41 魔神降臨の日

「き、キツイな。」


 敵がいなくなったお陰か、緊張感が和らいだ瞬間に足下が揺れ出した。


「アレイスター様っ!」


「アレイスター様・・・・あまり無理を。」


「こっち。」


 ヘパイストスは倒れそうな俺を優しく抱き寄せた。

 ただ、大きいクッションの上には鎧があるので残念です。


「アレイスター様のお陰で1人消す事ができました。」


「そうだね・・・・・1人には情報を持ち帰られてしまったが、これも早いか遅いかだ。

 ならば、今のうちに明かした方が動きやすい。」


「アレイスター様なりませんぞ!無理はなりません!我らは貴方様を必要となさっている。」


 あの楽観的なハーデスから初めて焦りが見せたのであった。


 俺の大将一本というのもあるせいか。


「そうね。お姉さんもそう思うわ。

 でも、あのままズルズル戦うよりは良かった。形勢逆転できただけでも良しとしましょう。」


「う、うむ。ヘパイストス。君が付いていながら何故・・・・まあ、とやかく言っても仕方のない。

 しかし返り討ちにできた。これを全軍へ通達させましょう。」


「ああ。悪いが俺ちょっと休むわ。」


「かしこまりました。後は我々にお任せ下さい。

 ヘパイストス。今度は頼んだよ。あまり下手な事をされると、今度は君を殺してしまいまそうだ。」


 ハーデスは恐ろしい程の殺気をヘパイストスへと向けた。


 その殺気はアレイスターには一切感じさせ無かった。

 しかし、その表情はかなり怒っている様子であった。


「・・・・気を付ける。」


 ヘパイストスはハーデスが本気であると悟り、冷や汗を流した。


 いくらLR鍛治士でも、こと戦いの中では、足手纏いである。

 それを悟ったヘパイストスは、自分が如何に危険な行為に及んでしまったのかを改めて理解していくのであった。


「アレイスター様のお陰で他もいい感じのようね。」


 ガイアは目を閉じて外の情報をキャッチしていた。


「見えるのかい?」


「ええまあ。自然の声と目を借りてね。

 結果、3国共に静かにさせたそうよ。

 まあ、完全に全てを破壊するには時間が必要かしら。」


「そうですか。あくまで、ただ破壊するだけでは意味など無い。

 破壊し、全てを我等の同胞として染め上げてこそ、初めて破壊に意味がある。」


 思うのだが、ハーデスさんは完璧主義ですね。というか、破壊って何処まで何を壊すつもりなのやら。


 アレイスターは疲労感に覆われながらも何とか話を理解しようと踏ん張る。


「その通りね。だからこそ、全員撤退を開始したわ。」


「了解した。こちらも牢獄を元通りにせねば。

 未だ遊び終えていない姫様方もいる事だ。」


 この2人も頼もしい限りです。

 しかし、状況はイマイチ理解できない。押してるのに撤退?

 完全破壊もうそうだけど、一体何してんだ?

 ただの防衛戦ではない事は理解している。




























 ロキ、ヴィーザル、ウトガルザ


「ロキ。君が共和国を攻めない理由は解った。」


「・・・・・・」


「そうだね。ここまで奪う気が失せる国はなかなか無いよ。」


 共和国は様々な民族、文化、風習を取り入れた盛んな国であった。

 だがしかし、それはあくまでも行き場を無くし、たどり着いた人々の末路でもあった。


 管理する国王、文官、側近も然り、皆人間である。その影響により、亜人との差別や奴隷制度が生まれてしまう。


「奴隷や差別はあるが、ここまで明るみな状況とはね。民間人レベルで奴隷を使役している。行き場の無い彼らは我慢するしか無い。」


 共和国の周囲は魔物が生息しやすく、山岳地帯もあるせいか、夜盗なども潜んでいる。

 国が軍の見張りを四六時中付けるほど、危険な地帯であった。


「しかし、これでは手土産が。」


 ウトガルザ自身はアテネより、攻め入れという指令を受けてきていた。

 だが、当の共和国がここまで廃れては、そのやる気も失せるというもの。


「・・・・・・・・」


 ヴィーザルは依然沈黙を貫く。


「うん。どうしようかな?滅ぼす気はないし。

 というか、気になるのは王様だね。本当に生きているのかな?」


「それは?・・・・・もしや。」


「そうだね。あまりにも無法地帯過ぎる。が、国としては機能している。指示している奴が有能だね。」


 ロキが攻めない理由はもう1つあった。


「LRですか・・・・そうですね。厄介極まりない。

 しかしLRだけでは。」


「恐らく、ここの王様はもう居ない。

 ここが共和国を名乗れるのも、代わりにその人の支持あってのものだね。」


 それでも状況はロキを更に悩ませていた。


 奪うべきモノがあまりにも少なく、手土産が全くと言っていいほど取れない。

 しかし、手ぶらでは帰れない。


「ヴィーザル。君は?」


「・・・・・・・・・・」


「はあ・・黙りですか。ヴィーザル君は恥ずかしがり屋なのかな?」


 そんなウトガルザの挑発に一瞬反応し、睨み付ける。


「おや?癇に障ったかな?なら謝ろう。申し訳ない。」


 ヴィーザルはそんなウトガルザの胡散臭いお辞儀を再び無視する。


「これで解ったけど、この国は何もしなくても崩壊する。崩壊したらLRや使える物を拾うとしようかな。って考えた。」


「賛成。異議なしだよ。」


 ヴィーザルは何も言わずにその場を立ち去った。


「はあ・・・オーディン様たちと行動した方が良かったかな?」


 ロキはハズレを引いた気分であった。

 どうやってアテネを説得しようかを考えなければいけない。

 敵よりも厄介な相手に頭を悩ませるのであった。
































 アテネ、イザナミ


「王国はこれぐらいが限界ですね。」


「最初に戦力をかなり削ぎました。

 幸いなのが、王自らが前線にいること。」


 アテネ、イザナミは王国を既に後にしていた。

 そんな彼女イザナミの肩にはあるLRの死体が乗っていた。


「はあ・・・聖女様の首無しって怖くないのかしら?」


「デュラハン?」


「センスありません。」


「う、うるさいです。」


 アテネの何とも言えないジョークセンスに呆れるイザナミである。


「ま、これぐらいが戦果ですか。」


「敢えて、国という機能を崩壊させません。これからも先進国として戦っていただかないと。」


 アテネの目には次の戦略が練られている。

 そんな王国は瓦礫の海と化している。


「『神化』いいね。」


「ええ。アレイスター様と私の愛の結晶です。この愛がある以上、私は無敵です。」


「貴女ね、アレイスター様の事になるとバカになるのね。気持ちは凄く解るけど。」


「あーー!こうしてはいられません!」


 アテネはいきなり走り出した。


 冷静と知略を重ねる彼女でも、主人のこととなると落ち着かなかった。


「意外と脳筋ね・・・・・作戦参謀さん。」


 1人置いて行かれたイザナミは後々合流するのであった。


 帰りを待つ元公国にいるオーディン、トール


「ま、こんなもんかの。」


「おいおい、面白いな。」


 4人の戦いは拮抗していた。


「我らとてLRだ。」


「その通り。拙者らを舐めてもらっては困る!」


 正確にはオーディンには余力がまだあった。


「うむうむ。ワシも武器が多いからの。っと、そんな事よりじゃ・・・・ここいらでお主らは帰った方がいいぞい。」


「「!!」」


 何故かトールまでもが驚く。


「え?マジ?これから面白くなるんじゃねえか!」


「アレイスター様に逆らうか?」


「とっとと帰れ、お前ら。」


 トールの思考が一瞬で切り替わった。

 普段は脳筋ではあるが、アレイスターのこととなると、すぐに頭が冷えたのであった。


「はあ・・お主は。」


「・・・・逃すのか?」


「まあそうじゃの。やる事やったし。」


「舐めるな!!」


「無視じゃ、無視無視。」


 オーディンはとっとと帰れとしっしっと面倒くさそうに応対する。


「解ってる。アレイスター様に逆らうのはダメだ。アタシでもそこは間違えねえよ。」


 トールは独り言をぶつぶつと呟く。


「それで我々がはいそうですか?って?」


「いや、退くぞ。」


 クーフー・リンはスサノオを呼び止める。


「賢者の勘か?」


「ああ、ヤバいのが何人もコチラへ来る。」


「承知した。受け入れよう。」


 2人は転移石を使い消え去った。


「捕らえなくて良かったのかよ?」


「アホか。城まで吹き飛ぶぞ。」


「・・・・・俺が?」


 なんとも呆気ない終わりとなった。


 そんな戦後のアレイスターは、黒く渦巻く空間にいる。


 ・・・・・・・・召喚士・・・・・・・・召喚士・・・・・・・・


 神を殺し、世界を殺すモノよ。


 汝は何を望む?何をこの地上へ召喚する?


 次への戦が始まる。


 汝、次は何を呼ぶ?

 

 汝、次は何を創る?


 汝、次は何を歪める?


「ってうるせぇ!!」


 ハッと気付くと、自室のベットだ。何かよく分からない悪夢を見せられていたようだ。


「嫌な目覚まし時計だ。」


 沢山の犠牲が出たからか、亡霊が俺に囁いたのか?いや、そんな訳・・・・・あるかも。

 人を直接殺した訳ではない。だが、ほぼ殺したようなもんだ。

 更にあるべき形を歪めた。十分な殺人だ。


「しかし。」


 何故召喚を焦らせる?


 そんな隣でヘパイストスが添い寝をしてくれていた。


「そ、そうか、俺疲れて寝てしまったのか。」


「お疲れ様、アレイスター様。」


「フレイヤも。」


 我が相棒のフレイヤさんが帰ってきた。毎度の如く、すぐ脱いで寄り添ってくる。


「どうしたの?汗びっしょりだよ。」


 そう言い、彼女は俺の汗を指で拭き取ると、そのまま舐めた。


 いや、流石にそれは冷や汗が出るよ。


「皆んな待ってるよ。王の凱旋を。」


「そんな凄いもんじゃないけど。」


「王というより、魔神様らしいよ。」


 フレイヤは1つのビラを俺に見せてくれた。そこには。


「どれどれ。『悪逆非道 魔神王アレイスター賞金100億金貨』っっっっっ!!」


 賞金首が!じゃなくてだ!


「何この名前!?」


「評議国から全世界へ発信されてたよ。

 元々世界の敵だけど、改めて認識させたようだね。ありとあらゆる方面から襲撃を呼びかているようだ。」


「つまり、その辺の村人ですらってことかよ。」


「その通りだね。」


 とんでもねえことしてくれたな。

 しかも、似顔絵がドンピシャで似てるし。


 あれ?俺の顔ってそんなに特徴無かった?チクショウ。夜道どころか国内しか歩けない。


「今は周囲の、中でも近くの王国、覇王国へ大打撃を与えたから、それも関係してるのかな。」


 俺の名前だけ先行している理由は?

 確かに王様だけ狙えば勝ちゲーみたいなとこあるけど。


「逆に俺と同じくらい人の心が無いようだ。」


 ま、人が人なら世も世か。

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