49 アレイスター冒険記

 男はいずれ決断する。それが今!


「よし。」


 俺はアイテムボックスなどという優秀な物を持たず、リュックサックを背負う。


「必要な食料、金、水、毛布、火起こし道具、護身用の短剣と。旅路にしては少ないが、これくらいの方が程よいな。」


「本当に行かれるので?」


「ミリス。俺は確かにこの国や『監獄』の管理者であり、王だよ。

 けど、自分の足で世界を見る事もまた王の務めだよ。篭ってばかりでは何も見えない。」


 思い立ったなら即行動と。迷えばまたズルズルと後回しに。旅は後悔してでも進んで行け。だな。


「しかし護衛もなしに。承認しかねます。」


「いやな。護衛が付いてたら変だろ。というか、ミリスたちは目立ってしまうからね。」


「そ、それは・・・・間違いありませんが。」


「アレイスター様!」


 またしてもノックなしに突撃が。


「って・・・・・ヘルメ?」


「ミリスから聞きました!

 やはり、ここは私の潜入スキルが生かされる筈です!」


 急にグイグイくるね。普段大人しく、仕事人な彼女だが。


「ヘルメ。レッドウォルフは?」


 いきなり登場したヘルメの行動に疑問を抱いたのか、ミリスは問いただすのであった。


「ああ、別に私が居ずとも既に機能している。

 それよりも聞き捨てならない情報が我々にも出回ったぞ。」


 耳が早いね。どこか壁に穴でもできてんの?


「旅立たれるならこのヘルメがお付き合いします!私が居れば、潜入などへっちゃらです!」


「まあ、隠密性に長けているヘルメなら・・・はっ!いかんいかん!」


 何か甘えそうだった。

 つい、お姉さんに委ねそうになっておった。


「なっ!私に不備がっ!」


「違う違う。今回は全てのリスクを考慮してだね。

 まあ正確な理由を伝えるなら、たまには自分で世界や国を見てこなくてほいけない。かな?」


 自信が無くなってきたわ。


「ですが旅は危険です!御身の身に何かあれば私はっ!」


「ヘルメ、落ち着きなさい。」


「落ち着いて居られるか!」


 あの大人しいヘルメをここまで狂わせるとは。我ながら自分の価値を図り損ねていた。


「ヘルメ、ありがとう。その気持ちはありがたい。ただ俺はどうしても行かないといけない。

 この目と足で世界を見たいんだよ。」


「アレイスター様・・・・そのように見詰めるのは狡いです・・・・・」


 必殺!姉殺しなり。キュルルルン。


「か、可愛い・・・・・」


 ミリスまでダメージを与えてしまった。なんて罪深き技よ。


「かしこまりました。」


 何とか推し勝てたようだ。


 その後、アレイスターは颯爽と部屋を出ては、そのまま城門へ真っ直ぐと向かって行く。


 ようやく門付近へ到着した。ここまで来るのにさまざまな障害があったが、ここで語れば日が暮れる。

 だが、懸念点がある。どうも奴等LR達が大人しい。


「アレイスター様。決して変な人に付いて行ってはいけません。変な女もです。後は盗難にも」


 アレよこれよと着いて来たミリスから注意される。はじめてのおつかいかな?


「解った。」


「では、お気をつけて。」


 何故かは知らないがミリスだけしかお見送りがいない。まあ、沢山いられても困るし。


「行ってくるよ。」


 深き森方面から行くことに。元炎龍帝の住処は険しい山道のため初心者の俺には優しくない。

 しかし、この森なら少し道を知っていた。

 オリビエたちとフレイヤで歩いた事もある。


「モンスターが出てくるのは承知だが、最近覚えた技が生かせる。あくまで切り札にするつもりだが。」


 死にそうになる前に使うか。


 アレイスターは迷い無く、森や草木を掻い潜り進んで行く。見知らぬ昆虫、見知らぬ鳥が見え隠れしている。


「この世界にもこういった生き物は沢山居るんだな。何もかもデカい訳ではないのか?全部が全部モンスターって感じじゃないのか?

 ただ・・やけに静かな気がする。冬眠か?」


 別に察知能力が比較的に高い訳ではない。

 しかし、何というか、こう。生き物の気配が感じられない。不自然な感じだ。

 特段、この森の生態やモンスターの周期を知っている訳でもない。だからこそ確証がない。


「下調べをしなかったのはミスかな?」


 ま、旅して感覚を鍛えればいいか。死なないように立ち回るし。


 そのまま長い森を彷徨い歩き続けた。


 この先は一体何処へ繋がっているのかも知らない。もしかしたら、砂漠かもしれない。海かもしれない。

 ダンジョンだったらロマンあるよな。


「抜ければ解るか。」


 ギャォォォォ!!と大きな怪鳥が空を飛んで行く。凄く変な鳴き声だ。


「おもろい。あんなのもいるのか?にしても」


 空は自由だな。

 高空戦力とかどうなってんだろ?竜騎兵ぐらいはいんだろうが。

 制空権を制すれば戦争を自由に動かせるしな。地の利や相性も大事だが、空は色々と有利だ。


「空に対する対策も考えないとな。旅へ出た甲斐が早速あったか。他にも山道の木ノ実も何が食べれるか知らないが、記憶ぐらいはしておこう。」


 自給自足がウチのモットーだからな。輸出と輸入ができない以上、どこからか採取してこないと。


「キノコもあるのか。危なそうな見た目しかないけど。」


 ベニテングダケレベルで危険臭がする。こういう研究と調査も必須だ。


「ただ歩くのも久々だ。グータラしてたからか、ちゃんとこうして動くのも半年振り。

 独り言もこんなに出てしまうぐらい、ワクワクしている。」


 オオカミの鳴き声、野獣の響きが聞こえる。

 きっと、彼らも何か話しているようだ。

 何故か近づいては来ないけど。

























 アポロン、アテネ、インデグラ、ポセイドラ、ゼウス、ゾラ、は『エデン』城のてっぺんから森の中にいるアレイスターの姿を視認していた。


「次、北緯20度ほど修正で。」


「あーアレだ、あそこら辺・・・そうそう。」


「ここからなら射抜けるかしら?」


 それぞれが魔物を確認しては射殺していた。


 ゾラ、ポセイドラ、は主に敵の補足とアレイスターの追跡を。アテネ、ゼウス、インデグラは支持された先へ攻撃を。アポロンはその両方を。


「アレイスター様を決して見逃すな。」


「解っている。我の神眼をもってすれば余裕よ。」


 ゼウスの目が光り輝く。


「貴女はピカピカしてて眩しいから、敵の補足はしないでね。」


「海しか理解せんお前に務まるとも思えんがな。」


「うるせーっての。生き物の声が聞きづらいだろうが。」


 ゾラは超感覚で魔物の位置を特定している。


「アレイスター様のために。」


 黙々とアポロンは弓を引いていく。


「はあ。よくも頑張るよね。」


「フレイヤ、それで?」


 そんな迎撃隊とは別にフレイヤがやって来た。


「そんなアテネに報告だよ。

 ウトガルザ、ロキのいる共和国へ妲己、テュール、ラプラス、キサラ、クロアを送っておいたよ。過剰戦力だとは思うけど、これで良いのかい?」


「問題ありません。過剰というより、オマケのようなものです。より混乱を招いた方が注目も集まります。」


「そう。それじゃあ」


「勝手に後ろを付いてはなりませんよ。」


「・・・・・・・・・・」


 フレイヤは黙ってアレイスターを尾けようとしていた。がしかし、アテネは理解していた。


「それはいつまで視認できるの?ダンジョン内は?人の入り乱れる街は?特殊な空間は?」


「まあまあ落ちけ、若者たちよ。」


 今度はオーディンがやってくる。そんなオーディンへ何故ここへ?と目で訴えられる。


「軍備は脳筋共が何とかしておる。

 ワシは魔道じゃし、優秀な部下が堕ちたからの。人手は足りているほうじゃ。」


「そうですか。はあ・・・・・・どこまで追えるのやら。」


「そうじゃの。ガイア辺りなら自然が関わる場所なら追えるじゃろ。

 まあ、それをしたら作物に時間を割いとる場合ですらないがの。」


「けど、それを差し置いてするべきだけど?」


「その通りです。と、言いたいですが、アレイスター様は作物のような蓄えを大きく気にされております。無断で手を止めることはできません。」


「そう言うことじゃ。

 じゃが、お主らは既に手を打っておるのじゃろ?」


「勿論です。レッドウォルフ隊には変装や潜入に特化した者が何人もおります。」


 アテネの手配により、既に行く先々へ人員が配置されていた。

 アレイスターには内緒で。


「バレないとは思うが、何事も起こらない方を祈るべきだな。」


「何を言うのやら。ゾラとインデグラはともかくとして。我らは神だぞ?我らがアレイスター様の安全を叶えずしてどうする?」


「流石はゼウス神です。」


「ほう。アテネたちを下にしているだけの器量はあるの。」


「アタシらだってできるつーの!」


 ゾラはお怒りであった。




























 アレイスター


 道中は不思議なくらい安全であった。

 これも国を建国してから、彼女たちが調査に出かけてくれたお陰なのだろう。

 無事に森を抜けた。


「広いな。映像なんかより凄く綺麗だ。」


 彼の目前には広く綺麗な緑の大地が広がっていた。その大地はどこまでも広がっているようにも見える


「初めての光景に微動だにしない自分が居たとは。少し冒険に出て良かったよ。」


 と言っても、もう少し歩かないと村か町が見えないか?


「砂漠って訳でも無いし、暗くならないうちにどっかの住民区へ走り込めれば良いか。」


 アレイスターは久々に小走りでマラソンを始めていく。

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