だね?別に話さなくても良いよ。後々解る事だし。」


「え、え〜と・・・・・どなたで?」


 宰相もこの事態は予想していなかった。というよりも、宰相自身が計画とは違う事に驚いていた。


「うん?ああ、私はね。」


 宰相へと振り返ったロキの瞳から蒼い炎が宿る。


「私はね、神の遣いだよ。まあ、私自身も神様だけど・・・それはどうでも良いか。

 神の遣いとしてこの国に裁きを与えにきたよ。君の大好きな裁きだ。

 だからこそ、君の攻撃は私には届かない。真に罪を裁くものだから。」


 ロキの身に付いていた鎧が取れる。いつもの露出の多いギャルのような格好が露わになる。

 しかし、何故か普通の人間はその姿に恐怖する。それと同時に謎の危険な妖艶さに引き寄せられる。


「あ、貴様はどこの国の者だ!

 神の遣い?ふざけおって!」


「流石にそこは反応するのね。まあ、そうだよね。私も神の遣いはふざけてたよ。

 だって、仕えている方は確実に神を超える方だからね。」


「そんな事を聞きたいのではない!何故今、この状況下で我が国へやって来た!?裁きというのなら、私がこの国を裁く!あるべき姿へと変えるために!

 他所者にとやかく言われる筋合いはない!」


 突然の事もあるが、楊貴妃に焦りが生じる。


「裁くね・・・・まあ、どうでもいいけど。ぶっちゃけ私自身は正直なところ無関心だからさ。

 主・・・・・・アレイスター様の妨げになるから消しに来ただけだし。

 アレイスター様は安寧を求めていらっしゃる。我々はそのために立ち上がっただけ。国がどうとか、どうでもいい。

 きっと、ウトガルザもそう思っている。」


「なら余計に干渉する必要などありはしない。」


「干渉もしてないだろ?

 だって、こんなとこすぐにでも滅ぼせるから。干渉しているように見せただけ。

 それともこう言った方がいいかな?

 と。」


 ロキ自身の本来の役割である悪意を宿す被虐的な笑みで、楊貴妃に真実を語る。

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