33 強者

『桜花楼獄』から鳴り響く叫び声を聞かなかったことにしてと。


「アレイスター様よ、ワシの力はどうじゃ?」


「流石だよ。」


 よく分からないけど。


「アレイスター様。アタシもどうだった!?」


「私も懸命に頑張らせていただきました。」


「3人ともありがとう。お陰で力の照明ができたよ。」


 全く何の力か分からないけど。

 分かる事はとりあえず何か浮き上がって、とりあえず何か光ってた。

 んで気付いたら全部殺戮されてた。


「あの帝国・・ワシに命令してくれれば、すぐにでも滅ぼし、見せしめにしようぞ。

 勿論、アレイスター様のためにの。」


 俺ってどんな奴だと思われてんの?


「オーディン。そう急かなくてもすぐに出番はくる。

 だからそれまで遊んでいてくれ。」


 まるで猛獣を飼っている気分だ。

 気が滅入るというのは正にこのこと。贅沢な悩みではあろうが。


「むう・・・ならアレイスター様の側にいるのじゃ。それがワシの遊び。」


 オーディンは輝かしい色の腿を敢えて見せつけ、誘惑する。


 美しく煌めくその妖艶さに思わず見惚れる。

 しかし思うのだが、それ以外やる事ないの?


「オーディンばかり狡いぞ!アタシもアタシも!」


 トールが勢いで抱き付く。5ダメージ。

 ロキは優しく寄り添ってくれた。5回復した。


「この三神に身を寄せられるとは。」


「あまり近付かないでほしいな。」


 この独占欲が強い感じ、フレイヤさんですね。隣にはゼウスさんまで。

 こっちは物理的にピリピリしてますね。いや見えないアレではなく、ガチの放電だ。


「我のだぞ、馴れ馴れしくするとは・・・・」


 ゼウスさん。ビリビリというか災害モードだ。フレイヤに関してはメラメラだけど、それはいつでも災害モードだ。


「ほう、面白いの。」


 オーディンが光輝く。


 その輝きの近くにいた俺はあまりの眩しさに視界が一瞬だけ、ブラックアウトした。

 黄金肌ってエロいけど、時に目を殺すよね!


「ここで争うんじゃねえぞ!!」


 アーレスが怒りの雄叫びが聞こえた。

 どうやら3人の間に入ったらしい。


 つか、久々な気がする。それとまさかのアーレスさんが止めるとは。


「アーレス。」


 未だ薄らとしか視界が回復していない。


「アレイスター様。暫くの間軍事演習で来れなかった。すまねえ。

 ベローナが来てから練度が上がったお陰でようやく解放されたぜ。」


「はあ。何で美しい私まで。」


 ディーテも久々だ。視界が回復してきた。


「おやおや?皆んなここに居たのかい?」


 ラプラスまで何故か居た。

 視界が回復したが、何故か元々居なかった人がいつ間にか居るような?あれ?残像?


「ギャラリーが増えたね・・・どうする?オーディン、やるの?」


 フレイヤは明らかな挑発を仕掛けるも。


「・・・・・やらんわい。」


 空気が読めるオーディンさんは好きです。


「ほっ。」


 何とか国内戦争は免れた。


 オーディン様は智者と聞いたが、御伽噺と現実はこうも違うものなのだろうか。


「まだやる事あるし、取り敢えずは一旦ね。」


 静寂が走った。

 

 ほんと、王様ってのはストレス耐性が高い奴がやるべきだよ。















































 オーディン


「むむ。折角のチャンスが・・・・・・フレイヤめ・・・・」


 『桜花楼獄』から少し離れた森で1人ウロウロとしていた。


「オーディン。」


「テュールか、今まで裏でコソコソと?」


 森の茂みから、眼帯と身体の傷跡が目立つテュールが現れた。


「フッ、まあ・・・な。お前が潰した国に召喚石は?」


「無かったわい。あまり探索という探索をしてこんかったらしいの。全く、とんだ無駄骨じゃ。

 アレイスター様とイチャイチャタイムかと思ったんじゃが。」


「まあ、安心しろ。そんなアレイスター様から、「後で待っている。」とのことだ。」


 アレイスターは根回しとしてテュールに言伝をお願いしていた。

 社会における、リスク管理の一環である。


 しかし、テュールは表情にこそ出さないが、心内ではかなり嫉妬している。


「何と!!!誠かの!?」


 オーディンはそんなテュールには気付かず。


「嘘を言ってどうする。小生はまだやる事が山積している。小生も早めに仕事を終えたいものだ。」


「けっ。お主らが頑張り過ぎればワシの時間が減るわ。」


「お前の場合は時を止めれるだろう?」


「まあの・・・・その方が長い時間居られるからの。」


 ただし、アレイスターの命の保障ができない。


「羨ましい限りだ。それじゃ。」


 眼帯クールビューティはクールに立ち去る。


「うむ。おめかしは大事じゃな。

 しっかりと決めねば・・・・おっと、確か取り決めがあったの。」


 オーディンはフラフラとした足取りでどこかへと向かっていく。





















































 アレイスター


「はあ、とりあえず色々とやる事やったが。」


 今現在、珍しく1人で自室にいる。


 1人でいる頻度はかなり少ない。

 そのため、1人でいる時はなるべく組織のリスクを考え得る限りをメモ書きしておく。


「流石にお姉様方を全員相手にしたらこっちがぼろぼろになっちまう。というか、死ぬ。」


 はあ、強いよ。ほんと頼りになるぐらい。

 俺は俺でレベルが上がったのは良いが。


 アレイスター (仮) LV184


 職業 召喚士

 サブ

 スキル 使役、魔化、言霊、思念


 お、200には届かないが、サブが現れた。

 鍛治、宝飾、薬剤とさまざまだ。


 とにかく副業が割と役立つ。ある意味、俺に付加価値が付く。


「慎重に選ばねば。鍛治士が少ない今、鍛治を選ぶのも1つ。」


 さてと。こういう時ってのは1人で全てこなせるほど、チート思考の持ち主でもあるまい。

 かと言って、下手なトライアンドエラーもできない。


 なら、ここは。


「こういう時のナナカか。」


 ナナカへ思念を送った。

 

 こちらへすぐにでも向かってくれるそうだ。


 本当に数分そこいらでやってきた。


「お待たせ致しました。アレイスター様。」


「ありがとう。ナナカ。」


 香水の香りがほのかに匂う。

 

 何故か、凄く上品なドレスを着ている。アホでも解る。気合い入れ過ぎだ。


「それで、異世界での経験をお聞きになりたいと。」


「ああ、君の経験値が俺の糧となる。」


 我ながらどうして厨二なんだ?


「かしこまりました。包み隠さずお話致します。

 まず、私がこの世界に来たのは5年前の事です。」


「5年前・・・・・」


 うん?年齢的に差が・・・・・・うん?


 まあ、とりあえずそれは置いといてだ。

 彼女の濃密な経験からサブ、これからの動きを自分なりに考察する。


「はい、当初は小国ではなく、更に小さな村でした。ですがそこで、私はレグルスをたまたま召喚できました。

 そのお陰でなんとかやりくりできました。

 しかし、落ちた先は人それぞれです。

 私の場合、土地が小さくとも力は公国に引けを取りませんでした。


 ある意味では、小さな村であるがゆえにどう戦うのか、他のSR以下の方々とも入念に策を講じました。

 レグルスを筆頭に私は何もしなくても、気付けば小さな国となり、王となっておりました。

 ただ・・・そこに至る道は苦悩の日々でした。


 隣には大きな軍勢を率いる公国、近くには炎帝龍、そして反対には魔の森に眠りしバジリスク。そして、そんな小国の後ろには『アルダイト覇王国』。」


 うん?何か・・・・・強そうだ。

 しかも俺より壮絶怒涛な経験してるし。


「公国、火龍、森の魔物による被害は甚大でありました。

 小国へ住む人が死に、仲間が死に、他国の援助を受けるも、疲弊していく。

 いずれにしても滅ぶのも時間の問題では?と思いました。

 ですが、LRを持った国であり、倒れそうで倒れない。

 ある意味、レグルスによるワンマン国家でした。」


 ま、そうだわな。幾ら5年経ったとは言えど、王として帝王学を学んでいた訳ではない。ごく普通の一般人だ。


 俺もナナカも、今まで散っていた異界人も。

 そう。皆んな皆んなごく普通の人だ。


 ナナカは特別な力がありながらも、自身の臆病さゆえに動けず。レグルスを頼った。ある意味では成功へほんの少しだけ近づいていた。


 だがある時、俺というイレギュラーがそれを壊した。


 公国は力に溺れた。だがそれもまた、成功への一歩だ。野望や欲望のため、どのように生きるべきか。それをただ判断したにしか過ぎない。


 どのやり方も間違えなんてない。前の堅苦しい日本社会でもそうだった。


「俺も野望や本能のままに生きている。

 けど、今一歩踏み出せない。」


「臆病な私も同じです。

 レグルスに憧れ、頼り、臆病な自分を維持し続けました。自分にとって都合が良いから。」


 同じか・・例え帝王学を積んでも人は人だ。

 己の野望や欲望のままに生きる。言うのは簡単だ。


 戦いを望む、愛を望む、性を望む、金を望む、人を望む、モノを望む、国を望む。


 しかしだ。いざやるとなると難しい。

 元より頭のネジが飛んでる奴なら簡単だろうけど。生憎、俺は常識人として生きてる。


「そんな俺は複数ある誰かにしか過ぎない。ここでの経験、伝えたかったことは。」


「はい。ただありのままの自分で居続けること。

 そのためにはどうするべきか。どうすべきかの考えを止めると、死にます。

 野望や欲望のままなんて、考えなくてでいいです。

 むしろ、本能を考えろって可笑しいではありませんか?

 

 ですが、これだけはハッキリと分かります。

 いくつの犠牲といくら失うのか。そこだけ考える事をやめないで下さい。」


 力による代償とツケだな。


「・・・・・・LRがウヨウヨすれば、より。そう思えば、公国は公国だけで成功してきた訳だ。

 ただのバカ王ではなく、意外と考えられたバカだった。流石、先輩だぜ。」


 人の一生は短い、どうやら俺は考えるのを止めていたらしい。割と野望や欲望に対し、意識せずとも忠実に活動させられていたらしい。


 考えていたフリをし続けていた。

 だからこそ、改めて俺は何も無い自分に失望した。


「この世界で同じことはしたくない。ただそれだけしか理由が明確じゃなかった。

 なら、俺は俺のためだけの楽園を作ろう。その方が人生歩くのに退屈はしない。」


 決めた。世界を支配しよう。

 その方が欲望、野望共に思考や考察もせざるを得ない状況になる。


 全ての色や形を変える。俺は作り変える。


「俺の・・・・・・やりたいこと。考えるべきこと。」


 何だろう。ナナカに聞きたかった話とは大きく違った。が、結果的に聞けて良かった。


 皆んなワッショイするからこれで良い。って思わされてた。そりゃ、考えるのをいつの間にか止めてるわ。


「ありがとう。」


「とんでもありません。」


「早速で悪いが」


 俺はナナカを押し倒す。そのツヤのある赤肌に我慢できずにいた。


 染め上げるのはなにも身体だけではない。

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