20 第二の犠牲

「『黒き太陽よ。地を照らし、全てを燃やし尽くせ。』」


 フレイヤによって生成された黒い太陽から、高出力エネルギービームが全方位へ無差別に照射される。


「回避不可能かっ!?」


 レグルスの毛並みがその光に当たると、チリチリと焼け始める。

 やがて炎は全身へと発火し始めた。


「ぬぅっ!ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」


 炎に身を焼かれながらもレグルスの目はフレイヤを捉えていた。


「うぐぬぅぅぅぅぅぅ!まだだ!」


 炎に身を焼かれながらも、それでも彼は大剣を握りしめ、フレイヤへと攻撃を仕掛ける。


「『我が剣よ!黄金の神秘をもって、敵を薙ぎ払え!』」


 今度は黄金の光が空中へ舞う。

 金の粒子が幾つもの刃を形作り、フレイヤへと放たれる。


 迫り来る斬撃に対し、フレイヤは高揚する。


「その状態でその技!面白いよ!」


 しかし、斬撃は途中で黒い炎に燃やし尽くされる。


「俺は負けん!」


 レグルスは剣を再度強く握りしめる。


 そして、身を焼かれながらも剣から発している黄金の力をブースターとして使い、フレイヤのいる空へ高速で突撃する。


 迫り来る中、光の粒子斬撃がフレイヤへと目掛けて放たれる。


「斬撃が目障りだ。」


 フレイヤは黒い太陽から新たな炎が生み出す。

 その炎を使い、斬撃を燃やし相殺していく。


 粒子状の物で形成されるため、いちいち粒子単位で消し炭にする必要があった。


「面倒な技だよ」


「そうか!喰らえ!『獅子連斬』!」


「!!」


 斬撃に気を取られたであろうフレイヤへ強力な連斬が振り下ろされようとする。


 そんな斬撃を前に彼女はマズい!という表情から悪質なモノへと変わった。


「なんてな。」


 フレイヤは連続で迫り来る大剣をいとも簡単に指で摘むように大剣を止めた。


 本来、一振りで8連斬の斬撃が放たれる技であった。

 しかし、それを振り下ろす途中で止められ、技を寸前で発動できずにいた。


「なっ・・・・・」


 そんな力の差に改めて驚くレグルス。


 焼かれている感覚が薄まるほど、目の前で起きている状況に絶望する。


「こ、ここまで・・・・なのか。」


「お疲れ様、楽しかったよ。」


 フレイヤは掴んだ大剣を引き寄せ、レグルスの毛並みを撫でる。


「さあ、燃えると良い。」


 撫でた箇所から黒炎が発生する。

 その黒炎は内側から焼くように体内から更に発火する。


「ぐぅっっっぅっゔっっっ!!な・・・な・・か。」


 レグルスは薄れゆく意識の中、己の主の無事を願った。


「黒焦げだ・・・そりゃま黒炎だからか。」


 焼死体となってしまったレグルスを灰になるまで燃え尽きるのを見守った。


 ふぅ。と一息ついたフレイヤはアフロディーテ、アーレスの居る方へと視線を移す。


 そんな空には灰が漂う。


「面白いお土産を持ってるね。

 てっきり、全部抹殺したのかと思ったよ。」


「んな訳ねえだろ。

 アタシは手ぶらでアレイスター様の所に戻りたくねえだけだ。」


 アーレスは抱えていた女性を地面へと下ろす。


「焦げ臭い・・・・美しくない。」


「ディーテ。美しさは自身で着飾るといい。

 というか、あれはあれで私なりの芸術なんだ。」


 フレイヤはゆっくりと地上へと降り立つ。


「人の価値は人それぞれだろうが。

 そんなことよりもだ。コイツで実験してみんのはどうだ?」


「ああ、前々から考えていた低レベルの『堕転』か。

 あまり下々の奴らをアレイスター様へ献上するのも遺憾だが。」


「美しくもない上、果たして上手くいくのかしら?」


「だから実験なんだよ。今回は特に被験体が特別性だ。」


「異界人か。」


 フレイヤは改めて倒れているナナカを一瞥する。

 ナナカの瞳から無意識に一筋の涙が零れ落ちる。



























 アレイスター


「崩れた。」


 小国が何となく崩れた。

 そんな気がする。『思念』による何かしらの感知かもしれない。


「周りは?」


「王国兵は足止めしております。」


「他国は様子見かと。」


「カイネ。」


「はっ。」


「城内へ潜り込んできた暗殺者共は?」


「皆、我々で捕らえております。」


 順調に何とか終わったか。

 やはり、戦力が欠けた所を狙い撃ちしてきた。


「んでも、結構隠匿したが。」


「恐らく、相手に占術使いと探知系等に優れた者が居たのかと。」


「確かに、それならこの状況を作り出す事も可能でしたね。」


 ウチのブレインズこと、アテネ、カイネ、ミリスさんたちによる頭脳戦術で乗り切った。


「人数の少なさは考慮せざるを得ないか。」


 弱点も剥き出し。人数も少ない。盾となる家々もボロボロ。


「今回の小国は確実に全滅させなければなりません。

 流石に国一つを丸々味方として増やす時間がないかと。」


 注目の的になる上、国を丸々管理する力も無いからか。戦力と国力が一致しなくなる。


 これヤケになるよね。状況がクソ過ぎて。


「やあ。」


 どこでもフレイヤさんたちが戻ってきた?


「ああ、コレね。」


 フレイヤの肩には同じ日本人女性が抱えられている。

 そんなに大きくないというか、少女?高校生ぐらいかな。


「アーレスが拾ってきたんだ。なにか実験できないか?ってね。」


 フレイヤの魅力的なウィンクに引っ張られ掛けたが、実験とは?


 またしても不吉だ。


「アレイスター様!アタシ的にコイツで堕転できないかを調べたいんだ!」


 今度は揺れる巨大な胸に引っ張られ掛ける。んじゃなくてだ。


「・・・・・要するにアレだな。」


 とうとう堕とす系の極意になる訳だ。

 戦力をこれで増やせれば最高だが、成功するのか?

 さっきアテネもやってる暇がなんとかって言ってたような。

 しかも同じ種族をか。(俺と)


「気が引けるというか。」


「アレイスター様の手を煩わせはしません。

 我々にお任せ頂ければかと。全てを美しく納めて見せましょう。」


 何語だよ!?


「あー、うん。よろしくね〜。」


 何だか良からぬ雰囲気が。

 まあ、ちょっとワクワクとドキドキ感がある。

 ちょっと想像すると興奮する。

 え?良いのか?って?知らん。考えるのを止めた。


「それで?」


 フレイヤはアテネへと問いかける。


「暗殺者は捕らえてあります。」


「そう。それじゃ、お仕置きの時間だね?」


 そういったフレイヤは再び消えた。

 

 公国 地下室


「なんじゃ?やけに外が暑いのぉ。」


「今、フレイヤが戻ったの。」


「・・・・・外で呻き声が聞こえる。」


 ダレネ、セレナーデ、クロアは数100人の暗殺者をそれぞれ牢屋へと収納していた。


「よお。コイツも転がしてくれ。」


 アーレスはナナカを連れて下へ降りてはセレナーデたちに収容を押し付けた。


 未だに気絶しているナナカも今は同じ牢屋へと収納された。


「フレイヤとディーテは?」


「アイツらは今、外の王国兵を片付けてるのと、小国を潰した演説を流してるよ。

 ゼウスの野郎がいる方面は雷による威嚇でビビり散らかしてやがる。

 スカーレットたちデザイア勢はなんかの部族?と交戦してるが、追い払ったらしいぜ。」


「皆順調のようじゃな。」


「今度はこっちが頑張るの!」


「・・・・zzzz」


 ダレネは既にダウンしていた。


「ま、アタシが居ればできるか。」


 アーレスは改めて牢屋を一通り眺めた。


「とりあえず男は消すか。アタシたちの邪魔だ。」


「了解じゃ。」


 クロアは肉食系昆虫2体、毒系昆虫を4体召喚する。

 巨大ムカデ、巨大蜂を2体ずつ出した。

 更にお馴染みの巨大アナコンダを2匹出す。


「男を好きなだけ食うか殺すが良いぞ。

 うん?妾か?妾は普通の食事だけで満足じゃ。罪も使っておらんしの。」


 クロアの呼んだ生物たちは喜びの舞で身体をくねらせる。

 そして、暗殺者の男たちを貪り食い始めた。


「幸い、牢屋を男女別に仕分けてたの。じゃないと血生臭いの。」


「意外と綺麗好きじゃの。」


「・・・アレイスター様が抱いてくれない。」


 寝ながらダレネは反応する。


「妾は湯船に浸かってくるぞ。」


 クロアは少しよそよそしい。


「切り返しが早いの。」


 そんなクロアの変わり身の速さに呆れるセレナーデである。


「はあ。とにかく食後のデザートをちゃんと堪能しねえとな。

 もちろん、情報を搾ってからだけどな。」


 アーレスは残りの女性連中を狂気の笑みで見渡す。

 拳をバキバキと鳴らし、最初の獲物を眺めるのであった。


 誰1人として元の姿で陽の光を浴びる事は無い。

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