5 モーニング開拓

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・よく寝た。」


 誰かが居るというだけで、ここまで安心なのか。


「おはようございます。王よ。」


 ミリスが側で起きるのを見守っていてくれたようだ。

 何故か裸だけど。へ?


「やってしまったのか・・・つい本能的に。」


「違います。冷やしてはいけないと思い、身体で温めておりました。」


「あ、そうなの。ありがとう・・・・」


「どういたしまして。」


 メガネ越しにニッコリと笑う姿はまた美しい。

 つい見惚れてしまう。


「ゴホン!!」


「あ、お、おはよう。フレイヤ。」


「おはよう。アレイスター様。」


 フレイヤは何故か唐突に服を脱いで俺に張り付く。


「え、えーと?」


「寒いからね。」


「あ、はい。」


 ちょ、ちょっと朝から精神衛生がヤバい。


 俺の聖剣が暴れる前に無事抜け出せた。


 責めてあんなボロ小屋じゃなくて、もうちょっとね。うん?

 外へ飛び出して来たが・・・・あれ?


 プチ村が完成していた。


 荒れ果てた土は畑となり、家畜がいる。

 そして川が通り、水が取れる。


 周りには石積みの防壁が立派に立っていた。

 そこそこの大きさである。


「いつの間によ。」


「おはようございます。我が君よ。」


 暗黒騎士ことレイレさんだ。


「おはよう。コレは・・・・一体・・」


「ああ、昨夜よからぬ輩が居たので成敗して参りました。」


 どうも話の辻褄が。大体は察しが付くが。

 つか、成敗なの本当に?


「よ、よからぬ輩ね。」


 予想はしてたが、マジ野盗・・・居たんだ・・・コワッ。


「大丈夫大丈夫!俺たちがいるって!」


 今度はアイナが朝から元気よく後ろから肩を組んでくる。


 ボインな胸が当たってるって!


 再び精神が汚染される。


「アイナちゃん狡い!私も〜。」


 スカーレット姉さん迄も抱き付いてくる。


「コラっ!妾の場所はどこなのじゃ!」


 ベビ女さん。あまり近付かないで。

 噛み付かないだろうけど、怖いから。


「王様なの!おはようなの!」


 セレナーデも腰辺りに抱きつく。


「お、おはよう。っで!君たちね!ワザとかね!?」


 つい博士口調に!


「こーらっ!止めなさい!王が困ってますよ。」


 レイレの一言で3人とも節々と離れた。


「良いじゃねえか別によー。」


「アイナ。」


「チッ。解ったよ。」


「皆んな。ありがとう。」


「・・・・・・びっくり。」


 いや、俺はダレネが股下に居たことにビックリだよ。


「私たちにお礼なんて・・・・・」


「やっぱり王様は私たちだけの王様だな!」


「そうね。この方に全てを捧げて正解ね。」


 何故か皆さんで盛り上がってるので、今の内に退散退散と。


「やあ。」


「フレイヤ?」


「ちょっとこっちこっち。」


「うん?」


 フレイヤに誘導され、ついて行くと。


「ここが一応、病棟みたいな感じかな?」


 藁の小屋と呼べば良いのか?


「またいつの間によ。」


「2人ほど仲間を作ってみたんだ。」


「えーと、それは物理?魔法?」


「その両方かな。」


 マッドサイエンティストがいます。


「1人目はこちらかな。」


 これまた高身長のダークエルフさんが登場する。

 静かにお辞儀をする。


「紹介して。」


「はい。私はこの国に加わることになりました、雌豚1号と申します。」


「却下だ。」


「よし、殺そう。」


「ちゃうわ!」


 何で大阪芸人みたいなノリやってんだか。


「名前だよ名前ね。」


「うーーーん。王だとこんなのも必要じゃない?」


 貴方の中での俺は一体何なの?


「あのな・・・・・いや、否定できない。

 が、今はそんなことに割けるリソースはない。

 だから名前で呼ぼう。」


「と言っても彼女は生まれ変わったし。

 幻界としてデザイアを背負ったからね。」


 よく解らん。


「それも置いといてだ。名前は、クイナだ。」


 黒い花クイーンオブナイトの略?


「かしこまりました。クイナを名乗らせていただきます。」


「良かったね。」


「ありがとうございます。」


 しかしだ。何かこう髙身長だしナイスバディだ。

 しかも、姿形がフレイヤたちにそっくりだ。

 肌色も・・・・・・良き!


 やはり、ここまで来るなら俺の国はそうじゃないとな!

 ある意味振り切った気がするが。


「んで、次はね。」


 フレイヤが続けて連れて来たのは眼帯女性だ。

 こちらは身長が低い方だ。

 そして、豊満な身体で肌は白い。


 しかし、そんな綺麗な容姿からは全く生気を感じられない。


「昨晩私がいたぶ、遊んだ相手なんだ。

 ちょうど他のマスターが居たけど奪ってきたんだ。」


 他のマスター?奪った?いたぶの後は?


「それはまさか。」


「居るよ。」


「この世界で俺以外にも居るのね。」


 色々と色々だが、それよりもだな。


「まあね。けど、大丈夫だよ。」


 フレイヤは強い瞳でコチラを覗く。

 あまり見られると押し倒したくなる。


「そうだね。フレイヤたちが居るし。」


 それよりもだ。何回言うねん。


「その人随分と・・・・」


「壊れてる。だろ。」


 何か虚というか、上の空のようだ。

 こういう人はたまに職場で見かけた。比喩だけど。


「まあ・・・・解ってるよ。戦うってことの意味は。

 こっちも気を付けないとな。」


「そうだね。

 だから、そのためには強くならないと。どんな手段を使ってでも。

 なら、アレイスター様の野望を叶えようよ?」


 フレイヤは全てを見透かしているようだ。


「王に抜擢された以上、そうするしかない。

 守るためにも、そして俺自身の後悔がないためにも。」


 前世と同じく浪費する毎日はごめんだ。


「だから手始めに。これを堕とす。」


「堕とす?」


「私はデザイアを模して創られているからね。

 罪人の咎を塗りたくって地界から幻界へと変えるのさ。」


「それ本人の自我は大丈夫なのか?」


「さあね。逆らえば死だし、大丈夫じゃない?

 それと、堕ちる以上はアレイスター様の言いなりだし。」


「俺雑魚だよ?」


「そんな事ないよ。ほら?」


 盗賊眼帯女性に電流が流れる。

 バチバチと魔法陣が展開され、ガチャガチャと身体を作り直している。


「こ、コレは・・・・・」


「堕ちる。反転式『堕転』という。」


「堕天使的な奴か。」


「そう。正解だ。」


 シューと魔法が終わったようだ。煙が舞う。


 そしてザッと足が見える。

 その姿は髙身長の褐色肌だ。そして姿形がまたしてもレイレたちとそっくりだ。

 髪型や髪色が違う以外、殆ど似ている。


「おお〜〜!ロマンだな。」


「この色やこんな感じが好きだろ?」


「その通りよ。」


 二つ返事です。


「アレイスター様。どうかこの醜奴隷をお使いになさって下さいませ。」


 人格も変わってんのね。つか、同じスルーを後何回続けさせられるの?


「性能も格段に上がってるよ。

 デメリットとして、この世界から迫害や差別を受ける事かな。」


 ある意味不憫だろ。


「んなもん、世間にやらせろ。俺は俺だ。」


 フレイヤが抱き付く。


「だろうね。流石はアレイスター様。」


 えらく上機嫌なフレイヤだ。悪くない。


 さて、『堕転』の儀も終えた事で。


「新メンバーもこんな早くに向かい入れ、このプチ村までもが開拓されたと。

 とんでもない人たちが味方になったな。」


 藁の小屋を出て、改めて周りを見渡す。


「王よ。」


「ミリス。」


 この人たちの速度って俺の感覚で捉えられないんだが。

 簡単に言うとだ。いきなり横から声を掛けれる。心臓に悪い。


「今後について少しお話が。」


 俺はミリスに連れられて一旦、元ボロ小屋へと入る。


「今後ですが。

 先んじてスカーレットが地図と見聞を広め参った所、隣は公国と小国、前の山には炎帝龍の住処、後は深き森となっております。」


 どこもかしこも危険地帯かよ。


「んで?」


「はい。それでですが、深き森からは今後の食料等の調達先に、そして目の前の炎帝龍を討伐しようかと思います。」


「それまた何でよ。」


「炎系のドラゴンは貴重なエネルギー源となります。」


 なるほどな。


「火力発電か。」


「ご明察通りです。」


「その程度ならね。ただ問題は・・・・」


 それをどうやって組み立てるの?という話である。


「組み立て自体は僕が担当します。」


「何でも屋か。」


「戦闘能力が低いので、こういった形でしか役に立てません。」


「いいじゃん。そういう縁の下は非常に大事だ。」


「・・・・・・ありがとう・・ございます。」


 ミリスさんのクールな照れは可愛いの。


「さてと。そうと決まれば、出陣かの。」


「いえ、王は家に居てください。」


 戦力外通告される。


















「今度はあのあっつい場所かよ。」


 普段暑苦しいアイナがイヤそうにしている。


「アタシパス。」


「ゾラは暑いの苦手だったわね。」


「私がその炎帝龍を始末しようかしら。」


「スカーレット姉さんが出ると、すぐ終わっちゃうの。

 だから、こうするの。」


 セレナーデの手拍子合図でダークエルフのクイナとキサラが颯爽と登場する。


「ほほーう、なるほどの。使い捨ての駒かの。」


「クロア。その言い方はあまり関心しません。」


 レイレはやや否定的であった。


「なんじゃ?急に良い子ちゃんかの?」


「くだらん。私が行って帰ってくる。」


「ヘルメ。ダメよ。独り占めは。」


 インデグラに止められる。


「チッ。ならどうしろと?」


「こうしろと言うこと。」


 再びフレイヤがヘルメの後ろから現れた。


 反応できなかったヘルメは苛立つ。


「ここでこの2人をテストしようということ。

 喰われて死ぬのか、焼かれて死ぬのか。

 果てまた、罪の力を使えるのか?」


「性格歪み過ぎだろ。」


 再びゾラからは皮肉が言い渡される。


「コクコク。」


 流石に無言のダレネも同意していた。


「それは認める。けど、彼の国には外部の人が続々と入る。

 だからね、弱い奴は要らない。居るのは強き者たちのみ。」


 クイナとキサラの頬を突く。


「ま、それはあるわね。」


 同じ強さならスカーレットは共感する。


「ただの強さなら僕は賛成しかねる。

 ただの強さで勝てるほど、炎帝は甘くないよ。」


 ミリスは真っ向から否定する。

 しかし、意見が変わらない事を見越してか、ため息を吐く。


「・・・・・後始末は?」


「私がしましょう。」


 レイレが魔剣を抜きさり、剣を上に掲げる。


「本気か?ヒュー♪珍しい事もあんだな。」


「それな。」


 こうして、物騒な炎帝龍討伐の打ち合わせは幕を閉じた。





















 アレイスター


「どうも戦力外通告くんです。」


 1人寂しくシクシクしてます。


「どこかで己の力を試したいものだ。」


「それなら私たちと一緒に行ってみる?」


 インデグラがいつの間に侵入して俺の小言を盗み聞きしてんのやら。


 そろそろ心肺停止するよ?


「どこへよ。」


「深き森の方はどうかしら?

 浅い層だし、資材集めだから打ってつけよ。」


「よーし!そこだ!」


「ちょっと待った!僕は容認しかねる!」


 だから素人相手に気配を消して入って来ないでほしい・・・・・ミリスさん。


「ミリスはもう・・・・固いんだから。」


「固くて結構です。王を危険に晒すぐらいならね。」


 ミリスはミリスなりに心配してくれている。

 僕っ子女教師さんに感激だ。


「でも、私が行くなら安心だね。」


 またしても・・・どこでもフレイヤさん。

 今一瞬呼吸が止まったぞ。


「そ、それは・・・・」


「向こうにはレイレとアイナ、ダレネが付いてる。

 過剰すぎる戦力だよ。」


「・・・・・任せます。」


「良いってよ。アレイスター様。」


「ありがとう。」


 ようやく外の世界へチャレンジだな。ビックリ死する前に出れてよかった。

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