47 虐殺の聖女 2
唐突に恍惚とした表情でお祈り捧げるジャンヌ。その姿は狂信者その者であった。
「ジャンヌ・・・・・僕を」
「知りません。」
「ここを」
「知りません。」
「な」
「知りません。興味ありません。
むしろ、何で私はここを選んでしまったのか?愚かで吐き気がします。以前の私はどうかしていました。」
ジャンヌの酷く冷たい視線が勇者を貫く。
「ぐっ!ジャンヌ。戻れないのか?」
「戻りたくありません。何を勘違いしているのか知りませんが、私は望んでこの姿になっております。」
修道女を魔改造したセクシーな衣装に身を包み込み、所々露出した褐色肌からは刺青が見え隠れする。
「しかしそれは!」
「そうです。洗礼を通ってからこの姿へと至りました。」
「やはり、最低な奴だ。」
「最低?誰が?」
「君をそんな風に変えた王様さ。」
「・・・・・・・・・・」
ジャンヌの冷ややかな視線が、今度は殺意の視線へ変わる。
十字架の剣が揺れ動く。
「!!」
ヤスヒコは反応した。
「はやっ!」
ジャンヌは攻撃を避けられた事に驚きもせず、次の攻撃を仕掛けていた。
空振った剣を斬り返す。後ろへ避けた直後にまたジャンヌの剣がヤスヒコへ襲い掛かる。
「よっ!!」
これも何とか紙一重で避けた。
しかし、頬に傷が入った。
「擦り傷程度かな。悪いなジャンヌ。俺も俺でちゃんと成長してたんだ。
だからこそ、俺はその王様を討たないといけない。世界の敵であり、同時に君を救える。」
「うぇぇぇ。反吐が出ますね。」
「昔の君はそんなことを言わなかった。」
「昔はそうでしょう。今の私が本当の私なので。」
「そんなことはない!
君は誰よりも命を大切にしていた。そんな君を歪ませた王を許さない。
できれば、ジャンヌを傷付けたくはない。」
ヤスヒコは改めて聖剣を構え直す。
彼の目は本気であった。仲間を取り戻すため、日夜修練に励んでいた。
「・・・・・・フッ・・アッハ!・・・笑える。
昔からキモいなと思っていたんです。アレイスター様のように現実的な一言を発せず、常に夢物語のようなことばかり。」
ジャンヌの光と闇の魔力が更に出力を上げ始めた。
「仲間は。とか、愛してるだとか。誰にでも言えることばかり言っていい気になって。
まあ、別に特別扱いなんて求めて無いからいいですが。
ただまあ、今でもそのクソみたいな発言ができるのも最早滑稽ですね。
あそこまでボロボロになってるのに。たまたま生かされただけなのに。次こそは。チャンスを与えられた。みたいになって勘違いしてさ。」
「ジャンヌ?」
昔のジャンヌは無駄話をする人ではなかった。苛立つ事もなく、慈愛の精神で見つめ、ただ無言に見守っていた。
「ほんと、気持ちが悪い。
早く『エデン』へ戻り、アレイスター様の洗礼を受けないといけません。精神が不衛生な状態になってしまいました。
『神化』『悪を愛し、善を愛する。』」
光と闇の魔力がジャンヌを包み込む。
綺麗に混ざり合い、魔力の色が灰色と化す。
そして、その灰色の魔力がジャンヌの姿を更に歪な悪魔のような姿へ変貌させる。
左右の目の色が黒と白の眼に変わり、髪色も黒と白のツートンヘアーへ。
片手には白き聖なる十字架の剣、もう片手には黒き悪魔の十字剣が握られている。
纏う魔力は濁り濁った灰色の禍々しい魔力装甲である。
唯一変わらないのが、彼女の綺麗な褐色肌である。
「そ、その姿は一体・・・・・」
「さあ、勇者様。成長を今一度このジャンヌに見せていただいても?」
ケタケタと悪魔の嗤い声がジャンヌから聞こえる。
アレイスター
「王国へ元王国の仲間が攻め入るか。」
「皮肉過ぎましたか?」
「いや、そこまで綺麗事は言わない。ただ少し気が乗らないだけかな。」
ウチのデザイアさんたちは喜ぶが、アテネたちまで同じ事をしなくても。
少し考えれるから解るが、アテネたち神々もデザイアを介しているからこそ、その影響の余波を受けているのだろうな。
「申し訳ありません。どうかこの失態を私の命で。」
すぐさま剣を首に当てるアテネ。
「いや、命はいい。」
「そんな!では、この償は!」
「あーじゃあ、膝枕で。」
「なっ!何というご褒美な!」
何してもダメじゃねえーか。彼女たちの喜びがイコール俺だから何しても変わらんな。
ま、命を散らされるよりはマシだ。
アテネの美しい太腿に寝そべる。
その速度、僅か3秒である。
「アレイスター様。私のここも空いてるよ?」
フレイヤさん。お胸を抱き寄せるとは。何と巧妙な。
「んん!フレイヤ。アレイスター様は今私に罰をお与えになさっております。私の気が済む・・・・この厳しい罰を終えるまで我慢していて下さい。」
もう言い直しても手遅れなレベルだよ。
「わ、我も次にそれを所望する!」
ピリピリさん。ピリピリしないでくれ。静電気が地味に痛い。
「アレイスター様!」「アレイスター様!」
「主人様!」
色々と俺を呼んでは罰というご褒美を寄越せだのと大変なことに。
「王様も大変ですな。」
「王というよりは周りが狡いだけです。」
ヘルメとヘルメスの姉妹が帰ってきた。
「お疲れ様。で、どうよ?」
「王国の陥落も早いものです。元々弱りつつある国でもあります。」
「まあ、ジャンヌが少し本気を出したぐらいかな。
ま、それをしなくてもいいだろうに。何をムキになってんだかね〜。」
ヘルメスはヘラヘラしてても美しいね。
「ジャンヌがね。」
うーむ。一応名前からして聖女様なんだけど・・・・性格を捻じ曲げ過ぎたか?
「アレイスター様をバカにされて腹が立ったのでしょう。それなら、いくら私でも八つ裂きにしていますし。」
ヘルメスさん。貴女の妹さん過激よ。
「それね。ヘルメの言う通り。
でも、ただ殺すのは勿体ない。苦しめてから後悔させて、火炙りにしてじっくりと殺すべき。」
お姉さんも過激派でした。激しいのは夜だけにしてくれ。昼間に激しいのは心穏やかではないな。
「ジャンヌが王国を潰せたのなら、次は。」
「共和国かと。」
アテネは次の目標を既に決めていた。
「ロキの偵察から、ある程度あの国が弱っていくのを考察できましたので。あれぐらい弱っていれば、ロキとウトガルザで攻めれるかと。」
「うん?2人とも戦闘というよりは」
「そういう事です。アレイスター様。この私めにお任せを。」
一挙一動が胡散臭いウトガルザさん。
ロキさんの方が信頼できるかも。前説があったとしても。
うん?てか、いつのまに?
「大丈夫です。このロキにお任せください。
すぐに終わらせ、アレイスター様の下へ帰還して参りましょう。」
やけに自信満々だ。何か勝利の方程式があるようですな。
だからいつの間にいんの?
「ま、それなら待ってますかな。俺もレベルが上がっただろうし、少し実力試しもしたいし。」
「うーん。じゃあ前と同じく『監獄』から生まれた新人たちを引き連れて私が引率しよう。」
フレイヤさんが居てくれるなら安心だ。
「待て。アレイスター様と2人きりになるのは賛成しかねる。」
「ぜ、ゼウスさん。」
ピリピリしている。相当イラついてる。
「我もアレイスター様と共に居たいぞ。」
「目的が違わないかな?アレイスター様はご自身の力をお確かめに」
「フレイヤよ。本当にお前は教育をすると?」
あ、してないのバレバレやん。
普段の態度=信頼である。
王国は1日を保たずして陥落する。
逃げ出す人々は皆無惨に殺され、死体を槍先や柵、建物のなどに串刺しにされ、晒された。
王もまた嬲り殺しされ、その死体はバラバラの状態で天に掲げられる。王国国旗は全て燃やされ、既に街は廃墟のようになった。
「ふう。愉快愉快です。涙も出ません。
むしろ、笑いが止まらない。」
ジャンヌの邪悪な笑みは治らない。
彼女は崩落していく国を王城から眺めては嗤っていた。
ジャンヌの引きつれた部下たちが無抵抗な人々を弄びながら殺し回っていた。
「ジャンヌ様。ヤスヒコの処刑は手筈通り、モニターにて執り行えます。」
1人の褐色女性がジャンヌへ準備が終えた報告をする。それと同時にやや面倒くさそうに溜息を吐く。
「そうか。目星い人物は居なかったし。全てを消し炭にしたら撤退か。
最後は私の最大火力で国を焼却しましょう。」
「数十名ほど捕らえましたが、実験は如何されますか?」
「それもそうですね。実験をしてみましょうか。処刑後の人々で精神の乱れから堕とせるのか。
堕とした状態によっては能力や思考形態がどれほどまで形が変わるのか。」
ジャンヌは改めて王城の玉座から立ち上がる。
「汚い椅子ですね。
だからこそ、アレイスター様の椅子は私の方が相応しい。早くその重みで私を踏み付けていただきたいです。」
ジャンヌは想像するだけで身震いし出す。
常に妄想を繰り返しては自身を興奮し高揚させていた。
例え周りが血の海や死体の山を幾万と築こうとも、彼女にはアレイスター以外に興味が無かった。
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