27 決裂

 何が解ったのよ、アテネさんやい。

 他国に攻め入るのってそんな簡単なの?つか、膠着の件もよくわかんねえ。


「要するにです。戦力上、相手国を奇襲しても問題ないと。

 しかも今なら帝国が足止めしている隙に。というオマケつきです。

 その上、占領した暁には自由にして良いと。その時、帝国は一切関与しないと。」


 ぐるぐるした俺を察してくれたのか、説明してくれた。


 良いようには聞こえる。

 レッドテイル帝国に隠し球がない可能性が大いに高いという根拠もあるしな。

 何故なら帝国が本気を出さずとも相手できるってこと。


「ただそれだと、同盟の意味が薄い。」


「その通りだね。」


 それに潰してほしい意図も解らん。んなもん評議国に頼めし。


「まだ話は2、3割程度しか進んでおりません。」


 あ、ごめんなさい。アテネ先生。余計な口出を。フレイヤさんにヨシヨシされる。


「お任せください。アレイスター様。」


 横から小声でアテネさんから囁かれた。なんか興奮します。


「将来の投資にしては・・・です。本当の望みを言った方が賢明かと。」


「・・・・・本当の望み・・・

 そう。・・・・・私ね、この世界を潰してやりたいの。」


 ソヨの雰囲気がいきなり変化した。


「へぇ?今度は少し本気のようだ。」


 フレイヤさんも興味を珍しく唆られている。


「ええ。だって私、これでもこっち来る前は向こうで充実していたのよ。

 貴方がどうかは知らない。けど、他の人たちは少なからずは浮かれてた筈よ。

 こっちは望んだ訳でもないのに。」


「感情論はそうなりますね。

 けど、それ以外にもありますよね?」


 アテネはまだソヨが隠している事を察している。


「実は公国が占領された後を監視していたのよ。

 他国も同じような事をしていた筈よ。もしくは進軍をしていた。」


「確かに。」


 例外はどこの国もない。


「アレイスター様。帝国もこの辺に監視網を引いていたのは間違いありません。

 フレイヤとゼウスが周辺の警備をしておりましたので。」


 なら信憑性は高い。つか、報連相意外とザルなのね。


「ただ監視しているだけなら他国も同じ。

 けど、私は違う。私はね、前々から思っていたのよ。

 この世界にどうして転移者がやってきては建国するのか?ってね。」


 そう言われると、普通の転移物語より多い気がする。

 しかもガチャとかいう不可思議なシステムに、その上初心者サービスも。


「まるでゲームのようね。

 新たなアップデートのために新しい人が送り込まれるような。

 次々と入っては消され、入っては消される。

 私もいずれそうなるのかしら?

 そう思うと、より腹が立ってきたのよ。」


「・・・・・・凄い執念だ。」


 復讐心に囚われているミリスですらこのリアクションだ。

 相当、深く深く苛立っている。


「はあ。少しズレたわね。失敬。

 公国が占領された後、監視をしていた。

 それはこうやって同盟を結ぶための隙を伺っていたのよ。

 これでも国家を預かる身分ですもの。

 自国のために何を為すべきかをしっかりと未来含めて判断しなくてはなりませんから。」


 ソヨは予想以上に立派な人間らしい。

 前の世界でもさぞかし名のある聡明な人物であったに違いない。


「こんな下らない事で消されたくもないし、消えたくもありません。そこで、貴方たちを調査したの。

 すると、以前公国にいた兵士が何故か姿形が変わった状態で生きている報告を受けたの。」


「公国の兵士・・・・・同盟を結んでいたのか?」


 なんとなくだが、俺は気になった。


「正確には評議国の同盟仲間ね。

 だから、少なからずは誰が何のキャラを引いていたのかを把握していたのよ。」


「へえ、よくそんな変化を察したね。

 他は異教徒だ。やれ世界の悪魔だの。すぐに殺そうとしてくるけど、君は視点が違うよだね。」


 フレイヤから意外な賞賛が。


「私的には何が起こったのかを知りたいけど。

 下手に監視者を送り過ぎたり、近づき過ぎれば、こちらが噛み付かれる。」


 そうだわな。俺も深追いし過ぎれば・・・もう食われてた。(別の意味)

 まあ、下手に勘繰るよりは立ち回りを。ってね。


「もしかして、洗脳?それか支配権を奪る事ができる力?

 まあ、この際は詮索はしませんけど。

 とにかく、その力が何なのか解らない以上は戦う道は避けたい。

 そう考えていたら妙な暗殺者を評議国内で耳にしてね。」


 ヘルメさんか。どうやってか、バレていたのね。


「申し訳ありません。アレイスター様。

 この不始末、如何様にもお付け下さい。」


「頭を上げてくれ。ヘルメ。別に怒ってないから。

 むしろ他国に牽制されている中、友好的に接してくれる国を連れてきてくれたし。悪い事ばかりではないよ。」


「ですが!・・・御身を煩わせてしまった。」


「なら、殺してあげるよ。」


 フレイヤから本気の台詞を聞く。


 これは冗談ではない。本当に今ここで殺すつもりだ。


「フレイヤ。」


「・・・・・・はあ、優しいな。流石は私のアレイスター様だ。」


 フレイヤから少しずつ殺気が消えていく。


 じゃじゃ馬姉さんはコントロールが少し難しい。


「お嬢・・・・」


「解ってる。既に賽は投げられた。」


「私の殺気から何かを察知できたかな?」


「ええ。何となく解ったわ。この国では貴女がLRであり、リーダーね。」


「・・・・まあ、正解かな?」


 フレイヤはなるべく他に悟られないような曖昧な返答をした。


「他にも気になる点はあるけど。もう一つ解った事がある。

 ここにいる全員SSRのみで構成されている。

 そうでしょ?王様?」


 今度は俺を見た。


 一瞬ドキッとしてしまう。

 しかし、すぐさま冷静さを装う。


「正解のようね。」


 呆気なくバレた。ショボン。


 そりゃまあ、駆け引きは向こうが達人だ。

 そんなフレイヤはパチパチと拍手を送る。


「ご明察通り。素晴らしいね。で?どうする?」


「戦う訳ないでしょ。少ない事実だけでも遠慮したいわ。

 だから、こうして危険を冒してまでやってきたの。」


 やる事が大胆というのか、図太い神経の持ち主と言うのか。

 俺のような小心者には無理な話です。


「私たちは同盟の証として、秘密裏にだけど物資の提供や輸入の受け入れも行うつもりよ。

 さあ、どうするのかしら?」


「うーむ。まあ良い話ではある。」


「アレイスター様。」


 アテネは俺を見つめる。俺もアテネを見つめる。お互い何かを感じ取った。気がするので。


 ふむ。なら任せよう。の合図を送る。


「アテネよ。俺の意思を汲んでおるな?」


「はい。確かに。」


「なら任せよう。」


 何考えてんのか知らねえけど。


 アテネはソヨへと振り返る。そして


「我々はその同盟を締結しません。」


「何っ!」


「アマハ。」


「はっ!・・・・申し訳ありません。」


 割と冷静な。ま、断られる算段もあった訳だ。


 そんな俺もまさか断るなんて。と思っている。どう考えても良い話である上、割と条件としては良い方である。

 ぶっちゃけ、敵国ばかりだからどこも疑わしいが、それを言ったらキリがない。


 しかし、何故あんなすんなりと。

 むしろ、驚かないようにポーカーフェイスするのに必死である。


「我らは欲しければ奪えば良いだけです。」


「奪うだけでは」


「変わらない。奪う物が無くなれば終わる。

 なら、今度は作れば良い。奪う物も必要な物資も。

 我々が必要としているのは世界そのものを奪うことです。それでも奪う物が無くなるのなら、後はアレイスター様と永遠の時を過ごすのみ。」


 壮大な・・・・いくら俺でも動揺するぞ。

 優秀な仲間だからこそ、その考え方は一体何に付随しているのか。

 デザイア思想があるとはいえ、そこまで混沌とした感じは・・・・


 つか断る理由って、そんな野蛮族みたいな意見だったのね。どうしてだ?


「正気なの?・・・・そこの王様はかなり狼狽えているご様子だけど。」


 俺をダシにしないで!もうここまで来たらそんなへったくれもないけど!


「アレイスター様が狼狽えるのも無理はありません。

 何しろ、この願いと野望はアレイスター様が心の奥底に封印してある願望なので。」


 へ?そんな深層心理ありましたっけ?

 確かに前の世界ではこのクソみたいな人生におさらばを。とか考えてはいたけど。


 うーーーーん?なんか実感が湧かない。


「俺にそんな願いが?」


「アレイスター様。無理もありません。

 ですが、異界人には与えられる力、そう。力とは本人の願いや野望を象徴とした力なのです。」


 という事はこの召喚士・・・・・


「異界人の能力はオンリーワン。似通った能力は多々あります。

 ですが、基本的には本人の適正にあった力となります。」


 アテネの口から次々と明かされる内容に俺は段々と自分が何をしたかったのか?

 それが解りかけてきていた。


「あ、貴方・・・・世界を壊したかった?本当に前世からそう考えていたの?」


「お、俺・・・は壊したい?そんな訳・・

 いや、違う。壊したいんじゃない。

 俺は欲しかっただけだ!別に壊したいのでは・・・いや、創り変えてるのか?

 生み出して・・・・創り変える?」


 何だ?この感じは。頭の中がグチョグチョになる。

 知らない何かが囁く。


『世界を黒く塗り変えろ。』と。

『世界を支配しろ』と。

『世界に永遠の眠りを』と。


 けど、俺はここに来る前は優しい何かに包まれていた筈だ。

 そんな破滅願望のような・・・・・


「落ち着いて下さい。アレイスター様。

 僕らが付いております。」


 ミリスが優しく手を握ってくる。


「そうだよ。私たちが貴方を支える。貴方の望む世界のために。」


 フレイヤも手を握ってくる。


「お、俺は・・・・・」

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