18 小国の野獣と姫

「へえ・・・・凄いショーだ。あんな感じに変わるのか。」


 少し余裕気味に言ってるが、やや手が震える。

 

 人が変形するところ見て喜ぶのはサイコ過ぎだろ。した後は、別腹だけど・・・生はちょいキツ。


「その通りです。皆、アレイスター様のお好みの姿形へと変わり果てます。

 最も我らの場合、アレイスター様の全てを体現しておりますが。」


 ドヤらんといて。

 ゼウスやフレイヤたちはそうだけど。


 しかし、青肌、赤肌等が恋しくなった。

 文句を言う訳ではないが、褐色と黒肌だけでは流石に味気ない。

 無論、最高だが。


 そんなことを考えられるのだから、今暫くは精神的には余裕なのだろう。多分。


「お任せ下さい。その内、我々が見つけてきましょう。」


 俺たちはベッドの上で共にこの状況をモニターで見ていた訳だが。


 すると、いきなり身を預けてくるゼウスに思わずドキッとした。


「そ、そうだね。

 ただ、今回は結構派手というか、ここまでタネ明かししてもいいの?」


「問題ないかと。いずれにしても世に出回ります。

 であるなら、明かせる時に明して他国に恐怖を植えた方が効果的かと。」


 ま、情報の扱い方としては妥当かな。


「他のマスターたちに警戒されちゃうけど、考えれば大した事は無いよ。」


 こっちにはLRが6人いる。

 油断はできないが、今すぐどうにかなる訳でもない。


「しかしまあ、残酷だな。」


 32人の新たに変わり果てた仲間たちが起き上がっていく。

 その表情は以前とは違い、何かに盲信しているようだ。目が据わってる。


「皆、アレイスター様へ早くお会いたいのでしょう。

 かつての仲間など、どうでもよくなり。」


 心が痛まないの。はあ、俺もゲスなもんだ。


「むしろ、変に興奮している?」


「全てが貴方様のモノです。」


 ゼウスが更に強く抱き締めてくる。

 何かを欲しているように。


































 アテネ


「ふう・・これで中継は成功と。」


 妙にワザとらしく溜息を吐く。


「あ、貴女たちはこれからレクチャーがあるから急いでこの服に着替えてちょうだい。」


 アテネは忙しい。

 公国で余っていた服を適当に動きやすいように改良したのをばら撒く。


 時間との勝負を理解している以上、僅かでも無駄にする気はなかった。


「それで?向かってくるの?」


「問題ない。」


 アテネは特に問題なさそうにはしている。


「そう。私は物足りないわ。

 だからアレイスター様の所へいくけど?」


「好きにして良いとも。」


 スカーレットは静かにその場から消えた。


「オリビエ。」


「はい。」


「君たちには引き続き、私たちと共に彼女たちの教育だよ。」


 オリビエ、アイシャ、カグヤ、ヘレナ、カイネの5名は特に何のリアクションもなく、同意するのであったが。


「解りました。

 できれば、早めに切り上げてアレイスター様の元へと向かいたいのですが?」


「君たちもかい?まあ、良いけど。」


 皆が皆、何かしらのフラストレーションが溜まっていた。

 それは一体なんなのかは誰も知らない。




































 小国ティグルス


「向こうは順調のようだね。」


「こっちもじゃないかしら?」


 城内へ入る前、全ての町が植物だらけになっていた。

 更に草に絡まる人の身体から花が咲き乱れる。


「一般人も殺してしまったよ。」


「変われぬ者に救いはないわ。」


 フレイヤとアフロディーテは中央から城へと一直線に攻め進んでいた。


「そうだね。アーレスはまだ暴れ回ってるのかい?」


「あの子、アレイスター様から直々の命だから張り切ってるのよ。

 解らなくもないわ。私だって火照って仕方ないわ。」


「アーレスもきっとそうだね。

 私たちに命令を下せるのはアレイスター様のみ。そう思うと、アレイスター様に早く会いたくなってきた。」


「そうね。急ぎましょう。」


 2人はささっと城内へと入っていく。


 そして時系列はフレイヤたちが攻め入る少し前に遡る。


「身体はスッキリしても心がスッキリせん。」


 色々とムフフした後、フレイヤさんはすぐさま隣の小国へと向かって行った。


「アレイスター様。ご無理は。」


「大丈夫だ。」


 俺の側にはスカーレットとゼウスがいる。

 スカーレットも後からやってきて、お楽しみしていた所だ。


「アレイスター様はご心配性ですね。

 フレイヤたちなら問題ないのでは?」


「そうなんだけど・・・あの演説も成功したのかな?って不安が込み上げる。」


 上手くいくかどうかなんて保証がない。だからこそ、1つの不安が余計に俺を煽ってくる。


「アレイスター様ほど皆が完成されていない点がありますがゆえ。

 我もそう思うと心配になって参りました。」


 ゼウスやスカーレットには負けるよ。

 いやほんと、冗談抜きで。


「アレイスター様。よろしければ、今この地にいる者たちを見ては如何でしょうか?

 そうすれば少しは不安が消えるかと。」


「邪魔にならないかな?」


「何を滅相な。この国にそのような不敬な輩はおりません。

 いても、我が消し炭にしてみせましょう。」


 しないでね。つか、見るとこ・・・・


「何にせよ、見直すのも大事か。」


 とりあえず建国するに辺り、広さや立地などを調査しないと。

 無能は無能なりに。ってね。


「暫くは自家製産でやりくりも必要だし。」


「肉類は外から調達できますわ。」


「我がドラゴンの肉を持ってこようぞ。」


「肉、魚、野菜はなるべく上手く取りたい。

 が、米や小麦は難しいか。」


 上手く取る理由としては、下手に取りすぎても後々採取できない状態になったら困るし。

 程よく、育ててから採取が望ましい。


「米、小麦はどうしても生産国を抑えない事には。」


「だろうな。ま、そんなに嘆くほど悲惨な状況でもないな。」


 食料はともかく。

 大きな問題点としてたが、この国には女しかいない。

 ムフフはできるが・・・・俺が死ぬ。

 

 後はフレイヤたちが何を持って帰ってくるかで多少は情勢が解るだろうな。









































 再び小国ティグルス


 城内へ堂々と侵入した2人は容赦なく敵を蹴散らすのであった。


「はあ・・・・・・やはりつまらん。」


 そう言い、フレイヤは鷲掴みしていた男を全身燃やし尽くし、灰へと還す。


「小国がゆえに手薄ですわ。」


 植物が城内に生え蔓延る。無数のツタが城へと巻き付く。

 城を徐々に覆い尽くそうとしている。


「ここから先は通さんぞ!」


 そんな2人の前に1人の戦士が立ちはだかる。


「俺たちの仲間をよくも!悪魔め!」


「獣人。」


「しかも高位レベルだ。」


「この感じ・・・LRですわ。」


 何故小国でありながらも他国から攻め入られずにいたのか。

 それはLRという、1人の存在が非常に大きい。


 LRは1体いるだけで脅威となる。


「しかし、ここまでしないと出てこないということは。」


「ここが最後ね・・・・・貴女が殺るんでしょ?」


「当たり前だ。アレイスター様から授かったこの力を使う。」


 はいはいと1人アフロディーテは離れて見物することに。


「何という事だ・・・・同じ存在が2人だと!」


「まあね。いや、本当はもう何人かいるけど。」


「そ、それは本当かっ!なんて事だ!」


 焦りを見せつつも、獣人の男は大剣を構える。


「しかし、それでもここを通す訳にはいかん!」


「あそ・・・・まあ、何にせよ。殺す。」


 フレイヤの全身から炎が発火する。


「炎の魔女・・・・いや、炎の化身か。」


「そちらは獣人の荒神と見た。」


「・・・・・・・・隠す必要も無しか。」


「俺の名は黄金を司る獅子王レグルス!」


 獣人男の毛並みが黄金の輝きを放つ。

 彼の魔力が毛先から黄金となり溢れ出ている。


「久々の戦闘になるね。燃やそうか、全て。」


 フレイヤは嗤った。


 今ここに炎と黄金の対決が始まった。


 1人小さい国で彷徨うアーレス


「おーーーーい!どこ行ったんだ!!」


 1人街中を徘徊する戦士がいた。


「ったく。人が遊んでいたらどこか行きやがってよ。ケッ。」


 アーレスは今の今まで1人で敵を全て薙ぎ倒していたせいか、小さな国で迷子になっていた。

 更にその荒々しさゆえにか、余計に周りが見えなくなっていた。


 アフロディーテとフレイヤは回収するのに時間が掛かりそうだと感じ、何処かへほったらかして消えていた。


「ちくしょう。アタシは突撃する事はできるが、こう、何というか。巧妙な感じは解らねえんだ・・・・・うん?」


 何か弱々しい気配を感じ取る。


 ガラッと瓦礫から1人の女性が現れた。

 黒髪ロングヘアーに肌は白く、綺麗な黒色の瞳を宿している。


「あ?お前、誰?」


 アーレスは戦闘力を然程感じはしなかったが、警戒をした。


「あ、あな、あなたこそ!私たちの国に!」


 その女性の手に握っていた銃をアーレスへと向ける。


 しかし、女性は引き金を引けずにいた。全身が震えており、立ち尽くす。

 そんな引けない自身への弱さゆえにか、涙を流し始める。


「うっぅぅぅぅぅ!どうして!?」


「何だあ?お前・・・・・・」


 少しやる気をなくしたアーレス。銃を向けられても大してやる気は出なかった。


「しかし見るからに、お前異界人?」


 ビクッと反応する。


「おっ?当たりか。ラッキー!殺すか。」


「ヒッ!い、いやぁあぁぁぁぁ!!」


 女性は一心不乱に逃げ出し始めた。


「おいおい、逃げんのかよ。

 いや、引き金も引けないようじゃ、確かにな。」


 アーレスは一瞬で詰め寄り、首へ手刀を入れて気絶させた。


「弱くて殺す気も起きん。」


 けど、アレイスター様への収穫はできた。と萎えたテンションから一転し、少し元気になった。


「うん?城の頂上って、あんなに燃えてたか?」


 太陽とは別に大きな黒い太陽が浮かんでいた。

 小国城の頂上へといつの間にか顕現しており、その城を外から発火させていた。

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