52 アレイスター冒険記 3
おはようございまーーーーす!心で叫び散らかすアレイスター(仮)です!
「うーーーん、知らない天井からの知らない風景での挨拶だ。何とも旅行気分が抜けない。」
こんな時の自分はとてもワクワクしている。これからどんな未知な情報や料理、道具などに出会えるのであろうか。
「楽しみ。おっと、先に朝飯を取りに行かんと。」
玄関から出たドア近くには小さな机が置かれている。この宿ではお婆さんがその机の上に食事を置いてくれる。
しかし、宿泊者が宿内に居なかった場合は無いらしい。
「ホカホカのスープにボソボソのパン。割と相性がいいのよね。」
そしてこの洗い立ての野菜も美味なり。
普段は割と質の高い物を食べてはいたが、これはこれで昔を思い出す味よ。
「たまにはこういうのも悪くない。スープに具材がないのはしょうがないが。」
ふーむしかしだ。どうしてこの宿はこんなにも安いのだ?おまけにやけに静かです。
「ま、そんなのは実地調査をすれば解る事だな。」
気にしない精神の俺は食後、外着に改めて着替えて出て行く。
「お?明るいからか、朝から街は活発的だな。」
馬車を引く音、街の賑わう声、泉にある水音が心地よく耳へ響く。
「ウチにはこういったの無いから勉強になる。」
暫くウロウロと道に沿って歩いてみる事に。
野菜や果物の露店以外に武器、アクセサリー、防具、アイテムよ露店もあった。しっかりとした建物で商売している地域も確認できた。
「しかし、市場や露店が見物って感じか?人が1番集まってるしな。」
何か冒険者っぽい人や騎士っぽい人もいる。少なからず、ここは発達している国のようだ。
人口密度もそこそこありそうな感じ。
「ようやく、ファンタジーらしくなってきたか。」
国に立て籠ってただ殺戮の限りを見守るのも退屈になったし。あれ?殺戮の限りを見守るのが退屈って・・・・
「心が荒んできている証拠だ。」
とにかく、今日という日を楽しんでその心を浄化しようか。
「おや?ここは・・・・・・」
情報収集しようと色々と探ってはいたが、人に話しかける勇気もあまりない。
だがしかし、目に止まった建物があった。
「冒険者ギルド?・・・・・確か、アテネから聞いた気がするぞ。」
なんだっけ?
「あれ?貴方、見ない顔ね。」
「へ?」
俺自身いきなり知らない女の人に話し掛けられる状況にまず戸惑う。
「あ、いや、あのー・・・・はい。」
あれぇー。普段結構話してるけどな。この世界は女の人からしっかり話し掛けられるのか。
ある意味世界の違いの一端を見せつけられたようだ。
女性から話し掛けられるケースなんて無いに等しい。そんな俺が初めてのことに対処できる筈もない。
「何?緊張してるの?ああ・・・・もしかして、登録しにきたの?」
「え?ま、まあ、その。」
「そうならそう言ってよ!もう!」
そして初の知らない女性に腕を掴まれてそのままギルド内へと突撃する羽目に。
「うぉーーーー!」
「わーー!ハッハッハッハッハッハ!!」
さまざまな熱狂的な声が鳴り響く。
昼間から酒を飲み暴れる者、依頼の話に花を咲かせている者と色々といた。
「ささっ!こっちよ!」
「おう!エルガ!!何だお前?そんな男が好みだったのかよ!」
「はあ!?違うし!私はね、この子が困っていたから案内してやってるだけだよ!」
「へっ!そうかよ!つまんねえの!」
「よお坊主、地獄の入り口へようこそ。」
すると、エルガと呼ばれた女性が声を掛けた男性へ拳骨を入れる。
「バカかいアンタ!いきなり怖がらせてどうすんのよ。
ただでさえ冒険者は人手不足なんだからさ。」
「へへ、悪い意味じゃねえよ。」
知らない人だが、気を遣ってくれたらしい。感動的だな。だが、無意味だ。
そもそも冒険者ギルドに登録するつもりなんてサラサラない。ただ情報集めに打って付けかな?と思っただけ。
「さあ、こっち!」
「ちょっ!」
またしても勢いに負ける。とうとう受付まで引っ張られる始末に。
あ、受付の姉さんかわいい。
「エルガさん!今日もご依頼で?」
「今日は予定してないかな?どちらかというと、この子を案内しにね。」
「ど、どうも。」
「もしかして、希望者ですか?
では早速、手始めにこちらの記載をお願いします。」
流れるように手続きが始まってしまった。・・・・・・どれどれ。
名前、職業、魔法、特技、出身
うーん。あかんやつが3項目ほどある。
「うん?どうしたの?」
「あ、いえね。
んん!これ全部書かないといけないの?」
「へ?ま、まあ、そうですね。出自関して後ろめたい方は多々おりますが、身分証にもなるので。」
なる。要は偽造を未然に防ぐのね。
しかも、その言い方だと嘘はバレる仕組みになっていると想定した方がいいな。
が、しかしだ。正直に書くとどうなるのか?
それは非常簡単である。ここで盛大にパーティ級の大騒ぎになりますンゴ。
「ふーむ。名前は・・・・・・あ、そうか。」
アレイスター(仮)だ。それに出自も問題ないのでは?とすると問題は残り1つか。
俺は早速本名を書くことにした。ついでに職業は・・・・・・・・
「これでどうかな?」
「はい。今確認します。」
受付嬢が何かの虫眼鏡で確認をする。
「うん?こ、これ・・・・・・本当なのとそうじゃないのが。」
ですよね〜・・名前と出自が本物なのは間違いない。
「本当ですか?どこが」
「いえ、特技と魔法はいいとして、名前、出自が不明であるのと、職業が嘘であると。」
凄く優れ物じゃないか。
「うーん?名前と出自は事実なんですけど。そうかー。」
「ええーー!なぁーにやってんのよ!」
「もしかして」
やばい。どちよ。エルガさんに受付嬢さんの目が・・・・・
すると、突如ギルド内に大量の煙が舞う。
「「「!!!」」」
「一体っ!うおっち!」
俺は誰かに抱えられて運び込まれる。
一瞬で一階の窓から飛び出し、壁を蹴って屋上へと登って行く。そして、そのまま屋上を渡り疾走する。
俺は担ぎ込まれているため後ろ側しか見えない。
だが、俺を抱えて逃走している人物は凄く軽快で俊敏に動いている。
もしかして敵が俺を!
「申し訳ありません、アレイスター様。今暫く大人しく願います。」
おや?どうやらその名前を知っているという事は。
「どなたかな?」
「私はレッドウォルフ隊のタジャマールと申します。以降の説明は一度お隠れになってからで。」
そうだな。この騒動から雲隠れせんとね。
そこから何とか逃げ切り、例の宿部屋に篭ることになった。
何故かお婆さんは特に我関せずで通してくれた。
「さてと。」
「先ほどは大変申し訳ありません。非礼はこの命を持って。」
「いや、やらなくていいから。」
ただでさえ貴重な戦力を減らしたくない。この勢いで死のうとするの流行ってんの?
「説明をよろしくする前にだ。どちらかというと聞きたいことの方が山ほどある。」
「かしこまりました。
まず初めに、この国は冒険者の園と言われている『フィルディン』。国として機能していますが、どちらかというと冒険者たちによる運営がなされています。
王は不在ですが、何人かの成り上がり貴族たちが国の運営をしております。」
赤肌の女性は知りたいことを素直に話し出した。
つまり、冒険者から貴族になった奴らで構築していると、てことは管理している本国は
「評議国でございます。」
ビンゴか。
「相当強いな。色んな所で名が通るか・・・世界の中でも有数の実力を誇る国家だし。」
以前も奴等のせいで他国から襲撃された原因とでもある。
「左様でございます。
しかし、後ろ盾があるとはいえどそこは冒険者国家です。あくまで自分たちで荒事を解決します。」
「へぇー、じゃあ次だけど。」
「はい。冒険者は真実のみを書き記します。」
「道理でね。ただ気になるのは」
「恐らく、アレイスター様自身が特質がゆえに真実を照らし損ねたのかと。
しかし、嘘を発見するのも真実です。
そのためあの時、アレイスター様が嘘を記録していただいたお陰で、現在はこの程度の騒ぎで済みました。」
あ、余計な事を最小限で抑えたって事ね。・・・・・・・すいませんでした。
「お、落ち込まずとも・・・・ただいずれにせよ、時間の問題でした。
名前や出自を隠せても、アレイスター様の崇高さはバレてしまいます。」
「崇高さ?・・・・・・・ああ、職業か。」
解りづらいです。
「召喚士は伝説です。隠す事はできません。
ですので、あそこであの程度の騒ぎで済んだのは最善でした。出自、名前がバレてしまうと更に厄介かと。」
「ほほーん。納得だ。ただしかし、この宿は?」
気になるのはあの騒ぎの中、この宿はいつも通りに受け入れをしている。時間は有するが追ってもいずれ、ここへ辿り着く筈だ。
更にはあのお婆さんの対応も気になる。
何かも上手く出来過ぎている。
思えば最初に宿を発見してからだ。
ここは冒険者の街だ。辿り着いたのも夜と来た。たまたま目に付いた宿にしてはね。
「流石です。お気付きになられるとは。
この宿の主はあの老人でお間違いありません。
ですが、老人であり老人であらず。」
???ますます意味が分からん。ただ分かる事は旅は初めから始まってなどいなかったという事だ。
アレイスターの冒険は早くも幕を下ろそうとしていた。
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