25 復讐の準備

 クイナ


「ダークエルフでグループを結成したのは良いですが。」


 クイナ率いるダークエルフチームは主に作物や木ノ実の管理を主に任されていた。

 植物との親和性が非常に高く、その知識と腕を見込まれた上でそういった配置になった。


「しかし20人とは少ない。

 エルフ自体を見かけるケースが少ないので、仕方ありませんが。」


「クイナ様。」


 ヘレナが側へやって来る。


 ヘレナは公国の元エルフでありSSRの戦士であった。


「我らがアレイスター様と共にできるのは、いつ頃でしょうか?」


 その疑問にクイナの表情がやや曇る。


「もう少しだと思う・・・以前からそんなに日が経ってない気がするけど。

 ・・・・・皆んなそれしか考えてない?」


「い、いや!滅相もない!」


 何か怪しさを感じ取るクイナであった。


「はあ・・・・気持ちは同じだけど、今はできるだけ蓄えを優先したい。

 アレイスター様はそっちの方が喜ぶし、より呼んでもらう機会が増える。

 だから、どんどん生産していきなさい。」


 各ダークエルフの士気を高めるべく、似たような事を何度か諭していた。

 そしてやる気になった彼女たちは更に作業速度を上げたのであった。


 その光景に呆れと同時に苦労が生まれる。


「クイナ様の方は順調でしょうか?」


 ヘレナはそれを察したのか、話を変える。


「ええ。綺麗な花が咲き乱れてるところ。」


 黒く濁った花がクイナの前に咲いている。

 人の魂を映すかのように、黒く濁った光が花の内側から見え隠れする。


































 キサラ


「レッドウォルフを指揮るのはいいけど、ヘルメ様が適任じゃないの?」


「ヘルメ様は今他国の情報収集へと向かわれております。

 もう暫くは帰ってこないかと。」


「ヘルメ様も絶望な顔付きをされていましたから。」


「そりゃ、アレイスター様のご寵愛を貰えないからな。

 私だって嫌だよ。アレイスター様の居ない日々は死んだも同然よ。」


「全くもってその通りです。」


 ここには全ての尊厳や志を蹂躙され、全てを壊された上、赤い肌へと身体全身を改造された。

 そんな彼女たちに、かつての愛人や大切な物を自ら壊させてケジメを着けさせるという鬼の所業をやり終え、今ここにいる。


 更には『堕転』した事により、以前の思考が塗り潰されており、後悔や悲しみはない。


「お姫様たちも何人か捕えては、地下牢のお楽しみルームにぶち込めたし。」


 中でも古参のキサラは赤くはなく、この中では唯一の褐色肌であった。


「これでまた同胞が増えますね。」


「そうだね・・・・ああ、アレイスター様。」


 キサラはいつもいつもアレイスターの名前を呟く。


 彼女にとって一分一秒単位でアレイスターと共に居るのが幸せだからである。

 1番初めに変革を迎えたのこともあってか、誰よりもその愛しさは深い。


「はあ。早く順番来ないかな。何故か時間が奪われている気がする・・・・

 いっそのこと・・・いや、殺される。」


 いくらキサラでもLRやデザイア純粋種の力を目の当たりにした以上、恐怖が勝る。


「キサラ様?・・・ああ、彼女たちですか。」


「うん。あの人たちは異常だからね。

 フレイヤ様は特に。

 フレイヤ様たちLRは何度も夜を共にされてるから狡いけど、下手に動けば消される・・・」


 LRの存在は偉大ではあるが、特にアレイスターの召喚した人たちは特殊であった。


「前の男より最高だし、良いか。」


 キサラのそんな一言に、周りも同意するのであった。

































 アレイスター


「ハックション!」


「アレイスター様?」


「誰かが噂していたような。」


「まあ、何てことでしょう。私が美しく温めましょう。」


「どけ!アタイが温めんだよ!」


 裸のディーテとアーレスがどうやって温めんの?

 というか、人の話聞いてた?


「ほら。暖かいお茶を飲むと良いよ。」


 フレイヤ姉さんは気が利く。

 ベットで色々とした後だし、喉も渇く。

 でも、なんか違う気がするけど。


「ありがとう。」


「アレイスター様のためになるのなら、何だってやるよ。」


 フレイヤは本当にお姉ちゃんのような存在だ。

 なんやかんやと周りを見てるし、ちゃんとした判断も下せる。容赦ないけど。


「フレイヤ。我が入れる予定であったのに・・・」


 ゼウスは悔しがっている。次女のようだ。

 ピリピリすると離れてる筈のこっちまでピリピリするよ。


「コラ。アレイスター様の前で争わないで下さい。」


「へっ。アテネの言う通りだぜ。」


 アーレスさんやい。どの口が?


 ふう。俺は改めて家族を持ったような気がする。コイツらなら・・・・・


 つか、君たちはいつの間に入ってきたの?物音すらしなかったよ。


「んな事より、皆んな。いきなりだけど、これから『魔化』を与えようと思う。」


「!!!マジかっ!」


「やりましたわ!」


「ヘパイストスには後で私から告げておきましょう。」


「我もようやくご寵愛の真髄を!」


 フレイヤ以外は歓喜極まっている。ヘパイストスにも後で付与する。


「こうして皆んなを見てると家族のようで、嬉しくて。

 だからさ、俺も信頼の形として『魔化』授ける事にした。だから受け取ってくれ。」


 まあ、当然カラカラになりますよ。だって簡単な訳でもないし、時間も掛かった。

 しかし身も心も重いが、以前ほどではない。


 けど、流石にフラフラするので柔らかい胸部に包まれております。











































 地下室


「姫姫姫姫と言われとった奴らがこのザマとはのお。」


「クロアは毒系の調整がうま過ぎなの。」


「僕もそこには関心しているよ。」


「そことはなんじゃ!」


 ゾラ、セレナーデ、ミリス、クロアは囚人たちの状態チェックを行っていた。

 何故か暇なのかインデグラ、スカーレットも同席していた。


「アレイスター様・・・・まだ順番回って来ないかな・・・・」


 ミリスが珍しく呟く。


「そう言えば、アイナの奴も珍しくしょぼくれていたのお。」


「アレイスター様から毎日注いで貰いたいのよ。」


「あら?インデグラもそうじゃない。」


「スカーレットも人のこと言えないでしょ?」


「勿論♪」


「はあ・・貴女たち。僕が呟いたのもあるけど、責めて仕事には集中して下さい。

 この汚い雌を躾けるのに手一杯なんですよ?」


 この地下室にはありとあらゆる拷問器具が用意されている。

 しかし、数と人数がマッチしない。


「アタシなんてこのオーク共をコントロールすんのに必死なんだぞ!クッサ!」


 ゾラはフレイヤが取り押さえた魔物たちの管理を任されていた。


「つか、コイツら犯し始めると止まらないし。」


 この人手不足を補っているのが、魔物たちであった。

 一種の楽々虐め装置であった。


 さまざまな国家と人種が囚われており、皆魔物たちによって弄ばれていた。


「フレイヤが制圧したのならフレイヤが監督すれば良いの。」


「ゾラの能力が頼りなんだ。僕たちでは殺してしまう。」


 フレイヤ自身は割と忙しい身である。

 そんなオークたち含めた魔物もフレイヤとの格差を理解しているため、下手な真似をしないよう従ってはいる。


 ゾラの場合は使役と調教の能力でそれらを上手くコントロールしていた。


「解ってる・・・・・まあ、こうして無惨な姿を見ていられるのは特権だしな。」


 その光景はあまりにも惨く、大凡人の所業ではない。

 痛み、快楽、破壊、虐待が行われている。


 しかし、デザイアとして彼女たちは世界に復讐を誓っている。そんな彼女たちからしたら、これがご褒美となる。

 それはアレイスターも理解し、彼女たちを受け入れている。


 すると、アイナとレイレが合流した。


「アレイスター様は復讐にはそんなに興味はないからな。」


「でしょうね。でも、私たちを許してくれている。」


「逆に愛してくれるしな。俺も嬉しいぜ。」


「私も心酔しております。」


「レイレは心酔というよりは依存だろ。」


「そうじゃの。」


 クロアのツッコミに一同頷く。


「でも、依存したいの!」


「セレナーデの言う通りです。依存の何が悪いのでしょうか?」


 今度は開き直ったレイレであった。


「・・・・・解る。」


「起きてたのかよ・・」


 ダレネはいつも寝ているが、復讐の時は大体起きている。そして、いつから地下室で寝ていたのかは誰も知らない。


「姫様がブヒブヒ言いながら苦しんでいる様を眺めんのが好きなんだろ。

 ま、アタシしかできねえし。」


「そうね。お姉さんだと調整にミスして、プチっと潰してしまうわ。」


 スカーレットは笑っているが、眼の奥は笑っていない。


「早いところ仕事を終わらせて戻りたいわ。」


「はいはい。じゃあ、貴女も参加しなさい。

 丁度、人が集まったのでとっとと終わらせますよ。

 終わった後は血を拭き取るのを忘れないように。」


 レイレの一言に皆が嗤い合うのであった。


 そんな同じデザイア初期メンバーのヘルメはある国宿で休息している。

 

 そんな朝の日差しが宿の窓からヘルメを差す。


「・・・うん?ああ、朝か。

 アレイスター様の居ない退屈な日々に嫌気がさしてつい寝てしまった。」


 ヘルメは現在評議国へと潜入していた。

 最も多くの国と同盟を結んでおり、情報が1番に出回りやすい国でもある。


「結構なリソースが貯まったな。長居し過ぎてはバレるのも時間の問題か。」


 途端、コンコンと扉からノック音が鳴り響く。


「!」


 ヘルメは小さく警戒する。

 腰にあるナイフに素早く手を掛ける。


「何でしょうか?」


「・・・・・・・ヘルメ様とお見受けする。」


「何用だ?」


 ヘルメは扉越しだが更に警戒する。いつでも臨戦態勢に入れるように構える。


 だが、扉の奥からは気配を感じられない。


「私は評議国同盟国でもある『サイハテ帝国』の王である。ヘルメ様と密会をしたく、ご訪問させていただきました。」


「密会?何を馬鹿正直な。気配を垂れ流さない奴が?」


「そうなんです。馬鹿なんです私。

 だから護衛も連れて来ずここにノコノコとやって来ました。

 何の台詞も台本も無く、アドリブでやってきました。」


「異界語で話したら私が頷くとでも?」


「かしこまりました。では、信頼の証に情報を提供します。

 ヘルメ様の正体は既に割れました。」


「ほう・・・やはりか。」


 各地を転々とし過ぎたか?

 不安は過ぎるも、今はどう対応するかに神経を集中させる。


「ですが、私が貴女を逃すことができます。」


「信頼も無いのにか?」


「そこは騙されたと思い、着いて来て下されば良いのですが。」


「・・・・・・・・」


「そしたらこうしましょう。契約を結びましょう。

 契約なら違反した場合、私が死ぬ。

 これでどうでしょうか?」


「契約内容を開示したい。」


「では、ドアをお開けになっても?」


 ヘルメは改めて探知するが、1人だけ気配を感じ取れた。


「開けろ。」


 ガチャリと開けて入ると、ローブ姿の女性が現れたのであった。


「ほら?私1人です。契約もどうぞ。」

 

 無造作に出された書類を手に取った。

 ヘルメは受け取ると、端から端まで眺める。


「相違ない。いいだろ。」


「ありがとうございます。

 では、早速抜けましょうか。時間も押していることです。」


「そうだな。ソヨ姫と呼んだ方がいいか?」


「お好きにして下さい。」


 ヘルメはその佇まいとその気配から正体を看破した。


 初めてヘルメたちデザイアへ友好的に接する人が現れたのであった。

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