39 矛と盾 

 初めに召喚されたSSRのレイレたちは城内のホールへと集まっていた。


 アレイスターの配慮を察してか、アテネの指示で犠牲を生まないよう、SSRは極力城内へと避難させていた。


「既に中では戦いが。」


 ヘルメは自身の弱さを自覚していた。


「だろうな・・・チッ。俺らが気付かないレベルかよ。」


「アイナ。そうカッカしないで。」


 しかしアイナはイライラが止まらない。


 そんなインデグラはアイナを宥めようとするも、自身の弱さに情け無さを抱いていた。


「何でテメェらは落ち着いてんだよ!俺らが先にアレイスター様を守ってたんだぜ!?」


 ゾラはハッキリと言い放った。

 元々が感情豊かな人物でもあったが、ここまでよく我慢できたと言える。


「解っては・・・解ってはいます。」


「まあ、そうなるわね。」


「なら、どうすればいいかしら?」


 スカーレット、レイレもまた何もできない自分に歯痒さはある。

 だが、理想では現実を覆せない。


「強くなるしかないのぉ。妾たちも。」


「クロア!そう簡単に!」


「ゾラ。そう言って逃げる気か?

 私は構わない。強くなりたい。姉が来た今、私には可能性が広がった。」


「へ、ヘルメ?マジか?」


 あの普段熱くなる事すら無かったヘルメが珍しく本気になっていた。

 その様子にゾラは少し頭を冷やした。


「・・・・・私も。」


「ダレネも本気なのかよ。」


「昇華すれば良い・・・?」


「簡単に言うでない。」


「もう難しいなの!」


 セレナーデは解らずヤケになっていく。


「なら俺も強くなりたい!」


「じゃあ、なるにはどんな生贄が必要か。

 では、どうする必要があるのか?なら、そんな簡単に強くする方法があるのか?」


 ここに集まった9人とは違う声が別方向から聞こえた。


「お前・・・・・・」


 レイレはその声の主を睨みつけた。


 上の階からやってきたのは、なんとラプラスである。


「私は元来、戦いが苦手でね。そもそも計算が得意なんだ。

 だからこそ、役に立てるよ。

 まあ、前線に関しては君たち以下だけどね。」


「・・・・・・どんな方法でしょうか?」


「マジかよレイレ!」


 アイナは早計だと思ったのか、レイレに驚く。


 普段、賭け事のような場面は一切しないレイレであったが、もう躊躇う必要が無くなっていた。


「強くなりたい。強くならないとアレイスター様に。」


 ダレネもまた珍しく本気であった。


「ダレネ・・・・・そうなの。」


「そうじゃの。」


「なら、実行しますかね。幸いここらには沢山の生贄が転がってるからね。」


 ラプラスの手には本来見えてはいけない何かが浮かび上がる。

























 アレイスター


「全員頑張ってるのにな。」


 何とプライバシーのないことか。

 俺のモニターにはそんな9人の葛藤とラプラスのやり取りが映し出されていた。


「うんうん。」


 そしてヘパイストスは適当である。


「俺どうしたら良い?」


「うーん。動かないくらい?」


 適当なクセに妙なところだけ譲らない。


「えーーー!俺だって何か役に立ちたい。前からずっとそうだけど、ここでジッとなんてしてらんないし。俺も・・・・例え傷付く可能性があっても。」


 まあ無力か。


 頭脳は無い、前世はただの器用貧乏人、身体能力を普通、特技なんてもんも特別大きなモノは無い。

 行けば死ぬ可能性が高いことなんて俺でも解る。

 けど、今俺以外の人が、俺の大切な人が前線で命を賭けている。俺のために。


 召喚士の俺にできる事は?俺という木偶の坊に何ができる?


「・・・・・・アレイスター様。」


「俺は立ち上がりないといけない。男として情けない人生だけは送らせないでくれないか?」


「!!・・・・・・狡い・・・・・」


 そんなヘパイストスはとうとう重い腰を上げてくれた。

 彼女は特製のフル装備を一瞬にして装着したのだ。


「行こう。」


 そして彼女が手を伸ばしてくれる。

 

 俺は迷わず、その手を取って立ち上がった。


 桜花楼獄


「ふう・・・犬っころは死への耐性がある。面倒だ。が、強さはそうでも無い。」


「ま、そうですね。」


 空中に浮かぶ巨大な座椅子に座り、高い位置からアズライールを見下ろす。


「いつまで高みの見物をする気だ?」


「さあ?」


 ハーデスとアズライールの戦いはアズライールが終始ケルベロスを圧倒していた。


 そして、虫の息寸前のケルベロスへと死の鐘を鳴らさんとアズライールは歩き出す。


「普通に死への耐性があろうとも、この世に現界した以上、存在としてある種の実体としての生がある。

 ならば、。」


 死の大剣容赦なくケルベロスの首を3つ一気に刈り取った。

 なす術なく、ケルベロスは塵となり消え去っていく。


「結果は解っていたが、相手にもならんか。」


 やれやれと椅子から飛び出し、下へと降り立つ。


「そうだな。ただ死への耐性があったからこそ、ここまで粘れたと思うが。

 それもここまでだけど。ここから先はお前、ハーデスよ。貴様に本物の地獄へ招待しよう。」


「ヘぇ・・・舐めるなよ小僧風情が。」


 ハーデスの両手にはドロドロとした闇の魔力が漏れる。


「地獄をたっぷりと飲ませてやろう。」


「アズライール!!無事でしたか!?」


 そんな焦り声と共にガブリエルが後ろへとやってきた。


「ガブリエル?こっちはまあ、何とか。まだ始まってすらいないけどな。」


「そうでしたか?こちらは困った者です。大地の聖母が相手ではお手上げです。」


 奥から何かがやってくる。


 彼女が歩いた跡には植物が生まれる。

 何も無い場所に新たな生命が吹き込まれていく。

 綺麗な花が足元に咲いた。


「あらあら、天使さんなら喜ぶべきじゃないかしら?こうやって自然がまた豊かになるのです。

 そんな環境が整いつつあるのに、何故お喜びにならないので?

 さあ!もっとこちらへいらしてください!」


 そんな皮肉とも取れるような言葉をガイアは投げかけた。


「その自然が我ら天使、引いては人間すらも飲み込む生命だからだ。」


「まあ何て酷い!・・・・フフ、正解よ。」


 ガイアもハーデスと合流した。


「あまり私に近付かないでもらっても?」


「あら!貴女まで言うの?」


 ハーデスは実際に嫌そうに距離を取る。


「その生命力がチクチクと痛いのだよ。」


「そう・・・・・でも、ごめんなさい。目前の敵を殲滅しないと治らないの。」


「いやそう言う問題では・・・・・はぁ・・では、私も死のエネルギーを発動するが良いかね?」


「ええええ・・・まあ、しょうがないけど。私の可愛い生命ちゃんが可哀想に。」


「それは逆に私の方が可哀想だ。」


 ハーデスはやれやれと頭を抱える。

 しかし、近付く何かにハッと。反応する。


 それは近くのガイアもそうであった。


 コツ・・コツ・・コツと階段を降りる音が鳴り響く。


 そしてそれは階段から姿を現した。


「お?こんな近くで戦闘が繰り広げられてたのか。よし!俺も混ぜてくれや。」


 普段着のアレイスターと完全武装のヘパイストスが参上してしまった。


 アレイスター


「劣勢なのか?俺の目には均衡しているような感じだが。」


「多分・・・解らないけど。」


 ま、そうか。鍛治士の神様に戦いのイロハなんて知らない訳だ。


「俺にできる事はっと。」


 メニューと唱える。


 アレイスター(仮)LV284


 職業 召喚士

 スキル 支配、神化、言霊、思念、投影、調教

 称号 世界の敵、殺戮の王、孤高の王、性の王

 サブスキル


「レベルが上がって色々と解放されてるか。

 つーか、情報量が多過ぎだ。こんな戦場で開くとか、俺ミスった。」


 使い方は愚か、自分のレベル上がっていた自覚すらな抜けていた。完全に主人としてマヌケな姿を晒してしまったか。


「アレが親玉か。・・・・覚悟!」


 1人の黒い翼の天使がこちらへ迫る。

 その殺意に足がすくみ、動くのにやや遅れが


「させない!」


 ヘパイストスが前に出る。


「張りぼてが!」


 そんな黒い翼の天使の前にドス黒いゲートが開く。

 扉からは地獄からの死者なのか、幾つもの黒い手が天使を捕らえる。


「全く。危ないとアレほど言ったのに。

 しかし、その勇敢さは流石です。」


「そうね。アレイスター様はこんな所でじっとしているお方ではありませんわ。世界の頂点にただお1人だけ君臨される方ですから。」


 ガイアとハーデスがいつの間にか隣に。


「凄くビビってたのであまりヨイショしないで・・・・・・でも、ありがとう。守ってくれて。」


「その言葉だけで十分でございます。」


「アレイスター様。我らから離れないように。」


 なんか逆に申し訳ない。が。


「俺も役に立てるって事を見せ付けに来た。

 LRの戦いはどちらにその相性、戦場、ちょっとした力量差によって勝敗が着く。

 が、基本的にはLR同士の戦いは戦闘がほぼと言っていいほど膠着状態になる。」


 俺は俺なりにゲームにおける自論を提唱する。


 ハッキリ言ってゲームと照らし合わせるのはどうかと思う。

 だが少なからず、フレイヤとの戦闘データから多少の推察ができた。


 フレイヤの場合、俺の『魔化』スキルを使い圧倒した。

 しかし今回そのスキルを授けられたのが、僅か3人だけ。フレイヤ、ゼウス、アテネだ。


 よって、この3人以外は厳しい状況になる可能性があると勝手に判断した。

 世界の敵である以上、数の暴力で力押しされて飲み込まれる。

 もしくは同等の存在に囲まれる。


「だから俺の力を授ける。『神化』!」


 俺は2人の背中に手を添えてスキルを唱えた。


 今なら・・・行ける気がする。


「これは!・・・・・・・・何と気持ちいいことか!」


「あ、アレイスター様の大きなモノが入ってきますぅぅ!」


 おい余計な事を言うな!気が散る!


「な、何だ一体!?」


「今すぐにでも止めましょう!」


 そんな2人の前に大きな盾が降り立つ。


「そうはさせない。」


 ヘパイストス特製の盾が彼らの行手を阻む。


「チッ!」


 ヘパイストスの伝説級の盾が守ってくれたお陰で、無事力の付与が完了した。


「ふう。2人分だけどやっぱ魔力が上がってる。まだ余裕があるな。」


「あ、ありがとうございます・・・・」


「とても気持ちよくなりました。」


 何故が2人が半脱ぎのセクシー状態に。


「何やってんの?」


「アレイスター様の大きなモノが今でも身体にいるようです。」


「わ、解った。とりあえずお願い。」


 これ以上は俺の精神が先に死ぬ。


「かしこまりました。」


「お任せ下さい。」


 2人は服を着直して改めて敵へと振り向く。

 

 そんな新たな力を手にした2人が敵を飲み込もうと、力を発動していく。

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