50 アレイスター冒険記 2

「どこまでも続くが・・・・・」


 綺麗な景色も見慣れれば普通と変わらない。この果てしなく広い草原の先には、未だ村一つその姿を表さない。


「馬車とか通れば話は別だが、あの森の周りなんぞ誰も近寄らんか。」


 しかも我が国は世界の敵ですからね。余計近付く訳もなく。


「どこまでも不都合な状況下が続くな。」


 この草原と同じく、広く根深い問題だ。


「まずいな。この広い空間、木の影や人すら居ない中で夕方を迎えてしまう。」


 モンスターが夜に活発的なのは定番であり、この草原に出現しない保証もない。


 寝てる間にムシャムシャされても嫌すぎるし、どうしたもんか。


「ここは少しだけ試してみるか。」


 新たな力『借用』を。


 この力はレベルアップと同時に手に入れた技であるが、字面からすれば不吉そのもの。

 しかし、この『借用』は召喚士にとって唯一の攻撃手段となる。


『借用』召喚した者の力を一部使用する事ができる。

 ※レベルに依存する。

 ※使える時間は魔力量に限る

 ※使う際は1つずつしか使えない


『借用』のデメリットは主に2つ。

 注意事項にも書いてあるが、1つしか使えない。

 例えば、ゼウスのビリビリを使うとポセイドラの海の能力が使えない。

 他を使う場合は切り替えしないといけない。


 だが魔力の消費量が尋常じゃない上、行使できるかすら怪しい。

 つまり、使えるとしても初歩レベル。


「ま、攻撃系はほぼ限られるって事だ。

 なんて言ったてLRだからな。強い分、使う魔力量もバカにならない。」


 あ、ユンフィがいた。あの力は使い所が解らないから後で。自分の身体がバキバキになるのは想像したくない。


「という訳で相棒フレイヤさんの力を使うか。特にテレポートは強い。」


 フレイヤをインストールする感じ・・・・・


 俺は目を瞑り、先の道へ意識を集中させた。

 すると、見た事ない街が映る。


 その前へとテレポートを意識する。


「!!」


 今度はその街が現実として目の前に現れた。


 あまりの驚きに周りを見渡すが、草原地帯はなく、街と木々が立っているだけ。


「て、テレポートってこんな感じ?」


 いまいちピンとこないが、成功した。

 しかし、身体は少し重い。魔力がゴッソリ減った証であろう。


「連発はできないか。」


 しかし、目的の街はもう目の前だ。このまま早歩きで向かうとするか。


 桜花楼獄周囲には、常に食材管理や鉱石発掘などエデンにとって支えとなる生産系を捕虜や奴隷を使って行っていた。

 『堕転』できないとされる者たちは死なないように働かされている。丁寧な体調管理や病気の未然防止など、他国より管理体制が整っていた。


 それも全ては、動かなくなるまで国益を生み出させるためである。

 そんな本日管理者のフレイヤはふとアレイスターを思い出す。


「?」


「どうかしたの?」


「いや・・・・アレイスター様を感じた。」


「はい?まあ、皆んなそれは常に感じていますが・・・・」


 同席していたイザナミはフレイヤのおかしな発言に首を傾げる。

 しかし、当本人はそうではなく、何か自分の力が行使されたような感覚が伝わっていた。


「ま、それならそれで良いか。」


 彼女はアレイスターのいる方角と沈む夕陽を見詰める。

 しかし、フレイヤは別に視線を配りながらも、手を抜いている捕虜に対して喝(痛め付け)を入れていく。











































 共和国


「ロキ様。」


 現在、ロキは共和国のレジスタンスと共に作戦会議をしていた。


 小規模な場所ではあるが、地下施設に拠点を構えている。そんな卓上には共和国内の図面とチェスのピースが各所に置かれていた。


「そうだね。ここから先は先手を打ち続けないと厳しいかな?反乱勢力が増えたとは言え、こちらは質や練度と人数が圧倒的に足りない。

 であるからこそ、さまざな手法を使ってでも先手を打つ。」


 ロキはポーンの駒8個を各襲撃ポイントと思わしき場所へと並べる。


「ここを襲撃せよ。と。」


「そうだね。」


「しかし、ここは児童施設が。」


「その施設は奴隷を実験台にしている施設だよ。下手に放置するより、早めに消した方が世のため国のためだ。」


 情報収集は既に済ませていた。


「な、何と!」


「し、しかし、それは」


「本当だ。そもそもここは奴隷と飼い主の世界で構築されている。当たり前のように差別もある。そんな中で実験をしないなんて、国としてどうかしてるからね。

 いや、この国自体はどうかしてるのか?」


「そんな外道な!」


「そうだよ、外道だからこそだよ。」


「くっ!・・・・・解りました。早急に手を打ちましょう。」


 レジスタンス一同は苦々しい表情をするも、ロキの説明と現場の戦力から決心したのであった。


「よろしく。私も他に動かないといけない身でね。できることは君たちに任せよう。

 君たちの助けを、救いを待ってる者がいる。」


 ロキの一言に更に士気を上げていくレジスタンスたち。


「だが、生きている子供たちはこちらで保護するネ。それでいいネ?」


「良いと思うよ。むしろ私もそれに賛成で。」


 ロキに唯一進言したのは共和国のSSRチェンシーだ。中華の風貌にお団子ヘアーの女性である。


「俺も手伝うとしよう。」


「ありがとうネ、アインザック。」


 大男の彼もまたSSRの騎士である。


「ロキ様、気になるのですが。」


 そんなアインザックは図面の上に配置されたチェスのピースに気掛かりな点があった。


「何故王のピースは自身の側に置いておられるので?」


 ロキの手元にはキングのピースだけ綺麗に保管されていた。アインザックはてっきり王はロキだと思っていた。

 しかし、本人がどこかへ動くというのにそのピースは一度も動かない。


「それな。アインの旦那の言う通りだ。毎度そうだな。」


「気になるわね。」


「ああそうだね・・・・私はクイーンとして動く。王は常に後ろで物を見ているものだろ?それ以外に深い意味は無いよ。」


 クイーンのピースが今度は中央へ配置される。


「・・・・・・・それはロキ様が仕えている王でしょうか?確かに他国からの間者であり、我らを手助けしていただいている。

 普通は怪しいでしょうが、ここまで尽力されている。だからこそ、その信頼を裏切りたく無い。」


 今度は眼鏡をかけたサブリーダーであり、SSRのジークリンドが懸念点を投げかけた。


「そうだね。私は仕えている。正確には愛している。

 でもね、彼がこれをやってこいと命じた訳では無い。私自身がやろうとして動いている事にしか過ぎない。」


 そんなロキの一言に全員が驚く。


「それだとロキ様の身に何かあっても。」


「そうだね。関係ないから無視だね。」


 すると、全員に沈黙が走る。


「あくまで国を操りたい。とかという意思も無いので?」


はそんな考えはしないよ。彼は面倒臭がりやだからね。

 だからこそ、私が側でしっかりと支えないといけないんだよ。」


 何故か一部強調して聞こえた気がするが、スルーしていくレジスタンスたちである。


「それに、良き妻は夫にどうアピールすれば良いかを考えるだろう?今回の私はそんな所だよ。

 信頼できないならいいよ。その信頼を力で稼ぐとするからさ。」


 ロキは薄ら笑いを浮かべた。

 傲慢ではなく、まるで真実を述べているようである。



































 再びアレイスターへ


 入国は何とかギリギリいけた。

 夜になると門が封鎖されるとか。モンスター侵入対策だな。


「宿は宿はと。」


 入国してから少し急ぎめに泊まり場所を探すことに。街の実態や名前、国の在り方等を調べている暇がない。

 そんな最中、ふと目に止まった宿が一件あった。

 何というか、割とそこそこな宿が目立つ中で1つだけ明らかに老朽化している。何灯か灯りが窓から見えるが、ダントツに少ない。


「背に腹はかえられぬ。あそこにしよう。」


 急ぎ部屋を確保しに勢いよく宿へと向かう。


「すいません!いきなりで申し訳ない!」


 扉を開けて駆け込みつつ、声を荒げた。

 しかし、室内は静かである。


「はいはい。」


 奥から紫髪のお婆さんがやってくる。

 腰が綺麗に曲がっており、杖を付いて歩いている。


 そんな光景に慌ててた自分がいなくなる。


「お、あの〜すいません」


「分かっておるわい。宿泊したいのじゃろ?ほれ、銅貨2枚じゃ。」


「助かります。」


 ん?・・・・・・銅貨2枚って安ない?


 普通の宿泊施設だと銀貨1枚が最低だった筈だ。ヘルメたち調査隊が調べてくれたお陰だ。

 が、しかしだ。


「はいよ。」


 俺は銅貨を2枚取り出して机の上へ置く。


「どうも・・・・ほれ。上の階で3号室じゃ。食事は部屋へ持って行くからの。今からじゃと・・・・・後少ししたらかの。

 それまでには部屋におるんじゃぞ。」


「了解。ありがとうございます。」


 鍵を手に取り、俺はそのまま上の階2階へ行く。すぐさま3号室の部屋へと入る。


「ふう。何とか辿り着いた。

 今の内に明日の支度と食事を済ませておきたい。お婆さん特製料理は身体に良く優しいからこそ温かいうちに食すのが1番よ。」


 はて?しかし何か上手くいき過ぎているような。


「今更か、召喚して改造して国を立ち上げて・・・・・仕舞いには国を滅ぼしてと。

 他国も他国だよな。こんな状況なのに駆け引きやってるし。協力して一気に・・・・来れられても嫌だけど、ただ言えるのはどの世界の国や人も考えることは変わらないのな。」


 俺は旅で始めた瞬間に、この自由からそう思った。


 国という配下という概念に縛られ、いつまでも閉じこもってちゃあ何も見えない。

 しかしながら、全員が全員そうではない。


「そこが助かってる部分でもあるけどね。このまま俺が力を着けるのを待っていてほしいものだ。」


 夜の星々を眺めては重々しく現実を見直した。

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