56 地獄

「はあ・・・どんどん収監してくるな!」


「仕方ないよ。」


 オリガ、ウルガは今日もハーデスのサポートをしていた。

 そんなハーデスは正に地獄の神として、管理職という地獄真っ只中にいた。


「ザビーナとか言う女盗賊を中心にまたしても数十人の収監か・・何人か使えないから外へ収監予定だが、『桜花楼獄』へまたしても来てしまうとはね。

 LRは今の所1人だけだし、まだ猶予はある。」


「どーせ、トールが大暴れして更に連れてくるに決まってる。」


「やめないかウルガ。事実のようで聞きたくない。」


「でもでも、ロキとウトガルザは今国で遊んでいるんでしょ?アーレスたちも攻めるとか。」


「ああ!我ら『エデン』色へ染まるのはいい事だ!

 だが、更にここでの仕事が増えてしまうよ!私の『タルタロス』を開いた方が早い筈だ!」


 過労による錯乱状態はいつものこと。


「知らないけど、多分全員死ぬよ〜。」


「む。それもそうだな。」


「ハーデス〜。」


 オリガが呼びかける。


「うん?何かね?」


「今日の報告するよ〜。」


「ええ・・・いいですよ。」


 あまり聞きたくなさそうである。


「それじゃあ、今日は新たな囚人たちにはまず、洗礼を受けてもらってる〜。ザビーナとかいう名のある奴らは今も遊んでるよ〜。」


「遊ぶというより、壊すだな。

 まあ、弱体化しているから既にぐちょりと壊れてるだろうが。」


「それでね〜、外はね、収穫が順調に行われているよ〜。ガイアも張り切ってるからね〜。」


「そこはいつも通りか。」


 現状人手不足はあり、ガイアのように順調性が何よりも安心とされている。

 実情としては、そんなに手の混む奴が収監されていない以上は問題ないと判断している。


「あのLRは?」


「今も抵抗しているよ〜。」


「そうかい、やけに精神が硬いな。硬いのは外見だけにしてほしいが。

 まあ、引き続き改造だ。」


「了解〜。」


「・・・・ハデス。」


「私をその名で呼ぶ奴は君ぐらいだな。」


 ヘパイストスが扉奥からやって来る。


「今度は何かな?」


「外の連中がかなり増えて来たようだ。こちらも看守や見張を増員させではみたけど、慣れないせいで生産スピードに些か問題がある。」


 鍛治のこととなると、饒舌になるヘパイストスである。


「まあ、アレは元々生産が得意だった奴ばかりでもないからね。それに収容されたから働く。というのはなかなかやる気が出ない。

 だから、やる気が出る方法を他に模索する必要がありますね。」


 ハーデスは、はあ・・・とより一層深いため息を吐く。


「大変そうだな。」


「当たり前だよ。ここにいるメンバーは少なからずだが、全員が優秀だよ。ここまでやれてるのが何よりもの証拠だよ。

 アレイスター様が居るからこそ、今は奮起している。しかし、本音はもう少し人手が欲しい所だ。堕とした所で重要な戦場へ引っ張られる。」


「ま、アレイスター様ならそれに気付いておられる。」


 何故かヘパイストスはドヤ顔である。


「ヘパイストスの言う通りさ。

 だからこそ、今は召喚石探しを単独で行っている。後はアテネたちの手腕を試されているのだろう。無論私も例外では無いが。」


「アレイスター様凄いの〜。」


「凄い凄い!」


 2匹の番犬は元気そうにワイワイと騒ぐ。


「子供は黙ってなさい。

 今はどれだけここを上手く耐え凌げるのか。」


 人手不足の問題はどの世界でも起こり得る。

 アレイスターは元より、拡大する国の情勢にいずれやって来る事を察知はしていた。

 無論、それはアテネたちも解っていた。

 しかし、下手に質の低い者に管理を任せる場合、要らぬ事件・事故を起こしてしまう。


「けど、どれも直接解決する方法は無い。時間が解決するか、アテネが先か。」


「『桜花楼獄』は私らにとっての地獄みたいだな。」


「やめてくれないか?間違ってはない気がする。」


 一通り話し終えたハーデスは今日も業務をしに本腰を入れていく。


「さて、今日も視察に出なければ。」


「動く動くぞ!」


 ウルガ常に元気が取り柄であり、こんな状況下でも常に喜んでいる。


「オリガはここで業務を。」


「了解〜。」


 逆にオリガの場合、テンションの上げ下げが非常に激しい。


 2人は自室を後にする。


「各地を見回ると言ってもねぇ。」


「皆んな楽しそうな事以外は特に無いな。」


「加虐思考がここまで強いのもだが、意外とそれがこの楼獄の源になっているのが何とも言えない。外よりは活発的だ。」


「むしろ、外の奴らは希望も何も無いからな。

 捕虜に反逆心も煽るって話だが、あそこまで目が死んでたら無理じゃね?」


 2人は中より外の様子を窓から眺めていた。


「上から見下ろしても解る。」


「やっぱ全員やる気ねえし、殺した方が早いんじゃね?」


「貴重な資源を簡単に殺すのは愚か者の行いだ。そう人間は簡単には育たない。」


「人間だからダメじゃね?」


「・・・・・・ふむ。確かに。その考えはなかった。これは・・・・・そうか。デザイアによる意識が少々強かったと。」


「何1人でぶつくさ言ってんだ?」


「ああ・・・・・つまりだ、動力源は何も人でなくとも良いという事だ。魔法によるゴーレム、魔物でも良い。人に偏る思考はデザイアによる復讐思考だ。

 我らはアレイスター様から召喚されたが、基盤となるのがデザイアという訳だ。」


「??難しいことはよく解らん。」


「まあ、何だ。突破口が見出せそうだ。

 今思えば、フレイヤがオーク共を従えているな。アイツらをただの調教道具として使うのも1つだが、もう少し頭を使えば解ることだった。」


「人間の代わりにもなる。ってことか。」


「そうだよ。ただどう従えるか。だね。

 フレイヤの場合、恐らくは自身の魅了を使ったな。普段あまり使いたがらない筈ではあるが・・・・・癪だが、コツを聞くか。」








































「と言う訳だ。」


「いや何が?」


 思ったら即行動のハーデスは視察を区切り、フレイヤの部屋へと訪問していた。


「前の解説を聞いてないのか?」


「聞いてはいたけど、だから?」


「だからだよ。教えてくれないかな?

 私は地獄のモノたちであれば制御できるが、ここは幻界ですらない。現実だ。」


 フレイヤは一拍挟むように、テーブルに置かれていた紅茶をクイッと飲む。


「・・・・・いいけど、ここら辺はほとんど居ないよ。どこから引っ張って来るつもりなんだい?」


「・・・・・そうか。外へ出ないもんだから失念していた。何てこった・・・・・・」


 意外と落ち込むハーデスである。


「何てこった。じゃないよ・・・・・ダンジョンでも行ってくれば?」


「ダンジョンだと?あそこから魔物を引っ張り出すなど。」


「それか、死の地『モルサデス』へ行ったら?」


「あそこは未開の地・・・・・・・私をアゴで使うか?」


 エデンより遥か北東にある霧深き暗闇のゲートが存在していた。入った者が帰ってくる事のないそのダンジョンは未開の地とされており、未だ攻略した者は誰1人としていない。


「私は行けと言われれば行くよ。アレイスター様が命じるなら。例えこの命が砕けてもね。」


「ただ、これは命令ではない。」


「そうだね。どうする?諦める?」


「・・・・・・・ふむ。地獄の神として行かなければならなそうだ。」


「どちらにせよ、君1人では厳しいだろ。他に誰かを連れて行くといい。その間は退屈だから、私が楼獄の看守長代理を務めるよ。」


 実力における心配はしていないが、他の要素でやや不安を感じていた。


「そこまでする理由は?」


「元より今ここでやる事やらないとアレイスター様が失望しちゃうからさ。

 他人を蹴落としたり、競ったりする余裕なんて今あるの?」


「全くもってその通りだ。今は特に雑事へかまけている余裕などない・・・・ならば、その言葉に甘えるとしょう。」


「一応、アテネには報告しておきなよ。人員も手配してくれるだろうし。」


「そうするよ。」


 ハーデスはそのままフレイヤの部屋を出る。


「やる事がない・・・・か。

 アレイスター様は何を考えているのかな?何にせよ、私はアレイスター様のために動くだけだが。」


















































 アレイスター


「はっ!はむしょぺ!」


「アレイスター様、お身体がお冷えに。」


 そう言いつつタジャマール氏が抱き付く。

 そんな物理的温かさより、毛布とか掛けさせないの?嬉しいけどさ。


「どれ?ワシも。」


 君に関しては魔法で何とかできないの?


 おしくらまんじゅうというより、2方向から大きな者に挟まれております。3人とも今は魔法で見た目は普通の旅人である。見た目だけは。


「つか、やってる事が変わらないから効果あるのかすら分からん。」


「幸いこの馬車の御者以外は乗組員がおらぬしの。」


「しかし、本来の姿で居られないのは不服です。」


「しょうがないじゃろ。

 アレイスター様が世界を納めさえすれば、この状況は一変するじゃろ。ワシもアレイスター様の伴侶として頑張らねば。」


「いつから伴侶なんですか・・・・」


 部下だから上司の戯言に反応しづらいのだろう。解る解る。

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