第30話
ついに星良と焔川薫が顔を合わせる瞬間が来た。彼らの待ち合わせ場所は、炎煌城の外にあるひっそりとした公園だった。二人は、それぞれが違う道を辿ってこの場所に辿り着き、静かな夕暮れの中で対面した。
星良は焔川薫を見つめていた。一方の焔川薫は、静かで落ち着いた表情を崩すことなく、星良を見つめ返した。
「焔川薫さん、会えて光栄です。」星良は率直に伝えた。
焔川薫は星良の言葉に少し頷き、その眼差しは依然として冷静さを保っていた。「同じく、星良さん。」彼の声は深く、それぞれの言葉が重さを感じさせた。
星良は少し深呼吸をし、自分がここに来た本当の理由を焔川薫に伝える準備を整えた。「焔川薫さん、実はあることを伝えるためにここに来ました。それはあなたの兄、焔川勇次さんについてです。」彼の声は少し震えていたが、その視線は確かに焔川薫に向けられていた。
焔川薫は、星良の言葉に少しの驚きを見せたが、すぐにその表情を戻した。「何か、焔川勇次についての情報があるの?」
星良は焔川薫の問いに頷き、続けた。「焔川勇次さんが、闇の軍勢と何らかのつながりを持っているかもしれない、という情報を入手しました。」彼の言葉が公園に響き渡ると、その場の空気は一瞬で張り詰めた。
星良は焔川薫の反応を伺いながら、自分が持つ情報を正直に伝えることを選んだ。
焔川薫の顔には悲しみと痛みが浮かんでいた。星良の告げた情報に対して、彼は驚きを隠せない様子だったが、同時になんの反論もしなかった。
「それは…」焔川薫は苦しそうに言葉を探した。その瞳は深く、星良の告げる情報に対して疑いの色を見せていなかった。
「星良さん。」彼の声は少し固くなり、「私も、同じ疑念を抱いていました。」
焔川薫はうつむき、少しの間、言葉を紡ぐことができなかった。「兄が…焔川勇次が闇の軍勢と何らかの形で繋がっている可能性を、私も感じていたんです。」
「証拠があるんです。それも、いくつか。」焔川薫の声は控えめだったが、その中には揺るぎない決意が見えていた。「しかし、兄の権力は強大で、それを公にすることはできません。」
でも、確かに、数年前から兄は…」焔川薫の声は少し弱まり、言葉が出てこなかった。しかし、その間も彼の口元は動き続け、言葉を選んでいた。「兄が、人が変わったようになっていました。」
「でも、それが闇の軍勢、ドラクシアとの関連があるのか、それとも別の何かがあるのか…」焔川薫は顔をしかめて言った。「兄が脅迫されているのか、魔法で操られているのか、それとも兄自身が何らかの理由でドラクシアに近づいたのか…それについては、私にはまだ確信が持てません。」
焔川薫の言葉は語るほどに迷宮入りしていった。
「星良さん。誰があなたにこの任務を託したのですか?」焔川薫の問いに、星良は一瞬言葉を失った。
「こんなに危険な情報収集を、誰の依頼もなしに行ったとは、さすがに思えませんからね。」薫の声は静かだが、彼の言葉には確かな真実があった。
星良は深く息を吸い込んだ。もちろん、彼女は石井淳夫からの依頼で行動していた。だが、それをここで告げるべきなのかどうか迷っていた。
しばらくの沈黙の後、星良は決心した。「それは、水晶城の宗主、石井淳夫からの依頼です。」
焔川薫は少しだけ目を細め、その情報を消化するのに時間をかけた。そして、何も言わずにただ頷いた。
「その情報は、確かに危険ですね。」
石井淳夫との接触、そしてその依頼に応える形で星良が動いていたという事実は、彼自身が反逆者と見なされかねない。
「護衛を連れてこなかったのは、そのためです。」薫は静かに語った。「護衛が私たちの会話を聞くと、星良さんの身に危険が及びます。そして、私自身の立場も危うくなるでしょう。」
「わかりました、この情報は二人だけの秘密にしましょう。」その決意の表れとも取れる宣言に続き、焔川薫の声はさらに深刻なトーンを帯びた。「しかし、その代わりに、もしあなたが炎煌城の人々の命を奪う行動を取ったら、私はあなたを切ります。」
その瞬間、空気は凍りついた。切るという言葉は、文字通り首を切るという意味だった。焔川薫は剣術の達人であり、星良の首を切るのは容易だ。彼の言葉は冷たく、実際の意味が伝わると同時にその重みも伝わった。星良はその言葉を受け止めた。
だが、星良は自分の心の奥底で感じていた。この約束が守られ続ける可能性は、どこかで途切れてしまうだろうと。彼女自身の目的を達成するためには、不可欠だと思われた。
星良は、焔川薫との会話を終えて水晶城へ帰る途中、汚染された火山に立ち寄った。一見すると死の風景が広がっており、火山の肌は黒煙で覆われ、辺りの空気は苦く、土壌は黒く焼け付いていた。その景色は、火山が噴火した時の災害の恐怖を思い出させた。
彼女の目的は、汚染の状態を確認し、その影響を予測することだった。特に、水晶城にどのような影響を与えるか、という問題だった。
星良は一瞬眉をひそめた。そして、クレイ・スプライトを一つ作り出し、火山の中へと送り込んだ。「汚染の具体的な状態を探してほしい」という、あえて曖昧な指示を出した。彼女はクレイ・スプライトが見ている情報を自身の視覚に取り込み、火山の内部の状況を詳しく観察した。
その結果から、星良はやはり汚染物質が水晶城の方向に向かって広がっていることを確認した。風向き、地形、そして汚染物質の性質から推測すると、このままでは水晶城もやがて汚染の影響を受けるだろう。星良の表情は硬くなった。彼女が愛する土地が危険に直面している現実を、改めて肌で感じたのだ。
彼女はしっかりとその状況を記憶し、報告するための情報を整理した。水晶城へ戻ったら、まずは石井淳夫にこの事実を伝えなければならない。
水晶城への帰路、星良は心の中で石井淳夫への報告内容を整理していた。城に戻ると、彼女は石井の待つ書斎へと直行した。
「石井さん、報告があります。」星良は礼儀正しく、だが確かな口調で言った。彼女の顔色は厳しく、その視線はぐらつかなかった。それは、彼女が伝える情報の重大さを示していた。
淳夫は星良の言葉に頷きながら、彼女を深く見つめていた。淳夫は星良を尊敬していた。若くして才能ある陶芸家でありながら、その責任感と使命感は他の誰よりも強く、彼女の報告はいつも的確だったからだ。
星良は淳夫に、汚染された火山の状況を詳細に報告した。汚染の進行具合、その影響範囲、そして水晶城に及ぼすであろう影響。そして、その汚染が自然のものではなく、何者かによって意図的に行われた可能性を示す証拠も述べた。
そして、彼女は一息ついてから、更に重大な情報を告げた。「そして、この汚染には、黒魔術師が関わっていると思われます。それも、炎煌城の焔川勇次が関与している可能性が高いと……」
その言葉は、淳夫の表情を一変させた。しかし彼は、驚きを抑えて冷静さを保ち、星良の報告を深く聞き入れていた。星良が告げる情報は、水晶城にとって、そしてユウキヨ全体にとって、大きな影響を及ぼすだろうと淳夫は感じていた。
「だから私たちは、他の宗主たちと同盟を結ぶべきだと思います。」星良はそう続けた。淳夫は驚きの表情を見せず、星良の提案について深く考えていた。
彼女の言葉は理にかなっている。もし焔川勇次がドラクシアとつながりがあるなら、水晶城だけでなく、全ての宗主とその領地に対する脅威だ。魔王アゾゴスの野望はユウキヨ全体に影響を及ぼすだろう。ユウキヨの宗主たちが一つになって立ち向かうべきだ。
「君が言う通りだ、星良。」淳夫はしっかりと星良の視線を見つめた。「私たちは他の宗主たちとの同盟を模索しなければならない。だが、そのためには、彼らを説得する必要があるだろう。焔川勇次とドラクシアの関連性を示す証拠もなければならない。」
「淳夫様、私たちは月詠智広と松尾晴美に連絡を取るべきだと思います。」星良の言葉に、淳夫は微笑んで頷いた。
「君の考えが正しいと思う。彼らはユウキヨの北部で、ドラクシアと直接国境を接している。彼らは焔川勇次とドラクシアとの関連性について、他の宗主たち以上に理解し、危機感を抱いている。」淳夫の声は穏やかだったが、その中には明確な意志が宿っていた。
月詠智広と松尾晴美。彼らは共にユウキヨの北部、大陸北部でドラクシアと直接国境を接している宗主たちだった。智広は翡翠城の宗主で、深遠な知恵の持ち主。彼の策略と独自の見識は他の宗主たちから尊敬を受けていた。
一方、晴美は星煌城の宗主で、彼女の城は平等と友愛の象徴となっていた。温かさと慈悲心で知られる彼女は、自分の人々が幸せで満足していることを確保し、平和と調和を追求していた。
「私たちは彼らに危機を伝え、共に解決策を見つけるべきだ。」
そして、星良と淳夫は月詠智広と松尾晴美への連絡を取るための準備を始めた。
「さて、美晴、魂音、次の行動計画が決めまった。」星良は慎重に言葉を選びながら話し始めた。「美晴、魂音。最初に星煌城の宗主、松尾晴美と面会し、石井淳夫の書簡を渡す。その後、翡翠城の宗主、月詠智広と面会し、彼にも同様に書簡を渡す。そのまま国境を越え、エルデリアに向かう。」
美晴は星良の計画を聞き、瞬間的に思考を整理し、理解した。「私、その計画、いいと思いますよ!最初に晴美さんに会ってから、智広さんに会って、その後、エルデリアへ行くんですね。」
「その通り、美晴。その旅の間、私たちは可能な限り情報を集め、ドラクシアと焔川勇次についてもっと知る。」
美晴は星良の話を真剣に聞き、その重大な任務の全貌を理解していた。「星良さん、私、全力で頑張りますから!それに、一緒に旅をするの、楽しみですよ!」
星良は美晴の明るさに微笑んだ。
星良と美晴、魂音は次の行動を決め、その実行のための準備を始めた。初めての目的地、星煌城へ向けて、三人人は一歩一歩前進していった。
星良、美晴、魂音の三人は一路星煌城を目指して旅を進めていた。まだ旅の始まりで、彼らは未だ目的地に遠く、新たな危機が彼らを待ち受けていることをまったく知らなかった。美晴は前方を高速で偵察し、魂音は後方を確認しつつ、星良の安全を守っていた。
彼らが行く先々で、ドラクシアの動向が注目されていることを感じていたが、具体的な危険を感じるまでには至っていなかった。
突然、星良の手元にあるエーテルウェーブ・クリスタルが緊急の輝きを放つ。
星良がクリスタルを手に取ると、その内部には文字が浮かび上がっていた。「これは......」星良の表情が硬くなる。美晴と魂音は彼の異変を感じ取り、すぐにその場に集まった。
「何が起きてるの、星良?」美晴が尋ねる。
星良は息を吸い込み、エーテルウェーブ・クリスタルの情報を二人に伝えた。「これは緊急のエーテルウェーブ・ブロードキャストだ。ドラクシアの軍勢が星煌城に殺到したという情報が入った。そして、最悪の事態に、松尾晴美宗主が行方不明だと......」
星良、美晴、魂音の三人が星煌城に到達した時、目の前の光景に思わず息をのんだ。星煌城の周囲に広がる町の景色は壮絶な戦闘の痕跡で埋め尽くされており、あのかつての美しい星煌城の姿は、すっかり見る影もなかった。
城門は爆破されており、城壁には大きな亀裂が走っていた。城内には悲痛な叫び声と混乱の音が響いており、血の臭いが空気を漂っていた。しかし、最も驚いたのは、そこに立っていた二つの存在だった。
一つは、青い肌と銀色の長髪を持つ美しい女性、ラズリア。彼女はまるで生きた水のように見え、その周りには常に水の粒子が舞っていた。そしてもう一つは、巨大な黒いドラゴン、イスカンダル。彼は炎を吹き、その大きな瞳は赤く輝いていた。これらの二つの存在が、一瞬にして三人の目の前の星煌城を支配していた。
「ラズリアとイスカンダル......」星良が声を詰まらせながら囁いた。彼の声には、彼女たちに対する畏怖と敬意が混じっていた。
ラズリアとイスカンダルに立ち向かっている者たちがいた。4人の姿が戦火の中から浮かび上がった。そのうちの一人、銃を構えている男の顔が、星良の視界に飛び込んだ。
月岡蒼汰だった。蒼汰は強硬な表情を保ちつつ、銃を握りしめて敵と対峙していた。彼が戦っているのはラズリアとイスカンダルだ。
彼の周りには3人の仲間がいた。魔法使いと、獣使い、そして短剣を持った戦士。
アリアーナ、ミラ・フェンリル、カイ・エンフォードだった。
4人は互いに力を合わせ、敵に立ち向かっていた。その光景を見て、星良は蒼汰に目を奪われた。彼はその蒼汰の姿を見て、日本にいた頃の記憶が蘇った。
「月岡蒼汰……」星良は思わず声を上げた。それは彼がかつて知っていた蒼汰の名前だ。彼らはかつて恋人同士で、別れてから3ヶ月が経過していた。
星良は、彼が持っていた銃を見つけた。蒼汰はその銃を巧みに操り、ラズリアとイスカンダルに立ち向かっていた。
星良は、蒼汰の顔を見つめて、かつて二人が一緒に過ごした日々を思い出した。三ヶ月前まで、彼らは恋人だった。しかし、何かが起こり、彼らは別れることになった。その理由は、星良自身がまだ完全に理解していない。
星良は自分の心の中で、改めて蒼汰への感情を確認した。彼女は息を吸い込み、自分の意志を新たにし、再びラズリアとイスカンダルへと視線を戻した。
「おっと、予想外の展開だな」一瞬の隙を突かれ、ラズリアとイスカンダルは後退し、新たな戦闘陣形を取りなおした。その時、3人の姿が目に入った。寺井星良、美晴、そして魂音だった。
星良の力を活かして生み出されたクレイ・スプライトが今、戦場に舞っていた。それぞれが星良の魔力により自律的に動き、星良が望む通りに行動した。
「タイガ、あっちを助けてほしい」彼女の言葉は、いつもと変わらず落ち着いていた。タイガは星良が生み出した大型のクレイ・スプライトで、今は敵に向かって突進していた。
美晴は猫又族の特性を活かして戦場を駆け回っていた。彼女の動きは俊敏で、短い距離を一瞬で移動する。魂音も自身の体術を駆使して攻撃を仕掛ける。
星良と蒼汰の再会は、この状況にふさわしい形となった。もちろん、彼らに再会の言葉を交わす時間はない。目の前に広がる混沌とした戦場が、そうさせていた。
「いいか、星良。まずはラズリアを何とかするんだ」蒼汰の声は、戦闘指揮を取るために必要な冷静さと力強さを保っていた。星良は彼の指示を受け、美晴と魂音と共にラズリアへと向かった。彼ら三人の力は、戦闘の均衡を崩す力を持っていた。
星良は、クレイ・スプライトのタイガを呼び出し、戦いの準備を始めた。寡黙ながらも、魂音はその大きな体を前に出して、ラズリアに向かって一歩を踏み出した。
美晴はラズリアへの接近を試み、その敏捷さと速さをフルに活用した。彼女の猫又族の特性はこういった局面で真価を発揮する。彼女の身軽さと視覚、聴覚の優れた感覚は、彼女を敵に対する効果的な武器となる。
魂音の肉体はそのまま武器であり、防具でもあった。彼の力強さは、ラズリアに対抗するのに十分すぎるほどだった。狛犬族の特性を活かして、魂音は敵の攻撃を直接受け止め、反撃の隙をつくる。
一方、アリアーナ、ミラ、カイの三人はイスカンダルに攻撃する。
中央で指揮を取る蒼汰は、自分の持つ銃を手に戦場を見渡していた。彼の視線は戦場全体を見渡していた。彼の指示に従い、各人が指定された敵に向かって動き出す。
美晴はその速さでラズリアに接近し攻撃する。16歳の少女でありながら、その身体能力は特異なものだった。彼女は猫又族に生まれ、短い距離を一瞬で移動する能力や、高所を高速で飛び回る技術を持つ。その聴覚と視覚もまた優れている。
「さて、私の出番だわね!」美晴は、髪の毛を揺らしながら、その金色の目でラズリアを見つめる。そして、彼女は短く、力強い跳躍をして、その場から消える。
その次の瞬間、彼女はラズリアの背後に現れる。その小さな体は、ラズリアの大きな背中に飛びついた。その猫のような鋭い爪が、ラズリアの肩を引き裂いた。
「ニャハハ、まだまだよ!」美晴はラズリアの背中を跳ねて、再度地面に降り立つ。その瞬間の間にも、彼女の身体は既に次の攻撃位置に移動していた。
「魂音、もう一回!」彼女の声は明るく、力強い。魂音は彼女の指示に従い、再度ラズリアに向かって突進した。その噛みつき攻撃は、再びラズリアを怯ませる。
その隙間を利用して、美晴は再度ラズリアの背後に出現する。その鋭い爪が、今度はラズリアの腰を引き裂いた。
星良はその隙間を突く。彼の剣がラズリアの体を貫き、美晴の爪の傷に引き続きダメージを与える。
星良、美晴、魂音の三人の力と技術、そして絶妙な連携が、徐々にラズリアを追い詰めていった。ラズリアの戦闘スタイルは近接戦闘よりも遠距離からの攻撃を得意としており、星良たちの攻撃はその弱点を突くものだった。
「魂音、美晴、左から!」星良がラズリアに剣を向けながら指示を飛ばす。それぞれの役割を見事にこなし、その都度戦局を動かす。
魂音は灰色の短い髪を振り乱し、獅子のような顔立ちで迫り来るラズリアを凝視する。彼の力強い肉体から放たれるパンチとキック、そして噛みつき攻撃は、ラズリアに連続的なダメージを与える。
一方、美晴はその俊敏さを活かしてラズリアの周囲を飛び回る。短い距離を一瞬で移動するその身のこなしは、まるで幻影のよう。彼女の爪による攻撃は、ラズリアが警戒していても見切ることができない。
「もう少しだよ、魂音!」美晴の声が響く。彼女の活発な性格はその声にも表れており、戦場でさえも彼女の明るさが光を放っている。
星良は二人の戦闘をサポートし、ラズリアに直接的な攻撃を仕掛ける。彼女の刀は確実にラズリアの体に突き刺さり、深い傷を残していく。
「美晴、次の攻撃を準備して!」星良の声が響き渡る。彼の指示に従い、美晴は再びラズリアの背後に移動する。
ついに、ラズリアは追い詰められることになった。
「ラズリア!」彼の声は、戦場の騒音を超えて響き渡る。
イスカンダルの顔に驚きの色が浮かんでいた。その瞬間、巨大なドラゴンの姿から、一瞬のうちに人間の姿へと変わり、その猛スピードでラズリアの元へと駆け寄っていく。
ラズリアの弱りきった顔を見て、この厳しい状況から一旦撤退することを決める。
「我々は一旦退く!」その声は戦場に響き渡り、周囲の者たちに新たな混乱をもたらした。しかし、それは短い混乱だけで終わり、彼の指示に従い戦線は徐々に後退を始める。
彼らの撤退は迅速で、星良たちが再び攻撃を開始する前に既に彼らの射程外に出ていた。
イスカンダルとラズリアの姿が視界から消え、一時の静寂が戦場を包む。その中で、蒼汰と星良は再び顔を見合わせる。彼らの顔には、戦いの緊張がまだ色濃く残っていたが、同時に安堵の色も見て取れた。
「星良…」蒼汰が小さく声を出す。それはかつての友人へ向けた言葉で、戦場の中で交わすには少し不釣り合いな感じだった。
星良は静かに頷いた。「蒼汰、久しぶりだね。」
再会の言葉が交わされる。彼らは長い間別々の道を歩んできたが、今、共にここにいる。
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