55 命のゲーム 2

「攻略はしているが、兵糧を落とせないか。」


 ロキは地図上の要所要所にバッテンを付けている。


「難しいのだろな。私が主らと合流しようとも、ウトガルザめが先に手を打っている。」


 テュール、ラプラスが合流した。


「私の計算すら欺くとはね。彼女は相当な詐欺師だ。」


「嘘をつく事なら私より達人だ。

 あまりもたついてもアレイスター様に会えなくなる。急がないとな。」


「それは私としても困るぞ。

 だが、これは戦争ではない。ただのゲームだ。」


 テュールは戦いの軍師であった。

 だからこそ、この戦いがただの茶番である事を理解している。


「ゲームは計算上で成り立つからね。

 テュール君の出番は力比べ以外は無いと思うよ。」


「そうだね。元より援軍もあくまで保険だ。テュールは何なら大人しく見てれば良いよ。

 別に全員殺す必要もないし。」


「うむ。そう言われるとそうしたくもなる。

 が、与えられた役割はこなすとしようか。」


 テュールは重い腰を上げて大きな大剣を肩まで担ぎ上げる。


「行くのかい?」


「当たり前だ。お前こそ仕事をしろ。」


「失敬な。つい最近大仕事をしたばかりだよ。それこそアレイスター様としっかりと愛し合えるほどにね。」


「・・・・・勘に障る悪魔だな。」


「おや?これは失敬失敬。」


 見えない火花が散っていく。


「もういいから行ってくれ。テュール。」


 テュールはラプラスを睨むも、やがて視線を逸らし出ていく。


「はあ・・・・面倒な・・・・ラプラス、挑発するだけなら居て欲しくないんだけど?」


「まさか。こうやって鼓舞すれば成果を上げるだろ?」


「鼓舞・・・か。」


 ロキは何を言ってんだかという呆れ交じりに話を切り替えていく。


「それよりもだ。」


「解ってるよ。早めにチェックを打つよ。アレイスター様のために選出もしないとね。」


 一方同じ共和国にいるウトガルザ


「えーーーもう耐えらんないの?

 まあ、しょうがないですね。あれが相手じゃあ無理でしょうな。」


 ケラケラと笑いながらもどこか楽しそうにしている。


「では、予め用意した。」


「そうですね。あれを爆破させましょう。」


「味方がまだいるでは無いか!」


 傍観のつもりで近くで待機していた楊貴妃は思わず椅子から立ち上がる。


「楊貴妃様。お考え下さい。国家を守るのか、ここの主を守るのか、国という殻を守るのか?」


 妲己はいやらしい問い掛けをする。楊貴妃はそんな妲己を鋭く睨みつける。


「妲己・・・・お前のような奴が援軍とは。」


「まあ怖い怖い。今回はあくまでも援軍ですよ?それに私もこちらへ付くからには勝っていただかないと困りますもの。」


 妲己の演技くさい動きに楊貴妃は更に苛立ちを見せる。


「やめないか?妲己。」


「ウトガルザさん、お優しいですね。」


「そうだよ。私は優しいからね。」


「ぐっ・・・・・」


 キサラとクロアはこの胡散臭い2人に挟まれ、息苦しさを感じる。

 ここまで息ぴったりなのも遺憾とし難いものであった。


「元よりこの作戦は勝つ事が目的では無い。釣り餌を用意しただけだからね。」


「だからあんなに火薬を?」


「そうそう。どうせ火薬兵器を作る暇もないし、どうせなら火薬その物を使った方が早いだろ?」


「それなりに引き寄せる必要もあったが。よくやったぞウトガルザよ!」


 宰相は完全にウトガルザの味方をしている。


「楊貴妃様、如何致しましょうか?」


 ニヤニヤと楊貴妃を挑発するように宰相までもが問い掛ける。


「外道が・・・・・・・本当にそれで勝てるのか?この内乱を本当に終わらせられるのか?」


 外道であろうとも自分には策を考えられるほど起点は効かない。


「もちろんです。私もこんな馬鹿げた戦いを早く終わらせたい。」


「詐欺師のような風貌をしている割に真実を言うのだな。」


 楊貴妃は初めてウトガルザが本心で語った瞬間を逃さなかった。


 ウトガルザ本人はただ単純にアレイスター元へ会いに行きたいだけであった。この戦果を持ってご褒美をいただく事しか頭になかった。

 そのために早く終わらせたいのは本音でもあった。


「・・・・・貴女に任せます。」


 楊貴妃はその場を立ち去る。側にいた護衛も楊貴妃の元へと付いて行く。


「ふう・・・お堅いね。」


「全く・・・・・早くアイツをめちゃくちゃにしてやりたいっ。早くあの表情を屈辱で歪めて、性格が雌豚に変わる有り様を眺めたいわ。」


 妲己の酷く邪悪な笑みであれこれと妄想をし始めた。


「妲己は気が早いね。」


「当たり前です。アイツを誰でも食う尻軽女にしてやります。絶対に!」


 妲己の目には何故か怒りが宿る。


「妲己は壊すのが上手いからね。アレイスター様も凄くお喜びになっていたよ。」


「まっ、まあ!それはとても喜ばしいこと!

 アレイスター様のお役に立ち、そしてこの身体もめちゃくちゃに!」


「ウトガルザ様・・わ、私は」


 宰相は恐る恐るウトガルザへと聞く。


「うん?ああ、大丈夫大丈夫。

 次世代の王様はここでゆっくりと構えてくれたまえ。」


「か、かしこまりました!・・・・ぐ、グフフフ!後少し!後少し!」


 宰相の欲望にウトガルザは興味なさそうに視線から外す。


「はあ・・・・何とも。」


「・・・・・・・・」


「なんじゃ?キサラは簒奪せんのか?」


 偉く大人しく静かなキサラにクロアはやや疑問を持った。


「ここに盗りたい物がありません。」


「なるほど。では、そんな君には朗報だ。」


「はい。」


 大人しくキサラはウトガルザへ跪く。


「この辺は盗賊やら山賊がうろちょろしている。」


「かしこまりました。まだそちらの方が奪い甲斐があります。」


 先は聞かずとも退屈していたのであろうか、二つ返事で請け負った。


「そうだろそうだろ!

 まあ、サイクロプスとオーガ、トロールを引き連れればいいかな?」


「十分です。」


「あら?そっちの方が楽しそうだことで。」


「妲己はあの女が目当てじゃろ。」


「まあそうね。」


「では、いってらっしゃい。」


 クロアの蛇たちもいってらっしゃいと首を揺らす。

 そんなキサラはサッとその場を音もなく消えて行った。


 去ったキサラは夜道を超えて森を駆け回る。


 ようやく退屈な仕事から解放され、私らしい任務を与えられた。

 まあ、正確にはここら辺のクズ共をまとめ上げて使えるようにしろ。だな。

 アレイスター様への手土産も作れるから良いが。できるだけ、上質な女が居ればいいが・・


 黙々と森や草木をかぎ分け、素早く移動する。


「見つけた。」


 1つ目のアジトを山岳付近で発見する。


「来い。」


 魔物が呼び起こされる。サイクロプス、オーガ、トロールである。


「行け。撹乱している間に吟味する。犯す暇はあまりない。次々と任務をこなさいといけない。なに、帰ったら沢山ご褒美があるだろう。今は食うだけにしろ。」


 3種の魔物たちは静かに頷く。そして、魔物たちはすぐさま山岳へ降り立つ。


「よし、このまま交戦開始だな。うん?」


 1人見覚えのある山賊を発見した。

 キサラは魔物たちが戦っている方向とは別の森へ降りたったのであった。


「何者だっ!アジトを襲った・・の、も」


「久しぶりだな。ザビーナ。」


「あ、アンタ、キアラかい!?その姿!」


「うん?ああ、美しいだろ。」


 指で自身の首辺りから腰をなぞる。


「まさか・・・・異端者に寝返ったのかい!?その忌々しい姿に!」


「・・・・・今、アレイスター様を馬鹿にしたな?」


 一瞬にしてキサラから感情が消えた。


「は?アレイスター様?アンタのマスターは」


「死んだ。」


「は?」


「殺したよ。心も何もかも壊れてたし。」


「な、何で?」


「アレイスター様を愛しているから。」


「何言ってんだい!アンタ!」


 ザビーナは2丁拳銃をキサラへ向けて発泡する。


「そう。解らないか。」


 その弾をいとも簡単に握り掴み取った。


「は!?」


「アレイスター様の作りしこの身体を馬鹿にした者の全てを奪う。」


「き、キサラ・・・・・」


「私は今とても満たされている。アレイスター様のために全てを奪う。

 そして、アレイスター様へ全てを献上する。この身さえも。」


 ザビーナは背筋に悪寒が走る。自身へ死の恐怖が迫っていると。


 キサラは未だにそこから動かない。


「ちっ!」


 逃げようとしたが、ザビーナの視界は一気に暗くなった。キサラによる手刀が首を捉え、気絶させられていた。


「LRになったからか、以前より大分力が増している。SSR程度では相手にもならない。」


 倒れているザビーナを冷たい瞳で見つめる。


「ザビーナは使えるのか?まあ、スタイルは悪くない。献上品としては合格かな?

 その前にアイツらにタップリと食わせてからだな。身体の隅々まで悪意を侵蝕してから私の手で。」


 ここでキサラは高らかに笑い出すのであった。真夜中に笑うその姿は悪魔のように映る。

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