36 戦争よ再び

 フレイヤ、テュール、アフロディーテ


「まあ。美しくないことね。」


「聞きしに及んでいたが、あれが勇者か?酷く歪んでいるようだ。」


「美しく無いことに、焦りが前面に出てますわね。」


 再び攻め入った王国軍、そんな先頭に立っていたのは勇者ヤスヒコである。


 装備こそ整ってはいるが、焦りの表情と顔色の悪さが窺える。

 しかし、彼の大事な仲間を取り戻すべく、再びこの狂気の国へと足を踏み入れていた。


「貴女のせいよ、フレイヤ。」


 ディーテは尽かさずフレイヤを批判する。その視線は殺す気で射抜く。


「うるさい、遊んでいたら逃げられただけだ。それに」


「ふむ。フレイヤは遊び癖を治せ。」


「新参者に言われたくないね。」


 眼帯女性のテュールは今回が初の戦闘である。

 そんなテュールは鼻笑し、やれやれ。というリアクションを取った。


「と、言われてもな。小生がお主らより先に出た方が良かったか?」


 更にその一言は2人の癇に障った。


「あまり美しくない事を言うようなら、貴女から消しますよ?」


「フフ、ディーテは落ち着いたら?私は今すぐ消したいけど。」


 フレイヤは既に落ち着かない。


「・・・・・・・私は私でやります。この美しき大地で美しき攻めでアレイスター様を楽しませてみせましょう。

 私の美しさはアレイスター様のお気に召すことであるし。」


「ディーテは美しいだろうな。

 だが、お前の芸術を美しいと思うかは知らんが、この際はどうでもいい。小生はアレイスター様へ完全なる勝利を提供し、褒美をいただく。」


 テュールの瞳には自分への自信が宿っている。


「ふぅーん、何か欲しい物でもあるのかい?」


「物など要らぬ。アレイスター様以外要らん。」


 キッパリと言い切った。


「やっぱり。どいつもコイツもほんと私のアレイスター様を狙うよね?」


「はあ?貴女のではなくてよ。」


 早くも3者に殺伐とした空気が漂う。

 しかし、テュールが切り替えるよう一回だけ手拍子を鳴らす。


「ま、それは後にしてだ。今は目の前の軍勢をどう我々だけでどう殲滅できるかだ。

 小生としては弄ぶのは避けたいところだ。」


「テュールの大規模魔法で始末したら?君のルーンと剣ならできるだろ?それともその眼帯でも剥いだら?」


「私は知らないわ。違う系統だし。」


「ペラペラと・・・・」


 フレイヤとテュールは出自が同じである。

 だからこそ、お互いの力を知っている。


 だが、そんなテュールは別段怒る事はなく、そんなフレイヤに脱力感を覚える。


「だがその場合、あの勇者は小生がいただくぞ?」


 フレイヤは考えるフリをした。


「・・・・・まあ、今回は初陣を上げるよ。私は敵の後方を抑えるし。」


「あら?フレイヤにしては消極的ね。何考えているのかしら?」


「別に。アレイスター様に捧げる戦いだから、今度こそ逃す訳にはいかないだけ・・かな?」


 何か煮え切らない様子である。


「フッ、なるほどな。いつからそんなに性格が悪くなった?」


 テュールは何かに気が付いたようだ。ディーテの頭の上には綺麗なハテナマークが浮かぶ。


「はい?・・何で2人だけで・・・・美しくない。もう好きにしなさいな。」


 アフロディーテは不貞腐れるように敵陣へと先行していく。


「じゃあまた。」


 フレイヤはテレポートで消える。


「・・・小生の光は少しばかし強いが、すぐに消滅してくれるなよ?」


 テュールの周囲にルーンが生成される。

 ルーンの輝きがテュールの美しく褐色肌を照らし出される。


 そして、大きな光のエネルギー体が王国軍全体を包み込む。





































 ゼウス、ベローナ、アポロン


「あの光・・・・・」


「テュールだな。」


 ベローナは光には目もくれずに返す。ただ前線のみを見つめている。


「知ってるのか?」


「同じ出自だ。ゼウス殿とアポロン殿がそうであるように。」


「ゼウス様。我らも出陣しましょう。

 あまり遅れてもアレイスター様の心配を煽ってしまうだけです。」


 アポロンはすぐに興味を無くしたのか、急ぐようにゼウスへ進言する。


「うむ、そうだな。我らも進軍するとしよう。

 愚かな覇王国に怒りの雷を落としてしんぜよう。」


 ゼウスの黒い肌から電流がほと走る。

 雲のない空に雷鳴が轟く。


「最初の一撃をゼウス殿が?」


「ああ。我の場合はここから大胆に狩る方が効率がいい。

 そして、撃ち漏らしをアポロンが射抜き。ベローナには敵将を葬ってもらう。」


「なかなかいい案です。

 かしこまりました。それで行きましょう。」


 ベローナは片手に剣を取り、神速の速度で目の前から消え去った。


「はっやー。あんなの私ですら射抜けないよ」


「なるほど。勝利の女神とは言ったものよ。我らも負けてられんぞ。」


「承知しました。では。」


 アポロンの頭上に中規模の太陽が浮かぶ。その太陽から灼熱の焔矢が掃射される。


 紅蓮の赤き矢が次々と敵の急所を上から貫く。刺さった箇所から身体全身を炎が包む。


「炎に雷とはな。更に疾風か。覇王国の奴らもつくづく可哀想だ。」


 ゼウスの心にも無い一言を発した後、複数の稲妻を建物を中心に当て始める。














































 アーレス、ヘルメス、ポセイドラ


「は?変な色だ。」


 前の軍が纏っている装備の色はパープル一色であった。


「色はどうでもいいでしょうに。まあ、戦場に紫色はどうかと思うけど。」


 ヘルメスは然程興味はなさそうに会話に付き合うのであった。


「どうでもいい。早く沈めるだけ。」


「ポセイドラ。貴女の海はここら一帯を巻き込むだけ。もう少し考えて行動しないと。」


「そんなヘルメスだって後ろからコソコソとカッ切るぐらいだろ?」


「まあ、私はそうね。

 じゃっ!アーレスがやっぱ適任かしら?」


「大地を砕き、地を抉るからな。戦いはアタシを高揚させるぜ!

 けどやっぱ1番興奮すんのが、アレイスター様と寝た時だな。」


「それは全員そうでしょうに。」


「やっぱか?ヘルメスもそう思うか。

 アッハッハッハッハ!・・あー、早くアレイスター様の下へ帰りたい。またアタシを蹂躙してほしい・・・・」


 凶暴な表情から一気にうっとりとした乙女への表情に切り替わる。


「う、うむ。アーレスにそんな趣味があろうとは。」


 さしものポセイドラも動揺する。

 しかし、聞き捨てならんといった表情をしたアーレスは。


「あのな、アレイスター様のアレは凄いぞ元々アレイスター様の虜だけど・・・けど、アレは相当すごいぞ!」


「ちょ!大声で言わないで貰っても!?今はそれどころじゃないでしょう。」


 流石のヘルメスも声の大きさから周囲を見渡す。

 誰も聞こえてはいないが、恥ずかしさゆえ、何故か気になってしまう。


「ケッ。ヘルメスも白目剥いてたクセに。」


「なっ!あ、貴女ねぇ!!」


「来たぞ。」


 そんなカミングアウトをスルーし、殺意を敏感に察知したポセイドラ。


 3人の前後へ砲撃が撃ち込まれた。


「カァーーー!奴さんピンピンしてるねー!」


 その身に砲撃を受けているが、全くのノーダメージである。


「もう、アーレス!後で説教!早く行ってきなさい!」


 ヘルメスが薄く防壁を張っていたようだ。

 攻撃が来ることを事前に解っていたアーレスからしたら、実は不要な防壁であった。


「はいはいっと。」


 アーレスは迫り来る軍勢へと突撃を仕掛けた。


「私は?」


「ポセイドラは逃げられないように左右を海で挟んで。私もアーレスと共に前から後ろへ首を並べてくるから。」


 ヘルメスの飄々とした雰囲気から殺意へと変化する。


「アレイスター様を軽んじる輩は全員殺すよ。」


「当たり前だ。さあ、海の藻屑とかせ。」


 ポセイドラの海水による左右からの防壁の波、そして前からは、2つの凶暴な暴力が共和国軍を飲み込もうと軍の前に姿を現した。














































 ミリス、カイネ、ユンフィ 公国王城大広間


「順調ね。」


「はい。我らの出番」


「いえ、出番は果たしている。斥候や暗殺隊がちらほややってきてるわ。

 それも王国、覇王国、共和国以外からも。」


 アテネの作戦は本来、ネズミ1匹すら侵入を許さない布陣であった。

 しかし、フレイヤによる意外な提案が上げられていた。


「・・・・・・敢えて・・・ですか。」


「ええ、我らデザイア、貴女の騎士団で対応に当たってるわ。今の所、LRの襲撃はない。

 いえ、下手に知らない土地へは寄越さないわね。

 むしろ、使い捨てが良いところね。」


「アレイスター様。」


「うん?」


 ユンフィではあるが、いつどこで誰が聞いているのかが解らないため、敢えていつも通りに振る舞う。


「ここも時期、侵入者が来る可能性があるかと。

 しかし、『桜花楼獄』への侵入はしないでしょう。ですが、城は別です。

 これといって、特別な罠や結界を施した訳ではありません。」


 フレイヤの提案は至ってシンプル。

 偽の主人を釣り餌にしたのだ。他国の患者を釣れるだけ釣り、全員収監し、拷問と蹂躙を行うため。

 快楽として満たすのも目的ではあるが、情報を搾り取る事も目的としている。


「来る。という事か。」


「3国が同時に攻め入るということ。

 つまり、同盟国同士による連携ですね。偶然にしてはでき過ぎなのは明白です。なら次は。」


「4国目による暗殺もある。」


 ユンフィが答えたように、あくまでも攻めている軍は3ヶ国である。

 しかし、攻め入っている事は、他国も周知している。


 ただ何もしない訳がない。必ず、何かしらの行動を取ることが推測できる。


「敵が未知数である以上、何ヵ国で襲い掛かるのかは不明ですが。少なからず、襲撃は増えるでしょう。

 公国は元は評議国と同盟関係です。内部情報は多少なりとも知られている筈です。」


 カイネの話は理解していた。ミリスは更に考え込む。それとは別に引っ掛かることもある。


 作戦指揮をメインで指揮していたアテネの姿が見当たらない。


「もしかして・・・・・・」


 ミリスは何か嫌な予感が過ぎるのであった。







































 ????


「潜入に成功した。」


「警備がSSRだけというのもある。」


 1人は漆黒の翼を生やし、髪色は白いのボサボサヘアーに肌白く目下にクマができている。

 如何にも体調不良そうな見た目である。


「SSRのみなら全員殺すか?」


「下手に暴れれば既にお前たちの国にいるぞ。と言っている者だ。

 後何人同類がいるか解らないのに、そこまで大胆な行動は取れない。」


 もう1人は青く長い髪を束ね、美しい顔立ちに眼鏡をかけている。同じく翼を宿してはいるが、色は水色である。


 両者とも男性であり、どちらも天使のように美しく、輝かしい。


「だが我々だけというのも、思い切った行動だ。もう少し様子を見るかと思ったが。」


「何、陛下たちが彼の国に危険性を示唆したのだろう。

 だからこそ、『真実の瞳』を宿す我々天使の出番という事だ。」


 青い翼の天使が眼鏡を外し、城と楼獄を見分けていた。


「何が真実だ。んなもん、向こうの城が影武者なのは見るからに解る。

 なら、上空から見えたこのデカい城が。」


「隠れ家だ。城なのかは知らないが。」


 彼らの目の前には『桜花楼獄』が映る。


「濃い霧だ。」


「だろうな。この中には死の神がいる。」


 黒色の翼の男が反応する。


「なるほど、俺と同じ。」


「まあ、そうだな。相性は同等だ。」


「なら、やりようはあるか。」


 突如潜入した2人の天使は、アレイスターのいる牢獄へと足を踏み入れた。


 この2人はアレイスターを確実に殺すため、とある国から派遣されたLRであった。

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