第31話

松尾晴美に会うため、蒼汰と星良、そして仲間たちは郊外の森に向かった。草木が生い茂り、鳥のさえずりが聞こえる穏やかな場所だった。その静けさは、魔王軍の脅威から逃れた者たちにとって、きっと一時の安息をもたらしていたことだろう。


森の中に現れた小さな広場には、松尾晴美がいた。彼女は美しい装束を身にまとい、広場の中央に立っていた。彼女の優しい目が蒼汰たちを見つめ、笑顔で迎えてくれた。

「蒼汰、星良、ここまでよく来たわね。」彼女の声は優しく、あたたかみに満ちていた。

彼女に対面すると、星良は石井から受け取った書簡を出した。「松尾晴美様、これは石井さんからの書簡です。」


松尾晴美はその書簡を受け取り、ゆっくりと開いた。彼女の目はその内容を丁寧に追い、読み終えると少しだけ考え込んだ。

その間、蒼汰たちは沈黙を保ち、松尾晴美の反応を待った。この書簡には重要な情報が記されている。石井は彼女がこの書簡を読むことを強く望んでいた。

松尾晴美は書簡を閉じ、星良に再び視線を向けた。「石井からこんなに重要な書簡を託されるなんて、君たちは彼に大いに信頼されているわね。」

星良が松尾晴美に手渡した書簡の内容は、皆を驚愕させるものだった。それは、炎煌城が闇の軍勢と何らかの関係を持っていることを示すものだった。

「炎煌城が…?」蒼汰の声には驚きとともに、信じられなさが込められていた。ユウキヨの宗主は、共同でドラクシアの脅威に立ち向かっていると思っていた。その中に裏切り者がいるという事実は、思いもよらない事態だった。


松尾晴美は書簡をじっと見つめていた。「石井がこれを書くということは、彼なりの確信があるはずよ。彼は軽々しくこんなことを言わない人だから。」

星良もまた、松尾晴美の言葉に頷いた。「彼は確かにそういう人間です。だからこそ、この書簡の内容が真実である可能性は高いと考えています。」

その言葉に、蒼汰はただ無言で頷くことしかできなかった。一方で、彼の心の中には疑問が湧き上がっていた。なぜ炎煌城が闇の軍勢と手を組んだのか、その理由は何なのか。

議論は深まり、松尾晴美は深いため息をついた。「石井が書いているように、もし炎煌城が闇の軍勢と関係を持っているとすれば、我々は彼らに対して警戒を怠ってはならないわね。」

その提案に、蒼汰たちは頷くしかなかった。信じられない事実に直面した彼らだったが、その中には松尾晴美の言葉に疑いの余地はなかった。


議論が一段落ついたところで、松尾晴美は彼女の優しい瞳を蒼汰と星良のパーティーに向けた。「みんな、ここまで頑張ってくれて、本当にありがとう。」彼女の言葉は静かで穏やかだったが、その中には深い感謝の念が込められていた。彼らがラズリアとイスカンダル、四大貴族の2人を撃退したこと。それは確かに大きな功績であり、その事実を前にして松尾晴美は感謝の念を込めた言葉を述べるのだった。「あなたたちがいなければ、私たちは大きな損害を被っていたかもしれないわ。それを思うと、ただただ感謝の言葉しか見つからないわ。」晴美の言葉は誠実で、その瞳には真摯な感謝の表情が浮かんでいた。


蒼汰は苦笑しながら言った。「我々もただ、自分たちができることをやっただけですよ。それに、ラズリアとイスカンダルを倒したのは、我々だけではない。ここにいる全ての人々の力があってこそだ。」星良もまた、蒼汰の言葉に頷いた。「その通りです。それぞれが自分の役割を果たし、力を合わせたからこそ、私たちは大きな脅威を乗り越えることができたのですから。」

松尾晴美は彼らの言葉に微笑み、再び頷いた。「でも、それでもあなたたちは立派に戦ったわ。その勇気と力を讃えることは、私たちにとっても大切なことだから。だから、改めてありがとう。」


松尾晴美は星良に一つの依頼を申し出た。「星良、私に一つ頼みがあるの。」彼女の言葉に、星良は彼女を見つめた。

「何でもおっしゃってください。」星良は、その申し出に首を傾げた。

晴美は深い息をつき、言葉を紡いだ。「私の書簡を月詠智広に渡してほしいの。」

星良は一瞬、驚きの表情を浮かべたが、すぐに落ち着いた顔つきに戻った。「月詠智広への書簡、了解しました。でも、それで大丈夫なんですか?」

晴美は星良の問いに微笑んだ。「ありがとう、星良。私たちが直接行くよりも、あなたたちが行った方が喜ぶと思うわ。」

星良は頷いた。「そうですか。それなら、私たちが行くことにしましょう。」

そして、晴美は蒼汰とアリアーナに向き直った。「蒼汰、アリアーナ、あなたたちも一緒に行ってもらえるかしら?」

蒼汰は即座に頷いた。「もちろんです。私たちはどんな任務でも引き受けます。」アリアーナも同様に頷いた。

これにより、新たな旅が始まることになった。


水晶の城から北西へと向かう道中、五つの影が穏やかな夕日の中を進んでいた。寺井星良と彼女の仲間たち、美晴、魂音、月岡蒼汰、そしてアリアーナだ。彼らの目指す場所は月詠智広のいる翡翠城だった。

星良は、まるで人形のように無表情だが、その落ち着いた表情の裏には強い意志が隠されている。彼女の手には、一本の刀と一団の小さなクレイ・スプライトがある。これらは、星良が見事な技術で創り出した、芸術作品であり、戦闘の武器でもある。彼女は、その一団の中に入った小さな精霊たちに、進む道や周りの状況を伝えてもらっていた。

美晴は、その黒髪と金色の瞳で一際目立つ猫又族の少女だ。彼女の耳は猫のものに似ていて、その活発さと好奇心旺盛さからは、まるで子猫が元気に遊んでいるような印象を受ける。その動きは、俊敏で機敏で、まるで風を切っているかのようだ。

魂音は、大きな装飾が背中から伸びる狛犬族の若者だ。その外見は、灰色の毛に覆われた人間の姿に似ているが、その力強さと神聖さから、獣と神の両方の特性を感じることができる。彼の強大な肉体と力強さは、彼をまるで無敵の戦士のように見せている。

蒼汰は、アリアーナの主人であり、共に過ごすうちに深い絆で結ばれていた。彼の冷静さと優れた判断力は、時に他の仲間たちをリードする役割を果たしている。

アリアーナは、長い黒髪と深い青色の瞳を持つ美しい少女だ。


陽が西の地平線に傾き、彼女たちの旅路に金色の光が降り注いでいた。五人の仲間たちは、少し早めの休息を取ることにした。美晴とアリアーナは、彼女たちが決めた休息地の周りを少しだけ探索してみることにした。

「ねぇ、アリアーナ。」美晴が小さな声でアリアーナに呼びかけた。「あなたと蒼汰さんの関係って、どういう感じなの?」

アリアーナは少し驚いた顔をしたが、すぐに柔らかい笑顔に戻った。「それは…どういう意味かしら?」

「だからさ、あなたたちって、一緒にいるとき、なんかすごく自然で、あたたかい感じがするのよ。だから、ふたりの関係について知りたくて。」

アリアーナは一瞬、言葉に詰まった。しかし、美晴の真剣な表情を見て、彼女は深呼吸をしてから話し始めた。「蒼汰さんは、私の主人で、私を救ってくれた人。でも、それ以上に彼は…友達であり、私が尊敬する人。」アリアーナは少し顔を赤らめながら、続けた。「でも、私たちの間柄を説明するのは難しいわ。私は彼のことが大好きだけれど、私はただの奴隷だから、それ以上のことは望むことができないの。」

美晴は、アリアーナの言葉に頷きながら、深く考えていた。「でもさ、アリアーナ。あなたはただの奴隷じゃないよ。あなたはすごく優しくて、美しくて、知恵があって…だから、蒼汰さんがあなたのことを大切に思ってるのは当然だよ。」美晴は、自分の考えを素直にアリアーナに伝えた。

アリアーナは少し驚いた顔をしたが、すぐに微笑んだ。「ありがとう、美晴。その言葉、本当に嬉しいわ。でも、私の気持ちは変わらないわ。蒼汰さんのことを尊敬し、大好きでいたい。それだけで、私は十分幸せよ。」


黄昏時、世界がゆっくりと暗闇に包まれていく時間。美晴とアリアーナは休息地の探索から戻ってきた。美晴が先に星良の側へ向かい、アリアーナはその様子をじっと見つめていた。

星良は無言で、あたかも彼女がすぐそばにいないかのように陶芸に没頭していた。しかし、美晴は何も気にしていないかのように、星良の側に座り込んで、彼女の作業を見つめていた。そして、時折星良が制作の途中で立ち止まると、美晴はすかさず彼女に何かを囁いた。


その奇妙な光景に、アリアーナは疑問を感じていた。その疑問は、美晴が再びアリアーナの元へ戻ってきたとき、言葉になった。

「美晴、私、ひとつ聞いてもいいかしら?」アリアーナはそっと美晴に訴えた。

「何?アリアーナ。何でも聞いて。」美晴は彼女の問いに明るく答えた。

「それは、あなたと星良さんの関係。猫又族のあなたと、無表情な星良さんと、どうしてそんなに仲が良いの?」アリアーナは疑問をはっきりと言葉にした。

美晴は一瞬驚いた顔をしたが、すぐに明るい笑顔に戻った。「あはは、そうかな?確かに、私たちはよく話すし、一緒にいることも多いけど…」

美晴は少し考えた後、優しく続けた。「でも、それは星良さんが私のことを受け入れてくれているからだよ。彼女は感情をあまり表さないけど、それが私にとっては逆に心地よいのかもしれない。それに、私たちの間には共感というものがあると思う。」

「共感?」アリアーナは真剣な目で美晴を見つめた。

「うん、星良さんは芸術に、私は自由に飛び回ることに夢中だから。それが私たちの共感点なんだと思う。そして、そういうことが私たちを繋げてくれているのかもしれない。」美晴の言葉に、アリアーナは少し考え込んだ。

美晴と星良の関係は不思議なものであったが、それは彼女たちだけの特別な絆であり、アリアーナもそれを尊重することを決めた


「それで、星良さんと蒼汰さんの関係は?」アリアーナの問いに、美晴は一瞬思考を巡らせた。

「彼らの間には少し難しい事情があってね...」美晴は言葉を慎重に選んだ。

美晴はしばらく黙り込んでから、やっと頷いた。「星良さんと蒼汰さんは以前、恋人同士だったんだよ。でも、何かあって別れ、それから時間が経った今、このアストレイアに召喚されて再会したの。それが彼らの過去の関係なんだ。」

アリアーナはぽかんと口を開けた。「そんなことが...でも、それならなおさら、星良さんと蒼汰さんの間には、何か違和感があるわ。」

「違和感?」美晴は深く考え込む。

「そう、何だか彼らの間には何か不思議な距離感があるのよ。」アリアーナは確信に近い感覚を述べた。「恋人だったはずの二人だけど、何か遠慮がちに見えるというか...」

美晴は頷いた。「そうね、彼らの間には確かに何か隔たりがあるみたい。でも、それはもしかしたら、過去の出来事が影響してるのかもしれないわ。」


「私、蒼汰さんが今でも星良さんのことを好きだと思うのよね。」アリアーナの言葉は突然で、美晴の心に重く響いた。

「えっ...」美晴の声が震える。驚きで固まった瞳がアリアーナに向けられる。

アリアーナはゆっくりと頷いた。「うん、でも、星良さんはもう蒼汰さんのことを好きじゃないみたい。」


美晴はその言葉に唖然とする。そして、星良が以前に告げた言葉が思い浮かんだ。「星良は、自分は人間に対して感情がないって言ってた。」彼女の言葉は、少しだけ疑問と混乱を含んでいた。

アリアーナはしばらく考え込んだ。そして、美晴の言葉に頷いた。「そうかもね...でも、それは星良さんだけが感じてることなのかな、それとも蒼汰さんも感じてるのかな...」彼女の声は、それが気になっていることをはっきりと示していた。

美晴はアリアーナの言葉に少し考え込み、言った。「それはわからないね。でも、星良さんが自分の感情について話すのは珍しいから、本当に感情がないのかもしれないよ。」


会話が続く中、一つの声が新たに混ざる。それは魂音という狛犬族の男性からだった。彼はその特性を保持しつつ、人間的な特徴も持つ。その灰色の短い髪と、若干白くなっている毛先。彼の顔立ちは獅子を思わせるような力強さがあり、特にその大きな鼻と強く引き締まったあごは印象的だった。

「俺も聞いていたんだけど、星良が何かを隠しているのではないかと思うんだ。」魂音は言った。その声は、彼の大きな体と一体となって、重厚感を持って空気を揺らす。

「えっ、魂音さんまでそう思うの?」美晴が目を丸くして驚く。

「うん、感情がないというのもおそらく違うと思う。」彼の語気は確かで、その中には鋭い洞察力があることを感じさせた。

「でも、星良さんはいつも無表情で、人間に対して感情がないと言ってましたよね。」アリアーナはまだ納得していない様子だった。

魂音は彼女に向かって、その大きな鼻を揺らしながら首を振る。「俺や美晴には、わずかだが星良の表情を見ることができる。」彼の瞳は真剣そのものだった。「それは微妙な変化だけど、人間の感情が全くない人間には見せられないものだと思う。」

美晴とアリアーナは、魂音の言葉に思索にふける。確かに、星良はいつも無表情で、感情を示すことは少ない。しかし、彼女が全く感情を持たないというのは、本当にその通りなのだろうか。

それぞれの思考が交錯する中、魂音は更に言葉を続けた。「だからこそ、星良が何かを隠していると思う。それが何か、俺たちはまだ見つけていないけれども...。」彼の言葉は終わり、その後には深い沈黙が広がった。


夕暮れの空には、見慣れた星がひとつひとつと点いていた。その星空を背景に、蒼汰と星良は二人きりで話していた。

彼は歴史学の大学院生だった。特に古代の歴史に深い興味を持ち、数多くの古代文明についての研究を行ってきた。


「星良、さっきの古代遺跡についてだけど…」蒼汰は深い青色の瞳を見開きながら、話を始めた。

彼はそこで一瞬、息を止めた。そして、自身の能力、"知識の吸収"を用いて得た仮説を星良に話すことにした。

「古代遺跡は世界中に散らばっていて、それらが一斉に滅んだと考えられているんだ。それは、何か大きな災害や戦争が起こったからだと言われている。」


星良はその言葉を聞きながら、ほんの少し眉をひそめた。「それは恐ろしいことね。でも、それが本当の理由なの?」

蒼汰は彼女の質問に微笑みながら答えた。「それが、私の仮説ではないんだ。僕は、実際はもっと違う理由があるのではないかと思っている。」

星良は少し驚いた顔をしたが、それでも引き続き話を聞き続けた。「それはどういうことなの?」

蒼汰は少し考えた後、言った。「それらの遺跡が同時に滅んだという事実には、何か他の因果関係があるのではないかと思うんだ。大量破壊兵器のようなものを使用した戦争という説は一理あるかもしれないけど、でも、それらの文明が全て同時に滅びるなんて、なんとなくそれだけでは説明がつかないような気がしているんだ。」


「蒼汰、」星良は穏やかな声で話し始めた。彼女の声はいつもより少し強い音色を帯びていた。「それ以上あなたは知らない方がいいわ。」

星良は蒼汰の目を見つめて、彼女の言葉を重ねた。「知ってしまったら、ただでは済まなくなるわよ。」

蒼汰の青い瞳が、星良の警告の意味を理解しようと、少し混乱している様子を見せた。「ただでは済まなくなる、それはどういうこと?」

星良は再び深呼吸をして、彼に向き直った。「それは、知識が必ずしも良い結果をもたらすとは限らないということよ。時には、知らないことが幸せにつながることもあるの。」

蒼汰はしばらく星良の言葉を黙って考え込んだ。そして、彼女に真剣な視線を向けた。「でも、真実を知ることで、何かを変える力を手に入れることもできるだろう?」

星良は彼の問いに微笑を返した。「それはあなた次第ね。ただ、私から言わせるならば、知識を追求するのは大切だけれど、その結果がいつも良いものではないことを忘れないでほしいわ。」


蒼汰は彼自身の世界を眺めていた。手元にあるエーテルウェーブ・ブロードキャストの情報を見つめながら、彼は自分の心の中に湧き上がる思考に頷いた。その思考は、彼が星良に打ち明けることができなかった仮説だった。

彼の頭の中には一つの絵図が広がっていた。それは全世界に散らばる古代遺跡が一丸となって何者かと戦っていたという壮大な仮説だった。彼がこの仮説を育てたのは、多くの古代文明が互いに争い合うのではなく、何者かを相手に共闘していた証拠を見つけたからだ。

そして彼らは敗れた。それは、遺跡の遺構や記録から推測されることであり、その事実は彼を深く打った。世界中の古代遺跡の情報は、彼のこの仮説を裏付ける強力な証拠を提供していた。

彼は遺跡の中に残された彫像や壁画、文献を読み解き、そこに隠されたメッセージを見つけ出すことに没頭した。それらの情報は、人類が一度だけでも未知の敵と戦い、敗れたという悲劇的な歴史を語っていた。


蒼汰と星良は翡翠城への道程を終え、やっとその門をくぐった。それはまるで美しい森に抱かれた古代の城のようなもので、山間に立つその姿は荘厳さと神秘性を放っていた。

彼らの目的は一つ、翡翠城の宗主、月詠智広への書簡の手渡しであった。彼の知識と策略に対する尊敬は、他の宗主たちからも一目置かれている。しかし、その冷静さとは裏腹に、彼と他の人々との間には明らかな隔たりがあった。

蒼汰と星良が城の中に進むと、広大な庭園と美しい建築物が視界に広がった。その豊かな自然と調和した景色は、古代の知恵と自然の調和が深く尊重されていることを象徴していた。

彼らは智広の間に入ると、彼の存在感はそのままに、一段と冷静で落ち着いた雰囲気に包まれていた。彼の深い緑色の瞳は、翡翠城を象徴するかのように、知恵と力を秘めているように見えた。

「月詠様、我々は書簡をお持ちしました。」と、蒼汰が淡々と語った。彼の声は、智広の静寂を切り裂くようであった。彼が手渡した封筒は、良質の紙でできており、その上には丁寧な筆跡で文字が書かれていた。


智広はゆっくりとその封筒を取り、その中にある書簡を確認した。彼の瞳は書簡を通して紙の向こうにある情報を読み取ろうとし、その表情は一瞬だけ変化した。

星良はほんの少し緊張しながら、智広の反応をじっと見つめていた。彼女の内心は、その書簡がもたらす情報と、それがこの先にどのような影響を及ぼすのかについて、深く考えていた。

「ドラクシアに軍を進めて欲しいと書かれている」

月詠の声は部屋の静寂を打ち破り、彼の瞳は驚きと疑念で見開かれた。その書簡の内容は、彼が予想していたものとは違う、非常に驚きのものだった。それは軍事行動の要請だった。


ドラクシアといえば、北部の荒涼とした地域に位置する、魔王アゾゴスが治める国だ。夜が永遠に続き、月が高く輝くその土地は、強大な魔力を秘めた黒曜石の城を中心に、多くの生物が暮らしている。アゾゴスの魔力は全ての生物に影響を与え、その闇の軍団が他の国への侵略を続けていた。


「ラズリアとイスカンダルに対抗するため...」蒼汰がぽつりと呟いた。

「もしも我々がドラクシアに軍を進めれば、彼らは領土を守るために軍を引かざるを得ない...」星良がつぶやいた。


「しかし、ラズリアとイスカンダルが引くとは限らない。また、サルヴァトールとイグニシアも動くかもしれない。」と月詠は頭を掻きながらつぶやいた。

アゾゴスの四大眷属、その名は恐怖と尊敬をもって語られていた。彼らは各々異なる特性と力を持つ存在で、その存在自体がアゾゴスの力と野望の証だった。

蒼汰と星良は黙って月詠を見つめていた。月詠は書簡を書いた人物、星煌城の宗主・松尾晴美に思いを馳せていた。

書簡には明確な意図が隠されていた。「エルデリアと組め」という、暗黙のメッセージだった。月詠は深く息を吸った。それは一歩を踏み出す前の、深く、長い呼吸だった。


「我々がドラクシアに進行すれば、サルヴァトールとイグニシアがどう反応するか、それは未知数だ。」と、月詠は遠くを見つめながら言った。「しかし、エルデリアも同時に攻めるならば、彼らは対応するしかない。」

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