10 公国戦争

 フレイヤは街の中央にある噴水池近くにあるベンチに座り込んでいた。


「私が動かずともこの国は落とせるか。

 こんな事なら残るべきだった?」


 目を瞑りながらも現状をしっかり把握していた。


「仲間も増えそうだけど・・・ズタズタに心を壊したら何人ぐらい生き残るかな?

 まあ、いつものことか。」


 そんな静かな街にゆっくりと金属音が鳴り響く。

 1人の白銀の騎士がフレイヤの前に現れた。


「お前が主犯か?」


「さあ?」


「そうか。途轍もない力の波動からそう思ったが。」


「英雄さんにはそう見えたと。

 素晴らしい慧眼の持ち主さんだこと。」


「それはどうも。」


 全身鎧の内から女性らしき声が響く。


「折角だしお名前を聞かせていただいても?」


「・・・・・オリビエ。」


「そう、私はフレイヤ。よろしく。」


「挨拶をするつもりはない。罪人よ。神の裁きを受けるが良い。」


 オリビエは躊躇いなく剣を引き抜きかまえた。


「神・・・・・ね。貴方を引いたのはここのマスターさんかしら?

 白銀の騎士シュバルエルのリーダーさん。」


「所属を知っている?ならばキサマも。」


「私は違うよ。むしろ、創造してもらった。」


「創造だと!?ま、まさか!」


「そう。そのまさか。」


 オリビエは更にエネルギーを開放する。

 プラチナの輝きが更に大きく強くなる。


「ならば貴様を倒し、そのマスターを倒す。

 我が主に誓ってだ!」


「マスターは大抵異界人。

 異界人は特別なガチャを引く事ができる。」


 そんな言葉を他所に光の斬撃が飛んできた。


 しかし、攻撃が放たれた先には誰も居ない。


「異界人は最初にガチャを10回引ける。

 その最初の運によっては自身の身の振りが変わる。」


 いつの間にかオリビエの後ろにいた。


 オリビエはすぐさま振り向き、斬撃を次々と飛ばす。

 しかし、フレイヤは次々と難なく避け続ける。


「そしてマスタークラスを10人殺せば、また10回引ける。ただし、必ずしも高レアが当たる保証はない。

 引きたい内容によって確率も大きく変わる。」


「何が言いたい?」


「貴方は何人の屍の上で生まれたの?」


「貴様のマスターも同じでは?」


「残念なことに。私の王様はまだ1人も。

 それに彼は彼にしか引けないものを引いた。

 というより、アレを引いたのは彼しかいないけど。」


 フレイヤの視線は城へと向けられていた。


「この場内では・・・・・」


「そう。罪人・・・幻界の奴らが彷徨いているよ。」


「なっ!?同格がそんなにもだと!」


「そだね。ただ私は違うけど。

 姿形は同じだけど、私は特別性だ。」


 しれっとドヤ顔であった。


「同じ罪人には変わりない。」


 オリビエは大きな白き大剣を構える。


「私は罪がないから発動できないけど。

 まあだから、私は権能を使うことにした。」


「権能?」


「そう。戦神の権能・・・・・」


「自身を神と名乗るのか!?愚か者が!」


 大剣が容赦なく振り下ろされる。

 異常なまでの威力と速度だが、フレイヤは片腕で受け止めた。


「そんな力じゃあ私は斬れない。」


「ぐっ!舐めるな!『ホーリー・セイバー』!」


 大剣が輝く。


「固有スキル。」


 フレイヤは大剣から発せられた光からその力を察した。


 オリビエから翼が生え、天使の輪っかが頭上にできる。


「悪を殲滅します。」


「良いね。結構楽しめそうだ。」


 国を揺らす苛烈な戦いが始まった。


 そんな森の向こうから大きな輝きがアレイスターの瞳に映る。


「光が見える。」


「はい。」


「戦っているのか?」


「はい。」


 ミリスが護衛で側にいる。

 何故か当たり前なんだし、解ってはいる。けど。


「大丈夫です。皆無事です。

 むしろ、暴れ足りないと豪語しておりますよ。」


「そうなの・・・・なら良いけど。」


 不安は陰りを増すばかりだ。

 かと言って自分にできることは祈る事ぐらい。

 戦争なんて本当に無縁だ。


「黙って戦果を待て。か。」


 ミリスは優しく俺の手を握ってくれる。


「大丈夫。ちゃんと帰ってくる。」



























 帝国 城門側


「レイレ。レイレ。」


「どうしましたか?」


「眠い。」


 ダレネは既に身体が揺れている。


「・・・・・・・『怠惰』ね。」


「発動してたの。」


「大丈夫?しょうがないですね。」


 ダレネはかなり眠そうにしている。

 例え敵に囲まれていたとしても。


「今だ!殺せ!」


 1人のエルフ女性から合図が入る。


「飛んでくるの。」


「はあ・・・ダレネをよろしくします。」


 レイレは剣を構える。


「『旋風刃』!」


 斬撃が一線入った。

 全ての矢と魔法が断ち斬られた。


「なっ!」


「セレナーデ。」


「はいなの。」


 セレナーデの爪が伸びる。

 周りの兵士の喉元を貫く。


 血を噴き出して数人倒れる。


「糸よ。」


 更に爪先から糸が出る。

 そして糸が他の兵士に襲い掛かり、身体を次々と切断していく。


「ば、化け物が・・・・・っ!シンヤ様のため!」


 エルフ女性は弓でセレナーデを狙う。


「同格なの。」


「解ってます。」


「どけどけどけどけ!!」


 奥から集団を殴り飛ばし、こちらへ向かってくる1人の女性が現れた。


「よっっと!!ふぅ!到着っと!

 ちくしょう!他の奴らと楽しみやがって!」


「アイナ・・・・・まさか。」


「うっせ!」


「・・迷ってた・・」


「ダレネは黙って寝てろ!」


 アイナは今の今まで1人路頭に迷っていた。

 実は意外と方向音痴であった。


「脳筋にも程がある。」


「黙ってろ!」


「何なんだ!お前たちは!?」


 エルフ女性はアイナへと弓を引く。


 アイナはその魔法の矢を拳で打ち消す。

 そのままエルフ女性へ襲い掛かった。


「近づくな!汚れる!」


「ぶっ殺す!」


 エルフ女性はその攻撃を避ける。

 弓兵であるがゆえにその動きはしなやかである。


「始まったの。」


「ああなったら止まりませんね。『傲慢』は。」


「スカーレットがマスターに近づいたの。」


「ほーい。」


「・・・・コク。」


 ダレネは既に半寝状態だ。


「ダレネ。任せますよ?」


「かしこ〜・・zzzz」


「何で私がこのペアなの?」


 そんな2人を放置したレイレはセレナーデを引き連れて離れた。

































 スカーレット


 スカーレットは1人別口から王城内を荒らし回っていた。


「こんなものかしら?」


 串刺しの死体が数百は並んでいる。

 槍からは不自然な程、血が流れない。


「今回は全身の血を抜いてから着飾ってみたけど・・・・うーーん。割と芸術点低いかも。」


 兵から民間人までもがその餌食になっていた。

 スカーレットはそのまま敵マスターの元へと進む。


 城には非戦闘員も匿われていたが、スカーレットによって無惨にもその命を弄ばれたのであった。


 一方、ゾラVSアイシャは。


「はあ。ここまでべこべこにしたら良いか?」


 ゾラと相対していたアイシャは無惨な姿になっていた。

 身体には複数の痣があり、鎧はひしゃげて凹んでいる。顔にも腫れ跡がある。


 至る所に血が付着している。


「結局『憤怒』を使っちまったぜ・・・にしても、ボッコボッコにし過ぎたな。

 でも、心折るのに必要だって言ってたような?」


 ゾラは調教師ではあるが、アイナと同じく戦闘狂である。

 時に己の自制心をコントロールしきれないケースもある。


「回収すっか。」


 アレイスターのためであると認識している場合は己を抑えることが可能である。


































 フレイヤVSオリビエ


「面白い。」


「はぁはぁはぁはぁ・・・・・」


 中央における戦いは凄まじかった。

 数々の建物が崩れ、綺麗な泉も跡形もなく消えている。


「けど弱い・・・・・弱い・・・・」


「こ、これほど・・・・・」


 既にオリビエは天使姿から騎士姿へ戻っていた。

 鎧としての機能も果たせていない。


「寝てろ。」


 フレイヤの瞳が金色に変わる。


「しまっ!」


 オリビエは力が抜けるように寝込んでしまう。


「ここまで弱っていればSSRですら寝かせられる。」


 そして月は欠けた。


「あと少しで楽しみが始まるかな。」


 フレイヤは狂気の笑みで満ちる。

 人の尊厳を踏み躙れる光景を今か今かと心待ちにしている。


 そんなフレイヤの戦いが終わったのを察したのか、スカーレットは改めて怯える敵マスターへと振り向く。


「そろそろかしら?」


「お、お前!誰だ!誰の僕だよ!」


「さあ?というか、うるさいし。」


 今度は侮蔑の視線へを向けた。


「お、起きてくれよ!カイネ!何で!?SSRだぞ!」


 スカーレットの足下には1人眼鏡を掛けた金髪ポニーテール女性が倒れている。


「私も同じランクよ。けど、格が違うの。」


「嘘だ!そ、そんな!はっ!

 まさか、ハズレだったのか!?くそっ!」


「お待たせ。」


 フレイヤが窓から入ってくる。


「フレイヤ・・・やっぱ貴女が早いのね。」


「それはもちろん。」


「な、何で、つか、そんな見た目なんだ・・・・」


 フレイヤその発言に鋭い目付きで相手のマスターを見た。

 すると、一気に前へと距離を詰め、足首を踏みつけ、へし折った。


「いっだあぁぁあぁぁぁぁあ!!」


 男は足を抑え倒れる。痛みに苦悶する。


「私はアレイスター様の作ったこの身体をバカにされるのが何よりも大嫌いだ。

 こんなにも美しく、素晴らしい形を・・・」


「やめなさい。」


 スカーレットはフレイヤが今殺しそうになった所を止めたのであった。


「・・・・・・・・」


「殺せば楽しみが減るわ。」


「勝手にしたらいい。」


 フレイヤにしては珍しく納得のいかない表情であった。


「間違えないでほしいけど、私も怒ってるわよ。

 この姿を好んでいるアレイスター様がバカにされた。」


 スカーレットの目は真紅に光る。


「何をしているのですか?」


 レイレの声で2人は冷静になった。

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