51 命のゲーム
「ウッフフフフ・・・ロキめが。いつもの如く攻めの一手か。」
「え?えーと、ウトガルザ様?」
「気にしないで結構です。」
いきなり笑ったウトガルザに何やら疑問を抱いた護衛兵であった。
「ウトガルザよ!次はどのようにすれば!?」
ウトガルザは今現在、共和国正規軍の指揮を取っている。正確には宰相に雇われの元で仕事をしている。
そんな宰相から焦りの一言を貰っていた。
「落ち着いて下さいな。向こうはあくまでも焦って攻めている。
はい!そこの君!それは何で?」
ウトガルザは気まぐれで近くにいた護衛兵へ問題を提示する。
「はっ!はい!え、えーと・・・こちらの方が人数上有利である以上、向こうは機を待つより、崩れ易そうな拠点を突くように攻めるしか方々しかないから?」
「そそ、正解でもあり、まあ足りない。」
「は、はあ・・・?」
「なになに、落ち込む事もない。優勢か劣勢かで言うならこちらが優勢だ。」
「そ、そうなのか・・・ほっ。」
宰相はここ最近のレジスタンスの勢いに不安を覚え、冷や汗を流す一方であった。
「まあ、こういう戦いはね劣勢の方が有利なんだけど。」
「「「???」」」
ウトガルザの発言にこの場にいる者たちはイマイチ理解が追いつかない。
「もう少し解りやすく教えていただいても?」
今度は別の入り口から声が掛かる。
「楊貴妃様・・・・・・いらしてたので?」
「何でしょう?居て欲しくなさそうですが。」
楊貴妃、共和国の正規軍の指揮を取っていた中国の女傑である。武の才は無いとされているが、音楽や踊りの才に秀でている。
非常に美しい女帝であった。
「またしても内乱で失ってはいけない。
マサト様のご意志を組むのです。この戦いを終わらせ、共和国を新たに平和な国へ。」
「その通りです。この共和国をあるべき姿に。
このウトガルザ、全力を持って尽くしましょう。」
何とも演技くさい対応だが、今はこのウトガルザに頼らねば道がない。
「ソナタを信用はしない。
けど、雇われた以上はそれそうの働きをしなさい。」
「かしこまりました。
では、先ほどの説明の続きですが。劣勢の方が優勢なのは簡単です。
まず劣勢側には謎の外部から支援が入りやすい。ま、無くとも向こうには優秀な人材が付いている。質は向こうが圧倒手に有利だね。」
「質は我ら正規軍も」
「負けてないのは集団性であって、個々の力やリーダーシップとしての経験差は向こうが上ですからね。人数が多い方が有利だけど、向こうもそれを解っている。
それに強い個体、強い指揮官もいる。とすれば、劣勢の方が勢いはあるという事です。」
「それはただの仮説では?」
「いや、仮説を可能とする方法がある。」
「い、一体それは何だと」
「簡単です。勝利です。」
ロキ、ウトガルザが来る前、レジスタンスと正規軍の戦いは既に始まっていた。
その時は正規軍が苦戦し、レジスタンスに押されていた。
正規軍が少しずつ勝利を納めるようになったのはウトガルザが来てからだ。
それに対して、敢えて遅れたロキがレジスタンス側へと着いて再び勝利をもたらした。
そこからの勝率は五分五分となった。
それまでは、レジスタンスが有利に進めており、今では共和国内に複数のアジトが設立されていた。
だが、その所在をしらみ潰しにウトガルザも動いていた。
「勝利といえど、反乱如きにそんな」
「されど勝利だ。だからこそ勢い付いた。
それに指揮官が着いてしまった。より勝ったり負けたりと、命を散らしながらの戦いになってしまいますね。」
ウトガルザはどこか不気味そうに笑う。本人は楽しそうに先を見ている。
そんな楊貴妃はウトガルザをより一層警戒する。
「さてさて。どう動きますね。
攻めの一手で私が落としたいのは・・・・まあ、備蓄倉庫かな。食料が減れば持久戦だし、こちらは平民を抱えている。
向こうもスラムや奴隷といった身分低き者たちを抱えているときました。
なら、お互いに長期戦は望まない筈だ。」
「な、なに・・・・やはり。」
「いくつかに戦力を散らして揺さぶりには来るだろうね。本命の備蓄庫一点に絞ってね。」
「それはいかんぞ!!楊貴妃様!早く皆に知らせねば!」
「お、おい!」
楊貴妃は宰相に勢い任せに背中を押されてウトガルザの前から後にしていく。
「ウッフフ。」
「ウトガルザ様?」
またしても不気味な笑みに反応した護衛兵であった。
「うん?ああ、君も行くといいよ。
今ここで無駄に時間を潰すくらいなら情報の1つでも収集してきなさい。
戦いは既に始まっているのだから。」
「かっ!かしこまりました!!」
護衛兵は急いでその後を追うように立ち去った。
「良いよ。人払いに幻影障壁を敷いたから。」
柱の影からロキが姿を現す。
「来ると思ったよ。」
「でしょうね。」
ロキは王のピースを大事そうに胸に挟んでいる。
「なんだかその行為はイラつくね。」
「おや?詐欺師が本音を言ってはダメでは?」
「ウッフフ・・・・・本音も嘘に必要なスパイスだ。
だが、アレイスター様には嘘を一切つかない。だからこそ言わせてもらう。今すぐにその行為を止めろ。殺したくなる。」
演技者であるウトガルザがいつもより苛々しげに声を荒げた。
「はいはい。そうカッカしないでほしいな。」
ロキはしょうがないと言わんばかりに王のピースを取り出す。
「挑発にしては上手かった。
だが、そこまでして何になるのかね?」
「何って、ゲームだよ。ゲーム。」
「命を使った擦り減らしゲームか。何とも味気のないゲームだことで。」
ウトガルザからしたら、死なないようにいかし続けさせた方が需要性が高いと踏んでいる。
殺して失くすより、最後まで死にたくなるまでこき使いまくる。
その苦しむ様を眺めるのが、ウトガルザにとっては最高の美酒となるのであった。
「命は一瞬だ。そんな一瞬をちゃんと使ってあげないとね。下手な散らし方は失礼に当たるからさ。」
「私であれば、その命が尽きるまで有効活用するがね。命ある限り、利益を産み出す木だよ。
だからこそ、解せないねえ。」
ロキとウトガルザは属性や性格がほぼ似ている。
しかし、理念が相反している。
「今回は何人か呼んだけど。」
「そうか。どれどれ?ほうほう。なら妲己、キサラ、クロアをもらっても?」
「その3人かい?いいだろう。元よりそう来ると思ってたよ。」
「話が早くて済む。そちらには武力を差し上げよう。」
「そうさせてもらうよ。
それじゃあね。共にアレイスター様へ忠義と愛を。」
「アレイスター様へ忠義と愛を。」
ロキはフッと闇に消える。
「この私が愛と忠義ね・・・・・だが不思議と悪い気がしない。
むしろ、今までよりワクワクしている。
譲れませんよ。アレイスター様と共にいるのは私だ。」
そのためには・・・・・
ロキ陣営のテュール、ラプラスはその戦いを上空から眺めていた。
「アホくさい。」
「アホくさい?とは?」
「この不毛な戦いがアホくさいと言った。」
共和国には既に幾度目かの内戦の狼煙が上がっている。
「まあ、私の計算からしても馬鹿馬鹿しいとは思うよ。アレイスター様の下へくれば解決するのに。」
「お前の計算通りに動かないから世界はこうも馬鹿馬鹿しいのだろう。
アレイスター様に全てを捧げれば救われるものを。と言っても、必要なのは我々だけで良いがな。最近どうも増え過ぎだ。」
「いいのでは?数は暴力だよ。
我らLRが優勢であり、アレイスター様直々の僕である事になんら変わりないが?」
「そんな事は知っている。召喚された我らは特別に違うとな。
無論このテュールが1番だが。」
「おや?頭バグっていませんか?」
「ほう。数字気取りのお前にそんな燃えるような目で見つめられるとはな。」
「当たり前です。いくら私でもそこは譲りませんので。」
2人の間に見えない火花が散る。
「しかし、まずは。」
ラプラスは共和国のロキがいる陣営を再び見下ろす。
「そうだな。この馬鹿げた国を壊すとするか。」
桜花楼獄にあるレッドウォルフ陣営
「思うんだよ。」
「いきなり何ですか?姉さん。」
「いやね。私たちは大人しく待機しているが、何で私たちの部下だけアレイスター様の護衛兼尾行が許されているのかな?って。」
「私たちほどの実力者をバンバン他所へ放つ訳にも行きませんからね。」
「へえ・・・・ヘルメもLRに進化したから強気になったね。」
「姉さんほどではないです。
が、アレイスター様の手足としてこの身を擦り潰せる事には感謝してます。」
「そうかいそうかい。お姉ちゃんとして鼻が高いなあ。」
わしゃわしゃとヘルメの頭を雑に撫でる。
「姉さんは何もしてないでしょうが。」
鬱陶しそうにヘルメスの手を退けた。
「アハハハ。ラプラスに持ってかれたからね。
ま、私としては、こっちの方がアレイスター様に使い潰して貰えるけどね。」
今いる自分の位置を指で示す。
「言いますね。」
「お頭。」
1人のクノイチから伝令が入る。
「お頭止めろって。」
ヘルメスからすると、変な呼び名より呼び捨てにしてもらった方が気楽であった。
「え、えーと?姐さん?」
「はぁー・・もうそれでいいよ。それで?」
「はい。マリスから連絡が入りました。」
「んで?」
「はい。アレイスター様が無事に宿を確保されたと。道中は何事もなく街へ到達されたそうです・・・・・・」
ヘルメスは部下の報告に違和感を覚える。
「何かあったのかな?」
「はい、それがですね・・アレイスター様がフレイヤ様の技を使用した事です。」
「アレイスター様がっ!?」
「へぇ〜、流石はアレイスター様だ。そんな隠し球を持っていたなんてね。
やっぱ、私の愛した人なだけある。」
「我々全員愛しておりますよ?姉さん。」
ヘルメは姉に容赦ない威嚇を放つ。
「解ってるって。
でも、本心では自分が1番だと思ってるだろ?アハハハハハ!隠さなくてもいいんじゃないかな?」
ヘルメスはそんな威嚇を何とも愉快そうに楽しんでいる。
「ま、それでもお前ら如きじゃあ、私には及ばないがな。」
そう言い放つと、ヘルメスは自身の妹に容赦なく冷たい眼差しを向ける。
「悪いが、部下だから可愛がってるが、調子に乗るようなら消すからさ。
私がアレイスター様の1番だからね。他の奴らもそうだけど、全員調子に乗って勘違いしたら殺すからさ。」
いつものヘルメスではない。
神として、そして召喚された使者としての覇気を放っていた。
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