32 『桜花楼獄』

 アレイスター、イザナミ、レイレ


「凄くね?3人で終わらしたよ。」


 映像越しで三つ巴の戦いを見学しておりましたが、いやはや何とも。

 神様仏様北欧神様ですわ。あれ?2回言った気が・・・まあええか。


「流石でした。」


 イザナミは小さくパチパチと拍手を。


「・・・・・アレイスター様。」


 レイレは何故か不安そうに見つめてくる。

 そんな俺はレイレを優しく抱き寄せた。


「大丈夫だ。レイレたちもしっかりとこき使うからな。俺は決して仲間を見捨てない。キリッ」


「!!あ、ありがとうございます!」


「あら?焼けてしまいます。」


 イザナミも俺の側へと引っ付いてくる。


 うーむ。レイレはそういう心配だったのか?今はこれでいいか。


「にしても。今回は色々というか、多色だね。俺としては最高の一言に尽きるが。」


「オーディン様の黄金には少々目が痛くなりますが、アレイスター様のお好みで何よりです。」


 何故紫のイザナミさんが誇らしげに?


「うむうむ・・・・・・」


 俺専用のお国が徐々にできつつある。

 普通の肌色は居ない。ただし、女性に拘ってはいない。そこだけは間違えないで。


「普通に男手も考えないと。」


「不要かと。」


「不要です。」


 イヤン。2人して即否定やわ。

 だが、そうも言ってらんないぞ。割と男の手が必要となる日がやってくるに違いない。

 確証はないが、なんとなくそう俺の勘が告げている。


「失礼致します。アレイスター様。」


 アテネが部屋へと入室してくる。


「只今、オーディンから国を占領したと。

 ロキを使い、必要そうな人材を『桜花楼獄』へと移送しております。

 トールは帝国との距離を見計らっております。」


 手早いというのか、抜け目がないと言えばいいのか。

 帝国との距離?・・・・攻めるの?引っかかるが、バカ頭で考えても仕方ないか。


「そうかい。何にせよ撤退で。最初に言ったけど、蓄えが目標だし。

 それと、ソヨさんには色々と聞けた訳だし、恩を仇では返したくはない。」


「かしこまりました。」


「にしても、少々ワクワクしている。」


 俺の黒い部分が露わに。

 そう。今回移送されている先『桜花楼獄』の事である。


「まあ。」


 イザナミがわざとらしく驚く。


「どんな地獄を用意したのか気になりますね。」


 フレイヤの手を煩わせなくて済むのは良いな。何か今回は俺も手を加えられるとか。

 いや、そこはドキッとはしないよ。慣れてない以上、人を痛め付けるのって抵抗あるし。


「一体どんな物が待っていることやら。」


「ヘパイストス様の力作です。」


 そこ力入れちったか。

 まあ、寡黙なヘパイストスが張り切ってた訳だし。


「俺自身大きな復讐心がある訳でもないしな。」


「ある意味アレイスター様も復讐者では?

 人生への後悔をしたくないからこそ、我々と共に歩んでおります。それは前のご自身に、「今とは違うぞ。」と見せつけるかのように。」


 自身への復讐・・・・ね。

 心が痛まない理由や理性で物事を見るのはそういう傾向があるからか?


 誰しもが望む自由な空間、携帯とかゲームとか楽しい。

 だがしかし、人の欲望を深く満たすスリルはなかなか無い。

 今、俺や俺たち異界人はそのスリルを満喫しようとしている。


 つまり、俺も所詮その中の1人という訳だ。

 痛みを伴うなんとかって言っておきながら、いざやってみるとハマるやつ。

 それはそれでサイコ過ぎて想像付かないが。


「しかし道理でワクワクする訳だ。

 客観的に見たら加虐的って、言われそうだ。趣味も捻じ曲がってるってね。」


「何を仰いますやら。アレイスター様のお考えは特殊な物ではありません。

 人1人1人にはそれぞれの思想があります。

 ただそれだけです。」


 アテネさんは達観していた。イザナミもレイレも同じく頷く。


 どうも俺は未だにその感覚には馴染めていないようだ。

 中途半端はいかんな・・ここは。


「『桜花楼獄』行くか。」


「かしこまりました。」


 俺は3人を引き連れて楼獄へと向かった。

 何かのキッカケになればと願うばかりだ。


 暫くして、『桜花楼獄』へ到着する。


 30階層というビルのような高さ、建物の形は桜を模して作られている。


 ちなみに階層が上に行けば行くほど、地獄のレベルは増し、捕まっている人物の危険度も増す。

 だが、ここに入れば最後、全てが粉々に打ち砕かれて人格を改変させられる。

 一度入ると、生まれ変われない限り一生出られない楼獄らしい。


 今回、そこの看守長を務めるのが、地獄の覇者ハーデス様である。

 サブでラプラス、スカーレットが所属していた。

 フレイヤも参加はしているが、メインでは無くなる。


 チームデザイアもそこには看守として何人も出入りしていた。

 彼女たちの賛美は復讐と改変である。

 正に彼女たち専用の施設と言っても過言ではない。


「想像以上にデカい。」


 あまりの大きさにまじまじと外観を眺めている。


「確かに。私も改めて実物は見ましたが、完成系がこれ程とは。お恥ずかしいことに、ワクワクしますね。」


 アテネさんもレイレも非常に楽しみにしていらっしゃる。

 そうか、担当官を決めても他の人も出入り利用可能だったな。


 これは余談だが、何でも公国そのものを監獄国として取り扱う予定だとか。


「入るか。」


 その地獄への扉を開けようとした途端に横から闇の入り口が現れた。


 ゆっくりとその扉が開く。


「やあやあ。これはこれはアレイスター様。いらっしゃいませ。」


 ハーデスだ。

 この人は地獄の管理者であり、その手のプロフェッショナルである。

 アポ無しだったが、急務でこっち来たのかな?


「やあ、ハーデス。」


「アレイスター様がお越しになると聞き、私は大変興奮しておりますぞ。

 どうぞ心行くまで楽しんで行って下さいませ。

 なお、ご案内は私が直々に行わせていただきます。」


 ハーデスが俺の肩を掴みさあさあと背中を押す。


 何だか、いつもよりウキウキしている。まあ、本業だからか。


 こうして、綺麗な桜の形をした地獄の一歩目に足を踏み入れた。


「へえ。何か楼獄ってよりは。」


 一階はエントランスのようになっていた。牢獄というより、ビジネスフロアのようだ。


「あ、アレイスター様なの!」


 元気いっぱいのセレナーデだ。

 受付にダレネがいる時点でちゃんと出迎える気があるのか?


「・・・・起きてる。アレイスター様。来るって。」


 半分視界が閉じてますよ?


「そうか、ありがとう。2人とも。」


「う、嬉しいの!どうぞゆっくり楽しんでほしいの!」


 楽しむって。テーマパークじゃないよここ。


 そんな2人に見送られ、俺たちは上へと上がる。

 今乗っているのが、エレベーターを模して作られた魔導具らしい。天才は近くにいた。


 そして第1地獄への扉が開く。


「初めは幻覚による悪夢エリアとなっております。この手は割と物理より精神を刺激する場所となっております。」


 早速何人か収監されている。

 ウチの堕とした仲間たちが監視し体制という名で楽しんでいる。

 いや、本当にテーマパークみたいに楽しんどる。


「クロア特製の幻惑剤も使い、幻覚魔法も極限まで引き延ばす事で、より一層悪夢を見せられる事が可能となりました。」


「精神とはね。割と良い効き目かな。」


「肉体の方が強い方は沢山おられます。

 しかし、精神は弱い生き物が多いかと。」


 確かに泡吹いたり、目が虚になったりと、本当見てらんない光景が早速広がってますね。


 中自体はかなりの人数収監できる。まだまだこれから沢山入ってきそう。


「次へ参りましょう。ささっ。」


 俺はハーデスにささっと連れられ、次へと向かうため、再びエレベーターへ。


 アテネ、レイレ、イザナミは別方向から向かっているため、俺とハーデスだけエレベーターであった。


「5層までは悪夢エリア。この5層を超えますと、次からは肉体的な地獄へと変わります。」


 タイミング良く扉が開く。


「確かに。磔台とかあるね。」


 中世の拷問部屋を思い出される。こう、血みどろな感じ。

 既にここも何人か収監され、刑が執行されている。


「悲鳴が心地よく聞くことのできるエリアとなっております。」


 そこまで歪んでないよ?ASMRにしても売れないよ。


「そ、そうか。次に行こうかな?」


「かしこまりました。」


 少し早歩きで立ち去って行く。


 流石の俺でもSAN値レベル的にキツイ。

 途中で泣き叫ぶ異界人を見た気がするが、とにかくスルースルー。

 後々知ったが、そこを担当していたのがナナカだった。


「このエリアは物の都合上、階層をふんだんに使っております。15層まで使用しております。」


 かなり力入れちゃったのね。


「凄い多いのね。んで、次はと。」


 これ以上はゲロりそうなので。


「はい。次はメインとも言えるかと、ここのエリアはアレイスター様もお楽しみいただけます。」


 牢獄がある。しかし、中にいるのは魔物と囚われの人である。

 つまり、ここはそういうエリアということだ。

 

 え?解説は?って?ざけろ。想像する事は人の楽しみだ。

 つまり、解説は要らない。


「ここは快楽エリア。

 お名前の通り、快楽から人を壊すエリアです。

 このエリアは基本的にSSR以上の人物をターゲットにしております。

 私の弱体化能力やありとあらゆる薬、魔道具を極限に使い、弱らせております。

 更にフレイヤやロキが囚人の身体を弄っているため、より人格や身体の神経を壊しやすくしております。」


 解説しちゃったよ。しかもあの2人も1枚噛んでたのかよ。

 確かにここは何というか・・・もう、はい。ゲスの極みとだけ言っておこう。


 意外とちょっとやってみたい気もする。


「ここも随分広いな。」


「ここは密度が濃いですから。

 匂いも換気する必要がありますがゆえ。

 更に他にも人間の男性を飼っております。」


 なるほど。高潔な人間ほどへし折りやすい状態に追い込むためのね。

 忠誠心の強い奴が多い世界らしいし、効果は絶大にあるのかな。


「ここはまあ、あれやな。確かに凄いね。」


「でしょうでしょう。

 ここは私個人としては、かなり力を入れております。

 他の者もここを楽しみに日々精進しております。」


 アンタも力入れちゃったかー。


「そんなに?・・・・ちなみにここは何階層分使ったんだ?」


「ええと、8層分です。」


「おや?割と浅いな。」


「メインではありますが、痛みは伴わないので。

 どちらかと言うと、先ほどの業火エリアの次に快楽エリアとなります。

 痛みが伴った後、精神を壊します。」


 業火って・・・・・豪華ってこと?

 しかも、痛みの後には苦痛が待ってると。


「しかし、残り1層は事務所だと解るとしてだ。後1層は何なんだ?」


「残り1層は堕転エリアです。」


「そういう事ね。上に上がれば上がるほどという訳だ。」


「はい。下の方にいれば居るほど、より長く地獄を味わえます。」


 逆に上がった方が良いってこと?生きるも地獄、残るも地獄ね。


「今収監されているのは?」


「レッドウォルフ隊が捕えてきた各国の姫君、先ほど戦い終えたレッドテイルの奴らです。

 只今収監し終えたので、早速遊んでいる所でしょう。」


「早いのね。」


「オーディンの奴めが張り切ってたので。」


 あらま。あの人は元気だな。

 ハーデスさん仕事が捗るようでウキウキだ。


「まあ、姫君さんたちで遊び過ぎないでね。」


「なかなか気が強い方々ですから・・・・ですが、楽しみ過ぎては取り返しのつかない事になりますね。気をつけます。」


 取り返しのつかないってどういう事よ?反省してるようで反省してない。

 何にせよ、堕ちるのも時間の問題だろう。ここはそういう所だ。


 俺?まだ心の準備がね。


「俺も気が向いたら来るよ。」


「はい。いつでもお待ちしております。

 あ、私個人に会いに来るのも歓迎です。」


「その方が多いかも。」


 ハーデスさん自体は美しいのでお世話になると思う。


 しかし、平和な世界で過ごしていた身分としては、今回もかなり応えた。

 吐かなかっただけで、まだマシか。


 これをこれから実施して行くのも考えたくはないが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る