7 残酷な戦いと身の振り方
「ほら!そこで避けないと死ぬの!」
セレナーデが新人のキサラ、クイナを炎帝龍の住処にいる火龍相手に絶賛教育指導中であった。
「全く連携が成ってないの!」
「セレナーデ。そのような指導では育ちません。」
「レイレはうるさいの!」
「セレナーデがイラついておるの。」
「急に新人とか気に食わないタチだった?」
「さあ?そんなことより暑いから早く帰りたいわ。」
「そう?私は快適よ。」
スカーレットとインデグラはダラけている。
元々こちらの仕事にはやる気が無かった。
「とっとと餌にして帰りましょうよ。」
「あのですね・・・・」
レイレは周りにもうんざりしかけている。
「そんなことすれば王様が悲しむわ。」
「あ、今の無し。」
「インデグラちゃん。迂闊だったわね〜。」
不意を突かれたスカーレットの一言に、インデグラは慌てて撤回する。
スカーレットは追い討ちのようにインデグラの頬をツンツンと突っつく。
「うるさいの!私だって面倒だけど王様のために請け負ったの。」
セレナーデはプンスカと大きな胸を張る。
「だったらしっかりしなさい。」
「レイレは真面目過ぎじゃ。」
「真面目脳筋だからね。」
「ちょっとスカーレットさん!」
ドゴォォォォォと凄まじい音が鳴り響く。
2人が壁に激突した音であった。
「はあ。ダメなの・・・・・失せろ。」
セレナーデは火龍を睨み付けた。
すると、火龍は瞬く間に全身が凍りつく。そのまま動かず凍死してしまった。
「弱いの・・・・」
「ぐっ!」
倒れるキサラをセレナーデは蹴り飛ばす。
今度は倒れているクイナを踏み付ける。
「っ!」
「価値もない奴らを同胞にしてしまったの。」
「セレナーデ。よしなさい。」
レイレはそんなセレナーデを止める。
「・・・・・ハイなの。」
渋々セレナーデは引き下がった。
「ほら。大丈夫?」
レイレは回復魔法を2人にかける。
「あ、ありがとう・・ございます・・」
「も、もう、しわけ、あり、ませ、ん。」
「いいからゆっくりと休んで。時間はまだあるから。」
レイレ自身は特に独占欲や横暴性は一切ない。
それは本人が誇り高き忠誠の騎士と思い込んでいるからである。
「レイレのあの状態はいつまで保つかな?」
「レイレの方が何をしでかすか解らんからの。」
「同意〜。」
そんな会話はレイレの耳には届かない。
暫く休息を取った後、再び戦いが始まった。
「はい。次そこ!」
今度はレイレが指導者に変わっていた。そこからスムーズに物事が進む。
「ううう・・・私もできるの。」
「壊す方がでしょ?」
「あー、王様に早く会いたいよー。」
「お主ら好き勝手言うのお。」
キサラ、クイナ、レイレ、インデグラ、スカーレット、クロア、セレナーデは順調に前進して行く。
そして、いよいよ炎帝龍の住処へと足を踏み入れる。
「あれが・・・・」
キサラはごくりと唾を飲み込む。
「あの程度は倒せなければ、居る価値はありません。」
「レイレは天然だからね。」
正に天然の斬れ味を持っていた。
「あのレベルで炎帝はキツイと思うがの。」
「スカーレットなら朝飯前でしょ?」
そんなインデグラの問い掛けに。
「当たり前よ。私ならペットにしようか挑戦する所よ。」
「それはゾラの得意分野じゃろ。」
「むっ。始まったの。」
「一息すら付かせないのね。レイレは鬼ね。」
戦い自体は悲惨なものであった。
2人は多大な重傷を負いながらも必死に生き抜くために炎龍帝と戦っていた。
しかし、攻撃の刃は鱗を通らず。
魔法は弾かれ、手も足も出ない状況であった。
「し、死ぬの?」
「・・・・・・・・・嫌だ・・嫌だ嫌だ!」
クイナが珍しく感情を露わにする。
クイナ自身の人生は酷く呪われていた。
全てを奪われ、惨めに晒されながら生き続けた日々であった。
ようやく人並みに生活ができる環境に入ったのにこれである。
「嫌ならどうしますか?」
レイレはクイナに問い掛けた。
「力が欲しい・・・・全てを覆す力がッ!」
クイナの目が黒く染まる。
途端に彼女の魔力が開花した。周囲には真っ黒な花が咲き乱れる。
小屋中のアレイスター
「ふぁーーー!またしてもよく寝た。」
ふと、窓の外を見ると丁度炎帝龍の住処へと視線を向けられる。
「ん?あんな黒い花咲いてたっけ?」
山には巨大な黒い花が咲いていた。
山全て包み込むような大きさである。
フレイヤとミリス
「クイナが罪に覚醒した。」
「後はアレだけ。」
「アレは無理矢理だからね。」
「無理やりというか、めちゃくちゃにしたの貴女ですよね?」
「レイレはどうするかなぁ。」
再び炎龍帝の住処
「貴女は?貴女いいんですか?」
同様にレイレはキサラにも問い掛ける。
「!!いっ!いいも何も・・・・」
今まで私自身を慕い、愛してくれたマスターは居ない。
魔物の餌となり果て消え去った。
確かに盗賊業として、今まで悪さを働いてきた。因果応報であろう。
だが、この仕打ちはあまりにも過酷であった。
「でも死ねない。貴女は死を恐れたから。」
レイレはキサラの耳元から囁き、心の隙間を覗く。
「やっ!やめろ!私を見るな!」
「あんなに汚されても貴女は生への渇望を見た。最初は大事なマスターが死ぬのを見て絶望した。
けど、自身の死より恐ろしい経験から生への渇望を見出した・・見出してしまった。
だからこそフレイヤに拾われたのよ。」
フレイヤの名前を聞いた途端、キサラは震えが止まらなくなった。
「怖さはいずれ憧れへと、崇高なものへと変わる。
そして貴女のこれからの目的は幸福を壊すこと。」
「あ、あああああああああ!」
解っていた。
ここにいる時点で自分の成すべきことを。
盗賊として、これから仕えるマスターへ。
「今までと変わらない。
ただ違うのはアレイスター様に全てを捧げること。それだけ。」
私は・・・・・・私の罪は奪うこと。ならば全てを奪って捧げるしかない。
今度はキサラが立ち上がった。
そんなキサラの様子から見物をしていたインデグラたちが察した。
「へえ・・・罪は強奪ね。」
「いいんじゃない。」
「そういうのは居なかったし、歓迎よ。」
「むう。レイレに持ってかれたの。」
「あの子は真面目だから。」
新たな力に覚醒した2人が再び立ち上がる。
アレイスター
「俺自身思うんだ。」
「はい。」
「魔法がダメなら身体を鍛えようと。」
「はい。不要かと。」
即否定なの。
「ダメなの?」
「不要かと。」
ミリスさんは先程から否定的である。
主に俺が動くことに大きく否定的だ。
「皆んなばかりに申し訳なくてさ。」
「いえ、お気になさらずとも。」
「気になるよ〜。」
「気にしなくても良いかと。」
「・・・・・・・」
何故だ・・・・・ミリスの牙城が崩せない。
こんなにも目の前の壁が高いとは・・・
「ただいま。戻ったよ。」
「おかえり。フレイヤ。」
今の今までどこかへ行っていたフレイヤさん。
「結果は?」
「問題ないかな・・・代わりにゾラがコントロールしているし。」
「なら問題無しですか。」
何の話で。
「今日はお肉だよ。アレイスター様。」
「お肉!やったぜ!」
久々のお肉だ。
かれこれここ数日はお野菜とスープだったので。健康なのは良い事だけどね。
「ふう・・・・嬉しい限りだ。」
「それは良かった。今日は私が作ろうと思ったから。」
「フレイヤ作れるの?」
「まあね。」
期待しててと言い小屋を立ち去って行った。
やけに上機嫌な気がする。
「うん?」
炎帝龍の住処へと視線を移すと黒い花が無くなっていた。
「アレは何だったんだ?」
「そろそろ帰ってきますね。」
「無事だと良いが。」
人数を厚めにしたらしいが、心配はなかなか拭えない。
「ただいまーー!」
「あっつ!ほんとあっつい!」
お、どうやら噂をすれば何やら。早い気もするが。
「我が君!只今戻りました。」
レイレがいの一番にこちらへ挨拶をしにやって来た。
「おかえり。」
「王様〜。」
インデグラがいきなり抱き付いてくる。
汗びっしょりのためヌルヌルする。
「ちょっ!」
色々とあかん!
「離れんか!」
ミリスが引き剥がしてくれた。
「じゃあ、私は後ろからね。」
今度はスカーレット姉さんだ。
しかし、姉さんは何故か汗をかいてない。
「代謝が良いとか?」
「さあ?」
さあ?って。
「王様!帰ったの!」
「妾もじゃ。」
皆さんご無事で・・・・・・
あからさまに2人だけボロボロだけど。
「クイナにキサラ・・・大丈夫か?
あ、そうだ!このポーションを使いなさい。」
初心者限定で手に入ったヤツだ。
正直な所、俺が戦わない以上使い道がない。キリッ!
「「!!」」
2人は何故か驚く。
「な、なりません!そんな高価なもの!」
「我々のような低身分に!」
「それよりも早く飲みなさい。うん?
王として命ずるとしよう。飲みなさい。」
ミリスや他の奴らが何か言い出しそうであったため、敢えて言い方を変えた。
うむ。この喋り方の方がイケるのか?
「で、では・・・・」
「・・・・恐縮です。」
クイナとキサラはポーションを受け取り、服用する。
そして、少しずつ傷や火傷が修復される。
「これなら今暫くしたら元に回復するだろう。」
「どうして・・・・?」
「いや、仲間だし。仲間が傷つく方が見てらんないよ。」
「仲間・・・・・」
「私は・・・・」
「キサラも何がどうしてかは解らないよな。
けど、今は仲間だ。だから2人は気にしないでくれ。」
2人は少し暗い雰囲気になった。
余計なお世話だったかな?
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