31 赤き尻尾を食い千切る

「でも戦況は膠着状態なんだな。」


 戦争初心者なので状況なんて全然分からん。


 鏡越しと言えばいいのだろか、モニター越しなんだろうか。

 とにかく、今はそんな感じでお隣のイザナミさんたちと様子見です。


「レッドテイル王国も意外と潤っております。貿易も行い、戦争も適度にこなすからこそ、資金が巡り巡る。」


「割と頭がいい奴が側近にいるのか?」


「指揮官を添えるのは最低限必須です。」


 あ、はい。しゅん。


「それでもこの戦い自体無益な気がする。勝って、その国を統治するのか?自国も帝国も広いぞ?

 そんなもん抱えても余計に人材、資金、資材不足に陥るだけだぞ。」


「ソヨ様たちを欲しているのかと。」


 イザナミには千里眼があるらしい。未来も見えるとか。

 欲しいとは?あれか?欲望的な?


「ソヨ様は我々ほどではありませんが、見た目麗しき女性です。」


 確かに。うん?


「そう考えた方がしっくり来ます。

 アレイスター様、やはり他のマスターは碌でもない連中が多いのでしょうか?」


「やめてくれ。それを言われると、俺なんてただの外道だ。」


 特大ブーメランによって心を抉られる。


「何を仰いますやら。アレイスター様の浄化を受け、新たな自分へと生まれ変われるのです。

 それを外道などと・・・・そのような輩がいるのなら、このイザナミ斬って見せましょう。」


 本気で言っているから恐ろしいよね。

 ソヨさんのように『お前外道かよ。』って言われた方がマシだ。


 今までもこれからも俺がやろうとする事なんて、外道畜生以外何者でもない。


「おや?アレイスター様。国内が何かザワいついております。」


 ん?


 イザナミが照らすモニターをじっくりと眺めると・・・国内で何か騒ぎが起きてる?


「あれは・・・・・獣か?」


「魔物の中でも獣種と言われております。

 しかし、獣人のなり損ないがどうして?」


 うーむ。確かロキという神様は何か召喚獣的なモノを宿していたような・・それに悪魔も。


「ロキが何かしたな。」


 というか、ロキしか作戦参謀がいない気がする。








































 オーディン一向


「ほほう。なかなかの下衆っぷりじゃな。良いぞ良いぞ。ロキ。流石下衆女じゃ。」


「オーディン様でなければ消しますよ。

 獣には興奮剤を撒き、住民を喰うか犯すかというカオスな状況を作りました。

 国内が荒れれば確実に戦場の手は止まる。」


 だが、確かに今のロキは下衆な笑みを浮かべていた。


「そこでアタシの出番だな!このハンマーで全員潰して消し炭にしてやんぜ!」


「そうだね。トールが前線の方へと出向き、王国側から徐々に擦り潰す。

 こうして、前も後ろも逃げ場を無くす。」


「じゃが、ワシらがいない横側がガラ空きじゃぞ?」


「そこはオーディン様の舞台がありますから。貴女様もトールと同じく、国内で暴れれば確実に全て塵に還します。

 なら広々とした空間で相手マスターとその臣下たちと戦っては?」


「うーむ。美味しい所を掻っ攫われた気分じゃが。ま、3人かの。適材適所ではあるの。

 じゃが、なるべく絶望を与えてから始末せねばならぬ。」


「だからこそですよ。

 希望を与え、オーディン様により潰され、退路は絶たれる。国へ戻ろうにも私、前から逃げようにもトール、国内は獣に荒らされる。」


 ロキによる完全に悪意ある作戦が完成するのであった。


「何じゃろうか。悪者にされた気分じゃの。」


「もういいだろ!?悪者だか何だかしらないが、アタシがアレイスター様に1番目に抱いてもらうぜ!だからお先に!」


 トールは戦場へひとっ飛びした。

 待てが難しい子であった。


「ほう・・・・・なら、ワシもここで待機しておる。」


「では、私は前菜を楽しんで参ります。」


 ロキは影の中へと消える。


「ふむ。オーディンとしてこれで良いのかは置いておき。アレイスター様のために心を鬼にするかの。」


 オーディンの杖から広範囲の魔力フィールドが張られる。


 ロキ


 消えた彼女が向かった先はオーディンとトールとは別の位置にある城壁上であった。


「やっぱりね。

 城内へ戦力を集中と。逃げ道の確保と前線の優秀な兵を待っている。割と手薄かな?

 住民や他の部下は切り捨てか。案外、指揮官は優秀らしい。」


 二足歩行の獣や四足歩行の獣、空を飛ぶ蝙蝠など数々の魔物が国中を乱している。


 冷たい視線でこの光景を見渡す。


「あーあー、あの女の人は壊れてるし。あそこもか。まあ、SSR以外は良いかな。

 一応、興味ある低種族も捕まえようかな。

 初めての『桜花楼獄』だ。きっと、楽しめるだろうな。」


「この悪魔め!」


 1人の男性兵士がロキを見つけては躊躇いなく攻撃を仕掛けた。


「ふーん。」


 ロキはその冷えた視線を襲ってくる兵士に向け、隠れていた魔眼を起動する。

 すると、男は身体の自由が効かなくなる。


 そして手にしている剣で自分の足を貫いたのであった。


「ぐっ!があぁぁぁぁぁ!」


 叫び踠き苦しむ男の周囲には、血の匂いに嗅ぎつけた魔物が群がり、やがて捕食され始める。


「ま、こんなもんか。僕の所には来ないし。

 結果トールとオーディンに押し付けた訳だし。こちらはアレイスター様のためにお宝を献上しに探そうかな。」


 こうして地獄が繰り広げられている最中、ロキは楽しそうに城内の宝物庫へ向かっていく。


 彼女が通った道の上には血の海が広がる。


 トール


「どっせい!!」


 トールのハンマーが地面を砕くと、辺りに落雷が轟く。

 落雷が命中すれば、一瞬にして塵となって消える。


「ナハハハハハハハ!!面白いな!暴れるだけで良いとは!良い配置だぞロキよ!」


 トールはただ力に任せて暴れていた。通った地形は完全に歪んでいる。


「止まれ!私はヒロト様の1番騎士!エメル!ここからは私が相手だ!」


「来い!捻り潰す!」


「いざ勝負!」


 レイピアを抜き去り、疾風の速さでトールの首へと迫る。


 しかし、トールにはその動きが見えていた。


「遅い!」


 トールは指先で摘むようにレイピアを止めた。


「何!!」


「砕け散れ!」


 ハンマーを一瞬でコンパクトサイズにし、エメルへ目掛けて振り下ろした。


「ほらほらほらほらほら!」


 モグラ叩きのように連続でハンマーの雨が振り下ろされていく。


 叫び声はない。


 一瞬で身体の骨を砕かれ、手や足を潰される。

 方目も失い、既に意識が遠のいていた。


「うん?脆い・・・・あ、やべ。」


 トールは気付いた。SSR級の確保を。


「ああ、えーと、確か・・・・応急用で・・あった!エリクサー!」


 ヨシヨシと言いエメルへと振り掛けた。

 失った手足や骨が一気に回復する。

 しかし、意識は失っている。


「危ねえ。勢いそのまま殺す所だったわ。

 アレイスター様の1番を逃しそうだった。

 ああもう!何かモヤモヤすんな!」


 王国と帝国の境目で1人騒いでいる。

 そんな彼女の周りには炭の跡以外何も残ってはいない。


 オーディン


「どれ?来たかの。」


 王国の裏から豪勢な馬車が走り出すのを発見した。


「フィールド自体は張っておるから大丈夫じゃろうけど。どれどれ?」


 指をクイっと上に上げると、地形が盛り上がり、馬車の行く手を防ぐように周囲を囲うのであった。


「これくらいかの?」


 オーディンは空を飛び、囲った地形の辺りへ降り立つ。


 ボコっ!と土塊が一部壊れた。


「ヒロト様!出られたぜ!」


「サンキュ!アマンダ!」


「お待ち下さい。あれは・・・・」


「え、へへへぇぇぇ!た、お、大きいですう。」


 4人の前に2mを超えた高身長の女性が、そこには居た。


「待ちくたびれたぞい。」


「やい!お前が今回の元凶か!」


 向こうの王様らしき人物が怒りを露わにオーディンへと突っかかってきた。


「うーむ。そうでもあるが、そうでもないの。」


「どこの国のもんだよ!こっちには評議国と同盟関係にあるのを知ってか!?」


「評議国?果て?聞かぬ名前じゃ。」


「はあ?何言ってんだ!?

 評議国にはLRの精鋭がいんだ!下手に騒ぎを起こせば消されんぞ!!」


「ほほう、それはそれは怖い怖いのお。」


「へ。ん?お前よく見たら美人だな。どうだ?誰に仕えてんのか知らねえが、俺の仲間にならないか?」


 一瞬、オーディンは怪訝そうな表情になった。


「ほう?で?」


 興味があると勘違いしたのか、男は話を続けた。


「そうだな。今は金品がないが、俺は顔がなかなか通る方だ。

 資金もやり直せるぐらいはある。どうだ?今付いても損はねえぞ。」


「待ってヒロト。その前にコイツがどこの奴かを調べないと。」


 1人のメガネエルフ女性がヒロトというマスターを止める。


「うむ。ワシはアレイスター様の第一妃であるオーディンという者じゃ。

 国はそうじゃの。只今建国中かの?」


 何を思ったのか、オーディンはしれっと教えたのであった。

 ロキやアテネから見れば、頭を抱える状況である。


「お、オーディン!!?マジか!じゃあLRかよ!これはチャンスか!?」


「ちょっとどうするの!?ヒロト!」


 ヒロトの周りは落ち着かない様子である。

 それはLRという巨大な存在を理解しているからだ。


「さっきの倍払うぞ!何ならお前のご主人様が払っている倍だそう。

 欲しい物も今すぐとは言わないが、近い内に用意しよう。どうだ?俺はこれでも何年も国を治めている実績もある。

 今建国中の奴に比べたら、こっちの方が生き残れるぞ?」


「ほほう。じゃあ欲しい物じゃが、アレイスター様をくれないかの?それ以外は要らんのじゃ。」


「は?あ、アレイスター?だ、誰だ?し、知らないが、手配しよう!」


 そしてオーディンは神様とは思えない、悪意ある笑みでヒロトたちを見下す。


「そうか・・・・・残念じゃ。手配はできんからの。

 今アレイスター様は公国におっての、お仕事で忙しいのじゃ。

 だからお主では用意はできんよ。」


「まさかっ!公国・・・噂のフレイヤ!」


 メガネエルフは既に悟った。


「フレイヤの名が先行しているのも気に食わんの。」


「ヒロト様ぁ。最近あのイカれたショーを繰り広げた王様の所ですぅ。」


 もう1人の仲間も気付いた。


「はあ!?あの国の!?まさかコイツも!」


「ま、そうじゃの。」


 オーディンは元より興味はないが、この茶番のせいで、余計上の空になりかけている。


「な、なあ?やっぱりあんなイカれてる野郎より、俺の方がマシだ。

 虐殺とか世界の敵なんかを庇うやべー奴だぜ。」


「・・・・・・・・」


 沈黙が静寂を包む。


「ヒロト様。それ以上」


「考えてもみろ。アイツ自身何を考えているのかは知らないが、世界を滅ぼすつもりじゃねえか?

 評議国でも予知者による噂が絶えないぜ。

 ソヨの野郎も言ってたしな。」


 上を見上げながらオーディンはこう答えた。


「そうかの。

 それじゃあ、お主らから破滅させるかの。」


「ま、待ってくれ!話を聞いていたのか?

 オーディンといえば神だぞ?

 その神様が悪魔と一緒だと?おかしいだろ!

 それにその形は何だ?アイツの趣味か?悪趣味すぎだろ。」


 オーディンは既に我慢の限界であった。


 多少の悪感情は耐えられるが、アレイスターと自分に関係する事は耐えられない。

 特に見た目を言われると尚のことである。


「ワハハハハハハハハ!!愚かな!愚かなピエロよの!

 お主。怒らせる才能はあるようじゃの?

 ワシは結構怒っておるぞ。アレイスター様より授かりしこの身体、その全てを否定したとは。」


 杖で地面を叩くと、地割れが起こる。


「さあて、アレイスター様への供物を捧げようかの。」


 オーディンの黄金肌が光る。


 彼女の怒りに呼応するかのように、輝きは増す。そんな黄金の魔力が牙を剥く。


「審判はもちろん・・・・天罰。」

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