第19話 競馬がしたい
野球ゲームの配信は特筆すべき出来事もなく非常に平和に終了した。特に大きな縛りなども課さず、ゆるく甲子園優勝を目指す配信であったのだが、視聴者に色々な野球のことを教えてもらったりしながら、楽しく遊んでいたようだった。
単発の配信が多い彼女にしては長いシリーズの配信になっていた。正直、姉がそこまでスポーツにハマるとは思っていなかったので驚いた。
最後の配信の日、『今日、甲子園で優勝したら、夏休みに甲子園を見に行こう』という一見意味のわからないメッセージが配信前に届いたのは少し面白かった。
結局その日に優勝したので、夏休みの予定は一つ埋まったことになる。関東の自宅からだとどう考えても泊まりの旅行になることに関してはあえて考えないことにした。まあ、家族なので問題はないはずだ。
♢
姉は基本的に新しくゲームだったり配信の内容を考える際は、俺に連絡してくることが多い。それは彼女曰く一般的な高校生や男性視聴者という層の反応の参考にするためという名目になっている。だからこそ、俺は自分の部屋でのんびりとツイッターをあさっていたところ、彼女の次回配信の告知ツイートを目にした時に衝撃を受けた。
『6月25日 宝塚記念 同時視聴配信やります』
「え?姉ちゃんって競馬やってたっけ」
思わず口から独り言が漏れた。二十歳にはなっているのでなにも問題はないのだろうが、なんせ今まで競馬が好きそうなそぶりを全く見せなかったので、かなり驚いた。
俺から彼女に連絡するのは珍しい事であったが、その時はとにかく何が起こっているのか気になって仕方がなかったので、すぐに連絡を入れた。
『告知ツイート見たんだけど、姉ちゃんって競馬やってたの?』
何も気にしていない普段だったら、いつもすぐに返信が返ってきているような印象があったが、このようなときだけはいつまで待っても返信が返ってこないような気がしてしまう。実際には、30分ほどしたらポンと一通の返信があった。
『いや、賭けるのは初めて。やったことないよ』
『それで大丈夫なの?』
『まあ、多分。ここ一年間G1レースくらいは見てたから』
『いつもと違って相談してないから驚いた?ごめんね。競馬の話はマネージャーさんにしてたから』
彼女は俺の心を読んだかのようにメッセージを送る。確かに高校生に話すよりは働いている大人に話す方がずっと健全だろうと納得した。
『いいよ別に。話してくれることが当たり前とは思ってないし』
『ならよかった。まあ、適度に遊ぶから大丈夫だよ。お金なんてどれだけ負けても賭けた分しか減らないし』
『そう、じゃあ楽しんで。配信楽しみにしてる』
『ありがとう』
そんな感じてメッセージは終了した。俺は競馬というものを詳しくは知らなかったので一通りの出走馬を調べてみることにした。
軽く調べてみたところ、どうやらダントツ一番人気の馬がいるらしいことがわかった。エクイノックスという名前のその馬はどうやら現在レーティングで世界一を記録したらしい。
競走馬の世界一がどれほど凄いのかは分からないが世界一が弱いわけはないだろう。実際、単勝倍率は既に1倍台を記録していた。
姉がどのような賭け方をするのかは一切知らないが、どのような方法で盛り上げるのかは少し気になっていた。
色々な掲示板を調べたものの、今回はやはり一強のイメージが強いため、よっぽど面白い賭け方をしない限りはインパクトに欠けてしまうのではないかといういらぬ心配をしてしまう。
変なところで度胸が据わっている彼女のそれが変な方向へぶっ飛んでしまわないかだけは心配であったが、まあ最悪の場合でも借金をしてまでギャンブルにはまるようなことはしないだろうと信じていたし、そうなったら止めるつもりなので大きな問題は起こらないだろう。
競馬系の掲示板を覗いてみてみたりもしたものの、やはりナナについての反応なんてものは全くなく、多くの人が次のG1を楽しみにしているような様子だった。
そして、運命の日曜日の前日、深夜に彼女から一通のメッセージが届いた。
『買い目とか、興味ないの?』
『別に、姉ちゃんのお金だし好きにすればいいんじゃない?』
『そう、ありがとう。じゃあ、好きなようにやらせてもらうね』
買い目を聞かなかった俺が、彼女のその一言の意味を知るのは宝塚記念当日の配信であった。
______
エクイノックスにしているのは誤字ではなくちょっと変える系のあれです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます