42 生贄と進化

「アテネは?」


「すぐ向かってくるよ。」


「そう。」


 はぁ・・・何て事だ。戦争は始めたらキリがないとは前世から聞いていたが、ここまでとは。

 それに不本意な2つ名まで・・・これでは冒険者にもなれん。海賊王になりたい訳でも無いのに。


「アレイスター様。失礼します。」


 扉越しからタイミング良くアテネの声が聞こえた。

 そして扉が開かれると、数人を連れてゾロゾロと入ってくる。


「お待たせ致しました。アテネ以下数名が入室します。」


 ウトガルザ、ロキ、ヴィーザル、テュール、アテネ、オーディンと内政に強よそうな面子がやって来た。


「ってあれ?ラプラスは?」


 数学の悪魔さんが居ない。


「何かやる事があるとか。」


 アテネすら知らないらしい。


「まあいいや。」


「誠に申し訳ありません。」


 うーん。ラプラスさんは悪魔の数学様だ。確実に何か企んでるだろうな。名前的にはアイツの方がよっぽど魔神じゃん。


「アレイスター様。初めに今回の勝利ですが。」


「浮かれている場合でもない。」


「その通りです。ですので、元より計画していた蓄え作戦を実行に移しましょう。

 ガイア、アポロン、フレイヤ、アフロディーテを中心に農作物などの植物系の栽培を担当させます。」


 あれ?フレイヤさん?あー、そういえばフレイヤは豊穣の女神として一端を担ってたな。


 燃やし尽くすイメージ像が定着してた。


「了解。」


「次に軍務はゼウス、トール、アーレス、ベローナで事足りるかと。

 牢獄はイザナミ、ハーデス、ロキ。

 宰相は私アテネ、テュール、ラプラス。

 魔法をオーディン、ポセイドラ。

 情報部門をヘルメス、ヴィーザル。

 生産をヘパイストス。

 以上です。」


 結構固まったな。アテネ様は早くも画策していたようです。もう君が王様やったら?


「あまり無茶はしないでね。暫くは誰も仕掛けないと思うからさ。」


 多分ね。


「かしこまりました。それと今回の戦利品ですが。

 既にレッドウォルフにより召喚石奪取が為されていたため、召喚石はありませんでした。

 代わりにLRを私アテネとイザナミが1体捕らえ、『桜花楼獄』に放り投げました。」


 サラッと流された上にサラッと凄いこと言ってんだけど。


「オケ。後で確認するよ。」


 とりま聞きません。先に何となく試したいスキルもあるし。


「かしこまりました。さぞ楽しめる逸材かと。」


 アテネにしては珍しく怖い笑みだ。何の話か知らんが、そこはニヤリとするのが処世術だ。


「・・・・・チームデザイアは?」


 ふと気になった。いつもならLRだけで固められるケースなんて珍しくて、つい。


 すると、また扉が開かれた。


 そこにはラプラスを中心にした、最初の10人とナナカ、キサラ、クイナ、ユンフィがやって来た。


「うん?何故勢揃い・・・・・・」


 反乱とか?あわわわわわ。


「アレイスター様っ!」


「アレイスター様!」


 どんどん俺の名前を呼んでは前へと跪く。


「申し訳ありません。我らの無力さを払拭すべく、別行動を取っておりました。」


 レイレが代表し、俺へと謝罪を述べる。


「無力なんかじゃ」


「いや、俺たちは無力だった。」


 あの元気が取り柄のアイナが落ち込んでいた。


「けどな。アタイらは強くなれる。」


「強く?ゾラ。それは一体・・・・」


 進化?限界突破的なやつか?ラプラス様の表情から察した。

 もしそんなシステムがあるのなら、この世界におけるSSRの存在価値は


「非常に高い。」


「??どうされましたか?」


「あ、いや何でもない。」


 ついポロッと出てしまった。無理もない。

 SSRの進化や限界突破が確かなら、これは戦局を大きく変えられる。

 これはゲームでもそうだ。

 普通のLRより、強化したSRの方が強いなんていうケースもある。相性によりけりだが。


「僕もアレイスター様と同じ事を考えております。

 だからこそ、私たちはここで決行する事にしました。」


 ミリスは俺の考えを察したのか、敢えて何とは言わずに進言した。


「それは・・・・・」


 ラプラスが前に出る。


 どうしよう。いきなり数学の話されても知らんぞ。


「ここからは私が説明しよう。

 そもそもこの方法は禁句でね。何故なら生き物の魂を10万ほど犠牲にしなくてはいけないからね。」


「じゅっ!10万!!」


 テロでも早々そんなに死なんぞ!?ならどこでそんな魂を拾える?


「・・・・・・戦争か。」


「その通り。今回は愚か者が攻め入ってくれた。

 まあ、鴨がネギを背負って来た。かな?

 更にはその隙を突いてアテネたちによる、国の襲撃と。」


「魂を拾い放題か。」


「そうだ。まあ、あまりその事に触れ過ぎてもしょうがない。アレイスター様、これは割り切るしかない。自身の野望とは、これ即ち人である事を捨てることだ。」


 人間の王なのに人を捨てろ。か。妙に説得力がある。しかし


「矛盾だな。」


「矛盾だよ。そこは計算の悪魔ですら未知数であり、予測不能な領域だ。人間の中身など、数字では表せない。

 しかし、この進化の定義なら表せられる。知ってる奴なんてごく僅かだけど。」


 だろうな。そう簡単に10万人の命が生贄にされてたまるかってんだ。

 そんなもん、この世界の教会が許さんだろ。


「これからその計算が間違っていないかを実演すると?」


「アレイスター様。私の計算に狂いは無い。

 計算に狂いが有るとするなら、それは私の存在だけだ。

 まあ、最も今回の計算は彼女たちだけど。」


 14人のSSRことデザイアが進化対象らしい。

ここでも敢えて聞かないが、恐らく10万の魂=1人分と考えた。


 つまり・・・・・それだけ殺してんのか。


 アレイスターはそう感じると、改めて身震いし出すのであった。


「では、初められるのか?」


 アテネが容赦なく進めていく。


「構いません。ラプラス。」


 レイレがラプラスに早速と促す。


「早くしろ。」


「ふむふむ。ヘルメも珍しくやる気と。なら解った。ま、確実では有るが。後は君たちの気持ちの持ち用だけどね。」


 ラプラスは大きく全員を包むような結界を描き始めた。俺たちでも視認できるような数式が幾つも浮かび上がる。


「これは魔法なのか?」


「いえ。これは恐らく、彼女のスキルか異能かと。そもそもラプラスには魔力がありません。」


 へ?初耳や。


「彼女の存在自体が不可思議です。実体しているが、認識しづらい。身体の構成に水分や食事は要らない。

 何故現界できるのかすら不思議です。」


 アテネは最初から気付いていたようだ。正確にはここのLRたちは知っていた。

 俺だけが知らなかった。あはは。


「ラプラス。君は?」


 そんなラプラスは数式を作るのを止めない。ひたすらスラスラと書き綴る。

 集中し出すと周りが見えない性格であるようだ。


 何かの呪文か結界が青く光り出す。どこからやってきたのか、外から壁をすり抜けては魂が次々と枠の中へと入り込む。


 声こそ出ないが、デザイアたちは苦しそうであった。何か苦悶の表情を浮かべる。


「10万は1人辺りだよ。

 つまり、彼女たちはその10万の死を一気に受け止めている。」


 ・・・・やっぱりか。


「フレイヤ、俺は。」


「待ってれば良いよ。最初に信じた仲間を。私のように。」


 フレイヤは優しく俺を抱き寄せてくれた。俺も彼女たちを見つめ直す。


「さあ!フィニッシュだ!!」


 ラプラスの顔は嬉々としている。

 自分の計算が間違いなく成功しようとしている証だ。


「「「「ああああああああああああ!」」」」


 全員から叫び声が聞こえる。


 皆の身体がまた黒く、真っ黒くなっていく。まとわり付いた闇が卵の殻のように割れる。

 パラパラと彼女たちの新しい身体が現れる。


 以前より、より濃い褐色肌が露わになる。髪色や刺青は変わらず。身長も変わらない。

 ただ見た目が少し変わった。


「それだけではない。明らかに魔力が桁違いに上がっている。」


「成功か、お疲れ様ラプラス。」


「ありがとうございます。ご褒美は然るべき時に。」


 意外と現金な奴だな。あれ?なんか違う気がする。

 そんな興奮したラプラスの視線が俺の腰辺りにあったが、スルーして。


「皆んな。気分は大丈夫かい?」


「アレイスター様・・・・・」


「私たち変われた・・・・・・」


 皆自分の身体をひたすらチェックしている。行動が早いと言うのか、適応が素早いと表現すれば良いのやら。


「アレイスター様。お姉さんまた強くなったわ。これでまた貴方を守れるわ。」


「あら?いきなり口説きかしら?」


 スカーレット姉さんとインデグラが絡んできた。早々にチェックが終わったらしい。


「俺もだぜ!大体調子は解った。」


「何かこう。今までの自分じゃない気がするぜ!」


 アイナ&ゾラのオラオラコンビは感覚でなんとなく分かったらしい。


「確かに。妾もヤケに身体の調子が良いの。」


「私もなのーー!」


「うんうん。凄く寝れる気がする。」


 クロアとセレナーデはともかく、ダレネの場合は変わったのか?


「そうか。何かあっさりしているようであれだが、これからも期待している。」


「かしこまりました。アレイスター様。」


 再び14人が俺へ跪く。


 戦力差はこれで大きく強化されたな。蓄えつつ、ちょこちょこ他国へ攻めれそうだ。


「アテネ。」


「はっ!既に作戦概要をこれからミリスと共に練り直します。」


「ミリスも頼んだよ。」


「かしこまりました。僕の命に替えても。」


 これから忙しくなるな。

 だが、少しだけ心にゆとりが出てきたな。

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