第3話 初めての買戻し

 ここは博士のウインドウ研究所の会議室。

 その場で、九乗は手元の資料と博士を交互に見ながら、悩んでいた。

「この中から一つだけ、ですか」

「今回、あまり引き出せんかったからのう」

 あれから数日経過した。異世界からの襲撃は二回ほどあり、足だけの状態にも関わらず、なんとか撃退に成功していた。

 その功績が認められ、政府からの支援金が増資された。ようやく、パーツの一部ではあるが、買い戻せる算段がついたのだった。

「一つだけとなると、悩みますね」

 何度も見た資料をまたも読み直す。そこには今回の予算で買い戻せるダイタンナーのパーツが書かれている。腕・脚部のホバー機能・冷暖房の三つだ。

「ふむ、どうしたんじゃ? 以前、腕を欲しがっていたじゃろう。即決するものだと思っておったぞ」

「いや、そうなんですけどね。ホバー機能も欲しいなぁ。なんて」

「なんじゃ、心変わりか?」

「その、戦闘中には関係ないんですが。迎撃地点まで歩いて行くのが結構揺れて辛いんですよね。さらにいうなら、酔うんですよね」

 パイロットとして、訓練を積んできていた九乗。しかし、訓練内容はシミュレータで行われることがほとんどであり、実際の操縦で発覚した問題であった。

「それでは、ホバーにしようかの。戦闘中にグロッキーでは戦いにならんじゃろう」

「でも、今の戦い方もよくないのでやっぱり腕が欲しいかなと」

 今のダイタンナーは頭、胴、足しかない。

 それにより、攻撃方法も足で行うしかなかった。さらに狭めるならローキックと胴へのフロントキックだけしかできていないのであった。

「傍から見たら悪役ですよね。今」

 フロントキックの別名を考慮すると、いささか正義とは呼びづらい。どこにヤ――キックで戦う正義がいるというのか。

「うむ、倒れた相手に何度もストンピングをするさまも、なんとも言えんのう」

 当然、倒れた相手への追撃も足で行う。ひたすらに踏みつける、というのも九乗の悩みの種だった。

「それでどちらにしようか悩んでるんですが……。というかなんで冷暖房が選択肢に入ってるんですか。デフォで付けておいてくださいよ」

「仕方ないじゃろう。修理費捻出のために、要らない部分から売り払っていったんじゃから。冷暖房は必ず必要なわけではないじゃろう?」

「ああ、なるほど。でも重要度は低いですけど、結果的に大部分売り払ってたんでしょう。端金にしかならなかったのでは」

「いや、それなりに高く売れたぞ。何せ強力な冷却、加熱機能付きじゃ。極寒にもできれば、灼熱にもできる。ついでに加圧減圧もできる優れもの。広大な実験室の部屋の調整に扱えるものだったからのう」

「人がいるだけの狭い操縦席に、そんな強力なもの必要ですか⁉」

「あるに越したことはないじゃろう?」

 博士が謎にサムズアップをする。

 九乗はそれほどまでに強力なものを誤操作した場合のことを想像して、不安になった。凍死も焼け死ぬのもごめんだった。選択肢から外すことにする。

「それでどうするんじゃ? 持ち越しか?」

「ああ、そういう選択もあったんですね」

「持ち越せば戻せる装備の幅が増えるからのう。ただ、その分今のままで戦うことになるがの」

「あー、それは勘弁です。できるだけ足技のみの状態から脱却したいですし」

「そうか。では決まったかの?」

「そうですね。やっぱり今回は腕をお願いします。ホバー機能の快適性は大事ですけど、勝利に貢献できなければ、贅沢品でしかないですからね。」

「わかったぞ。腕じゃな」

 博士が腕を戻すために手元のタブレットを操作する。

 しばらくしてから、顔を上げて、九乗に聞いた。

「腕を買っても多少、今回の支援金が余るんじゃが、儂が好きに使ってもよいか?」

「元から自分だけの資金でもありませんし、博士も色々入り用でしょう。問題ないですよ」

「うむ、そう言ってもらえるとありがたい。無駄にはせんぞ」

 どこか満足げな表情をする博士。無駄になったかどうかは、

今後の展開で分かるだろう。

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行き当たりばったりロボット奮闘記 ダイタンナー 不手地 哲郎 @tetiteti

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