6 初の探索

「出発じゃーー!」


「おーー。」


 俺とフレイヤは森へと資材調達をしに出発した。

 ノリが良いのは良きこと。


「任せて。」


 優しくヨシヨシされる。


「あ、ありがとうございます。」


 何だか頼もしいというべきか。心強い。

 でも、男がエスコートすべきだな。何とも情けない話だ。


 だが、それも今日までの話よ。

 ここで訓練を積んで成長し、王として。いや、覇王としてその力を存分に発揮してやんぞ!


「気合い入ってるね。」


「ああ、勿論だとも。」


 やんよやんよ!


「大丈夫大丈夫。肩の力を抜いて。」


 お姉さん。敢えて押し付けてます?


 大きな胸が背中に当たっている。余計な力が入る。


「うん?あれは・・ゾンビっ!いきなり!?」


「うん?ゾンビ・・・・あー。」


 フレイヤさんには心当たりがあるようです。

 つか、初めて出会ったモンスターがゾンビってどいうことやねん。


「まあ・・あれ、何でしょうか。倒して大丈夫だよ。」


「煮え切らないね。」


 ゾンビかグールは大抵人の死体が関わる。

 つまり、昨日の処理を怠ったのだろう。


 ゾンビファンタジーではないよな?


「ま、縁起は悪いが、これも俺のためだ。」


「どう戦うんだい?」


「どうって・・・・あ。」


 そうだった。俺には召喚魔法以外、何も無かった。

 やってしまったなり。


「だ、だが、ここにある木の棒やら・・・そうだ!丸太だ!」


 丸太を持てぇい!


「その丸太をどうやって切るんだい?」


 ・・・・・・・・・・・チーン。


「す、素手かな。」


 木に片手でもたれ掛かり、カッコつける。


「ゾンビ相手に素手は・・・・怖いかな。

 アレイスター様ならできると思うけど、怪我はさせたくないな。」


 変な所にフォロー入れないで。


「いや、そもそもゾンビ相手に素手は馬鹿げてるのは解ってた。」


「そうでもないけどね。」


 僕はか弱い人間なので。


「でもそうだね、このまま放置しても後々面倒だから。」


 フレイヤさんが指をパッチン鳴らすと、一本の剣が出てきた。

 とても高価そうな剣だ。


「これを使うといいよ。」


 その剣を手に取ると、魔法が宿っているのが解る。

 こう、ブワッて手に伝わる感覚ね。


「良いのか?随分と高価そうだけど。」


「魔剣だからね。」


「ああそうなのね。うん?」


「魔剣と言っても、私から見ればただの爪楊枝レベルだよ。」


 魔剣が爪楊枝って。

 ともかく、使って良いなら遠慮なく使わせてもらうかな。


「剣の心得は一切ないが、アレぐらいの動きなら素人目の俺でも何とかなる。」


 魔剣発動の仕方とかは解らんが、剣を相手に当てる事はできるぞ。


「いざっ!」


 ゾンビにこちらから斬り掛かった。


 そして、見事に首を真っ二つにした。


「うおっ!」


 予想以上に手応えのなさに驚く。

 刃の質が段違いのようであった。


 豆腐でも切ったのか?と錯覚するレベルですんなりと切れた。


「おめでとう。」


 フレイヤは拍手して祝ってくれる。


 普段なら胡散臭い演技だな。と感じる事もあったが、何故か本気なのが感じ取れる。


「流石は私たちの王様だ。ヨシヨシ。」


 凄くお姉ちゃんに甘やかされている感じが。


 控えめに言って最高です。


 次々とゾンビやゴブリンたちを狩っていく。

 命を奪う行為に躊躇いが無かった。


 恐らく、どこかゲーム気分な自分がいるのか?

 だが、人を殺せるほど度胸はない。


 あ、ゴブリンは以下略で湧いてました。


「うん?・・・あれは荷が重いかな?」


 フレイヤの視線の先には大きな図体をした緑色の魔物『オーク』がいた。


「デカっ。流石に・・・・いや、臆さずか。」


「やってみるかい?」


「あ、ああ。」


 流石にビビるけど、ただまあ、試すには良い機会だ。


「行くぞ!」


 魔剣をしっかりと握りしめて突撃する。


「ブモォォォォォ!!」


 そんな俺の姿を見て、良い獲物を見つけたとか思ったのだろう。


 上から迫り来る棍棒を左へ何とか避けた。


 その隙間から攻撃を仕掛け!


 仕掛けようとした瞬間、棍棒が急速に切り返し、俺へと当たる。


「っっっっぅうぅぅっ!!」


 イッテェ!!痛え!けど!


 アドレナリンのお陰なのか、そこまで痛いという感覚に苛まれる事は無かった。


 しかし。


「身体が・・・そうか。」


 強力な攻撃の影響なのか、身体が麻痺してしまった。

 痛みが感じ難い理由もこれであろう。


「死ぬかもな・・・・・・」


「大丈夫だよ。」


 フレイヤが側に居た。


 彼女の後ろには首から血が噴射しているオークが立っていた。


「ほら。」


「あれ?」


 身体の麻痺所か、全てが綺麗になった気分だ。


「どう?大丈夫?」


「大丈夫・・・ありがとう。」


「良かった。」


 フレイヤは俺を抱き寄せ、優しく撫でる。


「危険だったね。けど、もう大丈夫だよ。私が居るから。」


「う、うん・・・・ありがとう。」


 依存しそうな雰囲気だ。

 そんな彼女の顔は明後日を向いていた。


 それと気付いたが、やはり俺には召喚以外の戦う力は無いようだ。

 命を奪う行為に躊躇いが生まれなかったせいなのか、変な慢心ができていた。


 ある意味良い勉強になった。結果オーライにも程があるが。

























 フレイヤ目線


 やはり、難しかった。いや、そうであろう。


 彼には召喚士としての力以外は何もない。

 戦うことができない人だ。か弱いと普段なら嘆くが。


「それでいい。私が居れば万事解決だから。」


 弱いままで良い。

 けど、彼の頑張りや希望を奪いたくない。


「矛盾している。」


 アレイスターが棍棒で薙飛ばされる。


 フレイヤの身体は自然と動く。


 苦しそうに倒れる彼を見て、自分の心が苦しむ。

 今までの何よりも大きなダメージとなる。


 すぐさま、治療しアレイスターを介抱する。


 手間暇を掛けてでも行うつもりであった。


 彼にとってオークが脅威なら・・・・・潰す。

























「いてててて。身体の節々が。」


 これが世に言う痛い目を見た。だな。


「よく頑張ったね。」


「山というか森というか。

 とにかく、自然を散策するなんてなかなか経験しないからね。」


 更には身体が筋肉痛になった。経験は大事だよな。


「王よ!」


「王!」


 ミリスにヘルメが駆けつけてくれた。


「大丈夫でしょうか?」


「お身体の具合は!?」


 心配性か。


「大丈夫大丈夫。フレイヤも付いてたし。

 ただ、フィールドワークが久しぶり過ぎてね。身体が付いてこなかっただけ。」


 最も、運動しなかった俺がいけないが。


「ふぅ。良かったです。」


「ホッとしました。」


「だから言ったろ?私が居ると。」


 ヘルメとミリスはフレイヤを睨む。


「結果よしという事で問い詰めはせんが。」


「知ってたの?」


「当たり前だ。」


 フレイヤは何かに勘付いていたのか、そう尋ねていた。


 え?監視されてたの?

 嘘ーん。魔力の気配は愚か、視線する感じなかったぞ。

 召喚士はやはりネタ職では?


「おっ!王様じゃねえか!」


 アイナもこちらに気付き、走って向かって来る。

 勢いそのまま抱きついてきた。


 スタイルが良過ぎるせいか、疲れた俺の身体を奮い立たせようとしてくる。


「あ、アイナ!近い近い!」


 未だ女性への免疫が完璧にある訳ではない。

 仕事やある程度の関係性なら問題ないが。


 複数の女性との会合は厳しいぞ。


「離れんか!」


 ヘルメが引き剥がしてくれた。


「何だよ〜。嫉妬してんのか?」


「殺す。」


「止めないか、お前たち。」


 ミリスさんが収拾つかなくなりそうな所をフォローしてくれる。


「あれ?ところで皆んなは・・・」


「ええ。今は炎帝龍の討伐に繰り出しております。」


 あそっか。ドラゴン討伐中だった。

 スケールの違いに驚けない。


「頑張らんとな。」


 俺はこのネタ職の扱い方をしっかりと考える必要がある。


「そしたらゆっくり休んで。一眠りしたら昼食にしよう。」


「解った。ありがとう。」


 フレイヤはそう言い、アレイスターの疲れた身体を動かして小屋へと向かわせた。































 そして、彼が寝た気配を察知すると、皆の顔付きが変わった。


「それで?」


「龍の方は問題ないでしょう。」


「あの2人には厳しいが、5体満足で帰れるほど甘くないのも知っている筈だ。」


 フレイヤ的には死ぬと思っている。


「僕はそんなことより、フレイヤ。」


「解ってる。オークを潰すよ。」


「それでいい。」


「けど、あれは使い方次第では面白いからね。」


「まあ、人を嬲るにはもってこいだな。」


「王の前で決して聞かせられん内容だ。」


「そうかな?彼、少し気付いているけどね。」


「流石は王だ。僕も脱帽せざる終えない。」


 アレイスターが聞けばゾッとする話である。

 しかし何処となく察しはしていた。


「彼は別に優秀じゃない。特別なものなんて限られている。」


「それでも彼だから皆付いて行こうと決めた。」


 フレイヤに続いてミリスが賛同した。


「よっし。じゃあ、動くか?

 それともこの辺を嗅ぎ回っている猿を捕まえるか?」


 改めてアイナが鬱陶しそうに森の周囲を見渡していた。


「そうだね。私たちの存在を嗅ぎつけたのか、お国や教会連中が首を突っ込み始めたのだろう。」


「捕まえてもしょうがない。

 今の戦力では王の身が危険だ。」


「んじゃあ、野放しにしろってか?」


「そうなるね。」


 アイナは怪訝ではあるが、何も言わなかった。


「ならば、こちらでマークしておこう。」


「ヘルメなら問題ない。そしたら私は単独でオークを潰すとしよう。」


「そうかい。なら俺は?」


「ゾラが寝てるだろ?叩き起こして他に密偵が居ないかを探ってくれ。」


「はいよ。」

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