59 水の都と神秘 3

 無事に関所自体は難なく素通りできた。真実の眼も時と場合によっては、掻い潜れる事が分かった。


 そして都へと入場した途端、そこには大きな川が奥のお城から下街へと何本かに分かれて流れ出ている。

 大きく白く綺麗な建物がいくつも建てられており、所々にある渡橋、船、漁船市場と、まるで水の上に浮いているような街の作りであった。


 水の上にはなんとステージもあり、そこではマジックショーなどのイベントも取り行われていた。


「凄い発展度合いだな。今までの国でもそうは見ないぞ。しかも、活気もあるときた。」


「ここは特に自然と文化、文明との同調率が高い国です。それに元々の国力自体も栄えております。」


「そうじゃの〜、ほんとどこも笑顔が絶えないの。」


「これも王様の思想ってやつか?」


「そこは何とも。異界人の思想も多かれ少なかれ反映されておるしの。

 じゃが、今回の異界人はどのような奴かは別で見定めんとな。」


 ま、既に腹の探り合いは開始してると言っても過言ではないか。


「了解。そこはマールに任せるよ。

 俺たちが下手に動いても苦手分野だ。それにヘマするだけ。

 ならここは、プロに任せて俺たちは俺たちなりに情報を探すとするか。」


「かしこまりました。」


「承知したのじゃ。」


 コロコロと馬車が途中で停止した。


「着きましたぞ。」


「ありがとう。そしてご苦労様と。」


 俺は部下相手ではあるが、代金を出すも、代金は結構と手振りをする。


「あくまで、ここにはビジネスとして参ったのでその次いででございます。

 なので、お気になさることはありません。」


 この人も骨格を変えた隠密さんなのはタジャマール氏から聞いている。

 だからこそ、演技も含めてありがとうの意味も込めて渡したかったが、ここでも意地を張るか・・・・・だが、そっちがその気なら。


「そうかい・・・なら尚の事受け取ってくれないか?」


 その部下さんは少々取り乱すも、タジャマールが後ろから何か合図したのか。


「・・・・・分かりました。友好の証として受け取りましょう。」


「どうも。」


 今の会話だけである程度の意思疎通は無事計れた。と思う。


「さっ、行きましょう。ヨシンボ様。」


 タジャマールが先導する。


「ンボ様ってどうじゃ?」


「変な喘ぎ声みたいだから却下で。」


 オーディンのセンスの無いあだ名を即却下である。

 気を取り直して、俺はこの綺麗な街を少しだけ真っ直ぐと道なりをタジャマールに先導してもらいながら歩いて行く。


「よし!ここいらでどこか適当にぶらつくか。」


「では、私は手筈通りに。」


 タジャマールは早速情報収集へと隠密に行動を開始した。


「ワシらはワシらで適当に当たるかの。」


 タジャマールが静かに立ち去った後、オーディンが背中をストレッチさせる。その衝撃は前の大きなおっぱいを揺らしていた。


「眼には気を付けないと。」


「眼が良い奴なぞ、沢山おるがの。」


「なに、良すぎると碌な事が無いからね。」


「それもそうかの。」


 この何となく暗号っぽいやり取り・・好き。

 しかし、ただおっぱいへの視線には気をつけろ。的な感じなやり取りなんだけどね。


「ま、腹が減ったのもある。」


 グゥぅぅぅ!!と、そのとてもセクシーな身体から響き渡った音とは思えない腹の音が聞こえた。


「ワシはそうでもないが・・・・そうじゃ。どこかのバーで収集でどうじゃ?」


 どの腹が言ってんだ?


「つかそれ、面倒事に巻き込まれるまでがオチなんですが?

 もしくは、延長して別次元へと巻き込まれますが?」


「アレイスター様も眼が良いのぉ。」


「眼というか、世の中や時の流れを読み取っただけ。

 バーはダメだ。どっかの食事・・・レストランチックな。」


「あるぞ、ほれ。」


 速攻魔法で探知し、見つけたようだ。便利過ぎる。それと、やっぱ腹が減ってんじゃねえか!


「子うさぎ亭か。いいんじゃないかな。窓から見るに荒そうな奴も居ないし。」


「それじゃ、決まりじゃの。」


 オーディンは俺の腕を取っては、迷わずそこへ入店した。


 カランコロン。とドアを開けるのと同時にベルが鳴り響く。静かな雰囲気なお店で少しオシャレな空間が漂う。

 レトロっぽいさがいい雰囲気を醸し出している。


「いらっしゃいませ〜空いている席へどうぞ〜。」


 配給していたお姉さんにそう言われたので、少し奥の窓側席へ俺たちは座ることに。


「メニューはと。」


「ほう・・・・美味しそうじゃの。ほれ?これなんてどうじゃ?」


 魚系か、ここは魚が盛んだからか。


 そんなオーディンが見せてきたのは、炙り魚と魚の揚げ物だ。


「確かにオススメではあるな。」


「ならワシはこの兎肉と魚のソテー?とやらにしようかの。」


「パンはいるか?」


「うーむ・・・・要らん。」


 神様とパンって何か関係あったような無いような。オーディンの表情から何か嫌そうな感じが伝わった。


「俺は頼むとするか。折角だ、食べれる分ガンガン頼むか。」


「良いぞ良いぞ!ワシは酒を所望するかの!」


 急にテンション上げ上げだな。


「あまり飲み過ぎるなよ、宿だって見つかってないのに。」


「なぁーに。アイツが見つけるだろうよ。」


「マールね。いい加減名前を覚えたらどうよ。」


「知らん。ワシは身内とアレイスター様以外は興味が湧かない。」


 神様のくせにやたら人に冷たくない?長い間、人の愚かさや浅ましさを見てきたからか、どこか興味が失せている様子でもあった。


「それより早く注文しようぞ!」


 机をバンバンと子供のように急かしてくる。


「はいはい。」


 俺は店員さんを呼んで注文する事に。


 しかし、気になる。

 召喚した神様たちは何故か俺に敬意を払っている。

 愛という神様らしいモノを俺に提供している。

 だが、俺もその愚かな人間だ。しかも、この世界の敵となって俺好みの世界へと変えようとしている。

 何か裏がある・・・・・?疑ったらキリがないのは確かだが、それでも気になる。今ここで気になってしまうのも変な話だが、上手く行き過ぎている現状疑うのも無理はない。


 こうして、モヤモヤしつつも食事をしっかりと楽しんだ。

 味は凄く美味しい。何食っても美味しくなる舌だけど。


 そして夜になってしまった。


「ふぉ〜〜〜〜い。まだかのぉ〜〜。」


 案の定、酔っ払いが俺の肩にしがみ付く。

 神様が人の肩を借りるどころか、この上なく面倒くさい悪酔いモードになってる。


「ディーン、飲み過ぎだよ。あれだけ注意したのに・・・」


「そう硬い事を言わんでの〜。ヨシンボ様のアソコみたいになっ!なっはっはっはっはっ!」


 豪快に笑い、豪快に揺さぶってくるので、その巨大なおっぱいが俺の身体に当たっている。

 悪くないが、何かこう、何故か性欲は高まらない。

 むしろ、人様の目を気にしてしまい、萎縮するばかりである。

 更に辺りは既に夕方を回っている。情報収集を目当てで回ろうとしたが、その前にベロンベロンになっていたのでそれどころじゃない。


「〜〜〜〜〜主様はよ〜〜〜どうしてこの世界へ〜〜〜〜?」


「バッカ!今その話題は・・・・・」


「良いのじゃ〜良いのじゃ〜!」


「あーもう!声もデカいし!」


 近隣の人がこちらを見る始末だ。恥ずかしい。


「マールまだかなあ。」


「ヨシンボ様、お待たせして申し訳ありません。」


 フッとした所に現れてくれた。


「良かった。ナイスタイミングだ。この酔っ払いを匿う場所は?」


「既に手配済みです。」


「流石は俺の懐刀だ。」


「ふっ!懐!!」


 反応するとこそこなの?赤い肌を隠している筈だが、顔面は超真っ赤である。


「え、あ、ああ・・・・・こほん。こちらへどうぞ・・・・」


一気にスゲェ声が小さくなった。

そんな事よりも今はこのベロンベロンの酔っ払いをベットへと転がさねば。


そんなオーディンを肩にズルズルと抱えて歩くこと数分、ようやく目的地へと到着する。


『癒しの泉』


何とも水々しい名前です。

まあそんな綺麗な水を隣人にお裾分けしたいよ。って、口から滝を流してる!


「こちらへ。」


オーディンの神の液体を流させている時、タジャマールがチェックイン手続きを済ませていたため、すぐさま2階へと向かう事ができた。


「4人部屋で確保しております。

 目立たなぬように行動しておりますがゆえ、手狭ですがご勘弁を。」


「問題ない。」


「zzz zzz」


コイツ!吐いたら吐いたで寝とるんかい!


俺の肩でぶっ潰れているオーディンを他所に、タジャマールは部屋の扉を開けた。

確かに広くなく、2段ベットが両サイドに置かれ、真ん中にテーブルと椅子が添えられているだけである。


俺はそのまま右側のベッドへオーディンを投げ入れる。

そんな状況下でも彼女は目を覚さない。


「神様でも酔うのかよ。しかも、酔い癖悪いし。」


「お疲れ様でございます。」


「いや、むしろマールの方こそお疲れ様だ。」


「とんでもございません。」


「初日からコレだと明日以降が不安でしかない。」


「既に敵の懐に居る以上、油断は禁物かと。」


「ま、それもそうか。俺が1番足でまといだからな。少しでもリスクは避けていかんとな。」


少し疲れたため椅子へと着席する。マールはキリッと側で立っていた。


「あー、座わりなさい。立っていても疲れるでしょうに。」


「かしこまりました。」


本来なら一言添える所ではあったが、マールは何かを察したのか、素直に応じてくれた。

いつ誰がどこで聞き耳を立てているのか解らない。そんな状況だからこそ、慎重に話を進めねば。

というか、1番役に立ちそうな神様がオネンネしとるし。


「ここは。」


しょうがないので、『借用』を使って空間とコソコソ話ができるようにオーディンの魔力を借りる。


「よし、これで大丈夫だろ。

 少なからず、この部屋内なら問題ない。」


「ありがとうございます。

 ですが、いつの間にそんな魔法をお使いに。」


「つい最近だな。」


私直属の部下たちが殺しまくっている事が大きく関係している。なんて言ったらどんな反応するのやら。


「それよりも。」


「はい。私なりに短い時間でしたが、この国の情勢と注意人物をまとめて参りました。」

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