第17話 格闘ゲーム 配信当日
「というわけで今日は前からやりたいって言ってたゲーム、スマバーやりまーす」
『待ってた』
『ついにか』
『練習してきたんだっけ』
『対戦するの?』
姉はあれから早朝に起きてギリギリまで練習をした後、30分ほどの仮眠をし、コンディションを最高潮に高めてから配信に入った。さすがに男の音が後ろからしたら本物の放送事故なので俺は家に帰ってから自宅のPCで彼女の行方と例の掲示板を反復横跳びで見つめている。
「うん、練習もしっかりしてきたし、最初に一時間くらい通信対戦で同じくらいの強さの人と戦った後、最後に視聴者参加型をちょっとだけやって終わろっかなって考えてる」
『いいとおもう』
『わかった』
配信は順調に進んでいっているように見えた。ゲームに熱中するあまりやや無言が多くなるのは、急に短期間で猛練習を詰め込んだ弊害だと思った。ただ、『ガチでやってるのが伝わっていい』『いつも本気なナナちゃんが好き』という好意的な意見も見ることができた。
スナイプ行為にあったり、多少のアクシデントもありつつ、利用しているキャラクターの戦闘力は徐々に上がり、俺と初めて戦ったころからは考えられないようなレート帯での対戦を行っていた。
一方某掲示板は
0764 なななな名無し 2023/06/03(土)
『経験者だろこれ』
0766 なななな名無し 2023/06/03(土)
『だいぶやりこんだだろうな』
0767 なななな名無し 2023/06/03(土)
『彼氏とな』
0768 なななな名無し 2023/06/03(土)
『>>767 メメに教えてもらって言ってたぞ』
想定していたよりは、おとなしいようだった。
たぶん、今回はナナがメメちゃんに教えてもらったおかげで上手くなったと言っているからだろう。実際、俺はナナの対戦相手にはなりこそすれど、最新ソフトの知識なんてものは当然付け焼刃程度のもので、何もアドバイスらしいアドバイスをしてやれることがなかった。だから、こうなるのも当然だったのだ。
視聴者対戦に切り替わった後、俺やメイさんでも勝てなさそうなレベルの凄まじいい実力差のキャラクターに最初から最後までもて遊ばれたり、中学生か小学生っぽい名前の相手と、いい勝負をして最後にうまい具合に負けてあげるなんてほほえましいシーンがあったり、大きな問題も起こらず、配信は大成功で幕を閉じた。
某掲示板も今回は特に誰かがひどいいわれを受けるようなコメントはほとんどはなかった。(ただし、プレーについても文句は過去一番多かったように思う。)
今回はメイさんとナナの二人が頑張った配信だったので、三人の『据え膳食わぬは男の恥』という、いつの間にかメイさんがまたしても名前を変更していたグループに『お疲れ様』とラインを送る。
すると、『ありがとう』とすぐに姉からメッセージが返ってきたが、メイさんからは既読が付かなかった。
『メイちゃん。多分今寝てると思うよ。疲れたって言ってたし』
『なるほど。起きたら改めてお礼言っとくわ』
『ていうか、ここ二日で睡眠サイクルぐちゃぐちゃになったと思うから日曜にリセットしてね』
『それは皆も一緒だね。じゃあ、私は風呂入ってから寝るね。おやすみ』
『おやすみ』
時計を見ると11時をまわっていて眠るのにちょうどよい時間になっていた。疲れもあってか、俺は沈み込むようにベットに飛び込むと一瞬で意識を手放し眠りについた
♢
『あ、社不でごめん。今起きた』
彼女のメッセージは3時30分のものだった。メイは自宅でナナの配信を見るためにベットの上でケータイを横において待機しているうちに眠ってしまったのだ。
「さすがにみんな寝てるよね。本当に偉いと思うわ。生活リズムが整ってるやつ」
自らを社会不適合者と思っている彼女の思わず漏れた独り言。
さすがにこれ以上のメッセージをLINEのグループに入れるわけにもいかず、かといって完全に目覚めてしまった彼女は完全に持て余した状態であった。
「あ、そうだ」
何かを思いついた彼女は深夜3時33分、彼女はツイッターの前に張り付いて時計とにらめっこをしていた。
「いまだ」
そう言ってツイートした内容は『334』
午前3時34分に『334』とツイートをする集団の文化に今まで一度も参加していなかったメメが突然そのようなツイートが行われたことは、掲示板の中で、考察がされたとか、されなかったとか。いくら考えたところで本当のところが「ただの気まぐれ」なので真相にたどり着くはずもなく、永目メメ、突然の334事件は迷宮入りで幕を閉じた。
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