26 同盟

「ヘルメは大丈夫かな〜。」


 ヘルメが評議国で帝国の姫と密会をしているのは知らず、アレイスターは今日も今日とて、何もせず退屈そうにソファでだらけ切っていた。


「アレイスター様がご心配なさらずとも、ヘルメなら上手くやれます。」


「そうだそうだ!ヘルメを信じようぜ!」


「アイナはまた適当な事言ってるし。」


「久々でテンションが上がってるのお。」


「高めなの!」


「9人同時になんて大胆よね。」


「あのー・・・・まだ何もしてないからね?」


 普通に会議だから俺の執務室へ集めただけである。


 ついさっき他の奴らとしたばっかなのに、早くも手を出すって・・・・俺は性欲魔人か!


「インデグラ、どう?」


 インデグラによる感知の魔法でヘルメを探してもらう。


「今戻ってきてるわよ。」


「そうか。」


 何かホッとする。1人で潜入ほど不安なものはない。


 インデグラには同じ種族の位置を把握する傾向があるらしく、インデグラが戻って来てるというのなら今は大丈夫って事だ。


「うんと愛してあげないと。」


 スカーレット姉さんが珍しく人をヨイショしてますね。


「ヘルメは特に頑張ったからな。」


 なんだこの詠唱?


「それとLRの召喚石がいくつか取れたのよ。」


 追い討ちでスカーレット姉さんから驚きの発言が繰り出される。

 あまりにもナチュラルで一瞬スルーしかけた。


「マジ!?ど、どうやって・・・」


「レッドウォルフちゃんたちが、姫・・召喚石を探ってくれたのよ。」


 何か別の用語が聞こえた気がする。まあ、それよりもだ。


「素晴らしい。更に軍備強化できるぞ。」


「これでまた戦力が大幅に強化されますね。」


「やったぜ!」


「ありがとう。皆んな愛してる。」


 すると、全員が面食らったように赤らめる。


 やめてくれ。こっちが恥ずかしくなる。勢いとは言えど。


「あ、あの、いつ召喚に?」


 レイレがフォローで切り替えしてくれた。


「今召喚する時期でも無いし。まあ、ピンチとかに陥ったら?とか。」


「ピンチは・・・起こしたくないわね。」


「何個集まったかによるけど、だけど。」


 ただあんまり集め過ぎても存在をキャッチされる。こともないか。

 逆に召喚し過ぎたら下手に注目を浴びそうな気がしたが・・・実際どうなんだ?


「・・・・・人を増やすか。」


「それを叶えるには今は蓄えが必要と。」


 ミリスは言わずとも理解している。


 そうなんだよね。人を賄えないといけないのが最低条件だ。特に自給自足国なので、そこら辺の体制をしっかりと整えないと・・・・


 特に食材系は保管と採取、収穫と時間が掛かるケースが多いからな。

 人を増やし、手伝わせても割に合わない場合もある。なんとも難しい問題だ。


 特に機械とかまだあんまないし、王様モドキの俺が考えられることなんてたかだか知れてる。


「うん?ヘルメが・・・・・帰ってはきたの・・・きたの。」


「セレナーデ?」


 セレナーデがクンクンと何か嗅いでいる。

 そんなセレナーデを見てるとどうでも良くなった。


「なるほどのお。1人厄介な奴らがおるの。」


 ??何の話?ただの召喚士には解らんぞ。


 そんな元公国の門前で、魔道車から1人の女性が降り立つ。

 潜入工作のためか、フードを深く被っている。


「デザイアのヘルメだ。」


「ヘルメ様。長旅お疲れ様でした。」


 1人褐色女性の門兵が出迎える。

 ヘルメの後方から新たに日本の容姿端麗を表現した人物が現れる。


「本当に女しか居ないのね。」


「当たり前だ。アレイスター様以外の男は不要であり、女もまたアレイスター様以外、要らない。」


「そう。アレイスター様というお方は偉大なのね。」


 皮肉のような表現をするが。


「当たり前だ。助けには感謝している。だが。」


 ヘルメはそれすらもスルーする。


「解っている。今回は国家の1人として立ち会うつもりだから。」


「だからこそ、そこの隠れている奴も出した方がいいぞ?」


 ヘルメの視線が馬車の影を睨んでいた。


「気付いていたの・・・・そう。出ておいで。」


 乗ってきた魔道車の影から1人の女性が現れた。

 忍者のような風貌で顔が見えないように布で捲られている。


「ほう。姿形は見せど、肌は見せないと。」


「それぐらいは許してほしいわね。助けてあげた事でもあるし。」


「・・・・ただ、隠したままで進むと更に恐ろしい末路になるかもしれんぞ?」


「そう。それは期待値高そうね。」


 帝国の女王はどこか余裕そうである。


「お嬢。ソイツの言う通り、ここはかなり危険だ。私の勘が言っている。行けば引き返せないと。」


「そう。じゃあ、引き返せるように努力しましょう。」


「お嬢!」


 帝国の女王は臆する事もなく、その門を潜るのであった。


 そんなヘルメたち一向が門を潜っている間の応接室では。


「はよはよ!」


 俺たちは初めてのお客人に対し、準備を大慌てで進めていた。何と言っても事前のアポはない。


 いきなりのセッティングに戸惑いを隠せていない。

 だが、一国の王であるならこれくらいなんとかして見せよ。ってな。


「お、俺はどうするか!?」


「アレイスター様は堂々とお座りになっていただければ良いです。」


「後ろはミリス、カイネ、フレイヤがおります。」


 アテネからニッコリと自信満々に告げられる。


「そ、そうなのね。頼むわ。」


 演技とかはできるが、詳しい受け答えはできんぞ。既にテンパリーの。


「任せて、アレイスター様。」


「僕らに任せてもらえれば良いかと。」


「右に同じく努力致します。」


 3人とも心強くて助かる。


「さて、急いで急いで!」


 急かす事しかできない。







































「こっちだ。」


「はいはい。」


「・・・・・・」


 3人は広い公国城の廊下を歩いていた。


「まるで監獄のような楽園ね。」


 ソヨは当たり見渡しても似たような女性以外見かけない事から、この国をそう表現したのであった。


「私には解りにくいです。」


「アマハには難しいわ。」


「そうでしょうか?」


 3人は建設中の『桜花楼獄』の前を通る。

 窓からでも見えるぐらい大きな施設であった。


「何なの?このデカい施設は?未だに建設状態のようだけど。」


「ここはお前の言う所の監獄だ。」


「監獄?どうしてそんな大きな。」


 女王は顎に手を当て思考を凝らす。


「貴様には関係ない。」


「お嬢に何と無礼な・・・・」


 アマハは腰の短刀に手を掛ける。


「おやめなさい。アマハ。」


「ソヨお嬢!」


「周りを見なさいな。」


「!!」


 建設中だった者たちが2人を貫くように窓越しに睨みつけていた。作業中であった者たちも手を止め、視線を2人へと向けていた。


 外からパンパンと手拍子が鳴る。


「サボらない。手を動かす。」


 1人の鍛治士によって、作業が再び開始される。


「あ、あれは!」


「どうしたの?アマハ?」


「ま、まずい・・・・お嬢。」


 アマハのSSRとしての勘が鳴り響く。

 目の前の派手な褐色女性の鍛治士に危険信号が放たれていることに。


 そんな窓の外からヘパイストスは2人の視線に勘づく。


「うん?・・・・お客さん。」


 ペコリと一礼後、興味を失くしたのか作業先へと視線を送る。


 アマハは何故かホッとする。


「行くぞ。長居すればするほど余計に疲れるぞ?」


「そうね。そうさせてもらうわ。」


「・・・・・・お嬢の命は絶対に。」


 この命に替えてもとアマハは心で誓うのであった。


 そして、そんな3人が応接の間へと到着した事を俺はフレイヤからコソコソと教えられた。


「失礼致します。アレイスター様。お客様をお連れ致しました。」


「うむ。入ってよいぞい。」


 分かっていても唐突に扉越しから声が聞こえたせいか、辺な喋り方になっていた。


「失礼致します。」


 ガチャリと入室した。


 とうとうお客人がやってきたのは良いが、心の準備と相反して変な言い回しをしている。


 つまり、嬉しさより辛さが来る。


 ヘルメが最初に入った後、2人の女性が後から入ってくる。

 1人は完全に日本人、もう1人は忍者だ。


「というか、忍者もどきか?」


「あ、アレイスター様・・・」


 アテネから何とも言いずらそうな。


「あ、んん!すまない。」


「あら?お気になさらずとも。」


 向こうの女王様・・・もとい、日本人女性から余裕を感じ取る。


「手始めに、私がここの・・・・監督?リーダー?」


 後ろからミリスが指で支配者となぞった。


「支配者を務めているアレイスターと言う。」


「これはこれは。自己紹介ありがとうございます。

 私はイダチ ソヨと申します。

『サイハテ帝国』を建国して短い間ですが、王を務めさせていただいております。」


 やっぱり先輩だった。

 完全に修羅場を経験済みの人じゃないですか。

 名前がどうしてそんななのかは気になるが。


「うむ。よろしく頼む。」


 絶対に試しで俺に何かしら答えさせるやつだわ。

 あー、ほらほら。目でしっかりと何かしてやろうって気が満載ですもの。


 そこはほら、社会人としての先輩やけ。んぐらいは気付く。


「積もるお話もある事でしょう。手始めにこちらから簡潔に話させていただきます。

 我ら『サイハテ帝国』と同盟を結んでいただきたい。」


「ほう。」


 同盟ね。ヘルメが少し驚きの反応をしていた。

 どうやら道中で内容を明かさなかったようだ。


 何で聞かなかったの?あ、そうか。差別意識があったからか。

 受ける側にも課題ありと。


「ここからは私が取り次ぎます。それで一応お聞きしますが、何故我々と?」


 勝利の女神アテネ様や。


「はい。まずは戦力面です。

 この公国や隣の小国を僅か1日足らずで制圧した力、それとその行動力です。

 何よりも目を張るのが、特殊な存在であるということ。

 これから伸びる兆しであると推測したため、今しかないと思い、参った次第です。」


「そうでしたか。ですが、貴国は既に評議国との同盟がある筈です。

 特に評議国は我らを殲滅するためにありとあらゆる行動を取っております。

 そんな同盟加盟国の1つである帝国の真意とは?」


 そうだな。


 同盟とは互いのメリットがあるからこそ、行われるものだ。

 つまり、俺たちは物資や輸入品などやり取りがいくらでもあるが。逆に向こうが何を望むのかが、全く検討がつかない。


 力しか商売がないが、下手に俺たちの力を明るみにすれば逆に帝国は売国奴として天誅されるぞ。


「今この国には確かな存在があります。

 全ての大戦時に現れた強力な存在たちです。」


 あー、フレイヤか。あれは派手だったからね。魔王降臨的な。

 大戦とか言われてピンとは来ないだろうが、強力な存在で分かった。


「私かい?」


「そうです。貴女様のお力を是非帝国でもお借り受けしたい。」


「けど、そう都合よく行かないことは」


「もちろん、重々承知しております。

 金品なども興味がないご様子です。なので、私たちが相対している国の全てを明け渡すのはどうでしょうか?」


 うーーーーん。うん?・・・・うん?


「へえ。そんな事しなくてもいずれは手に入る。

 それに君たちがしたい事と我々がしたい事がマッチしないな。」


「フレイヤの言う通り。我々がそこまでして国を落とす必要性が見出せない。」


「今、我々帝国は隣のレッドテイル王国に攻め入られております。

 戦い自体は膠着の一途を辿っております。」


「なるほど。」


 何が解ったのアテネさん。つか、なんで強そうなのに膠着??

 俺は出番がとにかく来ない事を必死に心から願うのであった。

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