40 王が前に立たねば

 フレイヤ、テュール、アフロディーテ


「!」


「お主も気付いたか?」


「これはなんと美しい!!」


 3人一同『桜花楼獄』へと視線を向けていた。


「アレイスター様、来たのか・・・フフ、やはり貴方様は素晴らしい。」


「隙あり!死ねぇぇぇぇぇ!」


 後ろから敵が奇襲をかけるが。

 フレイヤが指を鳴らすと、一瞬で火だるまへと変わり果てた。


「そろそろか・・・アテネたちも攻めるよ。」


「ああ・・フレイヤよ力を解放せよ。」


 テュールに指示されたフレイヤは一気に不快な態度を示す。


「はあ?貴女に命令されたくないんだけど?・・・・・アレイスター様のお力が進化した。

 私には解る。そのお力を授けて下さったアレイスター様。」


 フレイヤは再び小国で使った黒き太陽を空へと浮かべさせる。その姿も黒く、そして炎が身体を包み込む。


 新たな姿、黒く情熱的な愛の女神へと変貌する。


「まるで嫉妬心の塊ね。美しくない。」


「お主や小生らと違い、フレイヤにはフレイヤの在り方がある。アレイスター様もそこをお気付きになられて、その力をお与えになさったのだ。

 無論、小生も近々その愛と力を貰う。必ずだ!」


「はあ・・・ヤケに自信満々ね。」


「当然だ。小生こそがアレイスター様の1番であり、永遠にお側で尽くすのだ。」


 テュールの片目には見えない炎が灯っているようである。

 また、ディーテも気持ちは同じではある。


「脳筋、美しくない。

 でも、アレイスター様の1番は早々譲れないわ。」


 2人もフレイヤに続き、殺戮を再び開始したのであった。


 そこは戦場ではなく、ただの虐殺であった。


 テュールにより全てを両断され、アフロディーテにより身体や盾を貫かれ、フレイヤによって何もかもが灰人と化す。


 そんな阿鼻叫喚な地獄絵図だ。







































 ゼウス、ベローナ、アポロン


「合図が来たり!我今こそ真の姿へと!」


 ゼウスがいきなり輝き出し、周囲に雷撃が飛び交った。


「あら?何何?」


「ほう、これがアレイスター様の。」


 アポロンとベローナはその力を初めて目の当たりにした。


「刮目し見るがいい!!我とアレイスター様の愛を!!」


 ピカッ!と巨大な雷がゼウスへと落ちる。


 そんな雷の中から1人の神がその姿を現した。


「うむ。この槍、よく馴染む。」


 金を象徴とした槍が片手に握られており、全身の肌は光のように透き通るように美しい。


 更に触れる物には電流がほと走る。


「では、手始めに手前から奥まで死んでもらうぞ。」


 そう言いゼウスはただ手を振り下ろす。


 すると、巨大な雷の雨が前方にある覇王国の城壁すらを越えて振り注ぐ。

 それはまるで、神が理不尽に鉄槌を下すようであった。


 前方にあった大地や建物が砕け、森や草木は燃え盛る。


「あらまあ凄い。」


「ほ、本当に凄いな。私たちも授けて貰えるのか?」


 アポロン、ベローナも力の差に驚きを隠せていない。


「私も早くアレイスター様にお願いしないと。」


 覇王国は既に瓦礫とかし、更にそこから一直線にボロボロとなった世界が広がっていた。


「こんなものか?まだ暴れ足りない。

 ここから後方へ我が追撃するがゆえ、ここでの待機を任せたい。」


「解った。今の私たちでは足手まといになりそうだ。奥にいる敵の殲滅はお任せします。」


 ベローナは認めた。

 現状、自身たちが足手纏いになる可能性があると。


 しかし、ゼウスもその様子を察するも、その潔さにつまらなさを感じていた。


「何を抜かすか・・・・・まあよい。アレイスター様へ供物を献上しに行く。それを持って我らの褒美としよう。

 さすれば、アレイスター様と1つになる日も近い。」


 ゼウスは高笑いをしながら恐怖に怯えた覇王国の残存兵を無視し、崩れた去った城壁を通り抜けて行く。




































 アーレス、ヘルメス、ポセイドラ


 ヘルメスの嫌がらせが軍師に効いたせいか、敵軍の勢いは既に無くなっている。ポセイドラによる波の波状攻撃もあり、3人の優勢は変わらず。


「おーい!アイツらセコイぞ!」


 そんなアーレスは『桜花楼獄』での力を感じたのか、やけに不満を垂れる。


「ま、そうだね。」


「普段冷静な私でもイラつきます。」


「自分で冷静言うの?」


「チックショウ!!クソガッ!」


 アーレスは明後日の方向に大きな岩を持ち上げ、投げ捨てた。

 奥に潜んでいた伏兵たちをまとめて圧殺したのであった。


「アーレス落ち着いて。こっちまで被害が出るよ。」


「うっせ!お前らは良いのかよ!」


「言いたい事は分かります。ですが、我ら2人は新参者がゆえ。納得する理由もあるのです。」


 ヘルメスはやれやれと表現する。


「ケッ!これだから温室育ちはよ。」


「アーレスも貰ってないだろう?」


「アタシは!」


『アーレス。』


「!!!」


 アーレスの体内に電流のような何かが走った。アレイスターからの思念に神経が反応したのであった。


『あ、アレイスター様!!』


 怒りが一気に歓喜へと変わる。


『アーレス、すまない。遅くなった。

 俺も戦場へ出たから今力を授ける。これが俺にできる戦い方だからさ。』


『あ、アレイスター様!そんな危険な!』


 アーレスに体内に魔力が駆け巡る。


『アーレス。これは俺の始めた戦いであり、俺自身の定めた戦い方でもある。

 だから身勝手だけど俺を守ってくれ!』


 その魔力はアーレスを温めていく。

 アーレスは身に宿る温かさに敬意を表して、いきなり跪いたのであった。


『お任せ下さい!

 このアーレス、アレイスター様の手となり足となり、敵を粉砕します!』


 アーレスからアレイスターの思念が消えた。


「ア、アーレス?落ち着いたのか?」


 いきなりアーレスの人なりが変わったので、ヘルメスもやや取り乱していた。


「ああ悪い、取り乱してた。」


「??どうされたので?」


 ポセイドラも目が点になる。


「まあ・・見てろよ。」


 アーレスは多くの死体が転がっている戦場まで跳躍して前へと向かって行く。


 進軍していた筈の敵はアーレスの登場により、その足を止めるのであった。


「私はアーレス!!戦を愛し!戦いを好む者!

 本命はアレイスター様への愛のため!

 だからこそお前らには死んでもらう!アレイスター様への愛のために!」


 アーレスの身体から得体の知れない神気が発生した。身体には刺青とは別に紋様が浮かぶ。


 研ぎ澄まされた牙が生え、拳や脚にはオリハルコン以上のキラキラとした輝きを放つ強度な皮膚へと変化していく。

 そんな鋭い眼は翡翠色へと変わった。

 更に彼女の背中には、特有の盾と剣のマークが浮かび上がった。


「戦いの神としての戦を始めよう。」


 アーレスが手刀を構え、前方へ薙ぎ払う。


 すると、前にいた敵兵たちは皆綺麗に真っ二つに引き裂かれた。

 その威力は奥深くまで届く。人だけではなく、自然や岩までも例外はない。


「さあ!アレイスター様へ愛を捧げる!」


 アーレスは次々と容赦なき拳を振り下ろす。


 直接殴られずとも、少し近付くだけでその余波を受け、身体が引き裂かれてバラバラになっていく。


 そんなアーレスを見たポセイドラとヘルメスは不満そうに不貞腐れたのであった。


 アーレスはそんな2人を無視し、楽しそうに虐殺を再び開始したのであった。
































『桜花楼獄』アレイスター


「っ!ここまで・・・」


「無理しないで。」


 ヘパイストスがアレイスターの身体を支えた。


 魔力を使い切りかけた・・・・いや、これはもう使い切ったレベル。


「あ、ありがとう・・・一気に3人はデカいね。」


「うんうん。でも。」


 ハーデス、ガイアは前の天使2人を地面へと平伏させていた。


 この状況を凄く簡単に言うとだ。


 ガブリエルの水に対し、ガイアは植物という名の水分吸収装置的な植物を生やして、一瞬にして魔力共々飲み込んだ。


 んで、その後は自慢の生命力溢れる暴力でボコボコ。


 逆にハーデスは相手の死という概念そのものを支配していた。正確には死を司る権能を使えなくしたのだ。


 まあ、俺でもよく分からん。

 ヘパイストスにも聞いたが、理解が追いつきません。


 そして狼狽えた黒い翼のお兄さんをハーデスはご自慢の魔力という数の暴力でボコボコ。


 無事2人の覚醒により、力という圧倒的暴力で制圧したのであった。

 覚醒した姿はフレイヤほど変化は無い。


「こんなものかね?手加減はしたがね。」


 何やら物足りない様子の闇ハーデス。


「あら?最初はイライラしていたのに?」


「フハッ。殺すぞ年増が?手加減してやったのだ。」


「あらあら、その言葉返しますわ。」


 何故か2人でバチバチし始める。2回戦目が始まりそうだ。

 ちなみにガイアさんは背中から触手生えてた。


「ぐっ・・・・・こ、ここは」


 青い翼の天使が何かをポッケから取り出す。


「石?・・・・・・まさかっ!まずい!」


 こういうお決まりパターンを熟知している俺である。


「アレイスター様?」


「あれは転移石だ!」


「よく解りましたね。ですが、」


「遅いかしら?」


 ガイアが青い翼の天使の腕を踏みつけた。


「ぐぅぅぅぅ!!」


 その天使の腕から植物や虫が食い破るように生まれる。


「ガブリエル!!ぐっ!」


 黒い翼の天使は最後の力を振り絞り、ガイアへと漆黒の大剣を振り下ろした。


「何かしら?」


「おやおや、危ないかと思ってね。

 死と生だ。お互い相性が悪いかと。」


 ハーデスがその大剣を後ろから振り下ろされる前にアズライールの後ろから指で剣を摘んでいた。


「ぐっ!まだだあ!」


「あらっ!」


 今度はアズライールが大剣を手放し、そのままガイアを奥へと押し出したのであった。

 踏み付けていた脚が腕から離れた。


 そして、その天使は石を素早く拾って唱えた。


「じゃあな、相棒。生きろ。」


「まさかっ!おま」


 青い翼の天使は転移した。


 が、黒い天使は転移する前に首と身体が斬り離され、心臓を抉り取られていた。


 俺はあまりに一瞬の出来事に声すら出なかった。

 2人は何の相談もなしにそれを行っていたのだ。


「ふう・・・・LRは首だけ跳ねても死なない可能性があるわ。」


「そう。だから心臓を抉り出し、再生不可能にした。」


 わざわざ説明してくれた。いや、それらをこっちに向けないで。


「そ、そうなの・・・・・」


 ゲロリンパしそう。


「ま、ともかく伝令を出そうか。

 こちらの戦闘が終わったことだし。そろそろフィナーレの時間だよ。ってね。」


 ハーデスから不気味な笑みが浮かぶ。


 作戦の概要を知らない。

 またしても、これから非人道的な何かが行われようとしているのかも知れない。





























 アテネ、イザナミ


「うん?来たか・・・・」


「無事に勝利なされたのですね。」


 黒い煙が空を舞っている。


 かつての王国はそこにあった。

 しかし、今はただの瓦礫の山、串刺しの死体が彼方此方に立っている。


「き、ぎざ」


「うるさい。」


 アテネは要所なく剣で転がっていたボロボロの修道女の頭を刺した。


「あらま。彼女LRでは?手土産にしないの?」


「できない訳ではない。

 むしろ、連れ帰る仕事はイザナミ。貴女の仕事です。」


「あーはいはい。解りました。

 なら責めて頭は刺さないで欲しいわ。頭部再生が1番面倒だから。」


 LRを殺す際は、入念に急所をつかなければならない。LRという存在は等しく化け物とされている。


「心臓があれば良い。頭はただの信号機です。」


「全く・・・・・冷静な作戦参謀様かと思ったら、案外めちゃくちゃするのね。」


 アテネも『神化』を使い、一気に王国を火の海へと変えていた。


 短期決戦が望ましいと判断されている戦いでもあり、アテネには躊躇や見せびらかすような仕草は一切行われなかった。


「SSRは皆んな皆殺しね・・・愉快愉快ね。」


 しかし、イザナミはこの光景を素晴らしいと思ったのか、優しく微笑む。


「アレイスター様への愛を誓えば生きられたのに。何と愚かで愚図な人類でしょうか。」


「それ以上は言わなくていいです。

 評議国とやらが乗り込んでくる前に撤退します。

 それに、これ以上アレイスター様と離れる訳にはいきません。」


 イザナミへ振り向いたアテネの瞳は銀色一色であった。


「はいはい、っと。回収完了しましたよ〜。」


 アテネとイザナミはすぐさま立ち去った。
































 オーディン、トール


「また壊すだけ壊しての。」


 公国の城以外が破壊されていた。


「あ?良いだろうがよ!」


「しっかしのLRが2人くるとはの。何と強運に恵まれた国じゃ。」


 オーディン、ロキの前には2人の英雄が立ちはだかっていた。


「何故、全知全能神であられる貴女が!」


 1人は英雄クー・フーリンと名乗る槍と杖を扱う軽装の女性である。

 もう1人はスサノオという武士の甲冑に身を纏う女性であった。


「知り合いか?」


「まあなんだ?彼女は本来この世界に居てはならない存在だ。」


 クー・フーリンはオーディンをあまり観たくなさそうに見るのであった。


「失礼じゃの。お主の師匠とは顔馴染みというのに。」


「それあんま関係なくね?」


「黙っとれの。」


 トールの真面目なツッコミに素で返す。


「アンタほど偉い神様がどうしてここに?逆に人々や王の導き手となるべきでは?」


 スサノオは北欧などの神話系に詳しくない。


「まあそうじゃの。そもそもワシらを召喚する事自体が普通ではないがの。

 しかし、ワシはそんなお方の声に惹かれたわけじゃ。」


「ヤツ・・・・・貴女様の王ですね。」


「王などというチンケな存在ではないが。じゃが、いい男だ。」


「ったりめえだろ!アタシの旦那だぜ?」


「いつからお前のじゃ!!」


 なんとも緊張感のないやり取りである。


 公国の周りは既に綺麗に整地されていたお陰か、LRたちが激突しても何ら被害は無かった。


 既にトールによって被害がもたらされていたからである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る