37 一方的

 王国軍と相対するテュール、アフロディーテ


「?・・・・・・・」


 ディーテはよく解らない何かを察知した。

あまりにも一瞬であり、ほんの僅かな歪み。


「どうした?ディーテよ。」


 ディーテの能力で『桜花楼獄』 周囲には草木が巻き付いている。

 そんな草木から変な反応を微弱ながら感じ取った。


「いや・・・・・・気のせいかしら?」


 ディーテは『桜花楼獄』のある方角を眺めていた。ほんの一瞬だけ、何かに斬られたような。


「何か察知したのか?」


「解らないわ。今この状況から抜けるにしても少々時間が入るでしょうに。」


 テュール、アフロディーテは大軍の王国兵に囲まれていた。

 空からは竜騎士隊、陸は歩兵・騎馬に勇者と、側から見れば絶体絶命のピンチではある。


 しかし、そんな彼女たちからすればピンチの内にも入らない。


「下手に一方的に虐殺をすれば、奥にいる別の奴らが更に攻め入るか。

 そして、公国にも攻撃の手が入る可能性がある。」


 テュールはフレイヤが向かったとされる後方より、更なる後ろを見る。


 今はまだ見えない。しかし、テュールの目にはもっと別の国を捉えていた。


「そうなると・・・小生らは消極的な戦法を取るざる終えなくなる。」


「更地で籠城ね。美しくないこと。」


 唯一言えることは、多くの死体が転がっている更地である。


「下手に虐殺し過ぎずに虐殺する・・・か。随分と難しい指令だことで。」


「しかし、小生的にもその方が楽だ。

 小生らだけでここを保てれば、後は後ろで何とかなる。」


「そうね。そこは美しいわ。ただ、向こうが気になるわ。」


「問題なかろう。アテネのことだ。

 だから、もう少し遊んでもらうとしようか?」


 テュールは意識のない王国兵の頭をカチ割り、再び戦いに集中するのであった。






































 覇王国 ゼウス、ベローナ、アポロン


「軍団と軍団を争せ、時間を稼ぐか。」


 ゼウスたち周囲にも死体がわんさかと転がっており、建物は見るも無惨に破壊し尽くされていた。


「我らは虐殺というより・・・・な?」


 ゼウスはベローナに問いかけた。


「そうだ。私の見解によれば、この国は戦を勝ちには来ておらん。

 現に兵隊を送る素振りをし、国の前に配置してあった。

 むしろ、別の何かを待っている。」


 そう言いつつも、アポロンによって覇王国兵たちは甚大な被害を被っており、覇王国内はゼウスとベローナにより荒らされていた。


「とすると、そのためにも我を温存しておく必要がある。」


「その通りです。」


 ベローナはゼウスの問い掛けに返答する。


「にしても、あまりにも消極的ですね。

 兵を失わせず、そして近づき過ぎずに距離を取っていましたし。

 やっぱり別の何かに対応するため、この布陣にしていたような。」


 アポロンもつい覇王国の奥側を確認しようと見るが、その姿を捉えられない。


「アポロンの矢なら届きようもある。」


 ゼウスはアポロンの実力を理解している。


「勘弁して下さいよ。何万いるのか知らないけど、その相手に私だけ力を使うって不公平では?

 まあ、アレイスター様の命なら躊躇わないですけど・・・ただまあ、後ろで待機しているであろう人を考えると。」


 あまりのむず痒さについ本音で話すアポロン。


「そうだな、我ら的にも面倒になる。」


 ゼウスはため息と同時に面倒くさそうにする。


「なので、この戦法へと切り替えしました。

 これなら最悪の場合、アポロンが公国へ救援に向かえます。」


「確かに、ゼウスなら遠距離と近距離が務まるからね。私がチマチマ撃つより、効果的ね。」


「まあ・・・そうなるな。」


「ただ本当に動くのかが、読めません。」


 ベローナですらそれは解らなかった。

 周囲の地図を再度見直しても、見当がつかない。


 そもそもここのマスターが不在なのだ。


 この3人も覇王国の背に潜む敵に注目しているためか、終始大きく動けずにいた。


 しかし、覇王国自体は半壊している。




































 アーレス、ヘルメス、ポセイドラ


 彼女たちの戦場はズブズブに濡れ、地面が土砂のようになっていた。

 そして、所々に人の手足や顔が見える。


「大分沈めましたが・・・・・」


「明らかに共和国の兵じゃない奴らもいる。」


「黒鎧ね・・・バーサーカーのようだね。」


 ヘルメスの考察から後方にいた敵の正体が暴かれる。


「ただまあ、蹴散らすだけだな。」


 アーレスに再び火が点く。


「そうかなぁ?・・って、蹴散らすも何も埋まり散らかしてるけどね。」


 ヘルメスには少しずつこの状況が読め始めていた。


「あ?」


 アーレスが不自然そうにそんなヘルメスへ視線を向けた。


「いやねぇ、どうも引っかかるというのか、何で殺しても殺してもうウジャウジャと湧いてくるのかな?ってさ。

 それにSSRもしれっと紛れている。」


「後方にも同等の存在を確認しております。」


 ポセイドラからも報告が入る。

 今現在、周囲の敵兵は全て下へと飲み込まれている。


「はあ?まじ?どこどこ!?」


 アーレスには目による索敵スキルがないため、ただの視力でひたすら周りを探していた。


「アーレスの目には見えないかな?(脳筋か。)向こうは神ではなく、英雄の類だと思うけど。」


 ヘルメスから見て右側を指す。


「それに戦うより頭脳と見ました。

 何と残念なことでしょうか、こちらに最も足りないのが知力です。」


 ポセイドラは痛感してはいるが、そこまで焦燥感は見せていない。


「ま、ポセイドラの言う通り。堅物、根暗、脳筋の3人に見事ぶつけてきた訳だ。

 あちゃー、一本取られたね。」


「はあ!?って!脳筋ってアタシかよ!ざけんな!!」


 アーレスは憤慨するが、それでも辺りを見渡すと落ち着く。

 ポセイドラは特段リアクションは取らない。


「要は、元々アタシらがここに来た時点である程度は読まれていた。って訳だ。

 何の前情報もないのにか?とか気になるが、とにかく目前の敵を全員潰す。」


 アーレスは再び拳をポキポキと音を鳴らし、気合いを入れ直す。


 周囲には再び黒い鎧の騎士が出現していた。


「下手に考えるより、私たちは私たちなりに動いた方が良さそうだ。その方が向こうも厄介そうにしてくれるかな?」


「よぉっしゃあ!行くぜぇ!」


 アーレスは再び敵兵へ突撃を始めた。ウジウジするより、動く派である。


「なら私もやります。」


 ポセイドラも水属性の大魔法を発動する。

 魔法で作られた水龍のような形が彼女の背後から現れた。


「私は私なりにあの軍師さんに嫌がらせをしようかな。」


 ヘルメスはニヤニヤしながらその存在を潜めた。









































 アレイスター


「足止めって、こんな一方的でしたっけ?」


 どの戦いもなんかね。こう・・・ね!?

 まあしかし、力だけが全てではないようです。

 何となく個人的見解だけど、こちらが上手く立ち回ってはいるのでは?よく解らんけど。


 所詮は素人童貞(戦争の)です。


「・・・ただ少しはお気付きになられたのでは?」


 ハーデスがこちらの心境を察してくれた。


「だろうな。俺でもそういう戦法は取るかも。(いややっぱ知らな)こっちの人数はLRがいても、人数自体は少ない。

 いくら強くても、このまま数で攻められ続けられるのは厳しい。」


 上手くありきたりでまとめた。

 あれよ。数の暴力的な理論ね。


「あれらを皆殺しにすれば、全世界の猛者が一斉に襲い掛かってくるかもしれませんね。

 まあ、現に来たとしても・・ですがね。」


 ハーデスは実力に自信があるのか、含み笑いをしている。


 どんなクソゲーだよそれ。素直に俺はそう思った。


「それは1番怖いな・・・・・向こうは様子見も兼ねて、実力も計ろうとしている。

 下手に突っ込まずに俺の顔と能力を拝見すると。情報が漏れれば漏れるほど、こちらが少しずつ不利な状況にさせれらる。」


 ええ。とハーデスも頷く。


「ですが、現状守りに徹するには厳しいですね。

 まあ、アテネ、ロキ、ウトガルザ、テュール、ベローナ、オーディン、ヴィーザルと切れ者が居るので、こんな状況ぐらい理解しておりますが。

 口惜しいのが、我らにとってはアレイスター様に何かある可能性が残るというのがあってはなりません。」


 智者が多いのも助かる。

 たまたまなのかもしれないが、ここまで必要な人材が的確に集まってくれたのは奇跡に等しい。


 だからこそであろう。そんな彼女たちの強さがなかなか出すに出せない。俺のせいで。


「まさしく神に命運を託す。と言った所か?」


「フフフフフ。間違ってはおりますまい。

 むしろ命運所か、世界を託しております。神がこぞって1つの世界を創ろうとしているのです。

 これくらいのピンチはあって然るべきかと。」


 簡単に言ってくれるな。フッ。やっぱツラ。

 まあ、強さと自信は絶対必要だ。

 だが、俺本体は少し前まで一般人だ。

 

 そんな俺が大きく大胆にも繰り広げて見せたものの。

 でも、こういった事態も予測はできない訳でもない。が、できたら何だ?俺に対処なんて夢のまた夢だ。

 そんな夢を描くより、神に頼った方が早い。召喚士はそうあるべき・・・だと思う。


 力は手にした・・・?

 ただ、自分がそれで変われたのか?というと、全くそうでもない。使い方としては適切なのかも解らない。

 召喚士はあくまでも人物召喚のみ。

 道具系は不可能であった。


 以前、LR召喚石がどこから獲ってきたのか解らないが、それを元にある実験をしてみた。

 武器や道具も創造できるのか?だ。

 だが、実際に召喚した所・・・・・・


 戦争前アレイスターの自室


 フレイヤが側で見守ってくれている。


 早速お姉さんに見守られながらもLR召喚石を使い創造と想像を行う。


 『「こいっ!!俺の武器よ!」』


 巨大な光と魔力の渦が形成される。


 こんな形状は初めてである。

 違和感は凄まじいが、もしかしたら当たり的な何かか?


 ブォーン!!と召喚が終わった。そんな煙から出てきたのは・・・・・


 武器LR『バナナ』(携帯食)

 ※中身がある場合、攻撃力1

 ※中身がない場合、攻撃力0

 ※中身がない場合、トラップへと変形

 ※モデルは召喚主

 ※召喚主以外に装備不可


 『「・・・・・・・・へ?」』


 フレイヤは何故かそのバナナをまじまじと見つめる。その表情は何故か興奮している。


 じゃないわ!


 『「なんでや!!」』


 つい定番のあのツッコミをしてしまった。いやそんな事より。


 『「何でバナナ!?何で武器!?しかもモデル俺かよ!デカいし反り立ってるし!再現度的により腹立つわ!

 しかも謎なのが、無駄に説明文長い上にオリジナル装備かよ。いや、100歩譲ってもオリジナルだけど・・・・バナナLRだし・・・・・いや、この世界にはない・・・・そりゃ、世界壊したくもなるわ。」』


 と、こんな事があった。


 解らないなら、正解を自分で模索するより正解に最も近い奴に誘導してもらう方が良い。

 これ以上、色んな意味で痛い経験のお勉強は勘弁してほしい。そんなんなら普通に殺される方がまだマシ。


「この世界でも勉強と努力は必要か。」


 少し遠い目をしながら答える。


「不要にはなりますまい。が、アレイスター様は何もしなくて良いのです。

 ですが、ご自身で動かれるお方です。であるなら、神である我々は貴方様を守り、導いていく。」


 死の神ハーデス。大きく腕を広げるその姿が美しく魅入られる。死の匂いを発しながらも惹かれる。


 本人に俺を殺す意志はない。

 しかし、自身の生命がアラームを鳴らす。


「ありがとう。ただ死神の道案内は怖いかな?」


「あ・・・確かにその通りでした。」


 ガチなんですけど?


「ハーデス様。」


 赤肌の元異界人ナナカが報告に来た。


「侵入者が予定通りに入られました。」


「ああ、そうかい。」


 ハーデスは裸のまま立ち上がった。


「アレイスター様。少し空けます。大丈夫。ここは私の意思でしか開きません。」


 どうやらなんかするらしい。つか、予定って何よ。


「死ぬなよ。」


「私は既に死んでいるに等しい。ですので、存在を埋められないようにしましょう。」


 薄ら笑いを浮かべ、ナナカと共に立ち去っていった。


 予定通り侵入者?あれ?防衛戦じゃないの?またしても、情報共有が。


『桜花楼獄』内部


「何と薄気味悪い。」


「不自然なほど静かだ。

 建物の構造からして広く、誰かしらは居るのが明白ではある。」


「しかし見るからに収容施設だ・・だが。」


 どれだけ檻や周囲を見渡しても人っこ1人居ない。

 まるで、廃墟のようにただ静かに佇む。


「やあやあ、諸君。」


 そんな静けさをかき消す声が聞こえた。


「お招きありがとうございます?とでも。」


 青い翼の天使は皮肉げに答えた。


「解っているなら早い早い。」


「やっぱりか。」


 黒い翼の天使は不気味さを感じつつも周囲への警戒を行う。


「まあ、君たちもそう考えた上で来たんだろ?

 であるなら、お互いその後はどうするかぐらい相談してある筈だ。」


 ハーデスは姿を現さない。正確には姿を消している。


「そうですね。

 ですが、まず姿を見せないのに話す価値があるのとは到底思えません。」


 青き翼の天使は見えない相手にも臆さず、冷静に言葉を返す。


「うーむ。霧が案外効いている?なるほど〜・・・・・天界の関係者か。」


「うっわ。もしかして魔界だったり。」


「違いますよ。この神気は・・・・・我らと同じ者だ。」


「そこの青髪さんご明察通り!いやーー!素晴らしいご回答だ。おめでとう。」


 すると、目の前の霧が少し晴れる。


 そんな彼らの前には、恐ろしく巨大な3首の番犬が待ち構えていた。

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