13 新人教育

「って事で、私たちはアレイスター様の奴隷として付き添う事になる。異論はないな?」


「その通りです。」


「全くもってその通り。」


 奴隷じゃなくて良いよ?

 お姉ちゃんでも良いけど?(願望)


 謎に新人さんと先輩さんの気が合ってる。


「キサラとクイナが先導するのな。」


「もちろんでございます。」


「私たちを盾に進んでいただければ幸いです。」


「いやそんな事しないから。」


 ともかく、新人さんたちと共に周辺探索へ。

 以前よりは人数も厚くちょいと安全の確保があるというのか。


 そんな俺たちは深き森を進み続ける。


「オリビエ。」


「はっ!」


 なんか既に興奮してるし。

 肌質が黒いのでやや見づらいが、目を凝らすと赤いのでよく分かる。

 うん?まあ、ほら・・好きなモノほど集中力上げて見るやん?


「ここら辺の出る魔物って?」


「はい。主に獣、昆虫系が多いです。

 ダンジョンなどの存在は確認されておりませんが、生態系上この辺に集まりやすいのかと。」


「そうか。」


 それならここら辺は狩場で、俺たちにとっても益になる可能性がある。

 後、食には困らない。という事が分かった。


「うーむ。いい訓練になると良いが。」


「私にお任せあれ。」


 ヘレナ、カイネ、カグヤ、アイシャも気合いが入ったようだ。

 正直な所、入り過ぎて邪魔しないでくれると助かる。お姉様にお守りされるのも悪くないけど。


「おっ?早速か?」


 狼が10匹ほど。茂みからワラワラと出てくる。


「よし。犬っころを倒せずして何が王だ!」


 俺は借りたフレイヤ剣を構える。

 なぜだろうか・・やや重い気がする。


「ガヴ!」


 1匹目の狼が俺に喰らいつこうと迫る。


「せいっ!」


 何とか剣で牙を防ぐ。


「つ、つえ!」


 けど、力負けしかけてます。

 ただこちとら力が無い分、知識と技術がある。


「横へと流す!」


 そして!せいっ!


 俺は狼の重心を横へ流し、すぐさま後ろから剣を斬り下す。

 そうする事で背後から首を落とす事ができた。


「よっし!あ。」


 残り9匹が一斉に襲い掛かる。が。


「死ね。」


 キサラの一言と同時に狼たちは一瞬で内臓などをぶち撒け、バラバラになって死んだ。


「大丈夫でしょうか!?」


 すぐさま俺の身体をペタペタ触る。

 この酷い光景に耐性がつく自分がいる。


「大丈夫大丈夫。」


「よ、よかった・・・」


 キサラも堕とされたというのに、どうしてこんなに献身的なんだろうか。

 眼帯女性には興奮するが。


 というか訓練にもならねえ。


「それにしても」


 辺りを見渡すが、やっぱ過剰戦力な気がする。


「逆にフレイヤのとこ行った方がいいんじゃね?」


「しかし、アレイスター様に傷一つ付いてしまう事態があれば、我々は皆、首を斬らねばなりません。」


 仰々し過ぎて俺の首が飛ぶ。


「オリビエの言う通りです。」


「右に同じ。」


 皆が同意している。


「過保護というのか、愛されているというのか。」


 嬉しい反面なんとも言えない。

 ただ過剰過ぎて時に煩わしくもなる。


「とっととレベル上げて・・・・・うん?あ、いや待てよ。」


 俺は召喚士だ。よく考えてみれば、フレイヤが召喚されている。


「もしかして、俺の経験値の稼ぎ方って。」


 今になって気づく。







































 フレイヤ


「絶景だな。」


 フレイヤはボロボロとなった公国を見渡していた。

 自分の治める国ではあるが、その視線はどことなく興味がなさそうであった。


「呑気ね。」


「本当に呑気ね。あれどうするの?」


 ダレネによって破壊された城門は未だ治らず。

 建築知識の薄い彼女たちでは建てるのに時間が掛かる。


「私の魔法でなんとか補ったけど、あれはあれで城門としての役割を果たせないわよ。

 ただの岩山だし。」


「インデグラには感謝です。私たちの欠点は力以外何も無い事です。」


 お礼を述べるなど、レイレぐらいである。


「全員罪人の戦闘系ときた。俺たちも困ったもんだな。」


「アイナの言う通りだぜ。アタシら脳筋だしな。」


「自分たちで言ってて悲しくないの?」


「事実だから・・・・・ぐぅ。」


 寝るんかい。と、ダレネに対して皆思った。


「私は早くアレイスター様と愛し合いたいわね。」


 スカーレットも退屈そうにしている。あまりにも関係ない発言をするほどに。


「けど、新人教育もありますから。」


「レイレにパス。」


「へへ。アイナに続く。」


「いや、今回は私1人でやろう。」


「「「「「「「!!」」」」」」」


 フレイヤの珍しい一言に一同が驚く。


「どうした?いきなりなのじゃ?」


「どうもこの中で殺しが少ないのは私だからね。」


 あまりにも殺伐とした理由であった。


「ほう。」


 ヘルメは殺しに反応する。


「暗殺とは別ということか。」


「ミリス。作戦はこうだ。

 目の前に見えるあそこの偵察兵たちは私1人で片付ける。

 そしてそのまま攻め入り、残りの小国兵を殲滅しようと思う。」


「僕もそれで良いと思うよ。」


 ミリスは改めて周囲のマップや位置状況から把握し直した。


「チッ。俺はコイツばかりに活躍させんのは」


「文句あるの?」


 フレイヤのドス黒い殺気が周りを包む。

 あまりの威圧に皆が沈黙する。


「私はね、アレイスター様のために動く。

 だからこそ、あそこの敵は全員私が喰わないと。」


 フレイヤの瞳には小さな国が写る。


「こうやって感情を知っていくのも楽しみだからね。」


「では、作戦開始しましょう。」


 ミリスの号令と同時に皆が一斉に動く。






 前方の兵は・・・・・何軍だ?


「神だの使徒だのと言った奴らもいるのか。

 後は・・・・異界人もいる。」


 これは美味い。恐らくは小国とは関係ないか。


「最初は半分ぐらい削ろう。」


 フレイヤは片手から闇魔法を発動する。


「『デス・フレアグランス』」


 公国の前方半分に真紅の霧が舞う。


 その途端、森に潜んでいた敵兵たちが踠き苦しむ。

 やがて、目や鼻から血を流しながら倒れる。


「うーーーん・・やっぱ、経験値が入る。」


 何となく主人のレベルアップを把握していた。


「女性は・・・・あの異界人の奴以外はいないか。

 ま、下手に仲間を増やしても損だけどね。

 極論仲間にした後、殺せば良いか。」


 フレイヤは空へと飛ぶ。


 そして、残り半分の敵兵の元へと向かう。

 その速さは神速である。


 瞬く間に敵が待ち構える場所へと辿り着いた。


「おはよう。そして、死の国へようこそ。」


 律儀にお辞儀をする。


「お前・・・・SSRの中でも強い。」


「その表現・・・その髪色は染めている?」


 つまりは彼が異界人という事だ。

 その前に1人の女性戦士が割り込む。


「よお?アタイが相手になんぜ。」


 拳系の女性だ。

 ショートヘアーの赤色にシュッとした身体付き、拳にはナックルを装備している。


「ボッコボコにしてやんぜ!」


「はあ・・・うん?」


 途端、レーザ級の光魔法が打ち込まれる。


「いきなり撃つとはね。」


 直撃したフレイヤは無傷であった。


「旦那様。彼女の邪悪さは危険です。お退がり下さい。」


「いや、俺なら大丈夫だ。

 これでも槍の勇者として戦えるしな。」


「勇者?・・・・ほう。レアだ。」


 勇者ヤスヒコたちと愛を司る神の戦闘の火蓋が切り落とされた。











































 アレイスター


「あれぇ!?何か急にレベルが!」


 狼にあんな成分が・・・・んな訳あるか!

 やっぱしフレイヤだな。アイツ気付いてやがったな。


「スキル・・・スゲェ。もう100レベル超えてる。」


 一体何を経験値にしたんだ?


「おっ!召喚ができるぞ!」


「それは素晴らしいです!」


 オリビエたちが拍手して喜ぶのも束の間、召喚石はSSRしか。


「それでも強い・・か。うーーむ。」


「であれば、一度国へ戻られますか?」


 カイネから何か提案があるようだ。


「そういえば、前のクズが持っていましたね。」


 オリビエさん・・・・何故か俺にも刺さる。


「ええ・・あった・・かな?」


「確か宝物庫が。」


 宝物庫あったの!?こりゃ盲点!

 大国だったわ!という事は宝物庫もセットだ。


「忘れてた。」


「いえいえ、忘れるほど大した物は無いと思われる。」


 カグヤもあまり興味なさそうだ。

 まあ、武人だからか。


「んじゃあ戻るか。もしかしたら戦力になるかもだし。」


「ライバルが増えるのは心苦しいですが。」


「盤石になりますね。」


 キサラとクイナはパチパチと拍手する。

 まだ何もしてない。


「とにかく急いで戻ろうか。」


「かしこまりました。」


 と言われてキサラに担がれて運ばれる。

 お荷物かな?


 いや速過ぎだろ。髪の毛が逆立った。


 マッハで戻るとは言ったが、マジマッハ過ぎてぱねえっす。

 表現がよく分からんが、とにかくぱない事だけは伝わってくれ。


 そして場内でキサラがヨイショと降ろしてくれる。


「宝物庫ってどこよ。」


 改めて城を周りから上へと眺めるが、これがまたデカい。

 前回の持ち主ことマスターさんは派手さにこだわっていたようだ。


 こんだけ広いとアレやね。隠れんぼできるわ。


「にしても、割とちゃんと政治してたんだな。

 道理で宝物庫やらこの広さを治めてた訳だ。」


「まあ、周りが優秀でしたので。」


 オリビエさんが渋々と言ってくる。


「その周りってのは・・・もしかして?」


「はい。カイネや我々SSRと官僚たちです。」


「その官僚は?」


「全員殺してます。」


 カイネさんから血も涙もない一言が。


 元仲間ですらそんな冷徹に吐き捨てるか。

 しかも、涙どころか一切の感情すら見せないよ。


「オリビエたちは・・・仲間だったんだろ?」


「私たちは確かに仲間だったけど、この体質のせいか、あまり興味が無くなりました。」


 騎士としてのアイシャですらこの感じ。

 もう別の人格が形成されているようだ。


「私とミリス様が入ればこの国は暫く問題ないかと。」


「カイネは頭良いからね。」


 既に過去の事はどうでもいい雰囲気のようだ。

 亡くなったらこうなんのか。怖いな。


「食料難には陥らない。

 金銭面は・・・・・・そもそも友好国や商売人が居ない。

 金の発生は愚か、金を使う事すらない。

 国として機能の前にただ大きいだけの住居を手にしただけ。」


「流石はアレイスター様。言わずとも問題を見抜けるとは。」


 馬鹿にしとんのか?


「それで大胆に宣戦布告されるってさ。」


 単に孤立しただけやん。


 現実は常に酷である。

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