46 虐殺の聖女 

 ジャンヌ


 進軍を開始してから夜が明け、朝へ。


 太陽の輝く大地を照らされる。

 照らされた先には、さまざまな肌色をした兵士たち。

 そんな先頭を歩くのは、灰色肌の元聖女ジャンヌ。


「今日は絶好の虐殺日和です。」


 ジャンヌの後ろには、かつて王国の勇者ヤスヒコへ仕えていた女性が30人ほどいた。彼女たちもジャンヌと同じく、王国を滅ぼすために同行している。


「僅か100人ほどですが、殺し尽くすには十分でしょう。

 神への供物も忘れないようにしませんと。あ、供物は雌豚の私で良いですね!アレイスター様に攻められ所を想像すると・・もう!」


 1人で興奮して身体をクネらせる姿には、聖女の面影すら感じない。


「そろそろですか。」


 崖上から王国が姿を現す。崩れ去った城もしっかりと元通りになっている。

 しかし、国内は活気が薄く、戦争疲れで疲弊している様子であった。


「ま、これが狙いでもあった訳で、本来ならここで大魔法を撃ち込むべきですが、それではトール様のようで品がありません。」


 トールがいれば激怒している。


「正面から攻めますか?その方が反応を正確に観れて良いかもしれません。」


「かしこまりました。」


 アッシュを中心とした100人全員が一斉に王国の門前へと崖上から一気に飛び降りて向かったのだ。


「なっ!!」


 王国の門番たちは驚く。

 いきなり、カラフルな集団が100名ほど武器を携え、崖上から降りて門前に現れたのだから。


「て、敵襲だ!」


「お、おい!アレは!?」


 1人の兵士が先頭を指すと。


「じゃ、ジャンヌ様っ!!」


「ど、どうして!?」


 そんな慌てふためく門番たちを見つけたジャンヌは微笑む。


 しかし、その微笑みはかつての優しい笑顔では無い。獲物を見つけたという獰猛な嗤いであった。


 そして、兵が恐怖で声を上げようとした瞬間、パァン!と頭が弾け飛んだ。


「さ、進軍して下さいな。」


 ジャンヌの指示で、後ろにいた兵は一斉に門を通過して国内へと侵入して行く。


 そんなジャンヌはただ1人悠然とゆっくりと歩いて向かう。


「邪魔ですね。」


 転がっている死体を高火力の炎で灰へと還すのであった。

 そこには埋葬のような慈悲や慈善ではなく、ただ単純に邪魔であったという理由からの行為であった。


「じゃ、ジャンヌ様!」


 いきなりの敵襲に狼狽えていた一般市民はジャンヌの姿など目もくれず、そこにジャンヌがいたという事で縋って行った。


「うるさい。」


 たが、ジャンヌの十字架型の剣先が近づいてきた1人の王国市民の首を容赦なく刎ねた。


「はあ。」


 吹き出す血飛沫、誰も悲鳴は上げられない。


 ジャンヌはため息を吐きつつも血で濡れた剣を拭き取る。その光景からようやく悲鳴を上げだし、逃げ出す人々である。


「逃げても無駄ですが・・・まあ、何もしないで呆然としていられるよりはマシですか。

 1人でもアレイスター様へのお祈りをされている方が居れば見逃しますが。」


 闇と光が混じった魔力が彼女の背中から溢れ出す。


「さて、探してみましょうか。殺すのは彼女たちの仕事です。私は良い素材を捕獲する事が仕事ですから。」


「裏切りの!」


 ジャンヌは見向きもせず、向かってきた兵の頭を弾けさせたのであった。

 頭が無くなった兵はそのまま地面へ倒れる。


 既に先ほど闇と光の濃密な魔力を周囲に展開しており、ジャンヌの匙加減1つで自身より低いレベルの相手を爆殺するようしていた。


「あ、そういえばここの王女様も混じって進軍していましたね。今頃、親子対決をしていたりとか。何とも面白そうな。」


 聖女が歩く道には血濡れていた。


































 王城内


「ど、どうし」


 1人の王国近衛兵が斬り伏せられる。


「待て!キリーヌ!」


「何かしら?」


 以前、王国時代のキリーヌは小柄で可愛らしく、誰にでも平等に接する心優しい王女様であった。


 しかし、今ではそんな小柄さを思い出させないほど髙身長、髪は美しいブロンズヘアーから金、紫、白とカラフルなショートヘアー、肌が褐色へと変わり果てていた。


「私を思い出せないのか!私はお前の許嫁にして、将来を誓い合ったオールズだ!思い出せ!」


「思い出すも何も・・・覚えていますわ。」


「ならどうして!それにその姿は!?」


「どう?美しいでしょう?今までの貧しい私よりこっちの方が好きですわ。」


 アハハと嗤って舞う。セクシーな一面がちらちらと見える。


「な、何を」


 しかし、困惑する。


「今の私を受け入れられないの・・・・・そう。ま、そうね。アレイスター様以外考えるのが馬鹿馬鹿しい。

 それに記憶は無くならないわ。オールズ、ヤスヒコたちのことは覚えているわよ。」


 それを聞いたオールズは剣を下ろす。


「・・・・・愛している。私はどんな君でも愛している。だから」


「いや結構よ。」


「!!!?」


 あまりの即決に驚きを隠し得ない。変わったとは言えど、その記憶がハッキリとあると明言した筈であった。

 だが彼女の言葉には、確かに強く明確な拒否感が宿っていた。


「昔はそうだったわ。けど、今は違うわ。

 ねえ?私、沢山汚されたの。傷付けられ、犯され、虐められたの。でもね。アレイスター様が真の愛を教えてくれたの。」


 そんな彼女の顔はオールズですら見たことないぐらい、下品な笑みを浮かべていた。


「アレイスター様。アレイスター様とお名前を口にするだけで、私は・・・・もう!」


 1人淫らに再び舞う。


「き、キリーヌ・・・・何で・・・」


 かつての姫君は居ない。オールズは失意のあまり剣を落とす。


「オールズ。バイバイ。

 本当は涙を流しすべきなのだけど、ジャンヌ様がそれを許さないから。ま、流す価値もない虫ケラだけど。」


「キリ」


 オールズが名前を言う前にキリーヌは首を刈り取った。頭を亡くした身体は血飛沫を撒き散らして倒れる。


「はあ。下らない男ね。アレイスター様に浄化していただかないと。

 でも、大金星を上げないといけませんわね。」


 もう彼女の記憶には彼はいなくなっていた。





























 ジャンヌ


「懐かしいです。」


 彼女は昔お世話になったお店を見回っていた。中には冒険者ギルドも含まれている。


 しかし、今は戦時の影響により燃えているか崩れ去っていた。


「これは・・・アレイスター様に相応しい?いや、この辺のアイテムや装備はSSRたちにあげた方が良いかな?

 レアな物でアレイスター様に需要制があれば献上するだけ。後は」


 彼女は躊躇いなく、かつての思い出の地に火を点けた。


「逃げ惑う人々も少なくなりましたね。ま、逃げる前に殺しているからでしょうが。

 後は勇者たちくらいですかね?流石にSSRだけでは重荷になりそうですね。」


 そんな彼女の足下には王国内に住まう人々の死体が転がっていた。

 彼女は目もくれず、その上を踏み付けて平然と歩いて王城へと進むのであった。


 踏み付けた直後に燃えていく。


































「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 ヤスヒコは聖剣を振るう。


「散れ!下手にまとまると狙い撃ちにされるぞ!」


「どけぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 ヤスヒコは乱心していた。それもそうである。

 以前は仲間であり、愛しき女性たちがそこにはいた。


 しかし今や敵となり、姿形を変えられていた。

 身体は敵と判定していても心では仲間であった残滓が残っている。そんな葛藤が彼の乱心へと繋がる。


「こ、これほどとは。」


「下手に突っ込むな!退がれ!」


 この場の指揮を取っていたのは、かつての仲間であった。特に馴染みのある。


「アッシュ!!どうして!?」


「うるさい!私に気安く話しかけるな!」


 アッシュは片手斧でヤスヒコへ斬りかかるが、ヤスヒコは聖剣でその攻撃を防ぐ。


「くっ!な、何で!!」


「!!」


 アッシュは何を察知したのか、後ろへ急に退がった。


「アッシュ!?・・・・な、何だ・・・この威圧・・・・・いや?恐怖?」


 ヤスヒコの後ろから凄まじい死のプレッシャーが彼を覆う。


「アッシュ?まだ終わっていないのでしょうか?」


 奥の影から黒き狂気の聖女ジャンヌが現れた。


「ジャンヌ!!生きて・・・・まさか。」


 そんなジャンヌはヤスヒコを無視し。


「アッシュ?まだ終わってないの?」


「も、申し訳ありませっ!っぐ!」


 ジャンヌはアッシュの肩を十字架の剣で抉った。肩から血が流れる。


「遅い。これでも私は周りをしらみ潰しにしてからここへ来ました。なのにこの体たらくは一体?」


「も、申し訳、うぐっう!」


 ジャンヌは容赦なく今度は太腿を貫く。

 貫かれたアッシュは苦痛に耐えながら、悲鳴を上げないよう我慢していた。


「ノロマ。使えませんね。

 アレイスター様に何と報告すれば良いのでしょうか?」


 アッシュはなんとか身体を起こして、その場で膝をつく。


「も、申し訳ありません・・・・・」


「もういいです。全員に他の仕事を割当てなさい。」


「か、かしこまりました。」


 アッシュは立ち上がり、フラフラしながらも仲間たちと共に後退して行く。


「申し訳ありませんが、ここからは私がお相手を務めさせていただきます。」


「ジャンヌ・・・・君までも。」


「気安く呼ぶな。虫ケラ風情が。

 私をそう呼んで良いのはアレイスター様ただ1人だけだ。

 ああーーー!アレイスター様よ!神よ!この愚かで愚図な雌豚をお許し下さいませ!」


 この情緒不安定具合に、何故かこの場に居ないアレイスターは今後悩まされるのである。

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