9 進軍

「世界は残酷だ。つくづくそう思う。」


 俺は何もできないし、ここで大人しくするしかない。

 王様というのは孤独で無力な存在ですな。

 初めてソレを痛感した。


 皆んなが危険を彷徨う中、俺はただ茫然と待ち続けるだけ。


「異世界で召喚してガチャ回しただけで有頂天になってたな。」


 ただ、それでも俺はよく深き人間だ。

 ここに来た以上はただ人生を謳歌するつもりはない。

 前世より最高の人生を送る。


 俺強えええ!じゃなくて女の子強えええ!


「・・・・失いたくない。けど、俺には何もできない。

 どうすればいい?『使役』?使えない?」


 今は無力でも次に生かす必要がある。

 どうせ国に攻撃を仕掛けたんだ。


 世界に非難される存在であるなら次々と戦いが続くだろうし、とにかく無い頭を必死に回せってな。



























 その頃、フレイヤたち一向


「公国は広いね・・・・こうして夜景を眺めていると非常に美しい。

 是非、アレイスター様と共に見たい。」


「何カッコつけんてんだ。」


「そーだそーだ!」


「うるさいわよ。」


「別に聞こえやしないわよ。」


 フレイヤ、アイナ、ゾラ、インデグラ、スカーレットは上空から公国を一望している。

 遥か上空から眺めているため、下からは目視できない。


「ミリスから連絡が入ったわよ。

 キサラ、クイナ、ヘルメ、クロアの侵入を確認したと。」


 インデグラから開始の合図が伝えられた。


「後残りのメンバーは俺らパワーバカだけか。」


「私たちが1番パワーな気がするけどね。」


「ともかく城門爆破後、私たちが強襲なんでしょ?」


 スカーレットは今か今かと待ち侘びている。


「そうだね。いい素材は何人かいる。

 あ、男は全員殺そうかな。」


「お前な・・・・・」


 フレイヤのあからさまな言動に一同は呆れ果てる。


「ま、俺も賛成だけど。」


 アイナも特に否定はない。


「同意ね。」


 インデグラもまた同じく。


「これ以上増えていいの?」


「いいんじゃないかしら。楽しそうだし。」


「それに王様だからね。」


 フレイヤはあくまで召喚主に忠実である。

 その願望を全てを叶えようとする。


 そんな最中、城門から爆発音が鳴り響く。

 そして、暗かった公国に灯りがポツポツと点く。


「ようやく始まる。」


「そうね。」


「念願の復讐・・・・」


「全部ぶっ壊す!」


「そして全てを献上しようか。」


 戦いの火蓋が切って落とされた。

























 そんな少し前の公国城門前


「レイレ。私が最初、いいか?」


「ダレネ?珍しいの。」


「構いませんよ。」


「じゃあ。」


 ダレネは指先を地面へと指し込む。

 すると、大きな地盤がダレネの力によって持ち上げられた。


「よいっ・・・しょっ!!」


 巨大な地盤が城門へ目掛けて真っ先に飛んでいく。


 その前に居た門番はただその光景を眺める事しかできない。


 迫り来る非現実的な状況に。


 やがて、大きな轟音が鳴り響く。

 城門へ地盤が当たり、虚しくも門が崩れる。


 暫くの沈黙から。


「敵襲!敵襲!」


「衛兵をっ!」


 砂煙から3人の長身の女が現れる。


「よぉーーし!殺すの!」


「苦しめたい所ですが、こちらは人数上不利です。」


「なら、全部擦り潰す。」


 3人による圧倒的な進軍が開始した。

























 帝国内


「始まったか。」


 ヘルメはただ1人城内へと侵入していた。


 そんな密室では数人の死体が転がっている。

 椅子に縛られたボロボロの死体もある。


「腐っても公国の暗殺兵か・・・・まあ、弱いが。」


 今宵の満月は綺麗な白であった。


「残念だ・・・・・代わりに、この国を赤く染めればいいか。」


 ヘルメは再び闇へと身を潜める。






























 夜の街全体に騒ぎが起こる。

 避難勧告は出ているが、公国周囲は大きな結界で包まれており、蟻一匹すら逃げられない。


「これほどの魔力・・・・・」


「驚いた?」


「何者!」


 男はすぐさま振り向き、腰にある魔力の込められた剣を引き抜く。


「帝国騎士でも腕利きの人ね。」


「キサマ・・その姿形、その肌色は罪人か。」


「罪人・・・・・・・イヤね。」


 インデグラは少しイラつく。だが、すぐに落ち着かせる。


「スレイ様。ここは一斉に」


「いや、コイツは危険だ。下手に」


 部下の上半身が一瞬で失われた。

 ついさっき言葉を交わしたばかりの仲間がいつの間にか死んだ。


「!!」


「あまり舐められてもね・・・・・

 まあ元々全員殺すつもりだったけど。」


「舐めるな!罪人!我ら盟主の敵!」


「はあ・・・・・殺す。」


 インデグラの目色が変わる。

 黒く深くの濁った色へと沈む。


「お仕置きね。」


 1人の剣聖と1人の魔女がぶつかった。































「ここにもある。ここにも。」


 一方、キサラは盗賊としてお宝探しに勤しんでいた。


「これも奪わないと。でも、先に国を奪わないと・・・・アレイスター様が喜ばない。」


 以前のキサラではなく、今は『強奪』のキサラであった。


「いたぞ!殺せ!」


「世界の敵っ!」


 神官が魔法を唱える。


「奪う『スティール』」


 突如、神官の魔法が中断する。


「ど、どうした!お前たち!?」


 いつの間にか、神官たちが倒れている。


 キサラの手に複数の心臓が掴まれていた。


「なっ!バケモノめ!」


「死ね。」


 キサラは得意の短剣を使い、素早く首を切り落とす。


「・・・・・奪われないようにするために・・・・そして全てを献上する。」


 変わり果てたキサラはその場を後にする。

 
























「花が咲きました・・・・キレイ。」


そんな大広間では、クイナによる人間植物展が繰り広げられていた。


「ばっ、バケモノがぁぁぁぁぁぁ!」


「うるさい。」


「ぬぎゃう!」


 唐突に兵士の口から花が咲く。

 そして、ツタが全身へと至る。


 その姿は人間を土台とした木のような形である。

 花が咲いた人はピクリとも動かない。


「キレイ。」


「ち、近づくなあ!バケモノが!」


 公国第1王子のサミエルはその光景に恐れ慄く。


「自慢の兵がお花さんになってしまいました。」


「う、うるさい!わ、私を誰だと心得ている!?

 目的は何だ!?金か!?それとも男か!?」


「要らない。それに欲しければ奪えばいい。

 男はアレイスター様がいる。

 アレイスター様にキレイな花を魅せたい。

 きっと喜んでくれる。」


「は、花?あ、アレイスター?誰だ!?

 そんな奴より、そうだ!私の元へ来ないか!?

 私ならお前を幸せにできるぞ!」


「うるさい。煩わしい。」


 クイナは1つの花を手から咲かせる。


「何ヲッ!・・・・・・・」


 王子は眠りについてしまった。

 花による眠り粉が発生したためだ。


「これでも生贄に使う存在です。

 ・・・早くアレイスター様の下へ帰りたい。」
































「何で妾だけこんな所なんじゃあ!!」


 クロアは罪人が幽閉されている地下牢へと侵入していた。

 周りの蛇も主人の発狂に戸惑う。


「かかかかかか!かぁーーーー!・・・・はあ。任務を遂行するのじゃ。」


 幽閉されている罪人を一望すると、疲弊している者、憔悴し切っている者、そしてただ隔離されている者など居る。


「どれどれ?全員解放してやろうぞ。」


 蛇が鍵状になり、牢を開放する。

 次々と牢から罪人が解き放たれる。


「!!ぐへへへへへ。やったぜ。」


「殺し放題?殺し放題か?」


「キレイな姉ちゃんだ。俺と遊ぼうぜ〜。」


「下品な男じゃの。どれどれ。」


 クロアは男など見向きもせず、女性の罪人を何人か確認していた。


「私よりキレイな女!いやーー!」


 クロアはなかなか逸材が居ないとため息を吐く。

 さりげなく、先ほどうるさかった女と下品だった男の首を蛇に食わせていた。


「まあ、減らすかの。」


 指をパッチンと鳴らすと更に巨大なアナコンダが2匹現れる。


「シャァァァァァァア!!」


 その姿を見た者は恐怖のあまり震える。


「妾の罪は『暴食』じゃ。

 妾の方が大食いじゃけど、今回はこ奴等に譲るとしようかの。」


 静かだった地下室から断末魔が響く。

 阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられる。


「苦しめておきたいが、毒霧を撒くと他の奴らまで殺してしまうからの。」


 フンフーン♪と鼻歌を歌いながら断末魔を楽しみながら1人踊り出す。


「こんなもんかの?・・・・ほうほう。」


 ざっと50人ほど生かした。


「1人面白いのがいるの。お前。」


「私か?」


 1人だけ長く黒い髪にスレンダーな身体付きの女性がいた。


「なぜこんな所へ?」


「私はただ強い者を求めて殺し続けていただけだ。」


「で?居たのか?」


「いや、居なかった。」


「コイツはいい逸材じゃの。」


「お前は強いのか?」


「強いの。しかし、上には上がいるぞ。

 だから少し待ってれば面白い事を味わえるぞ。」


「ほう。それは楽しみだ。」































「死ね死ね死ね死ね死ね〜〜!」


 ゾラは暴れ回っている。

 外では沢山の兵士のバラバラ死体が転がっている。


「ウッヒョおおおーー!」


「そこまでだ!」


 1本の槍がゾラへ目掛けて突き付けられる。


 ガキン!とゾラは歯で掴み止める。


「なっ!野生かっ!」


「うるひゃい!」


「離れろ!」


 炎魔法を放つがゾラは後ろへと避ける。


「お前は・・・・・女か。」


「女で悪かったな。」


 槍を使う女性は中性的な顔立ち、緑髪のベリーショートヘアーである。

 彼女の名は帝国騎士団3番隊長アイシャ


「私はこれでも数々の戦場を渡り歩いている。

 例え相手が世界の敵であろうとも、負ける訳にはいかない。」


「またそれかよ・・・・しつこい。」


 ゾラは苛立つ。

 度々口に出される差別や侮蔑に呆れ果てていた。


「どこに居ても変わらねえ・・・・だから全てを奪って潰す。」


「何を言って!」


 瞬間、槍でゾラの蹴りを受け止める。

 だが、その威力に押され、壁へと突き飛ばされた。


「がはっ!」


「殺すか?・・・・ああ、女は生かすのか・・

 チッ!『憤怒』の罪を今ここで使いたい気分だ。」


「舐めるな!何!?」


 砂煙から放たれた槍の突きを指一本で受け止める。


「だから必要ねえって。」


 ゾラの強力な拳の一撃がアイシャの顔面を捉えた。

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