第23話 料理配信 予行 その2

 暇になったので二人でアニメなんかを見てたりすると、あっという間に夕飯を用意する時間になっていた。


「いい感じの時間になったしそろそろ始めるね」


 そういってエプロンを身に付けた姉は冷蔵庫からニンジンやベーコンといったケチャップライスの材料を取り出した。鶏肉などを使わずにベーコンを使うようだ。うちの母は鶏肉を使っていたような気がする。


 俺は手を出すわけにはいかないのでテレビにミラーリングされたスマートフォンの映像をソファに座ったまま眺めることにする。まな板が画面の中央においてあり、包丁や食材が画面の端の方にチラリと見える。


「というわけでまずはオムライスのライスの部分を作っていこうと思うんだけど」

「あ、実況もするんだ」

「ああ、ごめんね。カメラ回してるって思ったら癖でさ」


 最初はそれを含めて練習するのかと思っていたのだが、その後は本当に黙々と作業を始めたのを見るにどうやら本当にミスだったらしい。


 人が料理するのをテレビ画面越しに黙々と眺めるのは何だか変な感じがした。というのも、どうしても近くで料理をしているのがわかると何かした方が良いのではないかとそわそわしてしまうのだ。ただ、手伝ったら練習の意味がなくなるということは分かっていたので黙って見守るしかなかった。


 ただ、俺の心配とは裏腹に調理は順調そのものだった。彼女はレシピなどを見ることもなく、てきぱきと材料を刻み、フライパンの中に材料を入れて炒めていく。ただ、画面はずっとまな板を映したままであった。


「あのさ」

「何?」

「画面がずっと何もないまな板を映してフライパンの音が聞こえるだけなんだけど、これでいいの?」

「あ。そっか。カメラ固定したらダメじゃん」


 そんなことを言って彼女がカメラをフライパンが映るように調整しようとしたところ……


「あ」


 ガンッという鈍い音と共にカメラが床に落ちた。


「大変、レンズ割れてないかな?」


 そう言いながらカメラのレンズをのぞき込む姉。当然、テレビ画面には姉の顔が大きく映し出される。これが生放送だったら大事故もいいところである。


「姉さんさぁ……」

「あ、テレビに私映ってる。おもしろーい」


 キッチンから自分の顔が映ったテレビを見た姉のコメント。明らかに話題をそらそうという意図が感じられた。


「これが一発本番だったら今頃ネットで大騒ぎになってたんだよ。わかってる?」

「分かってるよ。だからいつも予行してるんじゃん。っていうかやばいなー。マネージャーさんに怒られそう。予行したならデータ渡してって言われてたし」

「……」


 それなら今日、別に俺はいらなかったのでは?という言葉は呑み込んでおいた。正直、姉を叱るのはあまり好きではない。調子が崩れるというか、変な空気になってしまうのが苦手なのだ。だから、マネージャーさんに後でしっかり絞ってもらうほうがいいだろうと判断して、俺はサポートにまわることにした。


「まあ、やらかしたことは仕方ないんだし、再発防止策を考えてもらえばいいんじゃない?カメラを複数台用意するとか。万が一のためにマスクつけておくとかさ」


 俺がそういうと姉は明るい表情を取り戻して、そうだよね、大丈夫、なんて自分に言い聞かせるように小声でつぶやいた。


「ってやばい。焦げる!!」


 彼女がキッチンへと走り出したと同時にフライパンで食材が焼ける音が耳に入る。


「あー、セーフ?かなぁ。黒くはないし」


 セーフだとしてもかなりきわどそうな発言をする姉。もうとりあえず撮影はせずに普通に料理をするようだった。せっかくなので、カメラを彼女が映るような画角にして、こっそりとその一部始終を取っておくことにした。


 急にホームビデオ感が増して、なんだか微笑ましい気分になった。

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