57 水の都と神秘
「コロコロと尻の痛い馬車に揺られて数日か。」
「アレイスター様と居られるからワシは嬉しいぞ。」
「私も同じお気持ちでございます。」
君たちは元気だよね?僕は召喚士である以上、体力や力は平均ぐらい。
つまり、戦闘職には敵わない。だからオシリイタイ。
「耐久性もない。当たりなのか、ハズレなのか。」
「どうも言えんじゃろうが、ワシを引き当てたのは当たりじゃろ。ワシ、アレイスター様しか愛していないし。」
「あ、ありがとう?」
何かイマイチ理解できん。向こうも理解していないのでは?
「今回向かわれる水の都ですが、周囲は海に包まれており、海上貿易、魚の流通、新鮮な水と言った世界にとって需要のある国となっております。
ゆくゆくは支配する土地でもありますので、一度立ち寄られるのは正解かと。」
支配とか物騒なんだけど。
てか、さっきから馬車の車輪音がうるさいから良いけど、この話を世間様には聞かせらんないよ。
いつどこで聞き耳を立てているか分からんし。話逸らしとこ。
「水の都だしな。凄い大都市なんだろうな。」
「ワシもそこまでは進んだ事もないしの。
水か、水というか海ならポセイドラがおるの。」
確かに。
「水というのも生活を支える立派な物です。
それを有するというのは世界における優位性に大きく繋がります。」
人間にとってはガソリンのような天然資源だからな。株価に表すと、その水の都はとんでもない利益を生んでいるのだろう。
「国を納めている奴は一体・・・・・・・下手に接触してLR対戦されてもこちらの方が部が悪い。ここは大人しく視察だけにすべきだな。」
「かしこまりました。」
「ま、そうじゃの。しかし、何かあればワシが全てを塵に返すでの。」
「それしたら色んな意味で崩壊する。」
水を消し炭にしたら俺が死ぬ。俺人間やし。
「所でさ気になるんだけど、アクセサリー類とか入れ墨って誰に付けてもらってんの?」
「今その話題をするのかの?」
「まあ、ほら。まだ道は長いし、今のうちに召喚とガチャ、堕転の違いを把握しておこうってね。」
言われれば、俺もグレーな会話してる。
「それで最初の質問がそれとはの。
まあ、構わないがの。主に装飾系はデザイアの奴らから貰っておる。アイツらはあの手の物を作るのに長けておるからの。」
へぇ〜。民族風習かな?
「アイナやゾラも?明らかに不器用そうだけど。」
「そうじゃの。幻界に属する以上は暇なんじゃよ。」
「??」
「滅多に呼ばれる事がないからの。ワシなんて神だから初だし。」
え?今の言い方だと、オーディン以外は経験アリってこと?他にも召喚士が・・・・・・それもそうか。
今にして思えば、召喚士を危険視する声は前説があるから成り立つ。よくよく考えれば解る事だ。
伝説や神話の類は何かしら元があるからこそ作られる。意味もなくいきなり作って神話や伝説に仕立て上げるのは難し過ぎる。
俺の世界がそうだったからな。いわゆる神作品ってのはあるが、世界規模で歴史的神話や伝説に成り得る事は無かった。
「そ、そうか。まあ、それは後にしてだ。オーディンは得意じゃないのか?」
「ワシは神族じゃからの。デザイア・・・・・復讐や欲望という概念の下で存在するアイツらにしかできん筈じゃ。
装飾品や入れ墨はの、何かしらの意思の表れじゃ。物として作る事も可能じゃが、アイツらの場合はそうでは無かった。
どこかの身体へ形として残し、自分たちの誓いを忘れぬように日々を勤しんでおるからの。」
意外と知っていた。てっきり神様だから知らねー。的な感じかと思った。
「なんじゃ?もしかしてワシらが他の奴らに興味ないんじゃないか?って顔してるの。」
「そんなピンポイントに。」
「まあ良い。その代わり夜は覚悟しておくのじゃ。」
あ、死んだ。色んな意味で。
「そんなデザイアからワシらは受け取っておるぞ。そこの・・・・・何じゃったか?まあ、そこの奴にもじゃ。」
「タジャマールね。」
ガチで忘れてるし。
「良いのです。私たちは堕転の身です。真の純粋種とは別物でございます。」
「そうじゃの。モドキはモドキらしくしておる方がよいの。」
何か厳しくね?差別性は感じないが、区別を感じる。
「タジャマール。気にしなくて良いよ。俺の仲間なら俺は大切にしたいからさ。」
「ありがとうございます。そのお言葉だけで全てが救われます。」
そんな大袈裟な。泣いてるし。
「ふぅ・・・優しいの・・・・・そこが良い所じゃ。」
はて?オーディンが何か呟いていたが、聞こえない。
「そういう訳じゃ。召喚された時はアレイスター様の想像を用いて、我らは現界する。
つまり、この肌もアレイスター様がワシらはこうであるべき。と想像されたからこれで現界したのじゃ。」
「何という欲望に塗れた想像だったんだ。」
普通に人からドン引きされるような性癖だぞ。
だが、私は一向に構わん!キリッ!
「その表情から後悔は愚か、むしろ満足いくようで良かったぞい。ワシらも想像借りたとは言え、アレイスター様の満足いく姿形なのか不安じゃったからの。」
「そんな事はない。とんでもないくらい期待以上の姿だ。
それに色々と俺の好みを把握しているし、それを躊躇いなく実行する辺りは感動している。」
「そ、そこまで言われると、少々照れるの。
まあ、客観的にはどうかと思うが、好きな異性のタイプに合わせる方が良いからの。」
オーディンさんが照れている。お姉さんの照れは白飯10杯はイケる。あれ?なんか客観的にとか・・・
「中には過激派な奴もおるがの。」
「まあ・・・・・そうだね。」
「でも好きなんじゃろ?」
「that's light!」
脊髄反射で答えた。
「・・・・・・・そこまで素直なのか。ワシももう少しだけ増やすかの・・・・」
オーディンはまたしてもブツブツと呟く。
「そんなアレイスター様だからこそ、我らもデザイアの一部として召喚されたのじゃろうな。」
「そのデザイアの一部ってのは?」
「アレイスター様が最初にガチャで引き当てたのがその姿をした者であったこと。
後はたまたまアレイスター様が好みだったから。じゃろうな。召喚士の原理は詳しくは知らんが、状況からそんな所じゃろうな。」
俺も欲望に忠実だった。という事か。それも当然か。無駄な人生に終止符を打って、新たな世界の始まりを奏でたんだ。
自分が解放されて当然と言えば当然か。
「この世界に来て良かったな。ただ世界中が敵まみれだけど。」
「それはアレイスター様の選んだ道じゃからの。
しかしの。ワシらもアレイスター様に召喚されて良かったぞい。
アレイスター様を愛せて。更には退屈な日々から解放された。他の奴らも口には出さんが、嬉しいのじゃろうな。」
態度に出したら口に出すのと同じでは?
「召喚したから愛せ。的なやつか?」
「違うの。ワシらは誰にでも愛を与える。これでも神だしの。
じゃが、アレイスター様は別じゃ。ワシらを呼び寄せられる。そして、ワシらを束ねる力を手にしている。たまたまではない。なるべくしてなったのだ。」
うん?
「今何かとんでもないことを。」
「そんなのは些細な事じゃ。
ポイントなのは、アレイスター様は神に愛されるべくして愛されておるのじゃ。」
何か割愛された。
しかし、オーディンの甘い囁きに心を既に奪われている。
そんなことがどうでもよくなってくる。
オーディンは俺の頬を摩る。優しく優しく。
「ワシらの全てを捧げよう。
代わりにアレイスター様はワシらに愛を捧げてほしい。
そのためなら、ワシらは全部を奪い壊そう。そして、ワシらは1つになる。」
「大胆だな。」
「当たり前じゃ。ライバルが多いからの。フレイヤなんぞいつでも狙っておるぞ。」
「それは知ってる。長い付き合いだから。」
「嫉妬するの。まあ、これからはワシの方が共にする時間が長いがの。ワッハハハハ!」
随分のご機嫌が良くなったのか、高笑いをする。女姿ではあるが、中身はしっかりと神様だ。
「それで?次に何を理解すれば良い?」
「お?良い心意気じゃ。
そうじゃの。先ずは世界の種類からかの。」
「世界の種類・・・・」
「アレイスター様の立っている世界は1つじゃぞ。じゃがの、ワシらの世界は別々にある。
この世界は他の世界から誰かを引っ張り、戦争をさせておるそうじゃ。」
「酷い話だ。」
「まあでもの大抵は意識とか魂とかで決まるがの。そう簡単にぱっぱらと別世界から引っ張ってはこれんのだ。」
「結構な数で異界人とか多い気がするが。」
「そうでもないぞ。異界人は国を作る事を強いられる。
つまり、国を作らない異界人はおらん。仕組みは解らん。けど、国があるという事は。」
しょうもない話、それだけ欲望がデカく増長しやすいと。なら。
「そこに異界人がいる。」
「正解じゃ。」
これは向かう先にも同族がいるという事を示しているようである。
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