第24話 料理配信 予行 その3
「オムライス、できたよ」
ソファに座ってぼーっととしていた俺は姉の言葉で意識をはっきりとさせた。ゆっくりと立ち上がった後、カメラを停止させて、テーブルの上の本なんかをカウンターの方によけて二人が食事するためのスペースを確保する。
冷蔵庫からピッチャーを取り出してグラスに麦茶を注いでテーブルに置く。スプーンなんかは彼女がオムライスと一緒にカウンターに置いてくれていた。それをテーブルに運ぶと食事の用意は整った。
「ありがとう」
「ご飯作ってもらってるんだし、これくらいはさせてよ」
「優くん、オムライスにかけるのってケチャップでよかったっけ?」
「いや、俺はソースの方がいい」
「だよね。とってくる」
オムライスに先にケチャップをかけない彼女の配慮は嬉しかった。オムライスといえば、ケチャップで何らかのメッセージが書かれることが定番なイメージがあるが、俺はソースの方が美味しいと思っている。
「ソースって何がいいのかな?」
「中濃ソースってある?」
「あるよー」
「じゃあそれで」
そんなわけで食卓にソースが並んだタイミング。
「あ、冷蔵庫に買ってきたサラダがあるんだった」
そう言って彼女はスーパーで買ってきたであろうマカロニサラダをお箸と共に持ってきた。そんな小さなトラブルで少し時間はかかってしまったものの、ようやく食事の準備が整った。
食事前に小さくいただきますと唱えてからソースをオムライスの上にかける。彼女の作るオムライスの卵は包む形のものではないものの、ふわとろの美味しそうな仕上がりであった。
「どう?味は?」
「美味しいよ。ちょっとお母さんのとは違う感じだけどどっちもおいしい」
「よかったー。簡単な具材しか使ってないから大丈夫かなって心配だったの」
そんな感じの食事の感想の中で、やっぱり言っておかなければならないことがあったので彼女に伝えることにした。
「あのさ、姉さん」
「……何?」
「料理さ、動画の方で投稿したらダメかな?」
「どうして?」
「さっきの見てるとどうしても心配で、大学のテストも近いんだったら事前に撮り溜めした映像を編集していい感じの動画作ってみるのもいいかなって。編集が出来ないなら俺がするし」
俺の言葉をかみしめるように彼女は数秒間、顎に手を当てて考えるそぶりをした。
「うん。そうだね。今回はそっちの方向で行ってみよう。じゃあ、早速そういう方向でやるつもりってマネージャーさんに連絡するね」
俺が返事をすると同時に彼女はケータイでメッセ―ジを送った。
「今日のデータも一緒に送れる?ってマネージャーさんに言われたんだけど。優くんやってくれるかなぁ?」
「ああ、ちょっと後でいいかな?俺の方からメールで連絡するって伝えておいてくれない?」
「はーい」
そんな話が終わった後、食事は関係のないアニメなんかの話で盛り上がり、気づけば二人の皿の中は空になっていた。二人で手を合わせごちそうさま言った後、第一声で。
「片付けは俺がやった方がいい?」
と聞いたら
「別に二人分だし、優くんはなにかやることがあるんでしょ。私の料理だし最後まで私に任せて」
との返事がが返ってくる。
実際、撮っていた映像の一部に気になった部分があったのでその確認を始めることにした。問題の映像は姉がテーブルにカメラを落とした瞬間のシーンだった。スマホの落下点は彼女のスカートの中だったのである。そう、彼女のロングスカートの中の白いパンツが思いっきり記録されてしまっていた。
彼女のパンツが実際に記録されていた時間は、彼女がそれをスカートから取り出すまでの数秒間に満たないものであった。しかし、それでもマネージャーに彼女の下着を見られるのは何だか嫌なことのように感じられた。
俺はこっそりとその問題の部分を編集して、マネージャーにメールで動画を送信した。編集前の動画も一応確認できる状態で保存しているが、これはあくまで元のデータを一応保存しているだけであって、これでどうこうしようという気にはなれなかった。というか、姉のセンシティブな部分なんて信じられないくらい見てきている俺にとっては盗撮風の画像なんて大した価値ではないはずだった。
マネージャーと姉は電話で様々なことを想像しているようだった。LIVE配信のつもりが動画になると変わる部分も色々あるだろうし主にそれについての相談なんだろう。
「優くん、今日はありがとう。もしかしたら、明日もちょっと来てくれたら嬉しいんだけど……いいかな」
「もちろん。じゃあ、もう俺は帰っちゃった方がいいかな?」
「うん、ばいばい」
様々な打ち合わせで忙しいのは目の前で見て感じているものの、やはり心のどこかでは、姉が玄関先まで来ないのが何だか寂しかった。
♢
俺はその晩、家に帰った後、一杯の水を飲む。なんだが姉のことが頭から離れなかった。スマホの中には彼女の下着の動画があった。俺は自分の部屋にこもって、生まれて初めて実の姉を思って自分を慰めた。終わった後の罪悪感はなんとも表現しきれないものだった。
「ごめん」
誰かに聞かれることのない独り言が部屋の中にどんよりと充満したような気がした。
_______
_______
そろそろ完結させようと思っています。
ただ、何も固まってないのでもう少し時間がかかる可能性が高いです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます