60 盤上に放たれた命

『エデン』城の庭にて1人の女神は空を眺める。


「賽は投げられました・・いよいよもう止められない。」


「止める必要もないかと。」


 暗く静かな夜空の下でアレイスターたちのいる方角を見詰めるアテネとナナカ。


「アレイスター様の理想を創る。我々の手で。

 そして、この世界でアレイスター様は唯一神と成られる。」


「はい。アレイスター様こそ、真の神に相応しいかと。

 ですが、そのために。」


「ええ、先ずはこの世界を綺麗にお掃除をしなくてはいけません。

 ロキとウトガルザに連絡を。遊びを終わらせるようにと。」


「かしこまりました。私の部隊から連絡させます。

 それと、オーディン様の所在ですが。」


「解っています。アレイスター様のお側に勝手に行ったのだろう。逆に読みやすくて助かる。

 本当はやってほしい事もあるが、今はそれでいい。代わりにヴィーザルを動かす。無口だが、戦闘力は保証されるでしょう。」


「かしこまりました。」


「イザナミはここの医療施設と国の管理をするように伝えてください。私は私で行く所があります。」


「行く所でしょうか?」


「評議国へご挨拶をしに行かないと行けませんので。」


 2人が再び夜空を見上げると、その夜空に浮かぶ雲の中から大きな何かが夜空を覆い隠す。


 共和国ロキ陣営


「来たのか?」


「まあ、それはそうだろうね。仕込みは随分前に終わらせた筈だし。」


「ラプラスの計算通りに事を進めてしまったからな。つまらん戦いだった。」


「なに、元よりそんな前に出て戦う気もないだろ?戦うならアレイスター様の前で。だろ?」


「フッ、その通りだ。アレイスター様の前で戦って戦果を上げてこそ意味がある!

 だから見てないのが残念でならない。」


「はあ、君たちはお気楽だね。」


「君が仕掛けた提案だろ?」


「知ってる。ただ君たちを寄越した時点で、アテネは早期支配を企んだろうね。

 お陰で私は大忙しだよ。」


 やれやれと身振りするも、あまり忙しくなさそうに見える。


「それもそうか。」


「その方がありがたい。一刻も早くアレイスター様の元へと向かわねばならない。」


「テュールは動けないだろ?軍務がある。

 私も私で電気系統のテストをしなければならないが。」


 ラプラスの計算とヘパイストスの発明、ミリスの知識を元に電気製品を開発を行っていた。


「私も向かいたい所だけど、共和国を統制しないと・・・・・・まあ、滅ぼす予定だけど・・・アレイスター様が側に居てくれれば・・・」


「それは誰もがそう思う。ならば。」


「結果を残すまでだね。」


 3人はアテネの早期解決に賛成し、実行する事にした。


 一方ウトガルザ陣営は。


「おやおや。何とも。まあ、アテネらしいと言えばアテネらしいが。つまらん女だ。

 あんなのがアレイスター様の下で指揮を取っているとはね。」


「アレイスター様に異議を?」


「まさか?アレイスター様は悪くない。悪いのはつまらないアテネだよ。」


 キサラは静かにウトガルザへと視線を向ける。


「止めるのじゃ。身内で争うなど馬鹿馬鹿しいわい。」


「ま、私では戦闘力は劣るよ。君たちには手も足も出ないからさ。」


 ペラペラの演技で彼女たちを煽る。


「口は達者じゃな。」


「怖い怖い。アレイスター様がさぞ頭を悩ましますわ。」


「貴様・・・・・・」


 キサラは妲己を睨む。新参者に横から突かれた事に反応したのであった。


「お互い堕とされた同士だろ?仲良くしたらどうだい?」


「まあ!私は堕とされた訳ではありません。

 堕としていただいたのです。前の主人は退屈なお人好しでしたから。貴女のように愚かな反抗をし、汚された訳ではありませんことよ。」


「・・・・死にたいようだな。」


 普段から略奪以外に興味を示さなかったキサラではあったが、アレイスターの事となると冷静さを失っていた。


「だからやめんかい。」


 クロアはため息を吐きながら、両者の間に入って諌める。


「経緯はどうであれ、君たちは君たちだ。

 私たちのように直々に召喚された訳ではない。召喚された我々は常に繋がり、アレイスター様を理解する事ができる。模造品ではなく、真の存在としてお側で尽くす事ができる。

 その意味が解るかな?」


 今度は3人が一斉にウトガルザを睨み付ける。

 しかし、一切動じないどころか、彼女態度から自信が伺えた。


「妲己、君のその考えは正しいと言えよう。

 けど、またいつその行動を起こすかな?キサラ、君らは奪われた。そんな君は奪う者がなければ?クロア。君の復讐心は世界を覆った後は? そこから先が見えない答えばかりだ。」


 3人は黙り込む。

 事実、この疑問への解答は下手にできない。下手な答えは自身を滅ぼしてしまうからである。


「アレイスター様の愛を真に理解している我々は先の答えを知っている。アテネは確かにつまらない存在だ。

 だがしかし、君たちとはモノが違う。無論、私もね。」


 共和国の城の一室を使っているが、そこはあまり大きくはない。

 そんな狭い部屋で重々しい空気が流れる。


「ま、今はそれは置いといてだ。目先を片付けないといけませんよ。」


「・・・・よくこの空気から切り替えられますね。」


「私が悩む事はない。どう解答するかは君たち次第だ。少なくとも今出る答えですらない。

 ならば、今は今ですべき事をすべきだよ。」


「まさかお主に正論を言われるとはの。」


「・・・・・・・」


「構いません。私もアレイスター様を愛しております。それを証明しましょう。」


 妲己は新たなにその決意の意志をウトガルザへ向けた。


「じゃあ、期待しているよ。」


 特に興味無さそうにロキのいる方角へ目線を移した。


 共和国城内


「現状は?」


「他国からの援助も虚しく、物資も底を着きかけております。」


「・・・・・あそこで兵糧を燃やしたのが間違いだったか。

 迂闊に彼奴らに任せたのが間違い。」


 楊貴妃は頭を抱える。

 しかし、軍事に疎い者として何が正解なのかが分からない。


「過ぎた事です。今はここを何としても死守せねばなりません。

 例え、怪しい人物の力を借りても。」


「ええ・・・梵よ。其方も前線へ?」


「はい。これから向かう予定でございます。

 向こうも備蓄や人員に余裕はありません。ここを勝負時と捉えているかと。」


 青い中華服に身に纏う青年はSSRの梵。楊貴妃を守る剣であり、盾である。


「ここを乗り越えられれば。」


「勝機はこちらにあります。」


「ならば、彼奴らも前線へ押し出すと良いな。」


「しかし、応じるでしょうか?」


「応じさせてみせる。

 この短い間、彼奴らのせいによる犠牲も発生している。この勝負時ぐらい、前へ出ないのは冒涜に他ならない。彼奴らにも主人は居るだろうに。」


「なるほど。主人の顔に泥をと。」


「妾たちもそうだが、基本的に仕えている主人には忠実であり、敬意を払っている。

 そこを刺激すれば・・・危険はあるが、やるだけの価値はある。」


「今を切り抜けるにはですね。」


「ああ、その後で奴等をどう対処するかも考える必要があるが。」


「それは後ほどで良いかと。今は。」


 城の上から門を見下ろす。


 門前では激しい戦闘が繰り広げれている。門から落下して死んでいく兵士、下から這い上がれずに死んでいく人。


 今正に内紛の最終決戦が始まっていた。


 再びロキ陣営


 とある地下室でロキと反乱軍の1人と共に戦況を見守っていた。


「戦況は?」


「後がありませんからね。皆決起しておりますよ。」


「そうかい。ここを抜ければこちらの勝利は確実だ。

 だが、抜けるまでが。」


「その通りですね。

 しかし、ロキ様の戦術でも五分が限界とは。」


「すまないね、ここまで皆を奮起させておいて。」


「何を仰いますやら、ロキ様のお陰でここまでやって来れたのです。」


「なら、成功させないとね。」


 ロキはその場から静かに立ち上がり、外へと歩き出す。


「お供は?」


「不要だよ。少し自分の目で戦況を見定めたいだけだし。」


「かしこまりました。」


 ロキは戦況を見るという理由に1人で外へ出ては、違う場所へと向かっていた。


「ここなら大丈夫だぞ。」


「手配感謝します。」


 地下から出たロキは裏路地へと移動し、ウトガルザと密会を始めた。


「幻術をかける必要もないし、そんな手の込んだ事をした覚えもないよ。」


「あの女から引き剥がしてくれた事を感謝しているのですよ。」


「あそ。」


「どうですか?このまま行けば勝てるのでは?」


「まあ・・ね。劣勢ではあるけど、劣勢が故に練度も高くて後退をしない。それに電撃戦を仕掛けたし。」


「仕掛けさせた。ですが。」


「だろうな。普通に戦えばお前が勝つ筈だが?

 こちらの状況やアジトは筒抜けもいいとこ。指揮官が反乱軍には居ない。正規軍には楊貴妃と指揮官勢がいることから、それを利用すれば良いが。」


「敢えてしなかった。

 まあ、しない方が五分五分の戦いができるからね。それに私の目的はあの女に出会ってから変わった事だ。今頃逃げ出そうと画策してる所か我々を前線でこき使う算段をしている頃合いだろう。」


「国を再建するために一度撤退をするか、擦り潰すか、どちらにせよ正解ではある。

 しかし、逃げられるかな?」


「外側はキサラの捕獲した部隊で固めてありますけどね。」


「ああ・・・・なるほど。キサラを遊ばせていた理由はそこか。」


 ウトガルザは全てを話し終えたのか、背を向けてその場を離れていく。


「この戦い自体がもう意味をなさない。それに、私自身侮られるのが最も嫌いでね。」


 去り際にウトガルザの一言を聞いたロキもまた静かにその場を立ち去っていく。

 だが、反乱軍のいる地下室へは戻らなかった。

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