4 赤い満月

「我が君。今夜は皆で警戒に当たります。

 あ、睡眠等は基本的に短くとも問題ありません。」


 何の補足説明よ。


「レイレさんたちは凄いね・・・・・」


「さんなど。呼び捨てにしていただいて結構です。

 そ、それか、雌犬と」


「レイレ。俺はそろそろ寝ようと思う。」


「は、はい。」


 残念がるなよ。処理しきれんよ。


「今夜は申し訳ないけど、護衛を頼むよ。

 ちゃんと周りに防壁やら対策は後日練るからさ。」


「かしこまりました。では、お休みなさいませ。」


 レイレは優しく寝るまで側で寝そべってくれていた。

 俺はその優しさに包まれつつ、夢の世界へと誘われる。


 流石に今日一日がヘビー過ぎた。




































「はあはあはあはあはあはあ」


「おいコラ。」


 レイレの首根っこ掴むアイナ。


「へぇ!?あっ!あの!」


「このメスは・・・・・・」


「い、良いではありませんか!?」


「そこ威張るなよ。」


「アタシだって喰ってもらいたいし!」


「お前たち、何している?」


 そんなフレイヤがいつのまにか居た。


「・・・・・」


「フレイヤ。お前はどうする?」


「私は私で決める。

 ただそうだね・・・・幸い、この辺で遊び相手が見つかりそうだ。」


「遊び相手?相手になんのか?」


「ならないよ。だからどうやって豚の餌にしようかな。ってね。」


「フフフ、良いじゃない。共食いも見て見たいし。」


「アイナ、レイレ。何をしている。」


 流石にこの状況を見兼ねたのか、ミリスが小屋へと入ってくる。


「作戦開始時間だぞ。」


「はいはい。」


「了解。」


「フレイヤは?」


「私はもう少ししたら行くよ。」


 今宵の月は赤色の満月である。

 その満月は血が塗りたくられているかのように赤く濁っている。



























 グチョッ!人の頭部が潰れる音がした。


「・・・・・脆い。」


「なっ!何だこの化け物!!!」


「逃げろぉ!にげへ!」


 またしてもぐしょりと握りつぶされる。


「相手にならない・・・・・けど、虐殺は気持ちいい。」


 ダレネは恍惚としていた。

 普段から眠そうで大人しめであったが、戦いになると人格が変わる。


「ほ〜〜ら!見て見て!人間タワー!」


「おおーーー!」


 インデグラは魔法を使い、野盗たちを生かして人をバラバラにし、人間タワーを組み立てていた。

 内臓や体内の管で繋げていた。


「これね。こうやって指を折ると。」


 ボキッと音が鳴ると、複数から悲鳴が鳴り響く。


「こうやって連動しているの。凄いでしょ!」


「おおーーー!面白そうだ。」


「ダレネ、インデグラ。仕事を早めに終わらせますよ。」


「レイレは真面目過ぎ。」


「うんうん。」


 そんなレイレの歩いて来た後は、バラバラの死体しか残っていなかった。


「全く。スマートにこなしてこそ、王への献身です。

 私たち唯一の存在ですよ?失望させたくはありません。」


「うぉらっしゃーーー!」


 アイナは拳で男の上半身を吹き飛ばす。

 辺りに肉片が撒き散った。


「ふう。これ楽しいな。うん?」


「全く。言ってる側から・・・・」


「けどよ、スカーレットの方が酷いだろ。」


 スカーレットの方は鬼ごっこをしていた。


「ワザと逃げれる雰囲気を作って落とす。

 アレはかなりひん曲がってんぞ。」


「フン。仕事ぐらいとっととこなせ。」


 ヘルメが闇の中から現れる。

 ヘルメの手には男女問わず野盗の首をネックレスのような形状で作られていた。


「アンタな・・・・・・」


「ゾラ。首尾はどうよ?」


「バッチリ。後はクロア、セレナーデとフレイヤだけだよ。」













「お、大人しくするの!」


「ぐがぁぁぁぁぁ!!」


 男の手足は粉砕されている。

 何故生きていられるのか?

 それはクロアによるベビの毒が原因である。


 生きながらにして地獄を味わされている。


「痺れはあるが、痛みはある。こんなもんかの?」 


「これで皆さんもやり易くなったの!」


 毒成分は過度に入れな過ぎれば、麻酔のような効果も発揮する。

 しかし、痛み神経だけ残すようにクロアが工夫を凝らしていた。


 周りには今まで嬲られていた女性たちが居た。

 皆、目の前の復讐対象を睨み付ける。


「ゾラの調教が効き過ぎでは?」


「手加減を知らないの。」


「うん?どうしたのじゃ?」


 1匹の蛇が何かの匂いを嗅ぎつけたのか、シュルシュルとどこかへ行ってしまった。


「まあ、よいかの。」


「おや?早いね。」


「フレイヤなの・・・・・」


 フレイヤがまたしてもいつの間にか現れた。


「お主、その登場の仕方は心臓に悪いのじゃが。」


「知らないよ。気付かない君たちが悪い。

 お?来たのかな?

 それじゃあ、私は移動するよ。」


 じゃあね。と言い、テレポートで消えた。


「妾たちよりも怪物じゃな。」


「おーーーーい!」


 アイナの声が鳴り響く。

 アイナたち一向がゾラたちと合流したのであった。


「うるさいの!ここ洞窟なの!」


「おっ!悪い悪い!」


「遊んでおるからテンションが高いのぉ。」


「おやおや皆さん。お揃いで。」


 ゾラは捕まっていた女性たちの下へと向かう。


「さてさて、皆さんにはこれから好きなだけ復讐をしてもらうよ。

 武器もほら、何でもあるよ。」


 大量の武器が投下される。


 女性たちは武器を手に、手足のない野盗たちの元へと向かう。


 そして復讐はすぐさま奏でられる。


 鳴り響く断末魔、痛みは伴うが死ねない。

 ただただ苦しめられる。


「見てて興奮してくる。」


 ゾラは頬を赤らめてその光景を眺める。


「まあそうね。

 今夜辺りは私がお邪魔しようかしら。」


「はあ!?インデグラせっこ!」


「コラっ!王がお呼びしたら行きなさい!」


「はいはい。でも、押しかけてもいいだろ?」


 アイナのしれっと抜け駆け宣言をする。


「馬鹿者か!そんなんなら妾はもうとっくに押しかけるわい!」


「・・・・・・うるさい。」


「ダレネ眠そうなの。」


 とても悲惨な現場にいる会話では無かった。

































洞窟の外


「チッ。何だって急に。」


「お頭、ここは引くのが賢明でさ。」


「わーてるよ。」


 お頭と呼ばれた女性は盗賊職のキサラ。

 別名 シーフクイーンと呼ばれている。


「マスター。アンタは大丈夫か?」


「しょうがねえよ。ここで雑魚共を失うのは痛手だが、お前を失う訳には行かねえよ。」


「ま、マスター・・・・」


「止めてくだせえ。こん」


 1人の部下のセリフが途絶える。


「!!!」


「なっ!何だってんだ!」


「静かに!」


 木の上を見上げるとそこには圧倒的な強者が居た。

 部下の首がボールのように手の上を跳ねている。


「やあ。良い月だ。

 最初の一歩として地界の盗賊を狩れるとは。」


「お前は?」


「名乗るほどでもない。」


「何だあの女!うげぇ!何だってあんな趣味の悪い・・・・ピアスとか解るが、あそこまでやるか?」


 フレイヤから笑顔が消えた。

 そして、殺気を全開に放ち始めた。


「あーあー、残念だ。折角遊ぼうと思ったのに。」


 笑みは一切ない。ただ純粋に冷酷怒りの表情を浮かべている。


「ま、まずい・・・・マスター、逃げ」


 既にフレイヤが横におり、男の足があらぬ方向へと曲がっていた。


「あがっづっぅぅぅぐた!!」


 声にならない痛みが男を襲う。


「お前!」


 得意の二刀流の短剣を屈指するが。


「・・・・・・・」


 綺麗なネイルの入った爪先で止められる。


「あ・・・・・・・」


「お前の罪はアレイスター様を馬鹿にした主人を持ったことだ。

 私は許さない。

 許さない許さない許さない許さない許さない許さない!」


 キサラの顔を鷲掴みにし、こめかみから血が噴射する。


「あっ!がぁぁぁぁぁぁぁぁうぅぅぅぅ!!」


 必死に魔の手から逃れようとするが、その握力を振り解けないでいる。


「けど、このまま殺さない。お前もお前も。

 相応しい罰を与えよう。

 私はアレイスター様が愛おしい。

 愛しいアレイスター様が1つでも馬鹿にされるのは我慢ならない。」


 ニヤリと悪魔の笑みを浮かべる。


「あ・・・・・・」


 キサラはこの世の悪夢を見ることになる。

















「終わったのか?」


 ゾラがつまらなそうにするフレイヤに声を掛けた。


「まあね。」


「何だ?随分とつまらなそうな。」


「つまりなくはない。

 ただ、感情に身を任せ過ぎたよ。」


「フン。」


「あーあー面白かった。」


 クロアたち全員もフレイヤの元へと合流する。


「まあまあのショーじゃ。」


 そんなクロアの発言にやや気になったフレイヤである。


「復讐した後に復讐した人たちが同胞になれるかをテストしたの。」


 セレナーデからその答えがすぐに出た。


「結果、1人だけですね。」


「エルフからダークエルフに堕ちただけで成功なのか?」


 ミリス自身は何か納得がいかなそうであった。


「ミリスが欲しがっていた研究結果だね。」


「・・・・・後は?」


「ダレネは寝てたからねー。

 後はオークやゴブリン共を使って犯させてから残りの全員を始末した。」


 ゾラからどうでもよさそうに結末が語られた。


「最後は絶望していたね。最高だ。」


 アイナはヘラヘラと笑う。


 フレイヤは狂気じみた周囲を見渡す。


 自身も変わらぬ存在であること。

 だが、明確に違うと認識していることがあった。


 唯一アレイスターに創られたということ。

 そして、彼に望まれて側にいる事を許されている。


「そう思えば、楽しいか。」


 目の前で大量の魔物に犯されつくされているキサラを侮蔑の目で眺める。


 キサラの無様に泣き叫ぶ姿にマスターの男は正気を保っていなかった。


「はあ。まあ、こんなもんかな。

 でも、あれどうしようかな・・・・・・」


 指をパッチンと鳴らすと、魔物たちが一瞬にして消滅した。

 ぐたったりと倒れたキサラの髪を掴み、起こす。


「うーーん。もう心が壊れてる・・クサッ。」


「あなた残酷じゃないかしら?」


 鼻を抑えつつインデグラは心にない事を尋ねた。


「解ってたでしょ?」


「んで、この汚えのどうすんだ。」


「改造できるかなって?」


「アタシたちより人でなしだぞコイツ。」


 流石のアイナもあまりの臭さに笑えずにいた。


 そんな空から血塗れのスカーレットが降りてくる。


「あーー♪久々の断末魔、楽しかったわー。」


 そんな彼女の恍惚な表情と返り血からか、とりあえず一度周りが静まったのであった。

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