15 圧倒的な殺戮

「ま、魔王・・・・・」


 燃えている物体から発せられる。


「弱い。弱すぎるよ。」


 フレイヤは周りにいた敵兵たちを焼き殺しながら、勇者たちを追い詰めていた。

 本人は遊び半分な気持ちである。


 その様子を不気味がっているのか、ジリジリと少しずつ後ろへ勇者たちは下がっていく。


「はあ・・・まあ、生贄には打ってつけ・・か。

 それに血の味は何よりも美味しい。」


 狂気な笑みと共に血が付着した手を舌舐めずりをする。

 そんな表情に勇者側は恐怖し、更に後ろへと下がる。


「下がりましょう!危険過ぎます!」


「でも仲間が!」


「アッシュまでも。」


 アッシュという女戦士は身体中ボロボロに焼け焦げて地面へ転がっていた。


「逃げましょう!」


「けど!」


「ヤスヒコ!待たせたな!」


 勇者ヤスヒコの後方から30人の女性たちによる援軍がやってきた。


「ヤスヒコ様っ!」


「へえ?増えた。壊し甲斐があるね。」


 フレイヤは物でも見るかのように頭で数え始めた。


「うーん・・・全員堕とすか?

 それともたまには生でペットにご褒美を与えてみようかな?」


 突如、上から別の女性がフレイヤの隣へと降り立った。

 着地と同時に大きなクレーターができた。


「君は・・・・アレイスター様の。」


「ゼウスだ。主人だ!」


 ゼウスはやけに強調する。


「へえ?殺すよ?」


「やれるのか?」


 ビリビリとメラメラが身体中から発せられる。

 その威圧と魔力に当てられてしまったのか、狼狽え、足がすくむ勇者パーティーである。


 そして、ゼウスが勇者たちに唐突に振り向いた。


「あれは・・・・勇者か?」


「そうだね。先にそっちをやらないと。」


 フレイヤの視線先も変わった。


「手付きの仲間か。中古品だな。」


「ジャンク品でも漁れば珍しい品も出でくるよ。」


「ほう。なら私が全員消し炭にしてやろうか?」


 ゼウスから更に放電が強まる。


「ゼウスとか言ったか?私の影で大人しくしていた方が良いぞ。

 今回のショーはアレイスター様にもお見せしたいことだし。」


「ほう?それは良い。

 主人とそういうのを見るのは好きだぞ。」


 ちなみにアレイスター自身はあくまで動画や空想で見るのが好きなだけであって、現実では見たことない。


「何をさっきから話している!?」


 1人の女から光魔法『ホーリー・スマイトス』が打ち込まれる。


「ウザイ。」


 電流バリアにより、光魔法が散り散りに拡散した。

 魔力の差もあったが、光魔法自体を電気で分解していた。


「アイツの脳を焼き、下品な性格にしてやろうか?」


「電磁波によるコントロールかな。それも面白いねえ。」


 2人の悪辣な思考にヤスヒコは流石に引いた。

 そして何を思ったのか、ポロリと小言が出てしまった。


「・・・・女に前線を任せて後方で待つとは。

 男として情けない。そんな人の所で君たちは戦っていて、満足なのかい?」


 たまたま出た発言ではあったが、ヤスヒコは考え方を1つ変えた。


 戦闘で敵わないのなら、対話をしようと。

 本能的に時間を少しでも稼ごうと。


「・・・・言葉は要らん。」


 しかし、結果的にゼウスたちの地雷を踏んでしまう。


 次の瞬間、高出力の雷が飛来し、ヤスヒコの視界がブラックアウトした。

































 新しきLRたちは元公国の外壁上から状況を眺めていた。


「フレイヤとゼウスが怒ったな。」


「見えるのアーレス?」


「アイツらを怒らせるとは・・とんだバカな奴もいんだな。」


「そんな美しくない事より、ここをどこまで美しくするかを考えてくださいな。」


 そう言うアフロディーテはハナから戦場に興味がないのか、鏡で自身の髪を整えていた。


「しかし結構押しているのでそんなに出番はないかと。

 やはり『大罪人』はSSRの中でも一際違うということ・・・・」


 アテは既に状況を悟った。


「・・・・でも、敵じゃない。」


 ヘパイストスは寡黙ながらも1人で武器を生成している。

 カンッカンッと外で聞かないような音を鳴らす。


「何作ってんだ?」


「主のために刀を。」


 ヘパイストスたち召喚された者はアレイスターの思考が読めてしまう。


「確かにアレイスター様は刀を欲しがってな。」


「さぞかし美しい事ですね。」


「アレイスター様ほど刀の似合うお方はおりません。」


 尚、全員がアレイスターを肯定する。

 彼女たちはアレイスターが黒と言えば、黒に変える。

 白と言えば、白へと切り替える。

 例え力付くでも。


「私が奥の虫ケラに打ち込みましょう。」


 何を思ったのか、アテネが一手撃ち込む準備に入った。


「アテネの矢を早速見れるのね。」


「チッ、まあその方が戦況的に良いんだろうけどな。」


 ヘパイトスはカンカンと1人刀を打つ。


「では、起動『白銀の救世』。」


 白銀に輝く大きな矢を上に向ける。

 空に向けてターゲットを予測で絞る。


「『シューティング・レイン』。」


 光の閃光が上に一瞬で放たれる。

 その矢は弧を描くように奥へと向かっていく。


 その光は途中で分裂し、雨となって地上へ降り注ぐ。

 その光の矢は容赦なく、敵の頭上へ降り注ぎ全てを貫いていく。


「断末魔は聞こえんぞ。」


「貴女は野生身があり過ぎて、美しくありません。」


「んだと!」


「喧嘩しないの。」


 アテネが2人の間に入る。


「できた。」


「はやっ!」


 ヘパイストスは一本の紅の刀を生成した。


「これで良し。」


 嬉しそうにヘパイストスはその刀を抱き抱える。



































 放たれた矢先では、レイレたち一向が敵軍と交戦していた。


「な、何だ!?」


「どっからきた!?」


「アイナ!ゾラ!あまり前に行かないで!」


 レイレたちは必死に退がる。

 なんの前触れもなく、いきなり矢が降り注いだのだ。


 撤退しやすいよう、アテネなりにレイレたちの後方には撃たないように配慮していた。

 しかし、あまりの唐突な攻撃に配慮にすらなり得ない。


「こっちよ!」


 インデグラがテレポート魔法陣を即生成し、仲間だけを退がらせた。


「皆んな大丈夫?」


 スカーレットは後方から現れた。


「え、ああ・・何とかじゃ。」


「ヘルメは?」


「問題ない。」


「怪我人は居るけど、無事みたい。」


 ホッとする一同である。それも束の間だ。


 フレイヤと同格で圧倒的な存在が目の前に現れたのであった。


「ごめんなさい。

 皆さんが頑張っていたのは承知していたけど、時間が惜しいので、つい。」


 アテネは出会い頭に謝罪する。

 その謝罪には一切心が籠もっていない。空虚であった。


「貴女は・・・・まさか。」


「そうだぜ。アレイスター様の僕だ。」


 アーレスを筆頭に頷く。


「うんうん。」


「・・・・ぼっーー。」


 ダレネも寝ておらず、ただその光景を眠そうに眺める。


「にしてもあれは何じゃ?」


「アテネによる美しい雨でございます。」


 アフロディーテの訳分からん発言にハテナを浮かべる一同であった。


「う、美しい?」


「頭が痛いよお。」


 セレナーデは限界であった。


「ともかく。これで向こうも撤退します。

 早速死体の処理をしましょう。何人かは相手側の城壁にでも飾ってきましょう。

 恐怖と煽りを同時に入れられますし。」


 アテネの容赦ない一言にSSR面は緊張が一気に走った。


「そこまでするの。」


「セレナーデちゃんの言う通りね。」


「しかし、我らは世界に避難されています。

 であるなら、避難される者らしく振る舞わないといけませんから。」


 しかし、アテネはそんな2人の意見をぶった斬る。


「ミリスでもこうは考えないな。」


「けど、理解はできます。

 なるべく攻め込まれないように対策する必要はあります。

 ・・・解りました。この場はアテネ様に指揮権を委譲します。」


 レイレはすぐさま決断する。

 無駄な言い争いはより時間を無駄に消費するだけである。

 それに加えるのなら、文句をつければ一瞬で消される気配も感じ取っていた。


「では、取り掛かって下さい。ほら、貴女たちも早く行って。」


 同じLRには雑に扱う。


「ったく。何でアタイたちの扱いは雑なんだよ。」


「早く刀を渡したい。」


 謎にヘパイストスから圧が掛けられる。


「わっーたよ!やるよ。」


 アーレスは不貞腐れながらも了承するのであった。


































 再びゼウスとフレイヤ


「さて、勇者は捕えずに返そっと。」


「賛成だ。より復讐心が更なる餌をぶら下げてやってくるに違いない。」


 勇者ヤスヒコを含めた仲間が全員倒れ伏していた。

 他の兵は全員バラバラか燃やされるか、酷いのはグチョグチョになって死んでいた。


「男ばかりだとつい捻ってしまう。アレイスター様以外はなんと醜いことだ。」


「当たり前だ!主人が1番に決まっている!

 当然その1番に相応しいのはこのゼウスだが。」


 またしても煽る。


「キサマ・・・・調子に乗るようならキサマも豚の餌にしてやろうか?」


「できるのか?キサマ如きに?」


 2人は暫く睨み合った後、離れる。


「それよりも勇者を送り返すぞ。」


「ああ、そうしてくれ。他は巣穴に入れ込んでおこう。」


「無力化を図ったのか?」


「もちろんだよ。愛に精通している私だからこそ、できる。」


「一言余計だ。」


 険悪になりつつも2人は任務を遂行させるために動き出す。


 元公国城 アレイスター


「終わったか。」


 急に静かになったのを機になんとなく尋ねた。


「はい。」


 今、王の間に全員集合している。

 そして豪華で悪趣味な金ピカの椅子に座る・・・座らされる俺なり。


 そんな彼女たちを見下ろす。


 なんと、全員褐色だ。凄い。ここまで来ると凄い!赤や緑、紫も欲しい。

 あれ?色々と暴走しかけている・・・・が。


「素晴らしい。」


 素直な感想がついポロッと出た。

 いや、出るよ。溜まってるし。


「お褒めに預かれたことを感謝致します。」


 アテネが代表して感謝を述べる。


「まず、そうだな。労を労うか。それぞれ何を望む?」


 あれ?雰囲気に飲まれたような・・・・

 話し方こんなんだっけ?


「我々は何も望むことなどありません。

 あるのはアレイスター様と共に・・・・」


 アテネが胸をはだけさせ、見せつけてきた。

 デカい。揉みたい。


 ・・・・・ただ素直に思う・・・なんかいつもの自分ではない気がする。

 いや、これは性欲以外の何かがあるな。


 ゼウスが次に一歩前へと出てくる。


「我々の褒美はアレイスター様からの寵愛のみです。いつ何時でもこの身体を好きに扱っていただきたい。

 それこそ至福でございます。」


 そういう事を言われると余計に興奮するの。

 神様ネームなので少々抵抗があるけど、素人童貞の俺に火を着けるには十分なの。


 あ、セレナーデが移った。


「今宵も呼んでいただければ、それで解決されます。」


 そうか(脳死)。

 じゃあ、次は役職についてだな(脳死)。


「解った。据え膳は食わないとな。好きな時に呼ぶとしよう。(また今度の機会に。)

 (あれ?)・・・・んん!次いでに役職だが、アテネ、カイネ、ミリスを宰相、兼指揮官とし、運営を行なってほしい。」


「「「はっ!」」」


 なんか途中で本音と建前が逆に・・・・

 もういいや。


「街の外装や城壁などの管理をアフロディーテ・・・長いからディーテ。君に任せたい。」


 彼女は美を求める。

 つまり、そういった役職に就かせる事で、この国の外観や建物の美的センスを補う。と思った。


「拝命、承りました。」


「続いて戦闘部門はアーレス、アイナ、スカーレットに任せたい。」


「うっし!任せろ。」


「かしこまりました。」


「へへっ!どんと暴れてやんぜ。」


 アーレスは趣旨を解ってない気がする。

 つか、アイナも同じか。不安が募った。


「次は武器の精製はヘパイストスしかいない・・か。やってくれるか?」


「お任せ下さい。」


 二つ返事で了承してもらった。

 クールビューティーここに極まれり。


「そして、家畜や食糧担当をゾラとクイナに任せたい。」


「へへっ。任されたぜ!」


「かしこまりました。」


 ゾラは鼻が効く。クイナは植物系に強い。

 だけ!以上!


「情報部門でヘルメ、キサラ、クロア、ヘレナに任せる。」


「かしこまりました。」


「任せるのじゃ。」


「か、かしこまりました!」


「お任せあれ!」


 ヘレナとキサラが何か狼狽えているような。

 諜報部は結構貴重だ。必要以上に人員を割く。


「騎士隊を取りまとめるのがレイレ、カグヤ、オリビエ、アイシャだ。」


 4人は静かに了承するのであった。


 騎士隊ってのはあくまでも国を守護するため。

 戦闘部門は攻めるための構想である。


「魔法部門はインデグラに任せたい。」


「大丈夫よ。1人で十分だから。」


 インデグラさんがウィンクしてきた。

 早速後で誘うか。


「そして・・・・・この国の総帥として・・言い方を変えると何でも屋かな?

 それはフレイヤとゼウスに任せたい。」


「何でも屋ね。それが1番しっくりくるよ。」


「うむ!任せろ!我は主人の側にいるぞ!」


 ゼウスも理解してなさそう。人選ミスったか?


「以上かな?残りのメンバーは話し合いで確保してくれ。

 今回の収穫もあるみたいだし。」


「それと敵マスターと王族の処刑を執り行うよ。」


 フレイヤの一言に頷けずにいた。

 戦後なのにサラッとそれ今言うの感ある。


「そう・・・か。」


 フレイヤは微笑みながら俺を抱き寄せてくれる。


「大丈夫大丈夫。私たちが全て終わらせる。

 アレイスター様はただ望めば良い。」


 優しく黒い何かが俺を底なし沼へと引き摺り込む。

 しかし、不思議と抵抗する気が起きない。

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